第13話
一回戦目が終了した後、
アースの控え室には歓喜の声が響きわたっていた。
「やったの……? 私たちあのネイロ相手に本当に勝てたの……?」
第二部隊隊長のヘルガは自分たちアースより強く、
毎年常に大会上位を占めているネイロに勝てたことが信じられないらしい。
無理もないだろう。
アースは他のどのような大会でも負け続け、
弱小国というレッテルを貼り付けられてきたのだから。
「ああ、僕たちは勝ったんだ! 退場際のあの大歓声が聞こえなかったのかい!? アースの名を叫ぶ観客たち、僕らに労いの言葉をかけてくれる人たちもいたね! あの時本当に勝ったんだって実感したよ! みんな、まずはお疲れさま! そしてノア隊長を含む第五部隊の諸君、よくやってくれた!」
「第五部隊のみんなが頑張ってくれましたしね。皆さんのお役に立てて良かったです」
「確かにお前たちが完璧に作戦を遂行してくれたおかげで俺たちは勝てた。だから俺たちはお前たちに謝らなきゃいけない。子ども扱いして馬鹿にしてしまった俺たちをどうか許してくれ! 本当にすまなかった!!」
一番ノアたちを馬鹿にしていた第三部隊隊長のゴルドが謝罪とともに頭を下げる。
それをきっかけに他の者たちもノアたち第五部隊に対し、
謝罪の念を込めて頭を下げた。
「み、みなさん! やめてください! バルトさんまで……僕たちもちゃんとわかってますから! ですよね、みんな?」
「まあ、確かに子どもだしな。他の部隊の人たちと違って俺たち第五部隊は経験が薄い者の集まりだ」
「そうですわね、他の方々から見れば場違いのように見えますものね」
「これは仕方のないことです」
「結果的にちゃんと認めてもらえたんだから私たちはそれでいいですよ! でも今度子ども扱いしたら怒りますからね~?」
ノアの問いかけに第五部隊のメンバーが次々に答える。
第五部隊の皆に許しをもらえて他の部隊の者たちはホッとしていた。
「エマが怒ると剣を振り回してきますから本当に怖いんですよ! それはもう鬼のような……」
「ノア! なんか言った?」
「い、いえ何も!! ごめんなさい!!」
普段冷静な彼が慌てて謝る姿を見て、
その場にいた者全員が声を上げて大笑いする。
彼にしては随分と余計なことを言ったものだ。
そしてこれがアースチーム全員が初めて本当に一つになった瞬間であったのかもしれない。
「よし、みんな! 第二試合は昼の休憩を挟んでからだから一旦解散しよう! 怪我をした者はちゃんと治療して、駄目そうなら言ってくれ。無理をしなくてもいいからね。それじゃあ解散!」
皆一様に控え室から出て行く。
ノアたちは最後まで控え室に残っていた。
「私はノアと一緒に特別観覧席にいるんだけど、みんなは?」
「わたくしも特別席ですわ。ジークさんとルルさんはどこですの?」
「俺は一般席の方だ。ルルもだろ?」
「う、うん。平民家だから……」
ルルは言いづらそうに言った。
話を聴くと、どうやらルルたち家族が座っている席はぎゅう詰め状態らしく、
ルルが行っても誰か代わりに立たなくてはならないそうだ。
ジークも魔導士家で一般席にいるが、そこまでではないらしい。
一般席でも場所によって違うようだ。
「みんなに提案なんだけど、クラス持ちの家とその同伴者は特別席に入れるよね? だからみんなで特別席に集まろう。僕とエマ、リリーは既に特別席にいるから、ジークとルルの家族も特別席に移って来てさ。特別席は結構空いていたし、ルルのご家族もそんなにぎゅうぎゅうじゃ可哀想じゃないか?」
そしてルルの話を聞いたノアがみんなにそう提案する。
ノアは第五部隊の仲間として戦ってくれたルルとその家族のことを放っておけなかったのだ。
「え……本当にいいのかな? もしそうしてもらえたらきっとお父さんたちもすごく喜ぶと思うんだけど……でも平民家が特別席なんて……」
その様子を見たジークがノアの意図を察した。
