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この異世界で魔導騎士になる!  作者: ABC_D
第2章:闘技大会
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第11話

 



 競技場は人でごった返していた。

 ノアたち一行は競技場入ってすぐのロビーから階段を上り、

 観客席の方へと進む。



「おお~! 相変わらず人数だな!」



「僕、初めてこんな大勢の人を見ました」



 ノアたちの目の前には広大な観客席をほぼいっぱいに埋める数えきれないほどの人々の姿があった。



「席全然空いてませんねぇ。あなた、どうします?」



 出来れば全員まとまって座りたいのだが、

 空いてる席はとびとびで2~3人分ずつ。



「ん~困ったな。もっと早くに来るべきだったか……」



 ルーカスたちは困っていた。

 最悪出場組と観覧組で別れて座るしかないだろうと考えていた一行。

 特にノアとエマは集団戦で同じチームだし、

 出場種目が全く同じなのだから一緒にしておいた方がいいだろう。

 だがいまいちいい席が見つからない。

 見つけたと思うとすぐに埋まってしまう。



「おーい! ルーカスではないか!?」



 皆が途方に暮れていると、突然ルーカスの名が呼ばれる。



「おお、やっぱりルーカスだ! 久しぶりだな。15年ぶりか!? クロエちゃんも久しぶりだな」



「おお! マルク隊長! お元気そうで何よりです!」



「ご無沙汰しております、マルク様! ですが私はもうクロエちゃんなんて年齢ではありませんよ、ふふふ。クロエとお呼びください」



 話しかけてきたのはマルクという40代の後半の男性。

 とてもがっしりとした体をしており、

 どうやらクロエとルーカスの古い知人らしい。



「そうだな、今もあの頃のようにちゃん付けではおかしいか。それにしてもルーカスよ、懐かしい呼び方をしおって。わたしはもうお前の隊長ではないよ、はっはっは!」



「そうでしたね、でも俺の中で隊長は永遠に隊長です!」



「まあいい。それより席を探しているならこっちに来い! 一般席はもうほとんど埋まっているから無理だ」



 そうして7人が案内されたのは騎士、魔導士たち及びその同伴者が利用出来る特別観覧席だった。

 一般席では横長の椅子に複数人が所狭しと座っているが、

 特別席は1人1つずつちゃんとした席が用意されている。

 何故ルーカスたちが最初からここに来なかったかというと……



「僕たち平民なんかがこんな良い席に座ってもいいのかい? 僕もリーザも2人ともクラス持ちではないよ?」



 クラートがひっそりとルーカスに問いかける。

 ルーカスが同伴者も座れると教えてやっても、

 クラートとリーザは恐縮してしまっていた。

 エマはよくわかっていないらしいので平然としてたが。



 ルーカスはこうなるのが嫌で一般席に座ろうとしていたのだ。

 クラス持ちの家と平民家の間には本来ならそれほどの差があるのだ。


 ルーカスとクロエが平民である2人とこんなに仲良くなったのも、

 最初にルーカスたちがクラス持ちだということを明かさなかったからで、

 あとからその事実を知ったとき、

 クラートたちはこれまで働いた無礼を詫びたのだ。

 しかしルーカスとクロエは今まで通りの関係を望んだ。

 騎士や魔導士だからといってそんな畏まった態度をとる必要はないと。

 こうしてクラートとリーザは2人の大切な友人となったのである。



 ルーカス達がマルクに連れられて向かった先には騎士や魔導士たちとその子どもらしい人たちが座っていた。



「ルーカス……? ルーカスなの?」



「そうだミルフィ。偶然観客席の出入り口辺りで見つけてな。席が見つからなくて困っていたところだったので、こっちに連れてきた。久方ぶりの再開だ。皆嬉しいだろう!」



 ルーカスを囲うように昔の友人らしい者たちが次々に話しかける。

 ルーカスもすごく嬉しそうだった。

