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この異世界で魔導騎士になる!  作者: ABC_D
第2章:闘技大会
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第16話


魔導騎士の属性を変更しました。

 


 ノアたちは受付で決勝戦辞退の手続きを終え、特別席エリアのルーカスたちが座る一角へと向かっていた。

 しかし、しばらく歩いていると一行は足を止めざるを得ない状況になっていた。



「おいおい、なんだなんだ……?」



「何かわたくしたちに御用ですの?」



 ジークとリリーは訝しげな視線を目の前に立ちふさがる者たちに送りながらそう問いかけた。

 ルーカスたちの座る席まであと数十メートルの場所で、ノアたちの進路を遮るように十数名かの集団が現れたのだ。

 彼らはノアたちと同い年か少し上ぐらいの少年少女たち。

 その目には憤怒の色が見受けられる。



「いきなりすまないね~ちょっといいかい?」



 先頭に立つ高そうな装備に身を包まれた男が、心のこもっていない謝辞を述べながら集団から一歩前へと出てくる。

 エマがその失礼な態度に噛みつこうとすると……



「ほんとにいきなりだな。あんたたちは何者だ?」



 ジークが相手に食って掛かろうとするエマを制するように、先に目の前の集団へと言葉を発した。

 彼女が出ていくとろくなことにならないだろうと思い、出鼻を挫いたのだ。



「おおっと失礼。わたしたちは決勝戦で君たちと戦うはずだったオルケアのチームさ。君たちに聞きたいことがあってね……何故決勝戦を辞退したんだ?」



 男がそう問いかけると周りにいた者たちの目つきがより一層鋭くなった。



「アースチームの被害が酷かったからですよ。怪我人が多く出てしまいましたからね」



 相手の様子を見て、ノアがエマたちの前に割って出た。

 一触即発の雰囲気を感じ取り、彼女らの前に出ておこうと思ったのだ。

 相手が跳びかかってくるのを防ぐと言うよりは、彼女たち、厳密に言えばエマが相手に跳びかかってしまわないように壁になるという目的があった。



「そうだよ。試合観てればわかっただろ? あんな状態で試合なんて普通は……」



「確かに普通ならばそうだろうね! しかし君たちは普通ではないだろう!? 特にそこにいる少女と君たち二人の戦いぶりはもう常軌を逸していた……あの人数差でも十分戦えたはず! 何故戦わないんだ! 一度も戦わずして優勝なんていい笑い者だぞ!」



