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この異世界で魔導騎士になる!  作者: ABC_D
第1章:少年時代の物語
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第7話

 



 朝、ノアは森の中にいた。

 ちょうどノアの家とオルカ村の中間辺りだ。

 巨大な森が広がる中にぽつんと穴が空いたようなちょっとした広場、

 最近はここで訓練をしている。

 周りには広場を縁取るかのようにボロボロになった巨木の破片が散らばっていた。



「光剣-タイプ:エクスカリバー」



 ノアの持つ魔剣が巨大な光の大剣に変わる。

 そしてその大剣を思いっきり振り下ろした。


「はあ!!」



 巨剣を振り下ろした時の風圧で周囲に木の葉の旋風が巻き起こる。

 ノアの身長の40倍はある巨木が縦に真っ二つに両断された。



「光剣-タイプ:クラウソラス」



 巨大な大剣は一瞬で消え、片手剣サイズの光の剣に変わる。

 そしてその剣を水平になるように横に傾けて前に突き出し、左の手のひらを剣の腹に添えるようにした。



「はあああああああ!」



 すると無数の光の刃がノアの目の前いっぱいに形成され、一斉に2つに叩き切られた巨木を切断していく。

 光の刃は不規則に飛んでいくわけではなく、規則正しく直方体の木材を切り出していた。

 分厚くて大きい長方形の木材の凄まじい落下音。

 音が鳴りやむとそこには木材の山ができていた。



「ふぅ~大分いい感じに使いこなせてきたな。攻撃のバリエーションも増えてきたし。あとはこれを並べて……」



 巨大な大剣で大勢の敵を一振りで薙払うタイプ:エクスカリバー、

 光の刃を遠く離れた敵に飛ばすタイプ:クラウソラス、

 素早い剣撃に適した一番使いやすいタイプ:デュランダル、

 光の武器の分身体を作り出して二刀流で敵を切り刻むタイプ:ダインスレイフ、

 そして防御には変幻自在の光盾アイギス。


 ノアは初め魔法と剣術を別々に使っていたのだが、効率が悪いので2つを組み合わせるような使い方をするようになっていた。



「よし、終わった。これで魔物対策はばっちりだな」



 ノアはさっき切り出した木材を突き立てていった。

 もちろん身体強化を使って。

 こんなに巨大な木材を動かすのは純粋な人力では不可能だろう。

 一通り周囲に立て終わり、不格好な扉もつけた。



(そういえばそろそろ村に行かないとロンドさんにお礼言わなきゃだし、エマがまた拗ねちゃうよな~。帰ったらクロエとルーカスに相談してみよう)



