第12話
控え室に入ったエマとノア。
入る前に見た扉にはランク13~15、集団戦、アースという文字が浮かび上がっていた。
きっとこれも魔石製のプレートだろう。
「おお、君たちで最後だね。君たち歳はいくつだい?」
部屋に入ると既にノアとエマ以外の出場選手たちが集まっていたようだった。
そしてその中の1人がノアたちに話しかけてくる。
「僕はノアと申します。13歳です。こっちはエマ。同い年です。よろしくお願いします」
ノアは遅くなってしまった罪悪感と今不機嫌なエマが話すのはよくないと思い、エマの紹介もしておいた。
もちろん綺麗にお辞儀をするのを忘れずに。
「君はクラス持ちの家の子だね。その振る舞いを見ていればわかる。僕の名はバルト。15歳で騎士家の者だ。とりあえずリーダーを務めさせてもらっている。よろしく。それでは全員集まったところで、まず何チームかに分かれてもらいたい。30人全員が1つの部隊としてまとまって戦うには知識も経験も拙い部分があるので、5~7人の部隊をつくり、そこで連携をとっていくつもりだ。今年は連携を大事にしていきたいと考えているのでよろしく頼む」
バルトがそう言って少し経つと5つのチームができる。
そこでしばらく自己紹介の時間が設けられた。
ノアたちのチームは最年少の者が寄り集まった5人だ。
「私の名前はルル。13歳です。あと土魔法が得意です。よろしくお願いします」
「リリーと申します。13歳で騎士魔導士家の者です。わたくしは水魔法が得意です。よろしくお願いします」
「俺はジーク。魔導士家で13歳、剣術が得意だ。よろしく!」
ルルはショートカットの髪で落ち着いた感じの女の子だ。
透き通った茶色いナイフ型魔剣を腰に差している。
リリーはストレートロングの髪でお嬢様らしい。
魔剣は透き通った青い小剣型魔剣を後ろ側の腰に差し、
逆手持ちをするタイプのようだ。
ジークは逆立った髪をしていて野生的な雰囲気を受けるが、
笑顔が可愛くお姉さまたちにもてそうな感じ。
銀色の大剣型魔剣を背負っている。
「私はエマです。剣術を使えます。13歳です。よろしく」
「僕はノアです。騎士魔導士家で13歳。よろしくお願いします」
「なあ、ノアと言ったな。魔法を使えるのか?」
「いえ、剣術が使えます」
「魔剣に布を巻くなんて珍しいな」
「これはどんな形の魔剣も保護してくれる魔具です。魔力で操ることができる非常に丈夫な素材でできた布で、剣を受けても平気ですし、解いたり巻きつけたりはすぐに出来ますので万能鞘といったところでしょうか。複数の魔剣を扱うのでつくってもらいました」
ノアはエレナに黒い魔剣や光る魔剣をあまり人目に晒さないように特殊な魔具をつくってもらっていた。
グラディウス型やパルチザン型、どんな形の魔剣にも対応できるように布タイプで、
色は特殊な素材を編みこんでいるので黒い。
魔力を込めて解けるように念じると一瞬で解け、
巻きつけるように念じると一瞬で魔剣を覆い尽くす。
「ふ~ん……まあよろしくな」
ノアはジークと握手をする。
「やはりみなさん同い年なのですね。わたくしはノアさんとリーダーのバルトさんとの話を聞いて、同じ最年少の出場者だと知って是非チームにと思いましたが……みなさんも同じような考えのようですね」
