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この異世界で魔導騎士になる!  作者: ABC_D
第1章:少年時代の物語
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第6話

 



 オルカ村の近くには巨大木々が並ぶ森がある。

 ノアの家はこの森を挟んで反対側の丘の上にあるため、村へ行くにはこの巨大な森を突っ切るのが一番の近道であった。



「なんだって!? それじゃあノア君はこの森を1人で抜けて村にやって来たっていうわけかい!?」



「ええ、まあ魔物にもそんなに遭遇しなかったですし遠回りすると何日もかかっちゃって父様や母様が心配してしまいますからね」



 巨大な森はオルカ村を分厚く包むようにそびえ立っているので、ノアの家から遠回りして村に行くにはかなりの時間がかかってしまうのであった。



「いや、それでも何回か魔物に出くわしたろう? どうやって逃げたんだい?」



「え、えーと全力で走ってたらいつの間にか村に着いちゃってたのでよく覚えてません! きっと運が良かったんですね! あははは……」



「ロンドの爺さん、そんなことって本当にあると思うかい?」



「ホッホッホ、足の速い狼型が偶然出なかったのじゃろう。本当に運の良い奴じゃな~」



 物知りで冒険者ギルドのマスターのお爺ちゃんの名前はロンドというのだそうだ。

 ノアが魔物を薙ぎ払いながら全力で森を突っ切ったという事実を伝えるには色々と説明するのが面倒らしく、適当に誤魔化しておけと出発前に言われていた。



「レオナさんもそのくらい運が良かったらええんじゃがのう。さっきから魔物に遭遇してばかりであまり進んでおらんのではないか?」



「ちぇっうるさい爺さんだねぇ。あたしが悪いってのかい!?」



 レオナはオルカ村で一番腕の立つ冒険者らしく、

 ギルドマスターであるロンドと仲がいいらしい。

 因みにルーカスの強さに憧れているそうだ。



「ほれほれ、そっちからも来てるようじゃよ?……ほい!」



 ロンドが槍型の魔剣で軽く突くとまだ少し離れた所にいた魔物が血飛沫をあげた。



「ロンドさん、今のは剣術ですよね? どうやったんです? 斬撃を飛ばしたようには見えなかったんですが……」



「ホッホッホ、斬撃を飛ばすなんてワシには無理じゃよ。そもそもワシにはもうそんな魔力は出せんしな。突くときの一瞬だけ魔力を込めて刺突攻撃を敵を届かせてるだけじゃ。武器の間合いを広げる類の剣術はそれだけで魔力を馬鹿みたいに喰うからのう。必要な時以外は極力魔力を温存する。これは重要なことだから覚えておくんじゃよ?」



 やはりルーカスの斬撃のように、あまり距離は伸ばせないそうだ。

 ロンドには魔力の力強さはないが、それを補う無駄のない技術があった。

 さすが冒険者ギルドの長、見習わなければ。



「なるほど……勉強になります!」



「じゃがお主は子どもでありながら既にそんなに魔力を持っておるからあまり参考にはならんかもしれんのう。まだまだ若い。確かに力強さも必要じゃが固執せず、様々な技術を身につけるのがええじゃろう」



 ロンドが周りに聞こえないような声でアドバイスをしてくれた。

 やはり攻撃のバリエーションは豊富な方がいいとそういうことなのだ。

 いつどのような状況でも戦えるように備えておけと。



 しばらく歩いていると森を抜けた。

 そこには大きな川が流れていて、川沿いに家が十数軒か建ってる。

 確認したら物凄く遠いところに丘の上に建つ家が微かに見えていた。



「ここが目的地のエスト村じゃ」



 村の中に入り、そこで護衛の者達と別れてノアとロンドは大魔導士の家へと向かった。

そしてドアをノックし、少しすると開錠する音が聞こえてきた。



「あ、ロンド様じゃないですか!? どうしたんですか?」



「エレナにちょっと用があって来たんじゃ」



 比較的新しい大きな家のドアを開けて出てきたのは、眼鏡を掛けた女性だった。



「エレナ様! お客様がいらしてますよー!」



「どなたーって……ロンドさん? どうしたんです? あなたが家に来るなんて珍しいじゃない。とりあえず中へ入ってくださいな。ミリー! お茶を用意して」



 エレナと呼ばれる20代後半の女性は大魔導士で、

 ちょうど20代くらいの黒縁眼鏡の女性ミリーはエレナの弟子らしい。

 


