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この異世界で魔導騎士になる!  作者: ABC_D
第1章:少年時代の物語
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第2話

 



 俺がノアとしてこの家で暮らすこと5年、

 今年で6歳になる。




 最初はあの綺麗な女性とその夫であろう男が俺を見てよく心配そうな顔をしていた。

 余程俺の慎重な行動が赤ちゃんのイメージからかけ離れていたのだろう。

 このままではまずいと慌ててそれらしい行動をとり、なんとか2人を安心させてやった。

 困らせないと安心させてあげられないとは……なんとも複雑なものである。

 体は1歳児の赤ちゃんでも中身は18歳の青年なので、故意に人を困らせるとやはり罪悪感に苛まれるのだ。



 積み重なる努力の甲斐あって、2人の心配そうな表情は徐々に減っていった。

 完璧になくなったわけではないあたり、俺は完璧に普通の赤ちゃんになりきれていなかったに違いない。



 そういった苦労とともに成長していき、ある程度言語能力を身につけたことで色々なことがわかってきた。



 どうやらあの時、庭で俺を抱きかかえてくれてた女性はやはり母親で、

 名前はクロエというらしい。

 俺の名前がノアだそうだ。

 これは家でクロエと夫らしき者が話しているのを何度も聞いて一番初めにわかったことである。



 そしてクロエと話していた男も予想していた通り夫であり、父の名はルーカスというらしい。



 彼はよく俺に自分の武勇伝を聞かせてくれた。

 こんな幼い子に何を聞かせるんだと最初は思ったが、彼の話は実に興味深いものばかりであった。

 俺があまりにも真剣に聞いていたので、ルーカスは他にも色々なことを話してくれた。


 1年は365日、1日24時間、1時間60分など、

 時間の概念に関しては全く同じであった。


 何よりここが魔法や剣術というものが存在する異世界であるということがわかったのが一番の収穫だ。

この世界には魔力というものがあり、魔法も剣術もそれを使用して発動するものらしい。


魔法は何となくわかるが、剣術にも魔力を使うのかと疑問に思い聞いてみたところ、どうやらこの世界では純粋な剣技だけのものではなく、魔力を使った剣技のことを剣術と呼ぶらしい。

魔力が存在するが故に、剣術という言葉の示す定義が違うのだろう。


 そしてこの世界には凶暴な魔物や魔人もいるらしい。



 最初は魔法や魔物の話なんて全然信じていなかった。

 しかしその様子を感じ取ったクロエとルーカスが実際に目の前で魔法や剣術を見せてくれたのだから疑いようがないだろう。

 母が魔法、父は剣術を披露してくれたのだ。

 魔法や剣術が本当にあるのだから、魔物や魔人も本当にいるのかと思い、2人に尋ねてみた。



「おいおい、さっきからノアは俺の話を全然信じてくれていないようだな」



「あなた、ノアちゃんはまだ何も知らないんだから仕方ないでしょう?」



「……それもそうだな。よし、ノア! この世界の魔族と人族について詳しく説明してやるからしっかりと聞いてろよ?」



「あなた! ノアちゃんはまだ子どもなんだからね? わかってるわよね?」



「ああ、ちゃんと伏せるべき部分は伏せるさ。えっと……」



 ルーカスはわかりやすいように説明してくれた。

 どうやらこの世界には人族と魔族と呼ばれる2つの種族がいて、

 遥か昔からずっと種族間で争っているらしい。


 魔族側が攻めてくるために人族は対抗する力をつけなければならない。

 そこで人族は力をつけるためのシステムをつくった。

 そのシステムとは、魔法や剣術で一定以上の強さを示した者にはクラスを授け、

 恩恵を与える代わりに人族のための盾や矛となって魔族と戦う義務を負わせるというものだ。

 魔法で力を示した者には魔導士、剣術で力を示した者には騎士というクラスを授ける。


 クラスを授かるには各国である機関が実施している難関試験に合格しなければならない。

 それなのに魔法や剣術を習得出来るように努力したり、

 力を使いこなせるようにきつい修練を積むのはやはり恩恵が欲しいからだろう。

 クラスを授かると高い地位や大金、名誉が手に入るそうだ。

 ただの平民のそれと比べたら雲泥の差らしい。



「因みに母さんは魔導士、俺は騎士だ」



「え!? そうなんですか!?」



 これには驚いた。

 父と母はこの世界で優秀な存在らしい。

 だから家が立派なのか!