もしルルだけ誘ったらきっと彼女と彼女の家族は遠慮してしまうかもしれない。
だが第五部隊の皆で集まろうという目的を付け加えてやればどうだ。
他の者たちがそうすることを望んでいて、
遠慮するのも野暮だと思わせることが出来る。
ルルたち家族も特別席に来やすくなるだろう。
だからジークの役目はルルを後押ししてやること。
やはりノアは頭の回転が速いし、
こうして仲間に配慮が出来る優しさも持ち合わせている。
ノアはちゃんとここでも頼れる隊長だなとジークは思った。
「いいんだよ、ルル! 俺も特別席に移るように家族に言う。だからルルも一緒に特別席に来いよ。遠慮とかはいらないぜ? 皆がそうして欲しいと思ってるんだよ。きっと第五部隊の活躍のことで皆盛り上がるぞ!」
ジークはノアの意図をくみ取り、ルルに遠慮しないようにと席の移動を促した。
「そうですわね! 名案ですわ! わたくしの家族もノアたちの近くに席を移して……周りの席は空いてますのよね?」
「うん、僕たちと一緒に座っているマルクさんという方と娘、部下たちで8名いるけど、それを含めても周りはすっからかんだから、みんなが集まってきても全然余裕だと思うよ」
「じゃあ大丈夫そうですわね。でもそのマルクさんという方々とご一緒しても構わないのかしら?」
ノアとエマが首を捻る。
「大丈夫だとは思いますが、一応確認しておきますか。皆さんの座席番号を教えて下さい。了承を得てから僕とエマで向かいに行きましょう。皆さんもご家族の方に話をしておいて下さい」
皆がそれぞれ座席番号をノアに教える。
ノアはすぐにメモしてポケットにしまった。
そして控え室を出て休憩所に行くと、
ウェーブのかかった長い髪の少女がノアたちに駆け寄って来た。
「やあ、ウェルシー。待っててくれたのかい? みんなに紹介するよ。僕の父の昔の上官であるマルクさんの娘、ウェルシーだ」
「ウェルシーと申します。ノア、そちらの方々は先ほどの試合のお仲間ですか?」
「うん、左からジーク、リリー、ルルだ」
3人がそれぞれウェルシーに挨拶をする。
ウェルシーも上品に挨拶を返した。
6人は観客席エリアに上がるまで一緒にいて、
観客席に着くと、皆それぞれ別の場所へと去っていく。
ノアはルーカスたちが座っている座席に着く前に、
ウェルシーに聞いてみることにした。
「ウェルシー?」
「なんですの、ノア?」
「もしさっきの皆を僕たちが座る席に同席させて欲しいって言ったらマルクさんたちやウェルシーは平気かな……?」
「うふふ、それで先ほど皆様がわたくしの顔をちらちらと見ていらしたのですね? そんなことなら全然平気ですわ。わたくしも同じ年齢の皆様と試合の話をしてみたいですし、お父様やミルフィたちもきっと歓迎して下さるはずよ」
ウェルシーはにこにこと笑顔で答えてくれた。
ノアとエマはひとまずホッとして胸をなで下ろす。
その様子を見たウェルシーが再びクスクスと笑うのであった。
席に着いたノアたちはルーカスとマルクたちに快く了承してもらい、
3人で皆の許へ向かう。
「まずはリリーのところへ向かいましょうか。ジークとルルの席は反対方向なので」
エマとウェルシーは頷き、特別席エリアを歩いてると、
周りの人たちがノアたちを見てひそひそと話す声が聞こえてくる。
「ノア、ウェルシーなんだかさっきから色んな人がこっちの方を見ているみたいなんだけど……」
「僕も確かにそう思います。何故でしょう?」
ウェルシーは呆れてはぁと溜め息をついてしまう。
この天才的な頭脳を持つ彼が、
何故そんなこともわからないくらいに鈍いのかと……。
「ノア……皆あなたのことを見ているのですわ。あなたの活躍はわたくしも既に聞きましてよ? そこら中で噂になっているようでしたわ。綺麗で上品そうな外見をしているのに一瞬で2人の剣術使いを沈黙させた少年がいると……名前もノアと言っておりましたわ」