 男はジークの言葉を遮ってエマとノア、ジークを指しながら怒鳴るように言い放った。

 確かにアースのチーム内でもそのような話しはされていた。

 きっと第五部隊、特に剣術組三人がいればこの人数差でも戦えるだろうと。

 しかしノアとジークは試合を棄権することを強引に押し通した。

 二人は決勝戦に出ることで、さらに面倒なことが起こるのを忌避したのだ。



「買い被りすぎです。いくらなんでも無理があるでしょう」



「ああ、確かにあんたたちには悪かったと思うけど無理なもんは無理だ」



 二人は頑として試合の出場は無理だったと主張する。

 それ以外に言いようがなかった。

 面倒事を避けるためだなんてことは、口が裂けても言えないだろう。



「なんだとこの……」



「おいそこ! 何をやっている!」



 騒ぎを聞きつけた会場の警備兵たちがノアたちの方へと集まってくる。



「ちっ……覚えていろよ! その顔は忘れないからな」



 男たちは駆けつけてくる警備兵の姿を視界に捉えると、いかにもなセリフを吐き捨てて足早にその場を去っていった。

 入れ替わりで警備兵たちがやってきてノアたちの前で立ち止まると、逃げていく少年少女たちを見て呆れたような表情をつくる。



「大丈夫かい? きっとこうなるだろうと本部から連絡があってね。揉め事が起こらぬよう周囲の警備を強化していたんだが間に合わなかったようだ。申し訳ない」



「いえ、いいんです。助けて頂いてありがとうございました」



 大会本部はオルケアの不戦勝をアナウンスで流した後、このようにノアたちに難癖をつけてくる輩が出てくるだろうと予想して、警備兵を増員させていた。

 広大な観客席の中で起こったことなのに、すぐ警備兵が駆けつけたのはそのためだろう。

 決勝戦で不戦勝になったチームはしばしばこういうことを起こすそうだ。


 ノアは警備兵に礼を述べ、彼らは報告のため大会本部へと戻っていった。

 そして再びルーカスたちのところへ向かおうと歩き始める。



「あの~すいません」



「なんだなんだ? またか?」



 突然話しかけてきた少女を見て、ジークはため息を吐いた。

 やっと進めると思った直後にこれだ。

 ため息を吐いてしまうのも仕方がないだろう。



「ジークさん、失礼ですわよ? いきなりそうと決めつけるのは良くないと思いますわ」



「そ、そうだな。すまなかった」



 ジークはウェルシーに注意を受け、目の前に立つ少女に軽く頭を下げた。



「それであなたは一体何の御用ですの? 先ほどの失礼な方たちと一緒にいたようですけれど……」



「え!? そうだったのか!? じゃあやっぱり……」



「確かに一緒にいましたが、それは誤解です。私がノアさんに個人的なお話があってここに来たら偶然あの人たちがいて、同じチームだからと強引に引き込まれたんです」



 彼女はただノアと話しをしにきただけで警備兵に追い払われたことを不満げに漏らす。

 その様子を見て少女の狙いが本当にノアなのだとわかり、ウェルシーとエマの目がぎらっと光った。

 この少女を排除する方向に決めたようだ。



「一体ノアになんの話ですか? 一緒に食事する約束とかそういうのはやめて下さいよ?」



「そんな話ではありません。ですがあなた方に話せるような内容でもありません。二人きりでお話したいのです」



「そ、そんなの駄目ですわ! そうやって先ほどから色んな女性が話しかけてくるのですから!」



「そこらの女性と一緒にしないで下さい。私にはそのような下心は一切ありません。それにノアさんにとっても、きっと有意義な話になると思います」



 エマとウェルシーは必死に追い払おうとするが、彼女は一歩も譲ろうとしない。

 彼女の表情は至って真面目で、何か強固な意志を内に秘めているようであった。

 決して引こうとしない彼女の頑固さに二人の警護役は敗北を喫し、渋々といった顔で了承する。



「ではみなさんは先に戻っていて下さい。エマ、もし父様たちが帰るのに待たせるようだったら先に帰ってもらってくれ。宿へは一人で戻るから」



 ランク十三~十五集団戦はオルケアの不戦勝で終了し、ランクフリー魔力無し個人戦の方は今行われている決勝戦で最後なので、長話になると皆を待たせてしまう恐れがあった。

 そういった理由からノアは一応皆に別れを告げて、少女と一緒に観客席から一階ロビーの方へと向かっていく。




「本当に大丈夫かしら……?」



「心配よね……」



 ウェルシーとエマはノアの後ろ姿を最後までずっと見つめていた。







 ◇◇◇◇◇◇







 ノアはエマたちと別れた後、少女に連れられて休憩所の広場に多数存在するプライベートルームに入る。

 この部屋の壁やドアは中で騒いだり、内密な話をしても平気なように完全遮音性になっていて、部屋の前にあるタッチスクリーンを操作して人数指定、または証明カードを利用した人物指定を済まさないと入室出来ないようになっている。

