サリーに遭遇してしまった男
「おい!」
と声をかけてきたのは三十代前半くらいでスーツを着たおかしな声の男だった。
「何ですか?」
「西原か?」
この人ガラガラ声だな……。っていうか、なぜ僕の名前を知っているんだ?
「はい、そうですけど……」
「うるせぇ!」
は!?このガラガラ声男は意味不明だ。お前から質問しといて何なんだよ!
「で、何か用ですか?」
「このクソ野郎が!」
本当に何なんだこいつ。
「どなたですか?」
「サリーだ」
サリー!?日本人ではないのか?
「日本人ですよね?」
「いや、違う。人間ではない」
……ん?
「じゃあ、いったい何なんですか?」
「サリーだ」
「いや、だからサリーって何なんですか?」
「サリーだ」
サリーの説明をしてくれ!ただこれ以上聞いても「サリーだ」としか答えないだろうから、サリーについての質問はもうやめることにした。
サリーが黙り始めた。しかもこちらを睨みつけている。これ以上睨み続けられると怖いので、話題を変えてみた。
「寒いですねぇ」
「知らん」
どうやらサリーには『寒いですねぇ攻撃』の効果が無いようだ。
サリーはまた黙って僕を睨み続けた。それから二十秒くらいした頃にようやく睨むのをやめた。そしてサリーは言った。
「認識完了」
認識完了……?
「何を認識していたんですか?」
「お前の奥歯……」
そう言ってサリーは消えた。何だったんだ!?
あれから二週間後に、またサリーは現れた。ピンクのパジャマを着ていた。それとセットのようにクマのぬいぐるみも抱きかかえていた。完全に不審者だ。そんなサリーは僕に向かってこう言った。
「あんたの奥歯は異常なしよ!良かったわね!」
そしてサリーは消えた。
サリーは性別が男から、そうではないものに変わっていたのだった。