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この異世界で魔導騎士になる!  作者: ABC_D
第1章:少年時代の物語
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第8話

 



 ノアとルーカスはロンドたちと合流して、

 森の中の広場へと足を運んだ。

 途中、数回魔物の襲撃に遭ったが、

 冒険者たちによって難なく撃退された。

 エスト村へ行く時にも1人の怪我人も出すことはなく余裕をもって対処していたので、やはり彼らはオルカ村の実力者たちなのであった。



「着きましたよ」



「冒険者の皆、勝負はここで行ってもらうぞ。いいな?」



ノアは冒険者たちに目的地到着を告げ、

ルーカスは再度手合せをする場所の確認をする。




「ここはいったい何ですか!? 何故こんなものが……」



 冒険者たちの目の前にそびえ立つ巨大な木製の壁。

 そう、それはちょうどノアが造った木の防壁によって囲まれた広場だった。

 ノアは朝だけでなく、ルーカスの稽古のあとも魔力を使った訓練をするため、魔物除けと人目を避ける目的で広場の周りに壁を造ったのだ。



「因みにこの場所については秘密だ。情報も与えないし、他の冒険者に口外することも許さない」



「は、はい……わかりました!」



 ルーカスの気迫に押され気味の精鋭冒険者たち。

 口外するなと言って本当に口外しないとは微塵も思っていないルーカスだが、ノアが訓練するのに邪魔にならない程度には脅しておく必要があるだろうと考えていたのだった。




「ロンドさん、入り口はこちらです」



 ノアは不格好で頑丈そうな扉がある方へロンド達を案内する。



「ホッホッホ、もしやこれを造ったのはノア君じゃないか?」



「はい、ちょうど今日できたばかりです。自分が人目を気にせず魔力を使った訓練をするために造りました」



 後ろにいる冒険者たちに聞こえないよう顔を少し寄せ、2人にしか聞こえないようなボリュームで話す。

 そして全員が防壁の中へと入っていく。



「ここなら魔物も入ってこれない。お望み通り好きなだけ戦えるぞ。それと俺とロンドさんは一応立会人として基本的には介入しない。だからあとはお前等でやってくれ。ノアもいいな?」



 全員が一様に頷き肯定する。



「じゃあまずは俺からいかしてもらう」



 するとその男以外の冒険者たちは壁際に一斉に下がっていく。

 どうやら順番はあらかじめ決めていたらしい。

 当然と言えば当然だ。

 最初の者がノアを打ち破ったら、そのあとの者に順番が回ってくることはないのだから。

 皆始めの方がいいに決まっている。



「おう、冒険者の力見せつけてやれ! ぎゃはは」



「おう、やってやるさ!」



 ノアの正面少し距離を置いた位置で斧を構えた。



「行くぞ! おらああああ」



 男が真っ直ぐにノアに向かって走り出す。

 そしてノアに斧を叩きつけようと振りかぶった瞬間、

 激しい金属音が広場に鳴り響いた。


 男の視界にほんの一瞬青白い閃光が走り、

 目の前から少年が消えていた。

 男は何が起こったのかよくわからなかった。

 そして突然軽くなった自分の武器に目を移して驚愕する。



「お、斧が……」



 男の斧は柄の部分から上半分がなくなっており、地面に粉々になった状態で散らばっていたのだ。

 そう、ノアは男が斧を振りかぶった瞬間、

 一瞬だけ身体強化と光剣を発動していた。

 魔剣を光剣デュランダルに変え、

 凄まじい速度で斧を粉砕し、

 男の後ろに回り込んで剣を鞘にしまう。

 そんなことをノアは一瞬で行っていたのであった。


 周りにいたものはそれぞれ3種類の反応を示している。

 ルーカスは苦笑、ロンドは目を見開き開いた口が塞がっていない。

 それ以外は皆何が起こったのかわからずただ呆然としていた。



「あの……」



 さっきからずっと男の後ろで立っていた少年が男に話しかける。

 男は振り向き、いつの間にかに後ろまで移動していた少年の姿を捉えた。



「あなたの武器を粉々に砕きました。えーとそれで……まだ戦いますか?多分あなたの実力では例えあと何千回とやったとしても僕に指一本触れることも出来ないと思いますが」



 少年は首を傾げ、まだ戦う意志があるか問いかけた。

 しかし男は少年の言葉に反応出来ないまま立ち尽くしている。



「おいおい、情けねーなぁ! いくら全員に回りやすくするように弱い奴から戦ったにしても……あっという間に負けてんじゃねぇよ、この恥曝しが! 俺達は一応村一番の精鋭冒険者様だぜ? 何されたか知らねぇがただの子どもに負けるようじゃおしまいだな、ぎゃはははは」