 勝手に他の者が入って来ないようにセキュリティシステムが働いているのだ。



 二人は部屋の中に何台かあるソファのうち、向かい合わせの二台にそれぞれ机を挟むように座っていた。

 セミロングの真っ直ぐな髪をなびかせているその少女の名はレイラ。

 オルケアに住んでいて両騎士家の一人娘、そしてノアと同じ十三歳なのだそうだ。

 今大会ではランク十三~十五の集団戦のみに出場するつもりだったらしい。


 両騎士家とは夫婦ともに騎士である家のことで、ノアやリリーの騎士魔導士家と同じ地位を持つ。

 因みにウェルシーの家も両騎士家だ。



「さて……ノアさん。そろそろ本題に入りたいと思います」



「はい、なんでしょうか?」



 簡単な自己紹介を済ませ、改まって姿勢を正すレイラに、ノアもより一層気を引き締めて先を促した。



「まずはこれを見て下さい」



 そう言ってレイラは腰に差していた銀色の魔剣を抜いて、ノアに見せるように前に掲げた。

 彼女の魔剣は特に変わった形状をしているわけではなく、所謂レイピアの形状をしたものだった。

 女性剣術使いには軽量で見栄えの良い細剣を使う者が数多く存在していた。



「えっと……レイラさんは剣術使いなのですね? 片手にレイピア、もう片方の手に小剣スタイルでしょうか?」



「……こちらの剣にもお気付きでしたか」



 レイラはノアが自分の戦闘スタイルを見抜いたことに驚いていた。

 戦闘時に相手の意表を突くため、もう一本の剣は隠し持っていたのだ。

 それにも関わらずノアが小剣に気付いたのは……



「細剣使いはもう片方の手にパリィ用の小剣を持つ者がいるから注意して観察しろと、父から教わっていたのですよ」



 父、ルーカスにみっちりと教え込まれたからに違いなかった。

 ルーカスは剣や槍の扱い方からそれぞれの戦闘スタイル、戦法にかけて、様々なことを息子ノアに叩き込んでいた。



「そうでしたか。ノアさんのお父様はさぞご立派な騎士様なのですね。お見事です。しかし、一つだけ間違っていることがあります」



「なんでしょうか……?」



 ノアはレイラの言葉に首を捻るがどうにも思いつかなかった。

 銀色の魔剣を使うということは剣術使いだし、武器はレイピアと小剣の二刀流。

 何も間違っていることはないはずだとノアは思っていた。



「ノアさん、私はあなたと同じ、非常に珍しい存在なのです。この意味がわかりますか?」



「…………!?」



 ノアはレイラの行動とその言葉からあるひとつの可能性に辿り着いた。

 しかし信じられないといった表情をしている。



「その反応を見るとやはりノアさんにもその素質があるんですね?」



 思った通りの反応を見せるノアを見て、レイラの疑いが確信へと変わった。

 そして彼女は自分の力を証明するため、前に掲げていた魔剣に魔力を込める。

 まず魔力の刃を形成して剣術が使えることを示し、次に小さな火球、水球、土塊などをつくりだして魔法を使えることを示した。



「これで信じて下さいましたか?」



 ノアはレイラの問いに黙ったまま首を縦に振ることで答えた。

 目の前で実演されたら認めざるを得ないだろう。



「ご覧の通り、私は剣術を得意とする魔導騎士です。得意属性は剣術ですが、ある程度なら魔法を使用することが出来ます」



 レイラは魔法があまり得意ではなかった。

 基本五属性の魔法はすべて発動することが出来るが、それほど強い効果を発揮できないらしい。



「これで魔導騎士は私たち二人を含めて五人となるわけですね」



 正式にクラスを授かっている三人の魔導騎士は火、水、土の魔法を得意属性とするらしい。

 そして彼らはそれぞれ爆炎、旋風、岩断の魔導騎士と呼ばれているそうだ。



「自分以外の魔導騎士に会ったのは初めてです……」



「ふふ、それは私もですよ。そして、私はノアさんと友好的な関係を結ぶためにこうして会いに来ました。他の魔導騎士たちは争ってばかりであまり関係が良くないらしいですが……そんなことでは魔族を滅ぼせません。私は能力のある魔導騎士同士で協力し合うことこそが魔族に対抗する最善の手段だと考えているんです」



 レイラは現在の魔導騎士たちのあり方に否定的な考えを持っているようだ。

 それに彼女の言動からは魔族に対する憎しみにも似た感情が伝わってくる。

 ノアは彼女の必死さに圧倒されてしまっていた。



「……確かにそれには僕も同意見です。競うことは力をつける手段であって本来の目的ではないですからね。僕としてもレイラさんとは友好的な関係を望んでいますよ」



 ノアの言葉にレイラはホッと胸を撫で下ろす。



(悪い人じゃなさそうだし、仲良くしといてもいいよな。それより魔導騎士たちが仲悪いのは知らなかった。自分より強い者の存在は邪魔……? ロンドの言う嫉妬の心ってやつか? それとも何か他の理由があって……)