「はい。13歳で参加すると年上からあまりよく思われないと聞いていたのでノア君とエマさんのチームに入ろうと思いました」
「俺はさっきロビーでノア達を見たからかな……いたよな? 随分慌てていたみたいだったが?」
ジークの質問にノアとエマがギクッとする。
「あ、ああ。あの時は急に用事を思い出してね。だよね、エマ?」
「う、うん!」
「ふーん……そうだったのか。あれは見たか?」
2人は再び固まる。
「あれってなんですの?」
「ロビーで不思議なことが起こってな。きっと誰かが魔法かなんかを使ったんだと……」
「みんな! そろそろ自己紹介とかは終わったな? 真ん中の方に集まってきてくれ!」
リリーの問いにジークが2人を見続けながら答えていると、
リーダーのバルトが集合の号令をかける。
「みんな、早く集まらないと。行こう!」
「そうね! 行きましょう!」
バルトの声を聞き、ノアとエマが足早に控え室中央に向かう。
ジークはちっと小さく舌打ちして中央に向かう。
「ざっとした作戦だ。おおまかにどう動くか決めよう。まずその場でグループのリーダーを決めてくれ」
各々グループでリーダーを決め始める。
「どうします? ジークなんてどうですか?」
「俺には務まらないと思うんだが……」
「そうですか? ではリリーさんはどうです?」
「リリーでいいですわ。それとわたくしではなくノアさんがいいと思うのですけれど」
「僕のこともノアでいいですよ。僕でいいんですか?」
「私もノアがいいと思った!」
「えっと……私もノア君がいいと思います」
「俺もノア、お前でいいと思うぜ? 決まりだな」
全員一致でノアに決まる。
「ノアはこの中で一番頼りになりそうだったからですわ。強そうですし」
「2種類以上の魔剣を扱えることから私もそう思いました」
「俺はまあなんとなく……だよ」
ノアが何故自分なんだと疑問に思っているとリリー、ルル、ジークが疑問に答えてくれた。
エマは当たり前でしょという目で見てくる。
「おーい! みんな決まったかい?……それじゃあとりあえずグループの一歩前に出て自己紹介してくれ。30人全員の名前は覚えられないだろうから、リーダーの名前とメンバーの顔を大体覚えるくらいでいいだろう。じゃあそこの最年少チームから!」
バルトがそう言うと周りの選手たちが一斉にノアたちを見る。
ノアはそれに気後れすることなく、前に出た。
「先ほども名乗りましたが、ノアと申します。このチームのリーダーを務めさせて頂くことになりました。よろしくお願いします」
「では次はその隣のグループ!」
次々に自己紹介していくグループリーダーたち。
「では僕、バルトのチームを第一部隊、ヘルガのチームを第二部隊、ゴルドのチームを第三部隊、ダイクのチームを第四部隊、ノアのチームを第五部隊とする。作戦は……」
第一部隊は7人で第二~四部隊が6人、
ノアたち第五部隊は5人で、
作戦は弱者が強者を倒すのに使う一般的なものだった。
「よし! 時間だから試合会場へと向かおう! 相手は俺たちよりも強い……だが絶対勝つぞ!!」
「「おー!!」」
バルトが皆の士気を鼓舞し、皆は試合会場に向かった。
◇◇◇◇◇◇
ワァー! ウォー! 頑張れー! 負けるなー!
