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7話 狂騒の日 ~ラピスと言うホムンクルス~

狂騒は、まだ始まったばかり。

 まだ動く段階では無い筈だ。そう言いつつ珍しく驚きの表情を浮かべたスピリタスの動きが慌ただしくなった。

 「なんかマズイ事あんのか?」

オレがそう聞くとスピリタスはホムンクルスが入っていた水槽を確かめる片手間にオレの問いに返してくる。

今まさに話題の中心になっている少女はオレの服の袖をつまんだまま、スピリタスが調べるのをただ見つめていた。


「不味いか、如何かで言えば非常に不味い。それも限りなくな」


どうやら水槽に異常は無かったらしく今度は素肌を晒しているホムンクルスの少女を触診していく。腕から始まり頭を、瞳を眺めて、下の方に下がっていく。お腹を触り、足に触れて。全裸の少女に触っているスピリタスの姿を眺めるも、微塵もいやらしさを感じないのはどう言う訳か。少女の感情の見えない表情の所為か。


それとも、スピリタスの無表情の所為か。何かこう。医者が患者を診る感じ、いや。それとは違うのかも知れない。あれは壊れた部分が無いか見る職人の眼だ。ただ単純にスピリタスは自分の作品の欠陥が有無を調べているだけなのだろう。もし。もし、何かしらの欠陥が見つかった場合。スピリタスが少女を如何いう風に扱うのか。

それが気になった。まさか殺すと言うのか。今まさに息をして、生きているこの少女を。


「どういう風に不味いか聞いても?」


「まず、動く段階に無かった。それがまず一番の問題だな。これによってどんな異常が有るか分からない。

本来なら、こちらが意図的に水槽を操作しなければ、まずもって動くはずが無いのだ。何せまだアストラル対すら未完成。魂魄がどうなっているのかも分からん。簡単に言えば、これは料理なのだ。

 器を用意して、中にスープを入れて漸く客に出せる。その筈が器だけが先に客に運ばれた。そんな感じか。始末が悪い事に最悪、ブードゥーのゾンビになりかねない」


「何だか分らんが、つまりあれかまったく予想してない事が起こって、困ってますって事か?」

オレの言葉に首肯して。

 有体に言えばな。そう言ってスピリタスは少女に水槽に戻るように指示するも。


「お断りします。私の所有者権限を持つマスターは貴方ではありません」


そう言って少女は水槽に戻る事を拒んだ。スピリタスが所有者では無い? どういう事だ。ただでさえ分からない事尽くめのオレはスピリタスを見てどういう事か視線で説明を求めるも。


 小さく息を吐くと、そうだろうな、とスピリタスは呟いた。


静寂が場を支配し、誰も喋らない。誰がこの少女の所有者なのだ。製作者たるスピリタスがマスターでは無い場合、誰が。誰がこの少女に指示を出せる? それともこの場に指示だせる者が居ないのか。遠隔ウイルス的な物がこの場で使用されたのか? するとこの店はヤバいのではないか。最悪この瞬間にもこの少女が殺戮命令でも受けようものならこの場に居る者は……。

 

 そんな考えが表情に出ていたのだろう。即座にスピリタスが否定する。


「百面相している所悪いが、お前の考えている事は分かりやし過ぎる。どうせ大方このホムンクルスが虐殺を始めたらどうしよう、とか考えているんだろう。だがそれはあり得ない。

 この部屋には何が有ろうと外部から何か行うなどと言う事は無い」

 

「何を根拠にそう言ってんのか分かんねぇが、どっから来るんだその自信」


「分かり切っている。私がここの管理を居ている以上それはあり得ない事だ」


作業の手を止めてまでそうまで言い切るスピリタスにラストゥールがツッコむ。


「完全に話が脱線してます。話を戻しましょう。このホムンクルスの所有者は誰か。まずそれをハッキリさせませんか」


 ラストゥールが提案した方法はこうだ。スピリタスを除いた。オレとラストゥールがホムンクルスに指示を出して従った方が所有者、と言うモノだ。確かにそうだが何故こいつ等にはもっと簡単な方法が思いつかないのだろうか。