 少年の前で固まっていた男は他の冒険者に罵声を浴びせられた。

 そしてがっくりとうなだれながら冒険者たちがいる方の壁付近に座り込む。



「次は順番を変えて俺にいかせてくれや。あの子どもに俺達はあんな奴とは違うって教えてやらねぇとな、ぎゃははは! いいかぁ?」



「おいおい、お前一回言い出したらいつも聞かないだろ? 許可とる必要あるのか?」



「そりゃそうだなぁ、ぎゃははは! じゃあ行く……」



「いえ、あなたたちでは誰がやってもそこの人と同じ結果にしかならないでしょう。時間もかかりますし、村で買い物もしなきゃいけないのでまとめて全員でかかってきちゃって下さい」



 下品な笑い方をする男の言葉を遮るように少年が言い放った。

 その場にいた冒険者たちの顔が一斉に憤怒の色に変わり、少年に向かって走り出した。



「舐めんじゃねぇぞガキがぁぁぁあ!」



 男たちの持つ剣や槍が次々に少年に襲いかかる。

 しかし少年を確実に捉えていたはずの斬撃や刺突は空を切るばかりで全く当たらない。



「一体なんだって攻撃が当たらねぇんだ。絶対に当たる軌道だったのに……ガキの姿が揺らいだと思ったら攻撃がはずれてやがる!」



「ああ、まるでそこに子どもの体がなかったかのような……」



 男たちの攻撃が少年の体を捉えるその時、

 少年の体が揺らぎ、攻撃がはずれていた。



「陽炎!」



 再び男たちの斬撃がはずれる。

 ノアは身体強化とある効果をもつ魔法を使用していた。

 それで何をしているのかと言うと、光魔法で光の屈折率を変化させ無理矢理シュリーレン現象を起こしていたのだ。

 人はモノから反射してくる光を目にいれることによって初めてモノを見ることができる。

 光は通常直進するので正しくモノの位置を把握することが出来るのだが、逆に言えばモノから真っ直ぐに光が反射してこないと正しい位置を目で捉えることが出来ないのだ。

 そのような光の屈折によってモノの姿が揺らぐことをシュリーレン現象という。

 光魔法で自分の周りの屈折率を変えて正しい位置を捉えられないようにする。

ノアはその魔法の名を陽炎と名付けた。



「そろそろ、反撃します。光剣-タイプ:ダインスレイフ!」



 ノアが体勢を、鞘に納まったままの魔剣の柄を左手で掴んでいた状態から魔剣を右手で抜いた状態へと変え、そして光剣を発動させる。

 すると右手の魔剣が青白い光剣になり、左手に全く同じ光剣が形成された。


 目の前の少年から伝わってくる気迫の強さが魔力を込めた瞬間一気に跳ね上がった。

 後退りする男たち。

そして両手に光の剣を持ち、ゆっくりとした歩みで近づいてくる少年。

 冒険者たちは悟った。

 この少年には全く敵わないと。

 そう気付いた時には青白い閃光が冒険者たちを襲っていた。

 瞬く間に男たちは地に伏すこととなった。



「レオナさん、あとはあなただけです。どうするんですか?」



 冒険者たちが怒り狂いノアに突撃して行く中で、レオナ1人だけは怒りもせず冷静にその場に止まっていた。



「いや~あたしはノア君が相当強いってなんとなく気付いてたからね。挑発に乗って突っ込んでもそいつらみたいになると思っていたんだよ……」



 少年の周囲に倒れている8人の男冒険者たち。

 ノアは光剣の性能を変化させ、木刀のように切れない剣で冒険者達をなぎ倒したのだ。

 レオナの後ろで怯えている最初に戦った男の斧を粉々に砕いた時も、切れ味のレベルをゼロに変えていた。

