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8話 狂騒の日 ~赤の小羽根亭~

遅くなって申し訳ないです。

「聞かないんですか」


「何がだよ。何を聞かれたいか分かんねぇよ。言いたい事があるならハッキリ言えよ」


 地下工房にラピスを残して、足元だけしか明らさない階段を上っていた。この階段はやはり暗く、歩き難いと思っているとラストゥールがそう言った。


「では。私が何故貴方達をこの世界に呼び出したか、という事です」


通路には足音と心苦しそうなラストゥールの言葉が響いた。何故呼び出したか、か。今まで環境に慣れるだけで精一杯だったし、そんな事考えたって無意味だと思っていた。だから。


「さあな。考えた事ねぇや。それにオレ達が呼び出されたからって偶然みたいなもんだろう? まあその偶然でこんな事になっちまったがな」


 偶然。人は偶然など無く全ては必然であるなどと言うが、何もかも結び付けて考える様な思考をオレは持っていない。偶然。偶然呼び出され、偶然に厄介な事に巻き込まれて、死んだ。ただそれだけだ。


そう考えないとやっていけないのも事実な訳だ。


「正直に申し上げますと私は、この国が好きです。このヴァルセンと言う国が。だから帝室に仕え、皇帝陛下にお仕えしました。この帝国を誰よりも愛していたと言っても過言では無いでしょう。故に私は流界者を召喚しようと思いました。大国と呼ばれる国では流界者を呼び出す為の女神から授かった古の魔法陣があります。かつてはこの帝国にも有ったのですが戦乱と貴族の内ゲバの最中に失われてしまいました。各国は召喚陣を用い流界者を呼び出す。どんどんとこの国を引き離していく。だから各国に後れを取らない為に私は流界者を呼び出すための魔法陣を組み上げた」


ラストゥールの話では、かつて有った魔法陣を独学で組み上げたそうだ。全ては愛国の為に。全ては帝国と皇帝の為に。


「召喚陣は、召喚される対象を選ぶことは出来ません。だから誰がやって来るのかも分からない。何も分からない若人かもしれないし、年老いた老人なのかも知れない。はたまた赤子かもしれない。しかし私共にはそんな事は余り関係無かったのです。どうしてか分かりますか」


「さあな。どうせあれじゃね? その魔法陣とやらに何かしらの細工でもあるんじゃねーの」


 最悪赤ん坊が来るとしても、その時は一から育て上げて国の為の忠実な駒にするとかそんなところだろう。全く以って胸糞の悪い話だが。


「有体に言えばその通りです。魔法陣を介してこの世界に来るものはまず女神の居る空間を経由してくるのだそうです。過去の流界者がそう証言しているので確かな情報でしょう。そして女神によって何かしらの力、私どもは権能けんのうと呼びますが。私はそれも含めて、まず間違いない完全な魔法陣を組み上げました」


 もうそろそろ上の店にたどり着くと言う所でオレは足を止めて振り向く。直ぐ後ろを付いて来ていたラストゥールの目線は小さい身長である今のオレと同じ位で、丁度目が合う位置にあった。


「なんだ? 愛国自慢の次は今度はオレスゲーっていう自慢か? 勘弁してくれよ」


「魔法陣は完璧。召喚方も間違いない。しかし、誰も現れなかった。何故か」


全く無視されたあげくラストゥールの話が続く。反応してくれない為に妙に寂しい気持ちになってしまった。仕方ないので続きを促す為に肩を竦めて合図すると。


「誰も現れなかった。そこまでなら私の失敗だけで話は済んだんです。しかし失敗の弊害により私は魔力過多吸収症まりょくかたきゅうしゅうしょう、及び魔力過剰製造症まりょくかたせいぞうしょうと言う病に侵された。この病は多くの魔力に過剰に接する事で発症する病です。魔法陣の使用には大量の魔力を要します。何せ別の世界をこっちの世界に繋ぎ、人を召喚する術なのです。本来なら数十人規模で行使する魔法なのですが、私は常人の数十倍もの魔力を有していました。そんなうぬぼれが有り私は自分一人で魔法を使い、失敗した」