「え……? なんですそれ。しかも綺麗で上品って……ウェルシーに比べたら僕なんて……綺麗でも上品でもなんでもない」
ノアは外見で避けられるという元の世界でのつらい経験の影響で、
他人から外見を好意的に見られるということに対して全くと言っていいほど信用出来なくなってしまっていた。
重度のコンプレックスから派生した軽いトラウマという感じだろうか。
どうも卑屈になってしまうのだ。
昔クロエやルーカスに「うちの息子はどうやら色男なようだ」とか「かっこいい」とか「モテモテなのね」と言われたときも、
そんなわけないだろうとすぐ心の中で否定した。
クロエとルーカスはただ親馬鹿なんだと決めつけたのだ。
2人は親だからではなく、割と本気でノアの外見を褒めていたのだが、
ノアにはそれがただの親馬鹿になってしまい、どっと疲れてしまうだけであった。
(スクリーンでしか見たことないからそういう風に偶然良く見えたんだ。きっと今実際の俺を見てがっかりしているんだろうな……はぁ。……ん? なんだ? エマさんなんでそんなに怖い顔で僕を睨むの? ウェルシーはなんで顔を真っ赤にして俯いてるの? 一体何が……)
「エマ? ウェルシー? どうしたの?」
「別に…………私にはそういうこと言ってくれたことないくせに……ノアのばか……」
「なな、なんでもないですわ!!…………きっと……そう、お世辞を言ったのですわ! そうに違いありません! わたくしとしたことがいきなりあんなこと言われるものだからつい取り乱してしまって……でも……い、いけません! 勘違いしては駄目ですよウェルシー! このような類のお世辞はこれから何度でも言われることになるだろうとお母様も仰ってましたわ! まったく……不意打ちなんてやりますわねノア。これからはノアには気をつけないと……やだわたくしったら何を変に意識しているの……」
自分の世界に入ると周りが見えなくなる。
どうしてエマが不機嫌そうにぼそぼそと呟いたり、
ウェルシーが顔を赤くしてぶつぶつとなにかを呟いたりする状況になったのかがわからないのだから、
クロエが心配して注意するのも当然だと言えるだろう。
「2人とも、そろそろ着きますよ?」
さすがにこのままではリリーの家族にも変な目で見られてしまうと2人は姿勢を正す。
隣で涼しい顔をして歩く少年をじろりと一瞥してからだ。
3人はリリーのいる座席に着いた。
「やあ、君がノア君だね? 試合を観させてもらったよ。ふふ、君のような頼もしい少年がともに戦ってくれるのなら娘の怪我も心配しなくてよさそうだね」
「ちょっとあなた、プレッシャーかけちゃ駄目よ? ふふふ。初めまして、リリーの母とこちらは父です」
2人は丁寧にお辞儀をする。
さすがリリーの両親だと言える華麗な動作だった。
「リリーさんも所属している第五部隊の隊長を務めさせて頂きました、ノアと申します。こちらは同じく第五部隊として戦ってくれた僕の幼馴染のエマと僕の父の元上官の娘ウェルシーです」
ノアとウェルシーは綺麗にお辞儀をし、エマはぺこりと頭を下げる。
続けてノアはここへ来た理由を丁寧に説明した。
「……それで第五部隊の皆で集まろうという話になったのですが、リリーさんもよろしいでしょうか?」
「やはりその優雅な立ち振る舞いに違わぬ上品な言葉遣いだね、ふふ。娘から話は聞いているよ。同席させてもらおうじゃないか。他の方々とも色々話をしてみたいし、2年後に娘の学友になるかもしれない子たちのご家族と親交を深めさせて頂きたいと思ってね」
「先ほどお話したらお父様もお母様もちゃんと了承して下さいましたわ」
「そうですか、それはよかったです。ではさっそく参りましょうか」
そして子どもたち4人と2人の夫婦はルーカスたちの許へと向かった。
「おお、ノア。そちらがリリーさんとそのご両親か?」
「はい、ご同席してもらえるそうです」
「娘リリーの父と母でございます。ノア君とエマさんには娘が大変お世話になっております。同席させて頂きたいのですが本当によろしいのでしょうか?」