 変えていなければ誤って男を斧ごと切り刻んでしまう恐れがあったので念のためだった。



「じゃあやめておきます? レオナさんは僕との力量差をある程度わかっているようですし」



「いや、あたしは戦いたい! こんなに強い奴との手合わせなんて滅多に出来ないからねぇ。だがそのままじゃ力量差がありすぎて戦いにならない。だから少し力をセーブして欲しいんだけど……だめかい?」



「いいですよ。こっちの方々が案外早く終わってしまったので。……それでは剣術は使わずに魔法だけで戦いましょう」



 ノアの両手の光剣が消え、普通の魔剣に戻る。



「ありがとう。ノア君は優しいね。きっとそんなに力をセーブしてもらってもあたしはノア君には敵わない。だけど……全力で倒すつもりでいかせてもらうよ!」



 レオナは透き通った黄緑色の小剣型魔剣を使う。

 魔導士になろうと冒険者をしながら日々修練に励んでいるのだ。



「ウィンドスラッシュ!」



 レオナの頭上からいくつもの風の刃がノアに向かって飛んでゆく。



「光矢!」



 ノアの頭上に風の刃以上の数の光の矢が形成され、刃を全て撃ち落とした。

 刃を撃ち抜いた際に激しい衝撃音が広場に轟く。 

 同時に、余っていた10本の光りの矢がレオナに襲い掛かった。

 何本かの矢が彼女の体を掠め、レオナは膝をついた。



「っつう、やっぱり強い。でも……サイクロン! ウィンドスラッシュ!!」


 ノアの体が強烈な突風により真横吹き飛ばされた。

 吹き飛ばされた先に風の刃が飛んでくる。



「アイギス!」



 轟音とともに光の杭が地面に突き刺さる。

 杭からは光の帯が伸び、ノアの腕に巻きつくことで壁への衝突を防いだ。

 そしてノアの周囲に丸い球体型のシールドができる。


 光盾アイギスは変幻自在に形を変えられる。

 故に様々な使い方が出来るのであった。

 ウィンドスラッシュはアイギスによって全て防がれた。

 



「ふぅ。今のは危なかったですね。魔法は剣術と違って比較的攻撃範囲が広いし、それに見切るのが難しいですからね」



「今のでも駄目なのかい……やはり勝てなかったか」



「それでは終わらせます。光雨!」



 レーザーのように細い光線が雨のようにレオナに降り注いだ。

彼女は必死に避けようとしたが、光速で降り注ぐ無数の攻撃は避けられない。

威力を調節した光雨が彼女の意識を刈り取った。



 そうしてノアと精鋭冒険者たちとの戦いは終わりを告げたのだった。



「ノア君や、すまんのう。レオナは違ったようじゃがやはり彼らは精鋭冒険者として自分より強い者の存在は認めたくなかったんじゃよ。嫉妬の心は誰にでもあるものじゃ。許してやってくれ」



「はい、父様にも教えていただきました。強い者にはそういうことがついて回る運命なのだと……だから全然気にしていません。そういうものなんだと受けとめています」



「そうかそうか、ホッホッホ。それにちゃんと手加減が出来るとはノア君は子どもなのに立派な自制心を持っているようじゃ」



 ノアは全員打ち身やかすり傷、軽い火傷で済むように加減していた。

 加減しなければ皆最初の一撃で確実に死んでいただろう。



「それにしてもノア君がここまで実力を持っているとは流石に思わなかったのう。びっくりしたぞい。ホッホッホ。もう騎士にも魔導士にもなれるのではないか? 両方のクラスを授かって正式に魔導騎士になる日も遠くないじゃろう」