甘かった。とそう言った。常人の数十倍の魔力を一気に使い切ってしまったラストゥールは一時的に魔力が空になってしまったのだと言う。空になった魔力を補うためにラストゥールの身体は魔力を求めた。


そこには、召喚に失敗して暴走気味の魔力の渦が有った。それこそ魔法に常に触れている者が発狂、あるいは死にかねない程の魔力が。魔力を補うために大量の魔力を取り込んだラストゥールの身体は限界にも拘わらず、魔力を求めた。今後こんな事が起きない様に大量の魔力を精製できる体を作ろうとしたのだ。

その病に侵されると最悪命に係るそうだ。

その結果が。今のラストゥール。病に侵されて、まともに生活する事すらおぼつかない身体になってしまった。


「本来ならば未知とは言え失敗するはずの無い魔法に失敗した私は、病に侵されて筆頭魔法使いを下ろされました」


失意と無気力に苛まれている時、スピリタスに出合ったそうだ。


「全く、唐突に自分語りを始めたと思ったらあれか。スピリタスに出会ったスイートメモリーを語ってくれる訳か。

なあ、もう良い? 色々とやる事が有るからさ、何もかも全部後で」


取り合えず、この薄暗い地下の階段から出たかった。それにやる事は無数にあるのにこんな所で時間をつぶしたくない。


「そうですね。分かりました。また後で話しましょうか」


本当に自分を語りたかっただけなのか簡単に引き下がったラストゥールは少し笑って見せた。

何だコイツ。マジで自分の事を話したいだけだったら殴り倒しているとこだが、まあ何かしらの考えが有ったのだろうという事にして置こう。何の思惑が有ったにせよ最後まで話を聞かなければ分からないのだがオレが話題を打ち切ったのだ。多少の事は我慢しよう。


「で。一座、私は一体何をすればいいのですか」


薄い笑みを浮かべたラストゥールがそう聞く。


 まず、何をするにしたって、最優先はラピスの服だろう。ホムンクルスとは言え、まさか全裸の女の子を店の地下に監禁しておくのはマズい。


「じゃ、ラストゥールは服買って来い。あの娘に合うやつ。で以って、スピリタスは……?」


そこでスピリタスがこの場に居ない事に気が付いた。確かオレはスピリタスにも付いて来るように言ったはずだが。


「スピリタス殿はあの水槽の点検をすると言っていましたよ」


そんな事は全く聞いていなかったが。そもそも何故オレにその事を言わないのか。


「そもそもオレ自分の店にあんなモンが有るなんて知らなかったよ。けどいいや。有るって事が分かったら後々に使えるからな。整備してもらう事に越した事は無いか」

ひらひらと手を振って気にしないとアピールした。


あのスピリタスの口ぶりからしてあのホムンクルスが動き始めたのが予想外だったのだろう。

それで点検するならまあ、仕方ないか。


「アイツは置いといてオレ達は自分の出来る事をやる。そう言う事で」


「では、一座。では貴方はこれから何をするのですか」


ラストゥールは不思議そうに首をかしげた。


ラストゥールがそう疑問に思うのも仕方ない。何せ服を買いに行くと提案しただけでオレが何かしらの武器を買いに行くことを伝えていなかったのだ。


「武器買いに行くんだよ」


「この店って魔法屋ですよね? 何で武器なんか必要なんですか。余り必要性を感じませんが」


 全く意味が分かりません。そう言って首をかしげるラストゥールは疑問を投げかけてきた。


「そもそも、武器を持ったって良い事無いですよ。武器を必要とするならいっそ冒険者ギルドでそこそこのランクの人材を雇った方が良いのでは?」


確かに一理ある。だが。引く訳には行かない。その訳が2つある。


「必要性か。まあ確かにお前に理が有るのは分かってる。分かってるが、まあ聞け。

一つ。何が在って、どこに、どんな奴がトッ捕まってるかは知らんが、まずうさ耳娘の身内を救出する為だ。助けに行くって事はだ、どこかしらにカチコミに行くって事だ。そんな状況に素手で特攻するバカは居ない。故にオレは武器が欲しい」