出場者が試合会場に入ると客席が一斉に湧き上がる。
「観客席のみなさま! お待たせいたしました! それでは集団戦一回戦目、試合開始!!」
アース対ネイロ、クレイア対ルミスが2つのフィールドで同時に始まった。
出場者が次々にフィールドへと進んでいく。
ノアたちは作戦通り周囲に障害物も何もない平原エリアに来ていた。
「さすがにこんなところに隠れもしないで歩いてたら怪しまれると思うのですけれど……」
「しょうがないよ、リリー。そういう作戦だからね。リリーとルルはちゃんと僕たちの後方にいてね。相手がいきなり剣術で突撃してきたら困るから僕とエマ、ジークで前衛だ。もちろん後方警戒も怠らないようにね」
「わかりましたわ、ノア隊長」「わかりました、隊長」
「隊長命令だしな、了解した」「ノア隊長りょーかーい!」
「みんな……そんなに不満なの?」
ノアの問いに皆うんうんと不機嫌そうに頷く。
そしてノアはため息をついた。
そもそもなんでこうなったのかというと、
ノア達のこの状況のせいだ。
「だって敵をおびき寄せるために子どもたちで適当に遊んでろって言われたのですよ!? ノアは不満ではありませんの!?」
作戦会議でバルトが陽動作戦をしようと言うと、
他のリーダーたちが揃ってノアたちが平原エリアに無防備でいれば確実におびき寄せられると言って、
どんどん話を進めていってしまったのだ。
バルトにも皆を止めることが出来ず、
彼はただ目でノアたちに謝罪することしか出来なかった。
大多数意見をリーダーであるバルト1人が反対するとチーム全体に亀裂が生じるだろうと、
ノアはそう考え素直にその作戦を承伏したのだが、
第五部隊の皆はあんな馬鹿にされて受け入れられるはずがないと不満を漏らす。
そこでノアが仕方なく隊長命令だと言って皆を抑えたのだ。
「確かに馬鹿にされたことには腹が立ったさ。だけどチームの方針に逆らうのはあまり得策ではない。それに僕があそこで何を言っても無駄だったのは君たちにもわかるだろう? 余計に虚仮にされるだけ。これが大人の世界というやつだ。わかってくれよ」
「わかってるさ。だからちゃんと囮役をやってるじゃねぇか」
「そうですよ。ちゃんとノア君が言ってることもわかってはいますが、なんだか不愉快です」
「私は大人の世界なんてわかりたくなーい! ノアのばーか!」
「チーム全体で結束するためです。誰かが我慢しないとね。それと……そろそろお話しは終わりです。腕輪が作動しました。こんな平原に5人もいれば敵は真っ先にこちらに向かってくるでしょう」
ノアたちの腕にはめられた魔具が作動する。
これは発信機であり、一定時間毎に他の仲間や相手がどの方向にいるかを感知させる。
強く感じると近く、弱いと遠い。
そして少し経つとすぐに効果が切れてしまう。
バルトたちは魔具の効果が切れるまで怪しまれないように別々場所にいて、
効果が切れたらこれを合図に一気にノアたちのいる平原エリア近くの森に待ち伏せる。
作戦はそれまでノアたちが平原エリア中央で敵の目を引き、
敵が集まって来たら逃げ出すようにバルトたちが待ち伏せる森までおびき寄せ、
全員で総攻撃を仕掛けるというものだった。
敵が強くても、数の力には敵わないだろう。
「みんな臨戦態勢で待機!」
ノアの一言で皆顔が強張る。
初めての囮役、どこから狙われるかわからない。
ルール上命に関わる危険な攻撃は禁止だが、
そうでなければある程度は許容される。
なので怪我ぐらいさせられるかもしれないという恐怖が、
13歳の少年少女たちを襲っていた。
「ジーク! 早く抜剣して身体強化を!」
「お、お前はいいのかよ!?」
「いいから早く抜剣! 身体強化もちゃんと発動しなさいよ?」
「ちっ、わかったよ! 身体強化!」
エマとジークは抜剣し、身体強化で準備を整えた。
ノアは抜剣せずに剣の柄に左手をかける。
黒い帯状の布型魔具、封刃を解除しないまま身体強化を軽く発動した。