 朝食の時間、ノアは朝練を終えて家に戻りながらそんなことを考えていた。



「おーい! ノア遅いぞ。早く座れ。朝飯だ」



「すいません! すぐに魔剣を部屋に置いてきます」



 魔剣を2階のベッドのすぐ横にある壁に立てかけ、

 戻ってきて席につく。



「ノアちゃんまた森に行ってきたの? あんまり危ないことしちゃ駄目よ? ふふふ、そうでちゅよね~ロゼちゃん」



「母さん、ノアを危ない目に遭わせられる魔物なんて森にはいないだろう?そうだよな~ロゼ~」



「酷いですよ知ってたのに黙ってるなんて~。僕隠すのに必死だったんですよ? それとさっきから2人とも顔がだらしないです! いくらロゼがかわいいからって……」



「あうあうう~」



「おお~お兄ちゃんがやきもちやいちゃってて怖いよな~よしよし」



「別に妬いてるわけじゃないですよ! まったく」



 先日生まれたルーカスとクロエの娘であり、ノアの妹のロゼ。

 無事に出産が終わって少し経った頃、

 今まで隠してきた魔剣や光属性魔法のこと等をクロエとルーカスに打ち明けたのだが、

 ノアは2人から既に知っていると言われたのであった。

 以前ルーカスがこっそりと家を出て行くノアに気付き、後をつけたのだそうだ。

 魔力が使えることを知っていた2人も魔法と剣術、さらに光属性のことを知った時にはさすがに驚いたらしい。



「あ、そうだ。今日僕村に行こうと思うですけど……」



「そうか、俺達もちょうど報告とか買い物しなきゃならないから一緒に行くか」



「そうね、リーザ達にも久しぶりに会うし楽しみだわ。ノアちゃんはエマちゃんに会わないとね、ふふふ」



「母様、こっちはエマに振り回されていつも大変なんですからね! 勘違いしないで下さいよ!?」



「はいはい。わかったわよ、ふふふ」



 そうしてノアたちは家族そろって村に行くことになった。



「クロエはロゼの面倒みてるから俺とノアで魔物を蹴散らして行くぞ。まあノアは出来れば援護してくれればいい! 父さんがちゃちゃっと片付けてやるからな、ハッハッハ」



 そして村への道中、クロエとルーカスは無言で村へと足を進めていた。

 先ほどのルーカスの威勢はどこかへ消えてしまったらしい。



「おいおい、これじゃ俺の出番なんて回って来ないぜ……ははは」



「ノアちゃんが戦ってるところ初めて見たけど……圧倒的過ぎてちょっと魔物が可哀想ね……ふふ」



 魔物たちはノアが視認できる距離に入った途端に切り刻まれ血飛沫をあげていく。



「この程度の魔物に父様の手を煩わせる必要はありません。さすがに森の中みたいな障害物の多い場所で使える技ではありませんが、見晴らしの良いここでなら遠くまで狙い撃ち可能ですからね」



「おお、そうか。やっぱりすごいな……」




 森ではちゃんとルーカスと一緒に魔物を薙払いながら進んでいき、しばらくして村に到着した。



「ルーカスさん、クロエさんお久しぶりです!……あ、ノア君!?最近村では君に関することでちょっとした噂が立ってるよ!」



「噂? いったいどんな内容なんだ?」



「はい、ルーカスさん。それがこの村のほとんどの精鋭冒険者たちがノア君と手合わせしたいって言っているそうで……僕も今度ノア君が来たら教えてくれって頼まれちゃいましたよ。まったく子ども相手に何を考えているんですかね?」



 3人は苦笑してしまう。

 ノアはロンドやレオナを含む護衛たちと隣の村に行ったことを2人に詳しく説明していた。

 だから家に帰るのに必死で彼女たちの前で身体強化を使ってしまったことも知っていたのだ。


 身体強化が使える子どもなど当然見たことも聞いたこともないはずなので、

 血の気の多い冒険者たちがノアの力を確かめたがってそういう行動をとるのはある意味当然の成り行きだった。



「そうか……そうなるよな。すぐに冒険者ギルドへ行ってロンドさんやその冒険者達と話つけて来ないと後々面倒だな。きっとロンドさんも抑えてるんだろうが、まあ無理だな。あいつらはそんなこと聞きやしないだろう。母さんは先にクラートの家へ行っててくれ」



「わかったわ。それじゃあリヒテさんまたお会いしましょう。ロゼちゃん、リヒテさんにばいばーいって」



「え、あ、はい。ばいばいって……ん? ロゼちゃん?」



 クロエがロゼの手をひらひらとリヒテに振らせて、先に村に入っていく。



「ああ、娘のロゼだ。今度ゆっくり紹介するよ。すまんな、リヒテ」



困惑しているリヒテにルーカスはそう言って謝罪する。



「そうですか、おめでとうございます……?」



 しかし、いまいち状況が掴めないリヒテであった。



「僕が迂闊でした。ごめんなさい父様! ご迷惑をおかけして……」



「いや、謝らなくていいんだ。こういうことは力ある者には必ずと言っていいほど付いて回ることだからな。俺や母さんも何度もこういうことを経験してるぞ、ハッハッハ。だからノア、気にすんな」