「一座。まさか貴方ご自身で行くつもりでは無いでしょうね!? 私はお勧めしません! それこそ冒険者雇って美味しい所だけ持って行けばいいじゃないですか!」


オレの言葉にラストゥールは面食らったように言った。オレの身を案じての事だろうが、酷くえげつない事を言っている事に気が付かないのだろうか。それにしてもまさかここまで反対されるとは思っていなかった。此処は言いくるめる為にもう一つの案を聞かせるべきだろう。


「良いから聞けって。本題はここからだ。正直な話うさ耳の方は後付けに近い。

良いか? 良く聞けよ。魔法屋ってさ。材料の調達はどうやってるんだ」



 ずっと考えていた事が有る。魔法屋の材料調達はどうやって行うかだ。基本魔法屋には店主が居て従業員が居る訳だ。その中には雇われたりお抱えの戦闘員が居たりする所もある筈。しかし、それは圧倒的少数派な筈だ。何故か。それは、調達傭員のリスクが高すぎる為だ。しかもハイリスクローリターンすぎる。

何せ使える所は雇い主の総取りで、材料にならない部分+賃金では割に合わないからだ。

モンスターと戦って、低い利益では命を張るにはわりに合わず、利が無い。だから大半の冒険者はお抱えにならない。そんな事をするよりはギルドに有る依頼をこなした方が良い金になる訳だ。


 では調達傭員の居ない店は? 比較的簡単な、森に生えた薬草程度なら自分で動けば何とかなるだろう。では、戦闘が必要なモンスター系の素材が必要な場合。 

 無論、冒険者ギルドに高い報酬出して依頼するか、もしくは商業ギルドに何割増しの金額積んで買うしかない。そうなると高いお薬になる訳だ。


「それは、内の店の場合、スピリタス殿や凪殿がやるのでは? わざわざ一座がやらなくても」


「ハッ。却下だ。幾らアイツらがすごくても分身したり分裂出来る訳じゃねぇ。ましてや疲れない訳じゃねえ。いつか必ず限界が来る。その先は働き過ぎによる過労死だ。スピリタスの場合は故障か。なんにせよ身体を壊す。

分かり切った事だ。ならそうなる前に何とかしなきゃだ。だからと言っておいそれと雇ったぽっと出の冒険者は簡単には信用できねぇ」


なら自分で動くしかない。


 そうは言っても、勿論魔法屋の業務内容も魔法薬製造だけでは無い。武器のエンチャント依頼、魔法の開発、販売、に魔道具開発。様々多岐に渡る訳だがとてもじゃないが2人に任せきれる量じゃない。

幸い、今はそんな依頼が来ていないがいつかそうなった場合、収拾が付かない。かと言って冒険者や盗賊系の人間雇ってネコババされたり、横流しされ様物なら本末転倒になる。


「結局、自分で動かない奴はどうにも成らないって話だ。それともチマチマ薬草拾って売るか? それこそ何屋になる事やらだ。それに自分で取ってくれば他店に卸売りだって可能だろ。っていうか今まで材料の卸売りしてる店を寡聞にして聞かない理由は何だ?」


商業ギルドに行った時にも卸売りの話を聞きもしなかったし、なんかおかしいとは思っていたのだが。

自分で調達したものを、商業ギルドよりも安く他店に売る。そんな制度が在ってもいい気はするが、まあギルド自体の売り上げにも関係するから今まで気付いていたとしてもギルドが何か言う訳は無いか。 