「何でこいつに聞くっていう方法が真っ先に出ないんだ? 不思議でならねぇよ。話が出来るんならこいつに聞いた方が早いだろ」


 眼からウロコが出た。そんな表情を見せたラストゥールを 無視してオレはホムンクルスに聞いてみる。


「なあ、お前が言う事聞く奴って誰なんだ。スピリタスじゃないんだろう? ラストゥールか? オレか?」


 ホムンクルスは頷いた。頷いただけでは何に対しての肯定なのかが分からない。


「貴方」


 短い言葉でその細い腕を持ち上げて、しっかりと指さした先に。オレが居た。

折れそうな程に細い腕をまっすぐにオレに向けて、指さしている。ホムンクルスのオレを見据えるその目が何も嘘を言っていないと分かった。じゃあ、何故オレなのか。


「それは、貴方が世界だから」


 何を言っているか分からない。いや確かにそうなのだが。世界だからと言われた所で、はい、そうですかと納得しろは無理がある。しかもこの難解な喋り方はどうにかならないだろうか。


若干喋り方が凪に似ているため頭が痛くなってくる。正直この面倒な単語喋りが2人に増えようものならオレの精神は擦り切れる一方になってしまう。


「この喋り方は何とかならないのか。もうめんどくさい」


 同意見です。とラストゥールも賛同し、スピリタスも納得した。


「だろうな。私も凪を思い出した。良し何とかしてみよう」


「なら、一回水槽に入れ。いいな」


しかし、ホムンクルスは首を左右に振って嫌だと言う。


「私はすでに培養水槽での調整の域に無い。よって戻る必要は無い」


と、非常に面倒な事を言い出した。


「つまり、すでに貴方は完成していて、もう調整の必要が無い、とそう言うんですね」


「違う」


 そうラストゥールの言葉に否定を返し。


「わたしは未だ未完成。しかし細微な調整だけで十分だと判断します。よって製作者様による最終調整をお願いする」



喋り方が安定していないのも調整出来てないのだからだろうか。なんにせよ、もうオレに分かる事の範疇を超えているためにスピリタスに全てを丸投げする事にして早く上に戻りたい。


「じゃ。そう言う事で。スピリタス後は任せた」


「私もお邪魔になりそうなので」



 上に戻る事をスピリタスに伝えると「そうか、この分だと調整もそう時間を取らないだろう」というスピリタスに了解を返して階段に足をかけたその時。


「ああっ、忘れていました!!」


ラストゥールが叫んだ。慌てて服の内側に入れてあった紙を出した。そう言えば確かスピリタスと凪当ての文書を預かっているとカフェでラストゥールが言っていた。その後の事で完全に記憶から抜けていた。


「これです。帝国が新たに流界者を呼び出しました。その戦闘教育を、そして身辺警護をスピリタス殿と凪殿に行なって欲しいとの事です」


「ほう。なる程。皇帝の印が押されている。しかし公式なものでは無い勅とはまた面倒な事を」


 スピリタスはサッと目を通しただけで直ぐに興味を失ってしまった様で調整に戻った。


「断るんですか?」

実質、皇帝からのお手紙を貰った訳になる。それなのにスピリタスとラストゥールの反応の薄さが妙に思えた。


「まさか。断っても、まあ処罰などは無いだろう。ただ少なくともこの国で生きていく分には少々ボン大が出て来るな。それに、凪がギルドに行っている以上もう凪は確保済みだという事だ。ならばもうどうにもならん」

 

 この話受けるしかないだろう。と。それにスピリタスが気になる事を言った。


「皇室には私が地球から来た事を知っている人が居る以上、雑な答え方は出来ない」


「なあ。スピリタス。お前皇室に何か借りでもあんのか? しかもお前が流界者だって知ってる奴が居るのはどういう事だ」


「それは私も聞きたいですね。私は貴方達を召喚失敗したという事になっていますから誰も貴方達の事を知らない筈。それ故に私は、病に罹り筆頭魔法使いの座から下ろされたのです。余り未練はありませんがぜひとも聞きたい事です」