「ええ、いいんですよ。子どもたちもその方が嬉しいでしょうし、是非いらして下さい」
「わたしたちも構いません。是非!」
クロエやマルクが同席を促し、どうやら大人たちで話が盛り上がっているようなので、
ノアたち4人は他の2人の家族も誘いに行くと言って一般席へと向かった。
まずルルのところへ行き、
その足でジークのところへ足を運んだ。
2人の家族とも受け入れてくれたようで、
ノアたちは周りに黄色い声を聞きながらルーカスたちの許へと戻る。
無事に第五部隊全員の家族一同が集結した。
そこで一通りの紹介や雑談を終えてある程度仲を深めたところで、
皆の話題は当然闘技大会に関することへと移っていく。
「それにしてもさっきはすごかった。ノア君はやはりもう会場ではちょっとした有名人だったね」
「そうだよな、ノアを見た途端周りがざわざわ騒ぎ出したしな」
「みんなあの試合を観てたからよ。確かにすごかったわ。私もノアくんのファンになっちゃった!」
ジークの父、ジーク、姉が先ほどノアたちを取り巻いた黄色い声についての話をする。
「そんなことがあったんですか? ノアちゃんは大活躍だったものね、ふふふ。皆さんノアの実力を大きく買って下さっているみたいよ?」
「母様、やめてくださいよ~。そんなに買い被られてしまっても……」
ノアは困り顔で言う。
そしてその活躍を知らない第五部隊の隊員たち4人が、
痺れを切らして何があったのだと一斉に言い出した。
全てを大画面で観ていた大人達は丁寧に説明する。
4人が撤退した時に追手がいて、そのままでは逃げきれなかったこと。
ノアが武器も使わずに一瞬で2人の追手を打ち倒したこと。
その様子を見た誰もが驚愕し、今では誰もがノアに注目しているということを。
ついでにマルク達がノアが天才的な頭脳も持っていることをジーク、リリー、ルルの3人とその家族たちに教えてやった。
「だからあんなに上手く撤退が出来たのですね。誰も追って来ないなんておかしいと思ってましたわ」
「だよな。俺も逃げるのに必死で気付かなかったが、普通に考えたら敵がそのまま何もせずに俺達を見逃すわけないか」
「ノア君は本当に強いんですね。しかも頭も良いなんて……頼もしい隊長です」
「私は慣れてるけどやっぱり最初はこんな反応になるわよね」
ノアのすごさを今日知ったマルクたちも含め、皆エマの言葉に頷いた。
そんな話をしていると会場にアナウンスが流れる。
「まもなく集団戦第二回戦目と魔力無し個人戦の続きを開始致します。出場者の方は控え室の方へお越しください」
放送を聞き、皆が6人の出場者たちにエールを送る。
「僕は2回戦目で負けちゃったけどエマたちは頑張ってね。もちろんウェルシーさんもだよ? 互いの実力を出し切って戦ってこそ友情も深まるってものだと思うしね」
「はい、友人だからと言って手を抜くつもりはございません。もちろんわたくしと戦うことになっても本気でかかってきて下さいね、みなさん」
「手を抜いたら逆に失礼ってもんだ。なあ、みんな?」
ジークの言葉に第五部隊全員が頷く。
そしてウェルシーとノアたちはそれぞれの控え室に足を運んだのであった。
◇◇◇◇◇◇
「やあ、ウェルシー! また最後に到着だね、ふふふっ」
「申し訳ありません。友人たちと直前まで話し込んでしまって……」
「へえ、ウェルシーのお友達か~。羨ましいね~僕もウェルシーと仲良くなりたいなぁ。僕は騎士魔導士家だから仲良くしておいて損はないと思うよ? 高位だしね~ふふふっ」
ウェルシーがルミスの控え室に入るとやはり他の出場者たちは既に集まっていたようだった。
そして先ほどから下心見え見えのこの少年はウェルシーと同じ小隊に所属し、
後衛を務める魔法使いだった。
彼は裕福な家の騎士魔導士家の者で、所謂いやらしい貴族的な性格の持ち主だ。
ウェルシーの美貌と勇敢な性格のギャップに惹かれてしまった彼は、