「ところでノアさんは何を得意属性とする魔導騎士なんでしょうか?」



 ノアが思いふけっているとレイラがそう尋ねてくる。



「一瞬ですが魔剣が光を反射して光っているように見えたので、私と同じ剣術系統かなと思っているのですが……それに身体強化をあれほどまでに使いこなしていましたし」



 ノアは少し悩んだ結果、包み隠さず教えてやることにした。

 自分のことをさらけだし、好意的な感情を向けてくれている彼女に対して隠し事をするのは、あまりに不誠実だと思ったからだ。


 ノアは黙って魔剣を前にかざして封刃を開放し、魔力を流して見せた。

 それを見た彼女は口に手を当てて目をまん丸くしている。

 初めて見る黒い魔剣。

 それがいきなり青白い光を帯びればこのような反応になるのは当然と言えた。



「僕が得意なのは特殊二属性に分類されている光属性魔法です。この魔法属性のせいで僕は普段から魔剣を黒い布型魔具、封刃で覆い、剣術のみを使うようにしています。そしてこれに関しては出来れば他言無用でお願いします。今のところまだ公にする予定はありませんので。まあ試合で一度使用してしまいましたが……」



 ノアは淡々と説明をして封刃で魔剣を封じる。



「……わかりました。誰にも言いません。それと試合で光魔法を使ったことなんてきっと誰にもわかりませんよ。本当に一瞬の出来事でしたし、あの速度で剣術や魔法を発動できる人なんてそういませんから……」