「それは……、自身の店で使った方が良いからでは……? そもそも、今までそんな概念も、言葉も聞いた事が無かった物で、どう言って良いやら」


眼を白黒させた後、深く考え込み、ラストゥールが言った。そりゃそうか。危険侵して、または多額の金を払ってまで手に入れた物を他者に売る訳が無い。つまりそこが狙い目になる訳だ。


「どうだ? ちょっと興味が湧いてきただろ? つまりオレが武器を欲する理由がそれだ」


かなり強引に結論づけたが、効果は十分すぎたほどだ。


「確かに!! そうなれば我が店は市場独占、最高ランクすら狙えます!!」

眼を輝かせたラストゥールは、この店の行く末を幻視し始める程にやる気を出して賛同し始めた。


 そうは言っても、そこまで上手くいかないのが物事の常と言うモノだが、ラストゥールが乗り気になっているのに水を差すのはよろしくない。


「じゃ、そう言う事で。決定な。解散」


そう言って先に行こうとするオレの手ををラストゥールが掴んだ。


「なんだ。男に手握られて喜ぶ趣味は無いぞ」


「それは残念。てっきり私の事が好きなのだと勘違いする所でした」


「ソイツハ御愁傷様だな。ゾッといない話だ。引き留めた理由は何だ。デート相手は間に合ってる。結構だ。で?」


ラストゥールはフッと笑うと、懐から地図を取り出してオレに見せた。


「待ち合わせ場所を決めておきましょう。此処に「赤の小羽根亭」と言う店が有るでしょう。此処で待ち合わせして成果を報告し合うと言うのはどうでしょう」


 表の通りに有る店を指さしたラストゥール。此処は宿屋を兼ねた酒場らしくラストゥールの行きつけだと言う。


 全く、病んだ身だと言うのに酒場とは。死にたいのだろうか。


「なんでも良いが身体は大丈夫なのかよ」


見た感じ、顔色も悪くは無い様に見えるが、酒何て飲んでたらどうなる事やら。


「御心配には及びませんよ。飲まなければ良いだけの事です。ではここで待ち合わせという事で。ではお先に」


そう言ってラストゥールは先に行ってしまった。


「じゃあ、オレも行きますかね」


残り僅かな階段を駆け上って外を目指した。






「赤の小羽根亭にようこそ!!」


時刻は丁度昼時。ラストゥールが指定した待ち合わせ場所で有る赤の小羽根亭は宿屋を兼ねているとは言え流石は酒場。狭すぎない丁度の広さの店内は酒と料理を求める声でごった返している。


 木を基本としながらもシックで落ち着いた内装が初めて見る者の目を奪う作りだ。拘っている作りなのを感じさせない雰囲気が心地よさを与えている。


カウンター席はすでに埋まっており、どこに座るかを考えていると、これまた凝った意匠のメイド服に身を包んだ女の子が声をかけて来る。


「お席は、隅の方になりますがよろしいですか?」


 女の子が示す先には、誰も座っていない席が一つ。別に何処になろうとも座れれば良いだけのオレはその言葉に頷いた。


「ああ、よろしく。あと、後から連れが来る。名前はラストゥール。魔法使いだ。カッコつけたローブ着てるイケメンが来たら同じ席に案内してくれ」


オレのその言葉に女の子はパッと輝く笑みを浮かべた。


「ラストゥールさん!? スゴイ! あなたラストゥールさんのお友達!? お弟子さんかな? ならあなたにもサービスするよ!! ラストゥールさんはここの常連さんなの! 最近来てなかったから心配してたんだ。