こうして度々わかりやすいアプローチをしてくる。
だがウェルシーはこういう輩が大嫌いであった。
権力と金にものを言わせてアプローチしてくるこのやり方も自分より格下の家の者すべてを見下すこの姿勢も。
ウェルシーも格下の、平民全てにはあまり良いイメージを持っていない。
幼い頃に高位の家の子だからと仲間外れにされ、いじめられた経験があるからだ。
だが平民にも色んな人たちがいて、エマやルルたちのように心優しい、
素直で良い人たちもいることも知っている。
だからこのいやらしい男のように格下の者を一様に見下し、
位の低い者達は全て下劣な品性しか持ち合わせていないと蔑むような者が大嫌いだった。
実を言うと騎士魔導士家のような高位の家の者にはこの傾向が強い。
だからウェルシーはノアやリリーのような、高位家でありながら誰にでも分け隔てなく接する人たちには好感を覚えるのであった。
「うふふ、わたくしは強いお方が好きですの。ジャック様の戦うところをまだあまり拝見しておりませんわ。是非次の試合で勇敢なお姿をわたくしにお見せ下さい」
「そうかそうか! 僕の華麗な魔法を見せてやろうじゃないか、ふふふっ」
「それは楽しみですわ、ふふふ」
ウェルシーは鋼鉄のような笑顔を崩さずにそう告げた。
きっと噂の彼がこの男のプライドをズタズタに引き裂いてくれるだろうと心の中で笑いながら。
◇◇◇◇◇◇
ノアたちが控え室に入ると中にいた者たちの目が、一斉に噂の少年へと向けられる。
嫉妬を覚えるのが馬鹿らしくなってしまうほどの綺麗な顔立ち。
分け隔てなく相手に敬意を持ち、動作の隅々から優雅さを感じるその立ち振る舞い。
間違いなくこの少年だ。
彼らは第一試合を終え、控え室から観客席の方へ戻ると、
皆揃ってある噂話を耳にしていたのだった。
家族、親戚、友人、知り合い、さらには周りにいた見知らぬ者たちからもある少年のことについて問い詰められる。
どんな子なのか、何歳なのか、クラス持ちの高位家なのかなど様々な質問攻めを受けた者や、
今のうちに恩を売っておけだの少年の家族と親交を深めたいから座席を聞いておけだのとまくし立てられた者もいたらしい。
彼らは何故あの少年なのかと問うと、今度はすごい勢いであの少年のすごさについてを語られた。
その話を聞き彼らは耳を疑う。
そんなことが出来るものかと。
だが観客たちはずっと見ていたから間違いないというと言うじゃないか。
それで彼らはあの少年がそんなとんでもない実力を持つ人物だったのかと知ることとなった。
「みなさん、遅くなって申し訳ありませんでした!」
彼らの視線に何を勘違いしたのか、あの少年が深々と頭を下げ謝罪してきた。
「いやいや、まだ集合時間前だし大丈夫だよ!」
「ありがとうございます。みなさんが心優しい方々で本当によかったです」
このチームの第一部隊隊長であり総隊長のバルトが慌てて責めていないことを告げると、
この少年は満面の笑みを浮かべながらそんなことを言う。
その優しげな笑みに惹きつけられてしまう者もいたぐらいの破壊力だった。
こんな顔をされてはもし本当に責めていたとしても、簡単に許してしまうだろうと彼らは皆そう思った。
「じゃ、じゃあ全員揃ったことだし、作戦会議を始めようか! 部隊ごとに集まって中央に来てくれ。隊長は隊員の一歩前へ出て、大きな輪をつくるように……」
総隊長の一言でてきぱきと動き、
皆が皆の顔の見えるように向かい合わせて円形に並ぶ。
「じゃあまず、この試合で最も重要になってくる第五部隊との連携について話し合っていこうと思う」
バルトがそう言うと皆の視線が第五部隊、その前に立つ少年に向けられた。
「聞いたわよ、あなたの話。観客席に戻ったら皆あなたのこと聞いてくるんだもの。びっくりしちゃったわよ」
「俺もだ。きっと皆同じような目に遭ったと思うぜ? 違うか?」
会議中は基本的に隊長になった5人しか話さない。