魔剣は封刃に覆われているので、
魔力を込めても光を漏らすことはない。
武具強化や強力な魔法を使うときには解除しないと使えないが。
しばらく経つとノアたちの方へ向かってくる8人の剣術使いが現れた。
「あれ~みんなすでに臨戦態勢じゃん。素人かと思ったんだが違ったか。奇襲攻撃失敗!」
「でも相手は子どもだ。このままやってしまおう!」
「そうだな」
8人は銀色の剣を構え、
再びノアたちに向かって走り出す。
「……8人ですか。作戦を実行します」
ノアが小声でそう言うと、
リリーとルルが魔法を発動する。
「ウォーターカノン!」「ロックブラスト!」
大量の水が物凄い水圧で放射され、
岩が複数個飛んでいき、
まだ離れたところにいる8人の剣術使いを襲う。
しかし、すごい速さで飛ぶ水や岩の砲弾は避けられてしまう。
「全然当たりませんわね!」
「リリー! 続けて撃ち続けて下さい!」
勢いよく地面に叩き付けられる水の音と地面を抉る轟音が鳴り響く。
2人の攻撃は剣術使いに当たらず、
敵は2種類の砲弾を避けながら接近してくる。
ノアたちも2人の魔法で牽制しながら後退していたが、
ついに追いつかれてしまった。
「へぇ~ガキのくせにやるな。だがもう逃がさねえぞ」
「俺さっき腕掠ってちょー痛かったんだぜ? きっちり落とし前つけてもらおうか!」
剣術使い8人は今にも襲いかかってきそうな雰囲気だった。
「エマ! ジーク!」
ノアの右手の合図でエマとジークがリリーとルルを横に抱えて森へダッシュする。
身体強化を使っているので随分と速い。
「逃がすか! おい、追うぞ!」
「おう! 行くぜ!」
8人のうちの2人がエマたちを追い走り出す。
そして残された少年の横をすごい速さで通り過ぎようとした途端、それは起こった。
「っっがは!!」
「っごふ!!」
2人の男は突如腹部に衝撃を受け、後ろに吹き飛ばされた。
剣術使いたちの前には、さっきまで男たちが通り過ぎる横で涼しい顔をして立っていたはずの少年が、
足を前後に大きく開き、右手にこぶしをつくって前に突き出すような体勢をしていた。
「おい! 大丈夫か!? くそっ! 今のはあのガキがやったのか!?」
「は!? 違うだろ! あのガキがあいつらを素手で殴り飛ばしたっていうのか!? しかも2人同時に!?」
「くっそーっ!! アベリとレイムをやりやがってえええ!!!」
1人が怒り狂って飛び出そうとするのを他の剣術使いが止める。
「ばか!! むやみに飛び出すな!黒い布で覆われているが中身は銀色の魔剣……魔力を通しているところを見るとおそらくあの布は魔具の一種に違いない! しかも奴は剣術をかなり使いこなせるようだぞ。ガキだと思って油断するな!」
「ちっ剣術使いか! 魔剣を隠すとは小賢しい真似しやがって。剣も抜いてないから剣術を発動してるとは思わなかったぜ」
男たちは気を引き締めた。
先ほどの油断していた時の顔とは全く表情が違う。
すると遠くから多数の足音が聞こえてくる。
7人の魔法使いや剣術使いが男たちに合流した。
「あんたたち何やってるのよ!? さっき発信機魔法で感じた気配は1人だけじゃなかったはず……もしかして逃がしたの!? しかもそこに転がってる2人は何!?」
合流したグループのリーダー的な雰囲気の女性が男たちを責め立てた。
「うるせえ! あのガキがなかなかのやり手なんだよ! お前らも連携して……っておい!」
突然少年が森へと走り出す。
「……速い!? 絶対に逃がしては駄目よ! 今のうちに潰しとかないと厄介だわ! 遠距離魔法用意!!」
魔法使いたちが様々な魔法を逃げる少年に放った。
少年は不規則にジグザグと走り続ける。
(ちょっと遊びすぎたな。エマたちが逃げ切るまで足止めしたらすぐ追いかけるつもりだったのに……。まあ13人ならバルトたちでもやれるか)
ノアは飛んでくる火球や土塊、風の刃を悠々と避けながら作戦通り、森の中の広場まで撤退した。
がさがさと茂みから出てきたノアの姿を確認し、