「その子はいったい何者ですか? 何故子どもなのにこんなに魔力を持っているのかしら?……下手すれば新米の騎士や魔導士に匹敵するんじゃない?」



エレナはロンドの隣に座っている子どもを一瞥してから言った。




「さすがは大魔導士と呼ばれるだけのことはあるのう。この子はもうこの歳で剣術を使った修練に励んでいるそうじゃ」



「……それは簡単に信じられるものではないわね。ロンドさんもご存知でしょう? 世の中にはどれだけ必死に魔力を御そうと必死に修行しても、ちゃんと扱えるようになる者はほんの一握り。しかもこんな幼いうちに習得するなんて……」



 やはりノアの歳で魔力を制御してしまうのはこの世界の常識から逸脱していたのだった。



「誰かに……そう、実力のある魔導士か騎士に想像を絶するような修行をしてもらったのかしら?いやそれでもこの年齢で習得など……」



「この子は昔の大魔導士様達が書いたあの分厚くてやたら難しい本を何冊か読破したらしい。それでその知識を頼りに自分の力だけで魔力を制御したそうじゃ、ホッホッホ」



 ノアはロンドにどのようにして魔力を操るにいたったか、剣術は使えるが魔法は全然使えないことなどを話していた。



「な……あの本は私でさえちゃんと読むのに苦労したというのに!!」



 そしてエレナは言葉を失ってしまった。

 近くにいたミリーもお茶を用意した時に使ったトレーを落としてしまう。



「ホッホッホ。ワシも驚いたわい。それで今日はこの子の魔剣を見て欲しくて来たんじゃ。得意属性が他のどの属性にも当てはまらん……多分魔法系統を示しておるんじゃが。ワシも初めて見たから魔法に詳しいお前さんに確かめてもらおうと思ったのじゃよ。ノア、見せてやりなさい」



 ノアは腰から魔剣を抜き、前にかざしてみせた。



「なんですかこの黒い魔剣は……こんなの見たことがないわ!」



「はい、エレナ様。私も様々な魔剣見てきましたが黒い魔剣など……」



 ノアはロンドに目で許可をもらい、魔力を込めた。

 すると剣身や柄が青白く光り出す。



「これは!! もしや……光属性!?」



「ほうほう、やはりお主もそう思うか? ワシもそうでなければ説明できんと思っておったんじゃが……まさか本当に光属性があったとは」



ロンドはうんうんと頷き、エレナの見立てに同意する。



「光属性? そんな属性なんてありましたか? 僕が知る限り魔法は火、水、雷、土、風属性だけだったと思いますが」



「君だけじゃない、この世界のほとんどの人間がそれしか知らないはず。今君が言ったのは基本5属性と呼ばれる基本的な5つの魔法のタイプ。魔法を得意とする人はほとんど全てがこの5つに別れているわ。でも君が持つ光属性は特殊2属性と呼ばれる、今まで存在するかどうかも怪しかった非常に珍しいタイプなの」



 遥か昔、ある古い神殿を研究していた大魔導士が壁描かれていた絵を見つけた。

 その絵には赤、青、黄、茶、黄緑色の衣を纏った少女達が描かれていて、その上に白い衣を纏った女神と紫色の衣を纏った女神も描かれていたそうだ。

 そして古代語でそれぞれ近くに言葉が書いており、

 5人の少女には火、水、雷、土、風を意味する言葉が、2人の女神には光と闇を意味する言葉が書いていたらしい。

 大魔導士はすぐに魔法の属性が関係しているものだと気付き、女神達の光と闇の属性もあるのだろうと、その時存在していた5つの魔法を基本5属性、光と闇の魔法を特殊2属性と呼ぶことにした。

 だが光と闇の魔法を使うものなど現れず、特殊2属性だけが徐々に忘れ去られていったのだそうだ。



「そんなに珍しいタイプだったんですか。通りでどの本を読んでもわからないわけですね……」



 ノアが読んだいくつかの魔導書にも書かれていなかった。



「ふふふふ……すごいわ!まだ誰も見たことのない光属性の魔法……調べたい……調べたい調べたい調べたい!! 君、ノアと言ったわね! 私の子どもになりなさい! そしたらあれやこれと好きに調べ放題……ふふふふ」



「え、エレナさん!?」



 エレナが怖い。

 この人の子どもになったら実験動物のように扱われるのが目に見えている。

 しかも俺にはルーカスとクロエがいるのだ……ルーカスとクロエ?

 しまった!!