あ、あなたのローブ与るよ」


 随分と気の利く給仕なのだが、何だろう。この歓迎加減は。こっちが引いてしまう程に対応が良く、どうしていいか分からない為に取っ付き難い喋り方になってしまう。


「い、嫌。ローブは良いよ。それより今日は歩き回ってるんだ。出来たら水とお勧めの料理を出してくれ」


少女はにこやかにお辞儀して。


「畏まりましたー!! ご用命の際は私、モリガンをお呼び下さいね~♪」


 確かケルト神話の破壊、殺戳、戦いの勝利をもたらす戦争の女神名前だっただろうか。あやふやな知識なため合っているかは不明だが確かそんな感じだった気がする。


 その名前がえらく物騒な少女に軽く手を上げて応じると、少女は足早に注文を伝えに行った。どうもあの娘が看板娘らしく、オレの注文を伝えに行く間にも他の客にも声をかけられ忙しそうに店内を走り回っていた。



「しっかし。まさか武器ってモンがあんなに高いとはな……」


 ヴァイセン帝都内に名を轟かせる武器屋を巡ってみての感想だ。全くお値段が合わない。


「変哲も無いただの剣で一か月暮らせる値段取りやがって。明日には店畳むつもりなのかよ」


 有名店の所為か、または場所代も含まれている所為かは知らんがべらぼうに高い。ボッタくって夜逃げの算段を立てているのかと言う程に。それ故半日の間ただ足が棒になる程歩いただけで全く成果は無かった。


「ウチはそんな阿漕な事してないからね~。安心してゆっくりして行ってね♪」


「ぅおわっ!!」


 突然声をかけられて驚いてしまった。いつの間に近くに来ていたのだろうか。モリガンの手にはガラスの容器とグラスが有った。容器には結露によって付いた水滴が付いて居て水が良く冷えている事が伺える。


 何だ。まさかもう料理が出来上がったのか? さっきの今だぞ。速い、速過ぎる。さっき注文し、オレ以外の注文や雑談をこなして居たと言うのにこの速さは一体……?」


「ごめんね。まだ料理は出来てないの。先にお水だけでもって思って」


そう言って、モリガンはグラスに水を注ぎ、手渡してくれた。グラスも良く冷やして有る。持った時の冷たい感動がこの世界でも味わえるとは思っていなかった為、感慨深いものが有った。


 そのまま、口を付けて、喉に一気に水を流し込む。想像よりも冷えた水が突かれたからだを癒していく。


「ありがとう。あのさ、ちょっと聞きたいんだけど何でこの店の水はこんなに冷えてるんだ。いや容器もか」


一気に飲み干して空になったグラスにモリガンが水を注いでくれている間に疑問に思った事を聞いてみた。

 この世界でまだ冷えた水と言うモノを口にしていなかった為、熱いか生ぬるい飲み物しかないと思っていた。


「フフッ。それはねお客さん。わたしが魔法使いからですよ!」


 どうだと言わんばかりに反らした胸をドンと叩いたモリガン。魔法使いが給仕か。随分と変わった店だ。

否、変わっているのはモリガンだろうか。


「魔法使いならもっと稼げる仕事が有るんじゃないのか?」


他意は無くただ単純にそう思っただけなのだが、と前置いて聞いてみると。


「わたし、昔からウェイトレスに憧れていたんです。だからここで雇って貰ってるんですよ~。

って言っても、わたしも色々と悩みましたけどね~。冒険者やってみたり、盗賊系の仕事やってみたり。でもやっぱり今の仕事が一番ですね」


 屈託の無い笑顔でそう言われてしまっては何も言う事は無い。この笑顔。これがこの少女が看板娘として人気の理由の一つなのだろう。



「そっか。いや。悪かったな。妙な事言って」

多分、冒険者で活躍出来なかったとかそんな理由だろうか。何にせよプライベートな事情にまで首を突っ込んではいけない。


「いえいえ、お気になさらず~。それよりも、もうすぐお料理出来上がりますからね。 もう少しお待ちください。それはそうとお客さん。さっき剣が高いとおっしゃってましたけど?」