「いえ、まだ経験も実力も足りないと思っています。個人技もそうですが集団での動きも未熟です。もっと精進しないと……」



「ホッホッホ、ノア君はきっと大物になるのう」



「ノアはなんて言ったって俺の息子だからな、ハッハッハ」



 そんな話をしているうちに次々と冒険者たちが目を覚ましていった。

 ノアは気絶したままだったらどうしようと心配していたので内心すごくホッとしていた。

 全員が目を覚まし、ルーカスがここでのことは口外するなと再びすごい威圧でたたみかけたところで村へ帰ることにした。

 村へ帰る途中にも魔物に遭遇したが、

 冒険者たちは戦うことが出来なかった。

 だがそれは負傷によるものではなかった。



「全くあんたには驚きを通り越して呆れちゃうねぇ……」



「なんですレオナさん? 魔物の相手をしたいんですか?」



「いやいや、その調子で頑張ってくれ!!」



 ノアは光剣クラウソラスで近づいてきた魔物に刃を飛ばし次々に切り倒していった。

 村に着くのは広場に行くときよりも遥かに早かったのは言うまでもない。



「ロンドさん! エレナさんによろしくお伝えください。それでは、皆さんまたお会いしましょう」



 そう言ってノアとルーカスはクラートの家に戻った。



 無事に勝ってきたことを告げ、

 当初の目的だった報告や買い物を済ませてノア達4人は、やっと我が家に帰ってきたのだった。




「ノアちゃん、今日は本当にお疲れさま。あまり心配していなかったけれど冒険者さんたちが無事でよかったわ」



「母様、僕の心配はしてくださらなかったのですか……?」



「ノアちゃんのことを心配するような相手じゃなかったじゃない。ちゃんと手加減出来て偉いわノアちゃん!」



「あーうー」



「あらあら。ロゼちゃんもノアちゃんこと褒めてくれてるわよ~、ふふふ」



「はあ……それでは今日は疲れたのでもう寝ます。おやすみなさい父様、母様」



「おう、今日は疲れただろうからゆっくり休め。おやすみ」



 就寝前の挨拶を2人と交わし、

 ノアは自分の部屋のベッドで考え事をしていた。



(今日みたいに魔法、剣術だけっていう戦いもあるのか~。これは個別の修練も必要だな。朝と昼過ぎの修練。夕方頃から魔導書を読む。たまに村に遊びに行く。明日からはこれでいこう。あとそろそろ父様に他の武器の稽古もしてもらおう。母様にも魔法のこと色々教えてもらえるかな? まだまだやることがいっぱいだ……)



 そしてノアはいつもよりちょっと深い眠りについた。







 ◇◇◇◇◇◇







 うちの子はすごく変だ。

 クロエは最近自分の子が明らかに他の家の子とは違うと確信している。

 すごく活発。

 色々と凄まじい。

 彼はもう一般人には当てはまらない。

 彼を一般とするにはもう既に色々とレベルがおかしい。

 普通この年頃の子どもは必死に親から剣術や魔法を教わったり、

 四苦八苦しながら魔力を上げたりしているものだと思っていた。

 いや、私と同じくして13年前に母となった親友に聞いたところ、

 それが当たり前であり、いつも苦労しているという。



 それに比べてうちの子は……



「はああああ」



 ノアの振るった剣が風切り音を奏で、

 目の前にいる男の首筋寸前で止まる。



「うわ、あぶねぇ! まいったまいった! まったくお前って奴は騎士である俺や魔道士である母さんまで負かしてくれやがって……」



「あはは、父様の稽古や母様の特訓のおかげですよ」



「お兄様ってほんと強いのですね! お父様はもっと頑張って下さい!!」



「ロゼちゃん!? お父さんが頑張ってないんじゃなくてノアちゃんが強すぎるのよ!? ちゃんとそこをわかっておかないと後々大変よ!」



「はい、ちゃんとわかってます! お兄様は特別なのですよね? 私も魔力の扱い方は日々お兄様に教わっているので早く操れるように頑張ります!!」




 最近思う。

 うちの子たちは絶対に何か変だ。

 こうして今日もクロエは優秀すぎる息子とそれを追いかける娘に頭を悩ませるのだった。

シュリーレン現象についてはざっくりとした説明です。

正確にはもっと細かい部分がありますが、そこまで厳密に説明する必要を感じませんでしたので割愛させていただきました。




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