敵じゃなかったとホッとした様子のアースチームの者たち。
そこにはエマ、ジーク、リリー、ルルのホッとした顔も並んでいた。
「ノア遅いよー!! 作戦では敵が来たらすぐみんなで撤退でしょ!」
「ほんとだぜ! やられちまったのかと思ったぞ! それでちゃんとさっきの8人は来るのか!?」
「えっと……13人に増えました。剣術使いだけではなく魔法使いもいます。もうすぐ来るでしょう」
「は!? お前13人の剣術使いや魔法使いたちから逃げてきたのか?」
「ええ。こっちに来る途中色々飛んできましたけどね。魔法をあんなに撃たれたのは初めてですよ~」
ジークとノアの会話を聞いていたリリー、ルルも目を丸くする。
そしてノアは第五部隊の仲間との会話を終わらせ、
バルトたち年長者組のところに報告しに行く。
「バルトさん、13人の敵チームがもうすぐこちらにやってきます。少なくとも剣術使いは6人以上で魔法使いの人数は把握できませんでしたが、火、風、土属性は確認出来ました。作戦の用意をお願いします」
ノアはそう言うと一礼して去っていく。
バルトたちはここまで完璧に陽動作戦が進むと思ってなかったのか、
少し驚いていたようだった。
現にエマたちが森に入ると彼らは広場ではなく平原手前まで来ていて、そこで鉢合わせていたのだ。
おそらくノアたちを倒して油断している相手を奇襲して叩くつもりだったんだろう。
しばらくするとノアたちにおびき寄せられた13人が広場に到着し、
30人近くの人数からの総攻撃にあえなく撃沈した。
半分近く戦力を失ったネイロチームは今年、
十数年ぶりに一回戦目で敗退するのであった。
◇◇◇◇◇◇
「観客席のみなさま! お待たせいたしました! それでは集団戦一回戦目、試合開始!!」
その放送とともに観客がドッと湧き上がる。
「ほらあなた! 試合が始まりましたよ! ノアちゃんもエマちゃんも頑張ってー!」
「おいおい母さん、ちょっとはしゃぎ過ぎじゃないか? 頑張らなくてもノアたちは負けやしないだろう?」
「ルーカス、こういうのは勝てるか勝てないかに関係なく応援するのが親ってもんじゃないか? なあリーザ」
「そうですねぇ、ちゃんとクロエみたいに応援してあげないと駄目ですよルーカスさん」
「そ、そうか。頑張れーノアーエマちゃーん!」
ルーカスたちは観客席から中央にあるスクリーンを通して試合の様子を観ている。
巨大なスクリーンはフィールドを何分割かで色々な場所を映したり、
分割なしで大きく一箇所を映したりと様々に映し方を変える。
「マルク隊長! ウェルシーさんが映ってますよ!」
「おお、ちゃんとグループの後衛をやっているな。魔法使いなのに前衛に出るのではないかと心配しておったが大丈夫なようだ」
「ウェルシーさんならしっかりしてそうですし、自分の役割もわかってますよ」
「いや、ウェルシーはあれで猛々しいところもあるのだ。いつもそれが心配でな……」
「そうなんですか? 全然そういう風には見えませんけど……あっ」
ウェルシーが前衛より前に出て魔法を撃ちまくっている姿がスクリーンに映し出された。
「やはりか……終わったらウェルシーに言って聞かせねばならんな」
「…………」
ルーカスは綺麗で上品なバラにも棘があったのだなと思い知らされ、
言葉を失ってしまった。
「みんな見て! ノア君とエマちゃんも映っているわよ!」
ミルフィの言葉を聞き、ルーカスやマルクたちがスクリーンに映るノアたちを探す。
すると左端の方に平原エリア中央を歩いている少年少女たちの姿があった。
ノアとエマ、それと髪の逆立った男の子が前衛で、
ショートカットとストレートロングの2人の女の子が後衛のようだ。
「あんな周りに遮蔽物がないところにいたらすぐ敵に見つかっちゃう! 恰好の的じゃない!」
「そうだな。あそこにいては敵も遠くから姿を捉えることが可能だろう。早く移動しなければまずいぞ」
ミルフィやマルクたちがノアたちを心配する。