やはり女の子故か、どうも話題の移り変わり方が激しい。

 聞かれていたか。隠す理由は無いが聞かれていたとなると恥ずかしくなってしまう。


「ああ。今日はあ武器を探して帝都中の有名な店をあっちこっちしてたんだが、無かったな。

別に魔剣だとか魔法剣とかそう言ったモン欲しい訳じゃ無かったんだけどな~。普通の剣は有ったには有ったんだが高すぎだよな。どうなってんだか」


 有名な店だから高いと言うならば、無名の名店的な店に足を運べば良いのだろうが、如何せん地の利が無く、今日の時間は完全に無駄骨になってしまった訳だ。


「ああー。高ランクなお店は高くても冒険者や貴族が買いますからね。もし良かったら良い武器屋紹介しましょうか? 勿論、一杯注文してくれたらですけど」

冗談めかして言うモリガンだったが、その目だけは全く笑っていなかった。


「あ、でもそのお店私が前、冒険者だった時良くしてくれたお店なんですけど、お客さん選ぶんですよ」

良いのを安く出してるんですけどね。 そう言ってモリガンは困った様に頬に手を当てた。

 

 つまり気に入った客にしか売らないこだわりの店と言う事か。出来ればそんな店よりも普通の店の方が良いのだが。


「せっかく紹介して貰ってあれなんだが、もっと普通の店知らない? 別に普通の剣で良いんだ。どうせ護身用で持っとくだけだからさ」


それなら他のお客さんに聞いてみますね。とそう言ってモリガンは他のテーブルの客に情報を聞いてくれた結果。どれも余り芳しくない。


「力になってあげられなくてごめんね……」

項垂れてしまったモリガンを見て他の客もモリガンを庇い始めた。


「すまねぇ。モリガンちゃん。俺も力になってやりたかったが、ここ最近妙なんだよな。ヴァイセンのみならず良質な鉄が入って来ないって話だ。どうも法国の奴らがデカい戦を起こすってんで商業同盟都市から根こそぎ鉄買ってるって話だ」


モリガンを庇った痩せたベテラン風冒険者がそう言い始めたのを皮切りにあっちこっちから噂が飛び交い始めた。


 法国が邪神を打ち倒す為だの。


 女神に捧げるだの。


真贋様々な、眉唾な噂まで。


 どうやら、店の客はモリガンを庇っている様で、モリガンちゃんが力になってくれたんだ、感謝すれども責めるのはお門違いと言外に言っている様なものだ。こちらとしてもそんな意志は全く無い。


「いや。ありがとうな。えっとモリガンだっけ。色々良くしてくれてありがとな。お礼に沢山注文させてもらうよ」

 どうせ代金を払うのはラストゥールなんだ。何をどれだけ注文しようとオレの腹が痛む訳じゃ無いし。

 

 オレの言葉にモリガンはパッと表情を明るくして。


「ありがとうございます!!」


モリガンがそう言うと。その一言で店にはほのぼのとした雰囲気が流れ始める。なる程。本当にアイドルな訳だ。

少なくともここで問題を起こすバカはどういう眼に合うかは分かった。


そんな時。急に扉を叩き付ける様にして店に入ってきた珍客(バカ)が入って来る。本当にいいタイミングで。


ふらふらとした足取りは、そのバカが完全に酔っている事を如実に表していた。途端に空気がひりつきだした。殺気だ。先程までふんわりとした空気をまとっていた者が放つ凍てつく空気。流石は常に命を、日常的に命を懸けて死線を潜る冒険者だ。しかしながら泥酔したバカはすでにそんな事にも気付かない。


「酒だ! 酒をくれ!!」


「いらっしゃいませ~」

 

 怒鳴るバカにもモリガンは笑いかけて対応する。流石は元冒険者と言った処だ、と感心しながら成り行きを他の客と見守っていると。バカはさらに付け上がっていく。


「なんだぁ? お前可愛いじゃねえか。 おい注げよ。それとも何か? 俺に酒は注げねぇってか?