それ以外の者たちが話すときは挙手をして指名される必要がある。
円滑に進めるため、バルトが考案したのだ。
皆も同意し、今話しているのは第二部隊隊長ヘルガ、第四部隊隊長ダイクだ。
そしてダイクの問いかけに皆一様に頷いて肯定した。
「すいません、みなさんにご迷惑をかけてしまって……」
ノアは再び頭を深々と下げる。
「いやいや、別にいいんだよ! ノア君のせいじゃないさ。周りが勝手に騒いでるだけだよ」
「そうだ、お前は悪くないし、俺達も気にしちゃいないさ」
バルトとゴルドの優しい言葉にノアは深々と頭を下げ、礼を述べる。
「みんな知っての通り、ノア君は今や注目の的だ。ルミスもノア君を警戒して何かしらの対策を講じてくると考えていい」
「そうね。それに私たちアースが連携のとれたチームだということも知られているだろうし、ネイロのようにばらばらに攻めてくることもないと思うわ」
「とりあえずネイロ戦のように第五部隊を単独で孤立させるのは危険だ。その間にルミス側から総攻撃を受けるに違いない。個の力で敵わないなら数の力で押し潰す。これが戦場の鉄則だからな」
「少年はどう思う?」
バルト、ヘルガ、ゴルドの意見を聞いてノアがどう考えているのか確かめるダイク。
前の試合では一方的に話を進められていたので、
随分と仲間意識が高くなったものだとノアは喜んでいた。
「例え僕ら第五部隊がネイロ戦のように孤立していてもきっとルミス側はむやみやたらと総攻撃は仕掛けられないでしょう。バルトさんたちを警戒するからです。だから敢えて囮のように孤立します。遠距離魔法が得意なヘルガさんの第二部隊と一緒にです。そしてバルトさんたちをルミスが警戒している間に魔法などでこちらから攻撃を仕掛けます。固まって動いているならある程度狙いが合っていれば余裕で当たるでしょう。それで敵戦力を削っていきます」
ノアの作戦を聞き、考え込む各隊長たち。
「でもノア君たちが危なくないかい? 敵が痺れを切らして本当にノア君やヘルガさんたちに総攻撃を仕掛けたらどうするんだい?」
バルトの懸念は他の隊長たちも気にしていたことらしく、
皆そうだそうだと言いたげな顔をしていた。
「それが狙いです。いくらバルトさんたちを警戒していたとしても、目の前で次々にやられていく仲間たちを見れば焦り、まず攻撃してくる僕らの部隊を潰そうとしてくるでしょう。そしてそれはバルトさんたちの奇襲攻撃が成功する時です。挟撃されればいくらルミスでもひとたまりもないでしょう」
ノアはその場にいた全員に丁寧に説明するように答えた。
「なるほど……敵戦力を削りながら奇襲攻撃を成功させやすい状況をつくりあげるか。これならルミス相手でもいけるかもしれんぞ!」
うんうんと頷くチームの皆を余所に少し不安げな第二部隊と第五部隊の者達。
どうやら強敵ルミスから一時的にでも総攻撃を受けるのが不安らしい。
ネイロでさえ総攻撃を受ければ多大な被害を被るだろう。
それがネイロに毎年勝っているルミスからのものになるのだから、一瞬でやられてしまうのではないかと心配しているのだ。
「剣術使いは僕とエマで抑えられます。魔法……」
「少しの時間だけなら私が抑えられるわ。ガード魔法が使えるからね」
「そうですか! それは頼もしい! その間にバルトさんたちの奇襲も成功しているでしょう」
ノアの言葉を遮りヘルガが心配するなと皆を安心させる。
それで皆もノアの提案するこの作戦が最善だと思い、
いきいきとした目で頷きあう。
「よし! 作戦は以上だ。僕は絶対に優勝したいと思っている。確かにアースは他の国に比べて力が弱い。長年どの大会でも負けっぱなしだ。だが僕らには強力な結束力がある。僕たちは決して負けはしない。このチームなら絶対に優勝出来ると僕は信じている! さあ、行くぞ!!」
「「おー!!!」」
アースの作戦会議は無事に終了し、
一同は歓声で溢れかえっている試合会場へと足を運ぶのであった。