 それからクロエの存在にも気付き、皆でわいわいと会話をしてくる。



「ほれほれ、そろそろルーカスたちを座らせてやろう。座りながらでも話は出来る」



 マルクの一言でルーカスたち一行は2列に、

 前4席にルーカスたち、後ろ3席にクラートたちが座り、

 マルクたちも席についた。



「みんな! マルク隊長! 紹介します」



 ルーカスとクロエの息子ノアと娘ロゼ。

 アースで一番の仲良しのクラートとリーザ、娘のエマ。

 ルーカスがノア達を紹介し、

 彼らにどのような生活をしてきたかざっと話す。


 ノアはマルク達とルーカス、クロエの会話を聞いて色んなことを知ることが出来た。

 どうやらルーカスはルミス出身、クロエはアース出身らしい。

 魔族との戦いでルーカスとクロエは出会い、

 それから一緒なった2人はアースで暮らすことになった。

 マルクはその魔族との戦いの時のルーカスが所属していた部隊の隊長。

 ミルフィたちはルミスの騎士、魔導士たちでやはりルーカスの戦友だった。



「そうかそうか。クラートさん、リーザさんこの2人と仲良くしてくれて本当にありがとうな。ルーカスたちが知らない地で無事にやっていけたのはきっと2人のおかげだろう。心の打ち解けた友の存在は2人にとって大きな支えになっていたはずだ」



 マルク達はルーカスとクロエの友となってくれた平民夫婦に感謝を示し、軽く頭を下げる。



「いえいえ! そんな騎士様や魔導士様に感謝されるような大したことはしておりません! どうかお顔をお上げください!」



 これが平民とクラス持ちとの会話でよくみる普通の光景だ。

 クラス持ちが平民に対し、

 ここまでの感謝の意を表すことなどめったにない。

 なのでクラートとリーザは大層慌てていた。

 2人の必死な態度にマルクは続けて言った。



「ルーカスとクロエの大切な友人だ。我々がそんなお二方をぞんざいに扱うわけがありますまい。だからあなた達もそんなに畏まらないでくれ。皆お二方に感謝の気持ちでいっぱいなのだ」



「ああ、俺もクロエも本当に感謝してるぜ! ありがとよ」



 クラートとリーザは再び慌てふためく。

 その様子を見て皆笑い合った。

 その和やかな雰囲気に、次第にクラートとリーザも打ち解けていった。

 そして話題はまもなく開会式を迎える大会のことになる。



「ルーカスとクロエさん、それにクラートさんとリーザさんは試合に出るの?」



「今回はルーカスは個人戦、クラートさんは魔力無し個人戦、それにノアとエマちゃんが個人戦と集団戦に出場しますよ」



 ミルフィの質問にクロエが出場種目まで付け足して丁寧に答える。



「ほう、ノア君とエマちゃんも出るのかい? わたしの末っ子も集団戦に出るんだ。ほら、ご挨拶しなさい」



 マルクがそう言うとウェーブのかかった長い髪にきりっとした目の娘が、

 丁寧なお辞儀とともに自己紹介をする。



「ウェルシーと申します。わたくしのことはウェルシーと呼び捨てにして頂いて構いません。わたくしはルミスのチームとして出場するので戦うこともあるかもしれませんが、お手柔らかにお願いします」



「はい、わかりました。僕のこともノアと呼んで下さい。こちらこそよろしくお願いします」



「エマって呼んで下さい…よろしくお願いします」



 ノアは綺麗にお辞儀をしてみせ、

 エマはノアに合わせぎこちなくお辞儀をする。

 ウェルシーはノアの品のある動作に好感を持ち、

 エマのぎこちない動作にやはり平民だなと思った。



「エマさんは剣術使いですか? それとも魔法使いですか?」



「剣術を使えます! ノアに教えてもらいました」



 ウェルシー含めマルク達は目を丸くして驚く。



「ノアが教えたんですか……?」



「ええ、頼んだら教えてくれたんです」



 ウェルシーの質問に「そうだけどなにか?」とでも言いたげな顔でエマが首を傾げる。



「ノアは子どもの頃、家に置いてあった魔導書を全部読破しちゃうくらい頭が良くてですね。大魔導士のエレナ様もノアの優秀さを気に入って下さったようで、よくノアをご自宅に招待して下さってましたよ……」