俺はBB(ダブルB)ランクの冒険者だぞ!」


 注文通り、モリガンは酒を出したにも拘わらず、さらには酌をしろと言う。その横暴な態度がまた間に触る。

「お客さま、困ります~」


困惑した様にモリガンが言うのが余程面白いのだろう。バカはさらに調子に乗って。


「困ります、だって。超かわいいじゃんか。良いからこっちに座れって」


モリガンの手を強引に引き座らせようとする。何故誰も動かない。異常なまでの殺気が店に充満する中、誰一人として席から立とうとする者は居ない。仕方ない。オレが行くか。そう思って腰を浮かせかけた瞬間。


「おい。調子に乗ってんじゃねぇぞ」


モリガンの居る方から物騒な言葉使いが聞こえてきた。誰が動いたのかと辺りを見回しても誰一人モリガンの所には行っておらず。ただ、酔っ払いに絡まれる可哀想な少女の図が繰り広げるだけだ。


「此処はお前みたいな奴の来る所じゃ――――――」


 あの言葉はモリガンの言葉か。掴まれていない方の手を思いっきり引き、無い!! と満身の力を持って振りかぶられた拳を腰を入れて叩き込む。すると見事にバカは吹き飛んだ。どうもこの光景を見る限りよくある事らしい。そしてオレは勘違いをしていた事に気付いた。


モリガンは冒険者で活躍出来なかったからウエイトレスになった訳では無いと。


バカが吹き飛んで壁に叩きつけられた瞬間、周囲からどよめきが走った。何事かと見てみると。


モリガンの拳はバカに叩きつけられる前に止められていた。止めた奴の名は。ラストゥール。バカを吹き飛ばしたのはラストゥールだった。


ラストゥールはモリガンの拳をやんわりと掴むと。


「モリガン。貴方の手はあんな愚か者の為に有る訳では無いのです。その手はお客様に料理を運ぶ為のモノでしょう」


 なんだ。あのイケメンぶりは。背中がかゆくなる程のクサイセリフを平然と言ってのける奴は実はすごい奴なのかも知れない。


「ラストゥールさん!! いらっしゃいませ!! ありがとうございます」

先程の言葉使いが一転して丁寧なモノに戻った。ヤベェ。


「いえいえ。どういたしまして。それより私の連れがいる筈なのですが」

ラストゥールにしても慣れているのか、言葉遣いなど微塵も気にしてないといった様子でモリガンに接している。


「はい! こちらに」


 



「なあ。あのモリガンって娘さ、アレいつもの事なのか?」

ラストゥールが席に着いた瞬間を待ってましたとばかりのタイミングで運ばれてきたのは何かのステーキだ。旨い。旨いのだが一体これは何の肉なのか気になってしまうが。それを口に運びつつラストゥールに聞いてみた。


「ええ。怒らさなければ良いのです。それに彼女だってあの人が店で問題を起こさなければ怒らなかったのです。あの方の自業自得でしょう?」


怒ったのはモリガンだが、吹き飛ばしたのはお前だがな、とそう思う。チラリと見やると。未だ壁と仲良く寄り添っているバカは気を失ったままだ。ラストゥールが何をしたのか。魔法で吹き飛ばしたのか、はたまた腕力だけなのかは一向に分からないモノの、話題は今日の成果に移っていく。