「でもノアちゃんもそのことをわかっていると思います」
「そうだな、ノアがそんなことに気付かないとは思えない」
「……敵に見つかるためにわざと目立つあの場所にいるというのか?」
クロエとルーカスの言葉にマルクが本当に意味があるのかという顔で問いかけた。
「何か作戦があるのでしょう。今年の13~15歳のアースチームはある程度団結しているのかもしれません。……っと、さっそく敵に場所を捕捉されたようですね。」
マルクの問いにルーカスが答える。
そして事態は急展開を迎えていた。
「さて、どうなるのか見物だな。先ほどからスクリーンもアース対ネイロの初戦闘を大きく映し出しておる」
スクリーンの右半分は多分割でクレイアとルミスのフィールドを映しているが、
左半分は大きくノアたちと迫りくる8人の姿を映し出している。
出場者の名前がわかるようなシステムになっていて、
映像が大きくなるとノアたち1人1人の頭上近くに名前が表示された。
画面がある程度の大きさになると表示されるらしい。
今スクリーンには敵の姿を確認したノアたちの後衛、リリーとルルという2人の少女が水と土属性の魔法を相手に向かって放っているのが映っている。
「魔法の腕はなかなかのものだが当たらないな、まああの距離であの魔法なら牽制の意味でしかないだろうが……このままでは直に正面衝突だぞ。剣術使い8人からは逃れられんだろう。まずいな」
「そうですね、どんどん接近されています!」
マルクとミルフィの言葉通りノアたちと剣術使いたちの距離が徐々に縮まっていく。
そして剣術使いたちが少年たちの前まで来た途端、
腰に黒い剣を差した少年が右手を水平に上げた。
「ル、ルーカス! エマたちがノア君を置いて逃げてしまったよ!!」
「落ち着くんだクラート! ノアが今、手で仲間たちに撤退命令を出したんだ。このまま逃がしてくれるとは思えないが……」
エマたちはノアを置いて森の方へ駆け出す。
その様子を見た剣術使いのうち2人も合わせて駆け出した。
しかし、ノアを無視して過ぎ去ろうとした2人が、
突然後ろに吹き飛び、地面に叩き付けられ意識を失った。
あまりに一瞬の出来事だった。
それを見ていたのだろう。
観客席の所々でどよめきが起こる。
オルケアとルミス戦を見ていた観客がそのどよめきを聞き何が起こったのだと、
左に大きく映しだされている映像を見る。
なにが起こったかはなんとなくわかった。
だが信じられない。
男たちの睨むような視線の先にいる綺麗な顔立ちをしていて、
どこか優雅な感じのする少年が1人。
その少年ががたいのいい男たちに向かって右腕を突き出している。
もちろんノアのことを知っているマルクたちも観客と同様の反応を示していた。
「なんだ今のは……一回り大きい男2人を武器を使わずにただ殴り飛ばす腕力も、一瞬で移動する速さも信じられない……物凄い身体強化だ」
「ノア君がエレナ様が気に入るほどの天才なのはわかってたけど……彼は戦闘も並はずれているわね。しかもまだ13歳なのに……」
マルクやミルフィを含め、
周囲の視線がクロエとルーカスに集まる。
「まあ、俺らの子どもたちは少し特別なのかな……」
「俺らの子どもたち……? ノア君だけじゃないというのか!?」
「エマちゃんの剣術のレベルも16~25のランク出ても既に通用するぐらいですかね? ロゼもノアに教えてもらってもう魔法を使えますよ。まあ2人ともノアに比べたら普通ですけど……」
「あなた、ノアちゃんと比べること自体がそもそもおかしいわ。あの子が出来過ぎなのよ、ふふふ」
「そうだな、ハッハッハ!」
もう色々と慣れてしまっている2人についていけないマルクたち。
クラートとリーザはただ苦笑いしている。
その後、ノアは他のメンバーに合流し、作戦を遂行した。
アースは他のチームにはない団結力を示し、ネイロを打ち負かす。
観客たちは彼らの勝利とその立派なチームワークに大きな拍手を送るのであった。