狂騒の日 ~一座の思惑~
「忘却の古城と言うのは、昔まだ今の帝国が出来上がる前の、前の帝国が有った、つまりは800年前の旧帝国が栄えた時期に有った隣国のとある王国の城なんです。かつてその城には一人の偉大な魔法使いが居城として使って居ました。とある時、旧帝国とその隣国との間で戦争が起き、その偉大な魔法使いは旧帝国に寝返った。その結果、旧帝国は勝利したのですが寝返った魔法使いはその時の皇帝に弓を引き、途方も無い規模の魔法を行使して旧帝国は滅亡。以来、その偉大な魔法使いは、裏切りの代名詞として使われる程の人物になってしまいました、と言う話です」
ラストゥールは少し水を口に含む。
「現在その城はどこも手出しが出来ない状況になっています。いわば緩衝地帯と言った所ですかね」
「何でだ? そんな魔法使いの使ってた城なら案外お宝もゴロゴロ眠ってるんじゃないのか?」
使える物なら使っても良い筈だ。それをどこも手を出さないと言うのは妙な話だ。
「勿論その通りです。過去、その様に考えた時の為政者も居なかった訳ではありません。多くの軍勢を率い大規模に捜索しに行った者や、冒険者を雇い、捜索に行かせた者も居ましたがその全てが失敗に終わっています」
失敗に終わった。ラストゥールの語りに聞き入っていたが、ふと、考える。失敗に終わったと言うのは勿論言葉通りなのだろうが、様々な要因が考えられる。まず、単純に準備不足。それなら簡単な話だ。もう一度準備を整えて行けばいい。しかし、それなら先程ラストゥールが言った緩衝地帯になったという原因にはならない。
次に、環境や気候にやられたと言うのならばどうだろう。あり得ない話では無い。過酷な環境下において全滅。だからどこの国も手を出さない。それならばどうだろう。いや、魔法が存在している以上それは余り理由にならない気がする。魔法がどこまで万能なのかは知らないが、過酷な環境下に置いて魔法が使えない、などと言う事は無い気がする。そもそも不便を便利にしようと言うのが技術、言わばこの世界においての魔法がそれの筈だ。だと言うのに魔法が使えないと言うのはおかしくないだろうか。
もしかして、探索に出た人間の中には魔法を使える物が居なかった、と言うのだろうか。
それは余りに考えにくい気がする。故にこの考えは却下。次。
目的地にはたどり着いたが、中に何かしらの脅威が存在していたと言うのはどうか。これもあり得ない話では無い。むしろ環境を理由にするよりはこちらの方がしっくりくる。つまり。
「城まで行って中に入ったが、何かしらの脅威な敵例えばモンスター的なモノや、不老になった魔法使いが居て返り討ちに在って敗走、もしくは全滅の憂き目に合ったって事か。運よく帰ってきて怖気づいた探索パーティーは二度と行きたくないってダダこねた訳だ」
しかし、ラストゥールは違うと否定した。
「確かに帰っては来ました。それも全員で、歩いて帰ってきたそうです。ただ……」
そこでいったん区切り、少し間を置いて言った。
「その全員が物言わぬ死体でしたが」
死体。人間死んだ後に残る肉体の事だ。身体が死ぬと書いてある通り、死んでいるのだ。それなのに。
「死体が歩くっておかしくねぇ? あれか? ゾンビ的な事か?」
首肯。
「そうです。歩く死体になって帰ってきました。種類的には腐敗してましたので、
『這いずる腐敗』言わばゾンビです。アンデッドの代表格の一つに上げられるモノです。それが、探索に出た者全てがそうなって帰ってくるのです。そんな事が幾度と無く繰り返される内に……」
「誰も近寄らなくなったって事か。ま、そんな事になんだったら行きたくもないわな」
例えどこの誰の命令だろうと、人生ハッピーになるようなお宝でも生きてなくちゃ使えないってって事だ。成程。誰も寄り付かねぇハズだ。
「なぁにが忘却の古城だ。みんなの記憶にバッチリ残ってんじゃねえかよ。名前変えたほうが良くねぇ?