 レイラは自分の思い違いに気付いた。

 彼は自分よりさらに特殊な存在だと。

 そしてそのような事情を自分に打ち明けてくれたことに、大きな喜びを感じていた。

 ちゃんと自分のことを信用してくれて、友好的な関係を結ぼうとしてくれているのだと明確に伝わってきたからだ。



「ではこれからよろしくお願いしますね、ノアさん。いつでも連絡がとれるように通話登録もしておきましょう」



 二人は証明カードを出して端の方を重ね合わせた。

 証明カードを使えば予め登録しておいた相手との通話も可能なのだ。

 しかし、身分証明や支払いなどの機能と違い、魔力を使いこなせる者にしか使用出来ない。

 もはや証明カードという名から逸脱した機能が満載のカードであった。


 それからしばらくお互いの情報や考え、意見などを出し合い、仲間としての関係を深めていった。

 先刻彼女の言った通り、非常に有意義な時間を過ごした二人は満足げな表情を浮かべている。



「では何かあったら気軽に連絡して下さいね。もしレイラさんのピンチの時には光速で駆けつけましょう」



「ふふ、それは頼もしいですね。私もノアさんに何かあったら自慢の身体強化を使って駆けつけますよ」



 ノアとレイラはそう言って、部屋を後にした。

 この部屋から出たらもう2人は友好的な魔導騎士同士の関係ではなく、今日偶然知り合ったただの友人の関係へと変わる。








 ◇◇◇◇◇◇







 話し合いを終えたノアとレイラは観客席エリアへと足を運んでいた。

 魔力無し個人戦の決勝戦は二人が部屋で話し合ってるうちに終わっていたらしく、観客席は既にがら空き状態になっていた。

 随分と長く話し合っていたのだろう。



 しばらく雑談をしながらレイラの家族が待っている席付近まで歩みを進めていると、ノアは突然後ろの方に何者かの気配を感じた。



「誰だ!」



 しかし、振り向いた先には誰もいない。

 無人の座席がずらっと並んでいるだけの光景が広がっているだけだ。



「……いきなりどうしたんですか?」



 楽しげに雑談していたかと思えば、突如大声を上げた隣の少年に驚きを隠せない様子のレイラ。

 少年の表情には先ほどまでの優しげな笑みはなく、鋭い眼光でどこか虚空を睨みつけていた。



「確かに人の気配を感じたんですが……勘違いだったみたいです。すいません。行きましょう」



 ノアは神経を研ぎ澄ませ、今しがた後方でふっと湧いて出た何者かの気配を探ってみたのだが、どこにも人影は見当たらない。

 日頃の修練で培われてきた感覚は確かに何者かの気配を捉えたのだが、すぐに消えてしまったのだ。

 いないものはいない。これ以上考えても仕方ないので気のせいだったのだと決め込み、レイラに頭を下げてから再び足を進めた。



 少しすると、特別席エリアの中間辺り、後列の方で手を振ってくる少年の姿を見つけた。



「遅くなってすいませんでした」



 レイラは少年とその両隣りにいる夫婦らしき者たちに深々と頭を下げた。



「レイラお姉さま! 遅いじゃないですか!」



「全然帰ってこないから心配したぞ。それにしてもこんなに待たせるなんてらしくないな」



 レイラは再び謝罪の言葉を述べる。

 どうやら家族の者たちに何も言わず、勝手にノアのところへ来てしまったらしい。

 言っておいてくれればすぐに切り上げたのにと、ペコペコと頭を下げる少女にノアは申し訳なさそうな視線を向けた。



「クランもあなたも少し落ち着いたら? レイラのお友達もいるようですよ?」



 すると三人の視線が彼女の後方少し離れたところに立っている少年に集まった。

 少年は前へ数歩進み、綺麗な動作でお辞儀してみせる。



「僕は騎士魔導士家のノアと申します。実はレイラさんに時間をとらせてしまったのは僕のせいなんです。レイラさんは何も悪くありません。ご迷惑をお掛けして申し訳ありませんでした」



 ノアは三人に頭を下げ謝罪をする。

 レイラは事実無根のでたらめを然も本当のことであるかのように嘯く隣の少年にただ唖然としていた。

 話しかけたのは自分の方からだし、家族を待たせていることを言わなかったのも自分のせいで、ノアは何も悪くないはずだった。



「うふふ、全然気にしないでいいのよ。ねえあなた? レイラもお友達ができたのが嬉しくて話し込んでしまったのよきっと」



「……そういうことなら仕方がないか」



 にっこりとしているレイラの母と訝しげな視線をノアにぶつける父、そして何か驚いている様子の弟。

 共通しているのは、娘にできた異性の友人に少なからず興味を持っているということだ。



「ありがとうございます。それでは僕も人を待たせておりますので勝手ながら失礼させて頂きます。レイラさん、また会いましょう」



 少年はそう言って観客席エリアから去っていった。




「それにしてもレイラお姉さまが男性を連れているなんて驚きました。お姉さまに話しかけた男はたちまち伸されてしまうのに……」



「クラン? 怒りますよ?」



「ご、ごめんなさい!」



 クランは剣の柄に手をかけたレイラに慌てて失言を詫びる。

 彼女は冗談を言うタイプではないし、クランは過去に姉を怒らせた末に剣術で気絶させられているので、実際に酷く怯えていた。



「しかしレイラ、お前もとんでもない男に目をつけられたな」



「お父様……彼はそういった相手ではないですよ」



「え? お父様はあの者をご存じなのですか?」



「クラン、お前って奴は……あの者は今日の競技で一番の注目を集めた噂の少年だぞ? お前は一体今日何を観ていたのだ……」



「あ…………ええ!?」



 クランは今になってノアがあの噂の少年ノアなのだとわかり、かなり面食らっていた。

 その様子を見て普段から抜けているところがある息子を心配した父は厳しく注意する。



「優しい子だったわね。あなたを庇ってくれるなんて」



「……気付いていたんですか?」



 息子を叱る父を余所に、母は娘にこっそりと話しかけた。



「女の勘よ、うふふ」



 娘の様子を見て、なんとなくそうではないかと感づいたレイラの母。

 ノアの好意を無下にはすまいと先ほどは話を合わせ、共に娘を庇ってやったのだ。



「さすがはお母様です。そうですね……確かに彼はいい人のようです」



 レイラはノアの人の善さについて認めている。

 それは部屋で話をしていた時から薄々感じていたことだった。



「うふふ、彼はきっと競争率がかなり高いわよ? しっかり捕まえておかないとね」



「違いますよお母様! 私と彼はそんな関係ではありません」



 事実、レイラには本当にそんなつもりがなかった。



(私と彼は決してそのような浮ついた関係ではありません。そもそも私にはそのようなことは許されない。魔族を滅ぼすまでは……)



「あらそうなの? 残念ねぇ」



「お母様ったら……」




 レイラは深くため息を吐いた。

最近忙しく、執筆活動が疎かになってしまっています。

申し訳ありません。


努力して更新速度を上げていきたいと思います。

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