 エレナとミリー以外は知らない。

 ノアがただそれだけで自宅に招かれたわけじゃないと。

 当然ルーカスにも遊びに行ってくると適当にごまかしていた。



「大魔導士のエレナ様と言えば大魔導士様の中でもトップクラスのお方じゃないか! 全国の大魔導士様もエレナ様の言うことには逆らえないらしい……」



「え!? そうだったんですか!?……なるほど……だからあの時大魔導士たちをあんなに簡単に動かしていたのか……エレナもなかなかやるな」



 ノアはマルクの発言に驚き、

 最後何か恐ろしいことを呟いていたが、

 皆聞かなかったことにした。


 マルクたちが天才少年に驚愕させられていた時、

 突如フィールド中に3回の爆発音が鳴り響いた。

 上空で小型ファイアーボールが爆発したのだ。



「ただ今より闘技大会を開催致します!」



 開場が一斉に湧き上がった。

 闘技場を揺るがす程の大歓声が響き渡る。

 開会式が始まり、マルク達の興味がノアから逸れる。



「おお! 始まったか!」



 ミルフィ達も大会の始まりを喜び、

 歓声を上げていた。



「……ノアちゃん、気をつけなさい。途中自分の世界に入っちゃっててすごいこと言ってたわよ?」



「………!? はい、気を付けます。すいません。ありがとうございます、母様」



 クロエがこっそりノアに耳打ちする。

 ノアが自分の世界に入って暴走することはたまにあるらしく、

 そのたびにクロエがこうして注意してくれた。



「まず今日最初の2種目は――――」



「クラート、ノア、エマちゃん、ウェルシーさん頑張って来い!」



「ああ、行ってくる」「はい」

「頑張ります!」「はい、ルーカスさん」



 4人は周りの皆から激励の言葉をもらい、

 最後にルーカスから発破をかけられ選手控え室に向かった。

 種目は毎年ランダムに決まり、

 基本的にはランクが異なるものが同時に選ばれて行われる。

 2種目以上出場する人が重複しないためだ。

 同時に行うのが1日2種目ずつなのは、

 あまり一度に沢山やってもちゃんと観ることが出来ないと観客からクレームの嵐が飛んできたかららしい。


 今年の大会初日は

 魔力無し個人戦-フリー、

 集団戦-13~15

 が行われることになった。



「じゃあここでお別れだね。みんな頑張って!」



「はい、頑張ります。クラートさんも怪我のないように気を付けてください」



「そうよパ……お父さん! 気を付けてね! お母さんに心配かけるようなことはしないようにね」



 ウェルシーは「はい」と言って丁寧にお辞儀をし、

 ノアと今日は周りに合わせて少し大人びてみるエマは無理しないようにと釘を刺した。

 クラートは苦笑してから自分の競技専用の控え室に向かった。



「エマ、ウェルシー向こうにトーナメント表が貼り出されているようです。一回戦目の相手は控え室に行けばわかるみたいですが……とりあえず見に行ってみませんか?」



「そうですわね。見に行ってみましょう」



 ウェルシーの言葉にエマも頷き、

 3人はロビーの壁の前にできている人だかりの方へ足を運ぶ。



「ノア、どうやらわたくしたちには見えないようです……」



「見えないよ~ノア~何とかして~」



 ウェルシーとエマが不満の表情を浮かべる。

 少し待ってみたが人がいなくなるどころか、どんどん増えていく。

 このままでは埒が明かないと踏み、

 ノアはグラディウス型の魔剣の柄に左手を伸ばす。



「少し離れましょう。――蜃気楼」



 3人は人だかりから少し離れた場所に移動した。

 そしてノアが何か呟いた途端、

 前にいる人々が一斉にざわめく。



「上手くいきました。えっと……僕たちは一回戦目では当たらないようですね」



「一体何をしたの……?」



 ウェルシーの目には壁に貼り付けられて見えなかったはずの対戦表が、

 上空に浮かんでいる光景が映し出されている。

 輪郭が多少ゆらゆらと揺らいでいるが、十分内容が読み取れるので問題はない。


 これも光屈折を利用したノアの魔法だ。

 陽炎はモノの姿を光屈折で惑わす魔法。