あれだ。忘却したい忌まわしい古城にしよう」
ラストゥールそう言って料理に手を伸ばそうとしたが。
全く。肉料理食ってる時になんゾンビの話なんてするかね。だがまあ多少興味は湧いてきた。食欲は減退したが。
「あっしは、忘却の古城の新しい名称を考えて欲しい訳ではないんで別になんでも良いですが」
と行商は、情報ですよ情報。と目をギラ付かせる。
俺の経験上、こういう目をする奴は欲しい物が手に入るまでは信用できる。何より、死の魔眼という物に興味がある。
「それでは……」
そういって何かを話始めようとするラストゥールを手で押さえて行商の顔を覗き込む。
「なんですかね?」
行商はきっとわかっていることだろう。今から俺が何を言い出すかを。
相手は情報が欲しい。ラストゥールに頼めば情報は少ないながら持っていることだろう。だが、まだだ。
そう簡単にはやれない。こういうものは駆け引きだ。相手の欲しい物をこちらが持っている場合はそれに見合うように俺にも欲しいものを、対価を求めよう。それがこちらに利があれば尚いい。
「なあ行商。あんたが欲しい情報はラストゥールが持ってる。だがタダってわけにはいかないだろう?」
「いや、それは一座さんはもう手に入れている訳じゃないですか。そこの魔法使いの旦那だってそれが分かっているから話始めようとした訳で……」
行商の言い分にラストゥールはうなずくが、オレはそれに待ったをかけた。
「そんな理屈が通ると思ってんのか? あれはアンタが勝手に押し付けて来たもんだ。オレは買うとも言ってない。欲しくも無いものを押し付けておいて買わせた気になる? そんな道理は通用しないと思うがな」
「そんな!」
行商は悲痛な声を上げたがオレには関係ない。
「そもそも、行商。アンタがオレの手を取るなんて余計なことをしなかったらこんな事態にはなってないはずだ。だがまあ、今さら返すって訳にもいかないだろうな」
何せこの珍妙な武器と契約が済んだという感覚がすでに体にあるがある。多分だがもう引き返すなんてことは出来ないのだろう。
「だから、こちらには情報がある。そっちはその情報が欲しい。そこでものは相談な訳だが」
「なんですか? 一座さん今スゴイ悪い顔してますよ」
きっとオレは今、行商の言うとおり非常に悪い顔をしているのだろう。やはりこういう駆け引きは面白い。止められない。
止まらない。あちらの有利を覆し、かつ此方の欲しい物を安く手に入れる。
こういう感覚がたまらない。
「いいからこっちにも一枚噛ませろ」
「はぁ。かなわないですね。いいです。分かりました。」
オレは行商を言いくるめたのだが面に隠れた顔は見えなくてもなんともやつれた雰囲気を醸し出す。
だが、この状況に慌てたのはラストゥールだった。ちょっといいですか? と行商に断りを入れて整った顔をオレに向けると、
「いいですか。まだ我々には私の弟子候補のあのうさ耳っ娘の事が手付かず問題が残ってるんですよ?
早く解決して私の心証を良くしないとあの娘が弟子になってくれない可能性が……」
「完全にお前の都合な? まあ、そっちの件については考えてる。なあ、行商。アンタの件の期限は」
「三カ月と見積もって貰えば問題ないです」
ラストゥールから顔をそらして行商に聞いてみると案外期限があった。
三ヶ月かまあ問題無いだろう。切羽詰まってるのはうさ耳の方なのだ。
なら話は簡単だ。先にうさ耳の件を片付けてから行商の件に乗る。これなら問題ないはずだ。
「三カ月だな? 良し乗った。アンタ連絡取る場合はどうすれば良い?」
ここで話を付けても二度と会えませんでした。なんて笑い話にもならないしどっちかと言えば泣けてくる話だ。
そんな些細な事で面白そうな話を逃す手は無い。
「じゃあ、こうしましょうか。週末は必ず私がこの店に来る。それで問題ないでしょう」
行商はオレに名刺を渡して席を立とうとした。だが腕を掴んで引き留める。まだオレの話は終わっちゃいない。
「なぁ。行商、アンタなんでも売ってんのか?」
「ええ、まあ。時と場合にもよりますが、大抵は」
「そうか。じゃあさ、カプセルトイって知ってるか」
「ええ、まあ。あのショッピングセンターとか駄菓子屋とかにおいてるあのお金入れてレバー回せばカプセルが落ちてくるあれですよね?」
急な問いかけに訝しむ行商だが、まだオレが何を言いたいか分からないらしい。
そりゃあ、そうだろうよ。だってオレがしようとしてることは多分こっちの世界では初だろう。
「あの機械とカプセルって手に入るか」
「いやぁ、あっしはそういったモノを扱った事が無いんですか……」
「いいから。それ。それを揃えてくれ。この世界に実用的なカプセルトイで一儲けしたい」