 でも優秀な親の子どもか……



(これはものすごくプレッシャーを感じるな……)



「すごいだろ! でもノアが無理して騎士や魔導士を目指す必要はないからな? クラスを授かることは良いことばかりじゃなく、危険も大きいからな。まあその分ちょっといい暮らしは出来るけどな。ハッハッハ」



 顔が強張ったのを見たからか、ルーカスはニコニコしながらそんなことを俺に告げる。

 ルーカスさん、強くて優しいなんて俺あんたが父親であることを誇りに思う。

 まあ実際の父親ではないのだが。



 そう、俺は忘れたわけじゃない。

 元の世界への帰り方を探さねばならないということを。

 しかしこんな6歳児の状態でそんな途方もないことをまともに調べることが出来るとは到底思えない。

 それにそもそも俺はそんなに元の世界に帰りたいと思っているわけではないのだ。

 退屈な毎日を送るくらいなら異世界で新しく生きてみるのもいいだろうと考えていた。


 まだこの家の中でしか過ごしていないが、

 ここ数年クロエやルーカスと暮らすのは本当に楽しかった。

 この世界にはきっと俺が求めているスリルや好奇心をそそるものが沢山あるだろう。

 だから念のために帰る方法を見つけておこうぐらいにしか思っていない。


 俺は今あの世界よりもとても充実しているのだ。

 怖い顔で怯えられることもない。

 寧ろ今の自分の顔は、

 優しそうで綺麗なクロエとたくましくきりっとしたルーカスの顔の良い部分を全て取ったような顔立ちをしていた。

 将来が楽しみである。



 光彦は本当の意味でノアとして生きていくことを決めていたのだった。



「父様、母様! 僕はお二人のような両親を持てて幸せです。僕を生んでくれてありがとうございます!」



 2人は目を丸くして驚いたようだった。

 そしてクロエは涙ぐみ、ルーカスは照れているようだった。



「ノアちゃんっ!」



「うぶっ母様苦しい~」



 クロエが俺に抱きついてきた。



「あら、ごめんなさい。ノアちゃんがいきなりそんなこと言うからいけないのよ~?」



「まったくお前は本当にいい子だな! よしよし!」



 なんかこういうのってあれだよな。

 幸せな家庭って言うんだろうな。



 これも元の世界では決して手には入れられないものだった。



(ああ、本当に幸せなんだな俺……)



 最初はただ家族を演じていただけだったのに、

 いつの間にかこの2人は光彦にとってかけがえのない存在となっていた。




(よし、この世界で生きていくにはまず魔法か剣術を習得した方がいいな。なんかそういうのは子どもには難しすぎてもっと大きくなってから修練するらしいが……あとこの家から出て周りの地理を把握しておかないと。そしてもっとこの世界の常識を身につけなければ浮いてしまう。……そういえば)



「学校みたいなものってあるんですか?」



 2人は再び驚いたようだ。



「急にどうしたんだ? 学園に行きたいのか?」



「学園……ですか?」



「そうだ。だけど学園は15歳からしか入れないからな~」



「そうなんですか。できればもっと詳しく学園のことについて教えて下さい」



「ノアは相変わらず好奇心旺盛だな。俺が6歳ぐらいの頃は友達とずっと遊んでたぞ? 今度近くの村に連れて行ってやらないとな」



 近くに村があるらしい。

 身の回りの情報収集に必死でこの家の外の世界なんて全然気にしていなかった。



「それもそうですけど、ちゃんと学園のことを教えてあげなきゃだめよ~。さっきお父さんが言った通り学園は15歳から入学出来て下級生、中級生、上級生と3年間お勉強や実技の訓練をする所よ」



「実技って……魔法とか剣術の訓練ですか?」



「そうよ。一般的には下級生は基礎訓練、中、上級生は応用って感じかしら」



「学園はな、魔導士や騎士、魔工技術者になりたい奴が行くんだ。因みに魔工技術者は魔剣を作る職人だ」



「魔剣?」



(何それかっこいい!魔法の剣かな?)



「そっかそっか。教えてなかったな。魔法や剣術を使うためには魔剣と呼ばれる武具が必要でな、魔法系魔力を魔剣に流して発動するのが魔法。剣術系魔力を魔剣に流して発動するのが剣術と言うんだ」



 この世界では魔法も剣術も魔剣というものを使わないと発動出来ないらしい。

 よくゲームとかに出てくる杖などの代わりだろうか。



「この前ノアちゃんに魔法と剣術を見せてあげた時も魔剣使ってたわよ?」



「え? 確かに父様は剣を持ってたと思いますけど、母様は持っていなかったような……?」



「うふふ、魔導士は大きな魔剣を持っていても剣術を扱えないし、邪魔なだけだから普通ナイフや小剣タイプの魔剣を使うの。それに対して騎士の剣術は武器依存度の高いものだから必然的に大きめなものを使う人が多いわね。私のは片手に収まるくらいのナイフ型の魔剣だったからよく見えなかった?」



 そう言って見せてくれたのは確かにナイフだったが、全体が赤く透き通っていた。

 何か特別な材質をつかってナイフを作ったのだろうか。



「魔剣はね、稀少鉱石である魔石を特殊な方法で溶かして武器の型に流し込んで成形するの。ちゃんと武器の形にしないと魔法も剣術も発動しないわ」



 魔石はこの世界で一番硬い鉱石で、余程のことがなければ壊れないらしい。

 最初魔剣は全て透明で、使用者の得意な属性の色に変わる。

 火属性は赤、水属性は青、雷属性は黄、土属性は茶、風属性は黄緑になるそうだ。

 得意属性は生まれたときにランダムに決まってしまう。

 それから変わることはないらしい。

 魔剣は最初に魔力を流した人以外には使えない。

 使用者の魔力しか受けつけなくなる性質があるようだ。



「魔剣と言ってるが、様々な種類の武器を総称して魔剣と呼んでいる。もちろん槍類や斧類等もあるぞ。飛道具系はない。魔法も剣術も直接触れなければ魔力を流せないし、遠距離は魔法、近距離は剣術がいい」