 ルーカスがノアの頭を撫でる。

 リヒテに通行料を渡し、村に入って行った。

 そして冒険者ギルドへ着き、両開きの扉を開ける。



「あ、ルーカスさんじゃないですか。こんにちは。どうしたんです?」



 受付嬢がカウンター越しにルーカスに話しかける。



「ちょっとロンドさんに話があってな、今どこにいるかわかるか?」



「えっと、マスターは今会議室にいます。以前マスターがエスト村にお出かけになられて、その時に連れて行った護衛の冒険者の方たちと話しているようです」



「ちょうどいい! 案内してくれ」



「でも…はいわかりました。関係あるんですよね? ついてきてください」



 ギルドの受付嬢に連れられ、ある部屋の前に着く。

 するとロンドと護衛たちが話し合っているのが聞こえてくる。



「なんで駄目なんだい? 私達はノア君をいじめようとか考えてるんじゃなく、ただ純粋に手合わせしたいって言ってるだけじゃないか。ここにいる奴らも皆そう思ってるんだよ」



「何回言ったらわかるんじゃ。確かにワシもお前たちの気持ちはわかる。強いものと手合わせしてみたいのは当然じゃ。じゃがノア君は力はあるかもしれんがまだただの子どもなのじゃ。お主らを相手にする理由もなければ義理もないじゃろう? それに皆の前で決闘をしてノア君が勝ったらどうするつもりじゃ? 精鋭冒険者を凌ぐ実力者として、自分たちの仲間に入れたがる者たちがきっと大勢出てくるはず。そしたらノア君が困るじゃろうが」



「それはそうかもしれないけど……でもどうしても戦ってみたいじゃないか…………」



 しばしの沈黙が続く。

 その沈黙を打ち破るかのように会議室のドアがノックされた。



「誰じゃ?」



「受付担当のミーナです。ルーカスさんとノア君がお見えになってます」



 その場にいた者たち皆が目を見開き、ドアの方へ視線を向ける。



「通しなさい」



 ドアが開くと引き締まっていて力強そうな体をした男と綺麗な顔立ちをした子どもが入ってくる。



「邪魔するぜ。お前たちノアと戦いたいんだってな?」



「は、はい! どうしてもノア君と手合わせしてみたいんです!」



 ノアはルーカスに頷く。



「ちょっと森の中を行くと広場があるんだがそこでならその勝負を受けてやってもいいぞ。しかし観客はなしだ。他の関係のない冒険者には内密に行ってもらう」



「本当ですか!? ですが外には魔物が沢山いてそれどころではないと思うのですが……それに私たちも頻繁に森の中に入っていますが広場など見たこともありません」



「それについては全く問題ない。その広場まで行ってしまえば平気だ。まあ行けばわかる。いいよなロンドさん?」



「こっちとしては全然構わないとも。逆にええのか?こっちのわがままに付き合ってもらって」



「ああ、いいんだ。ノアとちゃんと話し合って勝負を受けるって決めたんだ。中身を内密にするのを条件にして……な。」



 ルーカスとノアはここに来る前にこの件についてしっかりと話し合っていたのだ。

 最初ノアは面倒だから断ろうとしていたのだが、

 手合せを断ればもっと面倒なことにもなりかねないとルーカスはノアに忠告した。

 過去にそういう経験があったらしい。

 そして戦闘を公開しなければ問題ないと、ノアは今朝つくった防壁つきの広場での手合せを提案される。

 ルーカスは今日村に来る時にノアに教えてもらっていたのだ。

 ここでなら人目につくことはないだろうと。



「ほう……そういうことか。それでは本日の昼過ぎに門の前で落ち合おうかの。それからその広場とやらに出発でどうじゃ?」



「私たちは大丈夫です!」



「俺たちもそれでいい」



「ではこの村の精鋭たちだけで魔物狩りに行くから邪魔になるので森には入るなとギルドの者には釘を刺しておこう」



「そうだな、そうしてもらえると助かる。ありがとうロンドさん。それじゃあ昼過ぎに門の前で」



 ノアとルーカスは軽く頭を下げ、

 部屋から出て行った。





「お主ら、ノア君に感謝するんじゃよ? それと戦う前にアドバイスじゃ……最初から全力で挑め。以上解散!」







 ◇◇◇◇◇◇







 精鋭冒険者の10人は会議室から出て、ギルドの隣にある酒場に集まっていた。



「なんだよ、マスターのやつ。身体強化が使えるくらいで大げさなんだよな~まったく。所詮子どもだろ? ちょっとてこずるかもしれねぇけどそこは長年の技術でカバーすればいいだけだっつうの」