「すいません! 今何時です!?」



「そういえばもう5時くらいじゃのう。夕方までに家に戻らねばいかんかったか。それじゃ帰るとするかのう。邪魔したなエレナ、ミリーさん」



「待って、待ってー! 行かないでー! 私の可愛い息子よー! 実験材料が逃げてゆくー!」



「駄目です、エレナ様! ノア君にはもう家で待っているお父さんとお母さんがいるんです! 行かせてあげないと」



 エレナを抑えるミリーの必死な声を背に足早に家を出た。





「行っちゃった……」



 エレナはとても悲しそうな顔をしてうなだれた。



「しょうがないですよ~遅くまで帰って来なかったら親が心配します。それにしてもすごい子ですねノア君。まだ子どもなのに剣術を使えるなんてびっくりしました!」



「そうよね~、本当に……え? 今なんて……?」



 エレナが突然顔を上げた。



「え、ノア君剣術が使えるなんてびっくりですねって言っただけですけど……どうかしたんですか?」



「あなた気付かないの!? ノア君が得意なのは光属性の『魔法』なのよ!? それなのに剣術を使えるなんて……」



 ミリーは持っていたトレーを再び落としてしまった。



「……魔導騎士?」



「そうね……その素質があるに違いないわ。これは将来が楽しみね……」



「だけど……きっと大変ですよ!? 光属性の魔法使いってだけでも騒ぎになっちゃうレベルなのにさらに魔導騎士となると……」



 2人は規格外に規格外を重ねた少年を巡る国家間の争奪戦を想像して苦笑してしまったのだった。







◇◇◇◇◇◇







 一方ノアは夕方頃には帰ってないと絶対にバレるだろうと思っていたので焦っていた。



「ロンドさん! 僕はこのまま直接家に帰ります! 後日また村に寄らせていただきます! それでは失礼します!!」



 ノアはいつも左側の腰に差してある魔剣の柄を左手で握った。

 剣を鞘に納めたまま身体強化を発動させて物凄いスピードで村から飛び出して行く。



「ホッホッホ。今日は実に愉快な1日じゃったのう」



 それを見たロンドはニコニコとそう呟きながら護衛達のとこへ向かう。



「お、おい爺さん! あの子身体強化を使えたのかい!?」



「おや、言ってなかったかの? ホッホッホ」



 その後、村に帰るまでずっと質問攻めにあったロンドであった。







 ◇◇◇◇◇◇







 ノアは身体強化状態で一生懸命走っていた。



「早くしないとまずい! 時間のことなんてすっかり忘れてた!」



 森を通らずに家まで走れたので家に着くまでそんなに時間がかからなかった。

 そして開いていた2階の窓から家に入る。



「うげ~魔力使いすぎたな。疲れた~」



 身体強化を全力で発動させながら走って来たので、8割以上の魔力を使い切ってしまっていた。

 身体強化は普通そんなに長時間発動していられないのだ。


 ノアは魔剣を隠し、盛り上がった布団からクッションを抜いて恐る恐る1階へ下りていった。



「おお! ノア、体調は良くなったか?」



(よし! バレてないみたいだ!)



「はい! 良くなったみたいです。心配かけてしまってすいません」



「そう、良かったわねぇ」



 クロエとルーカスがニコニコしている。



「夕飯は食べられそうか?」



「はい!」



 夕飯を食べ終えてお風呂に入り、

 ノアは早めにベッドについた。







◇◇◇◇◇◇







ノアがいなくなったあとも、1階のリビングにはしばらく明かりがついていた。

2人はテーブルにつき、向かい合うように座っている。



「これでいいの?あなた」



「いいさ、俺たちに心配かけたくないみたいだしな。ベッドにクッションを入れて寝てるように偽装したのも魔力のこと隠してるのもそのためだろう」



「あら、あなたも気付いてたの?」



「魔力を使えることだろ?気付いたのは最近だよ。勘違いだと思ったさ。ノアの魔力が日に日に上がってくんだからな。でもノアが魔剣を隠してることに気付いてからはやっぱりそうかって思ったよ」



「そうだったの……。私はノアちゃんの魔力が増えてるのに疑問を感じて色々調べてみたの。それでノアちゃんが本を読みたがっていたのを思い出して、確かめてみたらやっぱり本がなくなっていたから……それでわかったのよ」



「本って……あの魔導書のことか!? あれをちゃんと読めたのか!?」



「んーそれはわからないけれど、それから何冊か本を入れ替えて読んでいたみたいだったから……それに読めたから魔力を扱えるようになったのかなって」



「あんな難しい本を……相変わらず賢い子だな! まあ唯一ノアの誤算だったのは俺達が魔力を測れる数少ない実力者だったってことだな、ハッハッハ!」



「いつかノアちゃんが教えてくれるまで、知らないふりしてましょうね、ふふふ」



「そうだな!」



 今日家を抜け出していたことも魔力を使えることもすべてルーカスとクロエにはお見通しだったのである。



「そういや魔法と剣術、どっちが使えるんだろうな! やっぱりノアは剣の腕がいいから剣術か!?」



「いいえ、ノアちゃんは知的だからきっと魔法が使えるのよ!」



「気になるな~」



「気になるわね~」





 今日わかった剣術と魔法、両方使える可能性については2人とも考えてもいなかったのであった。



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