「お前はどうだった」


ラストゥールが服を買いに行ったにも拘わらず何の荷物を持っていない事に付いての疑問をぶつけた。

すると。ラストゥールは優雅な仕草で宙を撫でると、一瞬でその手に紙袋に現れた。


「一応、流行りの服だと言うのでこれにしたんですが、まあ、私もその手の事情には詳しくないですからね。サイズも違っていたら後で交換してくれると言う話でしたので」


 そう言うとオレに袋の中身を見せる事無く、先程の要領で消す。


 後のお楽しみという事だろうか。そう思っていると。


「それはそうと、一座。貴方はどうだったのですか? 見た所何も持っていない様ですか」



「ああ。ただの剣なのに馬鹿みたいにボッタくってやがったから買わなかった」


先程聞いた話をラストゥールに伝えると、何かを考え込むようにして、きな臭いですね。と一言。


 何が起こっているのか。その事に興味が無い訳でも無いが今はそれどころでは無い。


「やっぱアレだな。どっかで高くても短剣だのを買っておいた方が良かったな」


「そうですね。まあ今日の所は私の物を貸して……」


 仕方なくラストゥールの私物を借りようかと言う話になって居た時、一人の男がオレらに近づいて来てきた。


「イヤー。話を聞かせて貰いました。貴方スピリタスの旦那の相方の名前は、確か、一座さんとおっしゃった筈。いつもスピリタスの旦那には懇意にして頂いて居ります」


 いやー偶然だなー。と白々しく言い放つ男は、隣の席の椅子を引っ張ってきて座る。どう見ても怪しさが満載な男は痩せていて特徴と言うモノが無い。しかし。着ている物が、オレには見覚えが有った。


 着流しだ。この異世界で着流し姿。それに木箱を背負い立っている。いや、もしかしたらこの世界にも日本の文化によく似た所が在っても何もおかしくないのだが、この男はそれでも。


「偶然、か。 偶然オレ達が居る時に、偶然スピリタスを知ってるアンタが入ってきた。しかもオレの名前まで知ってて尚且つ、話を盗み聞くのを偶然ねぇ。アンタ、一回辞書引いて偶然の意味調べて来いよ。

で? 何が目的だ? 何でオレの名前を知っている? どんな思惑が有って話しかけた。アンタ、何者だ」


あのスピリタスが簡単にオレらの情報を喋るとは思えなかった。と言うか言うはずが無い。


「まあ、聞いて下さいよ。 まずあっし、つまり私はスピリタスの旦那とアンタが地球から来てる事を知ってる」


その言葉に警戒を強めた。どうする。どうすればいい? 


「ヤダな。そんなに警戒しないで下さいよ。あっしは行商人。行商。とでも呼んで下さいな。彼方此方を飛び回り、様々な珍しい品物を求めて世界を飛び回る仕事をしてます。あ。一応、今も品物持ってます見ます?」


オーバーな仕草で大仰に自分の仕事を語る行商は、かなり胡散臭い。


「世界? どういう意味だ?」


オレがそう聞くと男は、たはーと笑う。


「これは失礼。いやね? 世界と言えば世界ですよ。国じゃ無い、あちこちの世界を超え次元を超えて品を探してるんですよ。ちなみに私、地球から来てます。いやでもスピリタスの旦那に出くわした時は驚きましたよ」

そう言いながら背負っていた木箱を下ろすと、中身を漁る行商。

 

 つまり。アイツには違う世界、異世界を渡り歩く手段が有るって事か。


「じゃあ、何か? 元の世界に帰る手段も持ってるって事か」


「勿論。そうじゃなきゃ世界なんて渡りませんて。でもその術を知ってて尚且つ操れなきゃ無理ですがねぇ」


そう言いながら荷物をこれでも無いだのと言いながら漁り続ける行商を見てラストゥールが耳打ちしてきた。


「確かにあの男、スピリタス殿と合っていたのを見た事が有ります。信用しても良いのでは」


そうは言っても、スピリタスが信用しているからと言ってオレが信用するか、はまた別の話だ。


「そう。これこれ。じゃあ、一座さん。商談しましょうか。貴方が欲しがってる武器だ」


探し物が見つかったのか、行商は木箱から 長い物を引き出し、テーブルの空いている場所に置いた。


木箱の中から木箱。それも1・5メートルは有るだろう。どうやってあの箱に入れて居たのだろうか。


「じゃあ、聞くだけ聞いてやる。話してみろよ」


ニヤリと嗤う行商に、同じく嗤い返して、オレはそう言った。



次は出来次第上げる様にします。一応、月曜辺りを目指して頑張りたいと思います。

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