 オレからしてみればラストゥールの言葉が気になった。そう、ラストゥールの自分がオレ達を呼んだと言う発言だ。


「ちょっと待て。ラストゥール。お前がオレ達を召喚した? オレ何も聞いてないんだけど。スピリタス、詳しく聞かせて貰おうか。何で黙ってた」


「その話はすでに私と凪で聞いている。少なくともラストゥールに非は無かった。それよりも」

次の話題に突入しようとしているスピリタスに待ったをかける。


「待て待て待て!! 何でそれをオレに言わなかったの? ホウレンソウって知ってる? コミニュケーションって大事だと思わない?」



「それについては私から後でお話します。それよりスピリタス殿、あれ程情報漏洩対策をなさっていた貴方が簡単にボロを出すとは思えない。何が有ったのですか」


 完全にオレを置いて行く方向で話が進んでいる。だが、後で話すとラストゥールが言っている以上まあ問題は無いか。


「話を続けるぞ。私がとある貴族からの依頼を受け、完遂した時に城に呼ばれた事があった。

その時にはすでにラストゥールは宮中に居なかった為に知らんだろうが、その貴族は大層な身分の持ち主でな。依頼の報酬を宮中で受け取る事になった。その時、有る皇族が依頼を完遂した者を見たいと言い出したらしく皇族と合った。面倒な話だ。どうやら依頼の内容の物を皇族への贈り物だったらしい。

全く、身分の高い者は分からんな。首をインテリアにしようと言うのだから。とまあそんな話だ」


「おいおい。肝心のどうしてバレタかって話が微塵も語られちゃいないのはオレの気の所為か? もしかしてもう話したのか。もしそうだとしたら良い医者を紹介してくれ。どうやらオレは都合よく物忘れするらしい。記憶障害の疑いがある。女の子と良い事したって忘れるかもだ」


「そうか。なら一回神官の所に行ってこい、お前には悪魔が取り付いている。あと悪霊もだ。かなり悪質なモノだ。出来る事なら檻の付いた病室に入れて貰え」


 何が何でも話したくないと見える。


「ダメだ。スピリタス話せ。オレや凪の安全にも係る話だ。さっきはのは回答間違いでお手付きだ。罰則だ。全部話せ」


「そんなルールを聞いてないな。お前が言ってないだけか? 私が忘れただけか? 良い医者を紹介してくれ」


「ハッ。大事な事は先に聞いとけ。で? 何でばれた。相手にエスパーでも居たか。まずいな。思考を読まれてる。アルミホイル巻いてシャットダウンだ」


ハッ。と嗤いスピリタスは白状し始める。


「狂った奴だと思われて終わりだろうな。良いか? 皇族の中に私の知り合いが居た。しかも流界者がだ、

事実上のトップに居る。それが私の製作者であり、家族であり。姉で有ったクリスティーネ」



「なる程な。話が見えてきた。つまりアレだな。お前が探してた姉が見つかった。だがタイミングが最悪の時に。で? お前の姉ちゃんはお前の身分を内緒にしてくれたがその関係で断りずらい訳だ」


オレがこの世界でこの姿になった時には未だ姉ちゃんが見つかって無かった。しかしオレが起き上がったのがつい最近だという事を考えると、そう前の話では無い。


「何で、お前にそんな話が来るのか分かったよ。高ランクの冒険者だって言ったってあくまで身元の知れない奴にどうしてそんな事を頼むのかどうも謎だったんだ。だが話が繋がった。マジで厄介だな」


「どういう事でしょうか」


いまいち要領を得ないとラストゥールが首をかしげた。そりゃそうだ。


「お前に召喚させる前にちょっとしたゴタゴタに巻き込まれてな。ゴタゴタしてる間に召喚された。

そんで以って色々あってオレはこの姿になった訳だ。んでそのゴタゴタにオレが巻き込まれた理由は

スピリタスが姉ちゃんを探してたからだ。姉ちゃんって言うかまあ製作者だがな」


それ故にオレはこの世界でこんな姿でこうなってる訳だ。と。


「なんか適当じゃないですか?」


そう不満を漏らすラストゥールを無視してスピリタスにどうするかを聞く。


「現状めんどくさい事に変わりは無い訳だ。だが、上のうさ耳の件と、流界者の件。どっちもやらなきゃなんねぇ訳だが、良し。スピリタス。ラストゥール。方針が決まった。良いか。あのうさ耳の件に流界者を引っ張り込むぞ」