 蜃気楼はモノから反射する光の進路を強引に操り、

 別の場所からその反射光を投射し、

 あたかもそこにあるかのように錯覚させる魔法。

 人だかりで見えなかった対戦表を見るのにも十分利用出来た。



 一回戦目は、

 アース対ネイロ

 クレイア対ルミス


 二回戦目は、

 一回戦目で勝った2国が対戦。


 決勝戦は

 二回戦目で勝った国対オルケア


 集団戦は去年の順位が組み合わせに影響する。

 一回戦目は下位2国対上位2国の組み合わせでランダム。

 二回戦目が一回戦目で勝った2国で対決。

 決勝戦は去年の優勝国対二回戦目で勝った国で行われる。


 例年下位2国は南側のクレイアとアース、

 上位はネイロとなっており、

 北側のオルケアとルミスの2国で勝った方が優勝国、

 負けた方が上位国みたいになっているらしい。



(これは色々と仕方ない部分があるよな~)



「ノア、聞いていらっしゃいますの!?」



「え、ごめん。どうした?」



「どうしたじゃありませんわ! とりあえず騒ぎになってきていますから早く止めた方が賢明ですわよ!」



「ああ、そうだね。ごめん」



 対戦表を少し見たら解除するつもりだったのだが、

 見事に南側と北側で強さが分かれているので、

 思いふけってしまっていた。

 ノアはすぐに解除し、足早にその場から逃げるように去っていく。




「あいつらの仕業か……?どこの国のチームだろう。絶対に問いただしてやるぜ!」



 ノア達が焦るように去っていくのを観察していた1人の少年も控え室に向かった。







 ◇◇◇◇◇◇







「もーノア! なんで私たちまでこんなに焦らなきゃいけないのよー!! ばか!!」



「ほんとですわ。わたくしをこんなに走らせたのはあなたが初めてです! しかも今日初めて知り合ったというのに……!!」



「ごめんなさい」



 ノアはご立腹な2人に頭を下げる。

 3人はロビーから離れ、控え室に繋がっている通路の前、

 選手用の飲み物や食べ物が売っている休憩所のような場所まで逃げてきていた。



「それで? さっき何をしたか教えて下さいますの? もしかしてこんな目に遭わせておいて秘密とかはないですわよね?……ね?」



 ウェルシーがニコニコとしながら言及してくるが……



(ウェルシーさん目が全然笑ってないです! 怖いです! ていうかそんなキャラだったっけ!? お淑やかなお嬢様だと思ってたのに……)



 ノアとエマがウェルシーの本性を知った瞬間だった。

 その様子に観念したかのように話し出す。



「僕はちょっと特別な魔法が使えるんですよ。ちょっと……」



 ノアがウェルシーを手で招き、こそこそと話す。



「なるほど……そういうことなんですね。これは確かにあまり大声で言えるような話ではありませんわね……」



 ウェルシーはノアの光属性魔法について詳しく説明してもらい、険しい顔で何かを考え事をしていた。



「それはいいけど、2人ともいつまでそんなにくっついてるつもり……?」



 2人は随分長く顔を近づけていたことに気付き慌てて離れる。

 エマはちょっと不機嫌になってしまったようだ。



「話も済んだことだし、もう控え室に行きましょうノア」



「う、うん。それじゃあウェルシー、お昼にまた会いましょう」



「え、ええ。ノアもエマも頑張って下さいね。二回戦、楽しみにしてますわよ」



 ウェルシーはそう言ってルミスの控え室に向かう。



「じゃあ僕たちもアースの控え室に行きましょう」



「…………」



「エマ……?」



「わかってるわよ!!」



 エマはずんずんとアースの控え室がある方の通路へと進んでいく。



(そんなに怒らないでー俺そういうの経験ないから苦手なんだー!)



 ノアは不機丸出しなエマを追いかけて控え室へと入っていった。



15、6年前のルーカス達の物語はご希望があれば書いて投稿させて頂きます。

特に希望がない場合はどんどんノアたちのストーリーを進めていきたいと思います。




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