「そうだよな。マスターがあの子どもを買い被ってるだけだよな」



「きっとそうに違いないだろう。だが用心に越したことはない。ん? どうしたレオナ、さっきから黙り込んで」



「い、いや! なんでもないさ! あはは……」



「なんだよ変なやつー緊張してんのか? ぎゃははは! らしくねぇなーおい」



 冒険者たちはレオナが柄にもなく緊張しているのが可笑しくて笑っている。



(いくら子どもって言ってもルーカスさんが平気で手合せを許可するぐらいだ。本当に最初から全力でいかなきゃ負けるね……)


 レオナはルーカスの強さも頭の良さも知っている。

 そのルーカスが勝負の内容をあそこまで隠そうとすることには意味があるはずだと思っていた。

 精鋭冒険者たちが普通に子どもであるノアに勝つだけなら当たり前なので隠す意味などまったくない。

 しかしルーカスはノアが何かすごい力を持っていて、勝ってしまうことで面倒なことになるのを避けているようにレオナは感じていた。



(なんでこいつらはこんなに馬鹿なんだろうね~)



 笑っている9人の浅はかさに溜め息をつくレオナであった。







 ◇◇◇◇◇◇







 冒険者たちが酒場で大笑いしている頃、ノアとルーカスはクラートの家にいた。



「え!? 勝負を受けることにしたのか!? ノア君が怪我したらどうするんだい!?」



「そうですよ、ルーカスさん! 相手は冒険者……しかも実力者揃いなんでしょう!?」



 クラートとリーザはルーカスから冒険者たちとの勝負について聞き、こんな子どもを戦わせるなんてどうかしていると反発していた。

 しかも相手は村の精鋭たちである。

 普通は考えられない組み合わせの勝負だ。



「えーと信じられないかもしれないがノアは…………」



 魔法、剣術が使えること。

 既に魔導士や騎士並みの魔力を保有していること。

 冒険者たちでは決してノアに敵わないということを丁寧に説明した。

 2人は最初は信じられないと目を丸くしていたが、今は呆れたように妙に落ち着いてしまっていた。



「そういうことか。いや、この前エマが、ノア君が1人で魔物を倒しながら森を抜けて村に来たんだと言っていたんだよ。その時は嘘をついているんだとばかりに叱ってしまったけど……本当なんだろうノア君?」



「……はい。その時は母様が大変な時期で父様も外に出られないからと1人で村に来ていたんです。その時偶然エマに会って……」



「ほら言った通りじゃない! パパもママも全然信じてくれないんだもん!」



「ごめんね、エマ。パパもママも悪かった。許してくれるかい?」



「しょうがないから許してあげる!」



 エマはそう言ってクラートとリーザに飛びついた。



「すいません、僕のせいで。エマもごめん」



 ノアは深々と頭を下げる。

 クラートとリーザは謝らなくていいと手を横に振った。

 しかしエマはご立腹のようだ。

 ずんずんとノアの前まで出てくる。



「ほんとよ! ノアが全部悪いんだからね、ふんっ。もうノアなんて構ってあげないんだから!」



 ご立腹のエマにノアは何度も謝罪をしたが許してくれないようだった。

 そこへクラートが助け舟を出した。



「いいのかいエマ。この前ノア君にまた村を案内して欲しいって言ってもらえてあんなに嬉しそうにしてたじゃないか」



「あー! パパそれ言っちゃダメー! もー」



 エマが顔を真っ赤にして恥ずかしがっている。

 みんなそれを見てクスクスと笑っていた。



「おっと、もう時間だ! 行くぞ、ノア」



「はい! 皆さん、行ってきます!」



 ルーカスが家を出てノアも出ようとした時…



「ノ、ノア! 怪我しないように……気をつけてね……」



 まだ熱がとれていない顔でエマが尻窄みに言った。



「ありがとう、エマ。行ってくるよ」



 そう言ってノアは家を出た。




「うふふ、エマちゃん可愛い。私応援してるわ! 頑張ってエマちゃん!」



「ち、ちがいます! そんなんじゃないですから!」



 せっかく落ち着いてきたのにクロエの爆弾発言によって再び顔が真っ赤になってしまうエマ。

 その様子を大人たちは微笑ましく見守っていた。

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