「それは……。大丈夫なんですか?」

ラストゥールの不安も分かるが、もうまとめて一片に済ませたい。出来れば一番簡単な方法で。


「まあ、オレに任せとけ。お前だって弟子欲しいだろ。協力しろ」


強引に納得させることによってラストゥールを共犯に、スピリタスは言わずもがなだ。


「その紙にいつ流界者が来るとか書いてないか?」


「今日の夕時だな。冒険者ギルドの前で待ち合わせだ。冒険者の恰好をした若い女と2人の騎士が居るらしい」


 と。いう事は皇室も余り今回の事を公にしたくないらしい。内密にすると言う方針のようだ。

少なくとも騎士を連れているという事ならばうさ耳の件を聞いて動かない訳は無い。

己の存在意義に係る内容だ。困った人を助けないのは、召喚された者としてうんたらかんたらと言う強者の責任感と争いの無い、ほのぼのとした平和に由来する正義感を持っていてくれたらなお良い。


何と言うか正直非常に楽しい。流界者は経験を積めてオレはオレでうさ耳を確保。良い事尽くめじゃないか。


「そう上手く事が運べば良いがな」

そう言ってスピリタスはホムンクルスの調整を終えた。調整を終えたホムンクルスはオレの前で膝を折り礼をして。


「ご主人様。私に名前をお与えください」

と。銀の髪を靡かせ、流暢に喋る。まさかあの短時間でこれ程変わるとは流石にビックリだ。だが全裸。


「……。取りあえず、買い物が先だな」


オレ用の武器を買おう。まずそれよりも先に服だが。先程は余り気にならなかったのに何故に急に気になるのか。感だが大体15~6才位の体つきだろうか。それなりに胸の膨らみが有りそちらに意識を取られてしまう。伏せた蒼の瞳が羞恥に濡れている気がしてならない。


「服ってどんなのが良いんだ?」


全く分からない。そこでラストゥールに聞いてみると。


「やはり、年頃ですからね。流行りの服を着せましょう」

と全くホムンクルスの恰好を気にせず素面のままイケメンスマイルで言い切った。


「そう……」

出来ればもっと突っ込んだ意見が聞きたかったのだが。流行りの服ってなんだよ、分かんねえよ。そもそも誰が服買に行くんだ。女物買いに行く勇気が無い。ラストゥールがイケメンスマイルで買いに行けばいいんじゃないか。そんな考えが巡っている中、ホムンクルスが追い打ちをかけて来る。


「ご主人様、名前を」

忘れられたと思ったのか。今度はハッキリと眼に涙を溜めて上目使いに見て来る。


「じゃあ! ラピス! ラピスで! 決定!」

勿論名前の由来はラピスラズリから来ている。この蒼い瞳を見てそう付けた。


「ラピス……、良い名前です。素敵な名前を有り難うございます」


感激したと震えるラピス。出来れば目の前で振るえないで欲しい。身体が震えると胸も震えるから。


「ラピス。良いかお前の最初の仕事を伝える」


 ラピスは体勢をそのままにジッとオレの言う事を待つ。その姿は始めて命令される事への期待からかまた震えている。……多分だが。


「ラピス。お前はオレが服買って来るまでこの部屋で待機。以上! ラストゥール、スピリタス。ついて来い!」


そう言ってオレは急いで服を買う為に階段を駆け上る。限界だった。色々と。

狂騒の日。ホムンクルス、ラピス。

こんな感じの話になりました。案外僕、ラピスが好きです。


次話は木曜か、金曜を予定しています。では! 読んで頂き有り難うございます!!

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