「へぇ~そうなんですか! でも剣術が得意な人、例えば父様の魔剣は何色になるんですか? 実はあの時、剣の色のことなんて全然目に入ってなくて……」



「まったくノアは本当に興味があることしか見えていないな。まあお前らしいか。剣術系は皆、透明度を失い銀色に変わる」



 剣術系の魔剣は寧ろ普通になってしまうらしい。

 だからあの時魔剣を見ていたのにも関わらず記憶に残ってなかったのだ。

 普通の銀色の刃物なんて記憶に残らない。

 だがこれは元の世界での常識でしかない。

 この世界の刃物は基本的に白いのだ。

 やはり異世界は不思議だった。



「あれ? それでは魔法と剣術両方得意な人は何色になるんですか?」



 クロエはお風呂に入ってしまっていたので、

 再びルーカスが答える。



「いや、それでもより勝っている方の色が出るんだが……そもそも両方使える奴なんていないんだ」



 どうやら魔法系と剣術系の魔力の操り方がまるで違い、いくら努力しても両方は無理なんだそうだ。

 系統の違う魔力を制御するのは事実上不可能と言われてるらしい。



「だがな、本当に極稀に両方出来ちまう奴がいる。そういう奴らのことを魔導騎士と呼んでいる。正確には魔導士認定試験と騎士認定試験の両方に合格した者をそう呼ぶんだが……そいつらはこの世界にたった3人だけらしい。だから各国がこぞってそいつらを国に迎え入れたがる」



 人族が住む大陸はヘリオ大陸といい、そこには5つの国が存在する。

 そして魔族に対抗するために力をつけなければいけない人族は、

 国レベルで力を競い合い、互いの力を高め合うらしい。

 ライバルがいれば負けじと努力するのはどの世界でも同じだ。

 この世界にはそういった対抗試合をする大会が沢山あるそうだ。



「魔法と剣術両方使える奴は魔導士や騎士とは格が違うからな」



 確かに遠距離に強い魔導士や近距離に強い騎士に比べ、

 遠距離と近距離どちらも強い魔導騎士が劣るはずがない。

 故に魔導騎士がいる国はそういった大会で上位に立つ。

 当然順位が高い国は強いということなので、

 日々魔族の脅威に晒されている人族はより強い国へ移住する。

 住民が少なくなれば国の収入が減る。

 どの国にとっても大会で勝つことは重要なことであった。



「因みに俺達が住んでいる国、アースにはいない。魔導騎士がいるのは大陸の北西側を占めるオルケア、北東側を占めるルミス、そして西側を占めるネイロに1人ずつだ」



「アースともう1つの国は弱いということですか?」



「ああ。この2国は両方とも南側にあってあまり強くないし、そのせいで豊かとは言えないな~」



 大陸南西を占めるクレイアと南東側を縦長に占めるアースが毎年様々な大会で負けているせいで南側の人間は弱いという印象があるらしい。



「まあそんなに気にすることはないさ。ハッハッハ」



「ちょっといつまで話してるの? ノアちゃんもう寝なきゃだめよ~」



 クロエがもうお風呂から出てきた。

 最近は体のこともあり長風呂は避けているのだそうだ。



(とりあえずこの世界の仕組みや勢力関係の情報なども含め色々なことがわかった。あとはやはりこの家の付近を探索でもしてみるか)



「わかりました、もう寝ます! おやすみなさい父様、母様」



「おう、おやすみ」



「はい、おやすみなさい。ちゃんと寝る前におトイレ行かなきゃだめよ~」



 そしてノアは床に就いた。





「ねえ、あなた?」



「なんだ?」



 ノアが眠りに就いた後、クロエがルーカスに話しかけた。



「ずっと前から思っていたんだけれど……ノアちゃんにはちょっと子どもっぽさが足りないわよね? いつの間にか丁寧な言葉遣いになっているし、教えたことは必ず1度言えば覚えるわ」



「確かに優秀すぎるな。まあ将来有望でいいんじゃないか?」



「それはそうなんだけど……」



 クロエとルーカスはノアがあまり子どもらしいところを見せないので少し悩んでいた。

 もう赤子ではないのだから迷惑はかけまいと努力していたのが仇になっていた。



「お兄ちゃんが優秀だとこの子がちょっと不憫だわ」



 クロエがお腹をさすりながら言った。

 妊娠してもうかなり経っていて、

 もうすぐ出産を迎える。



「案外、この子も優秀かもしれないぞ? まあ俺達でカバーしてやればいい。ノアの時は全然苦労しなかったからな。その分、親として頑張ろう」



「そうね!」



 そうして2人も眠りに就いたのであった。



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