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 まだ、わき腹が少し痛い気がする。横から差し込んでくる日が眩しくて、重い瞼を開けた。

 見たことのない部屋でティナはベッドの中にいた。掛け布団がふかふかで気持ちがよかった。両側に大きな窓があり、隣に同じベッドがもう一つあった。空を見ると、雲がない澄み切った青空だった。でも、自然界の方がきれいだと思った。ということは、ここは自然界ではない。ここは地上界。微かな記憶の中、かなぽんが言っていたことを思い出した。

『自然界に帰ることは出来ないが地上界なら降ろすことができる』と。

 上半身を起こそうとしたがわき腹がジクジクした。そこで、体を横にして腕で支えながらお腹に力が入らないように手の力で体を起こした。

 すると、ティナが起きたことに気づいたらしく、部屋の中に男の子が入ってきた。

「目が覚めたみたいだね」

 その男の子は少し長い金髪を結んでいて、ティナよりも年上に見えた。

「あなたが助けてくれたの?」

「まあ、そんなところかな。君が倒れているところを通りかかってさ。そしたら、血がいっぱい流れててビックリしたよ。これは早く医者に見せなきゃと思って。それで、治療してもらったんだ。オレはレイ」

 近くにあった椅子にレイは座った。

「私はティナ。助けてくれてありがとう、レイ」

 ティナはこの部屋の入り口のドアの近くの鳥かごが目に付いた。

「レイ、あの鳥かごの中に入ってるのって」

 かなぽんじゃないのと言いたかったが、ちゃんとした姿には見えてないだろうと思い、最後まで言うのはやめた。しかし、ティナの目にはかなぽんにしか見えない。

「あれは、ティナを見つけたときに側に浮いててさ、気になったから鳥かごに入れておいたんだ」

「レイ。あれって何に見えるの?」

「何って、白くて丸いふわふわして浮いているものだけど」

 やっぱり、レイにははっきりかなぽんが見えてないようだ。

「ちょっと見せてくれない?」

「いいよ」

 と言ってレイは鳥かごを取って渡してくれた。

 ティナは鳥かごの入り口を上に上げて言った。

「かなぽん、大丈夫?」

「大丈夫。ティナのこと本当に心配したんだからね」

「ありがとう。もう大丈夫だから」

 ティナはかなぽんが鳥かごから出ると、窓を開けて外に出してあげた。かなぽんは手を振って帰っていった。

「ティナの知り合い?あの子」

 レイがティナに言った。

「え?だって、さっきは、白くて丸いふわふわして浮いてるって」

「最初はそうだったんだけど、ティナがあの子と話している時、ずっと見てたら、羽が付いている子が見えてさ」

「かなぽんっていって、雲の妖精なの」

「妖精だったのか。悪いことしちゃったな」

 なぜ、レイにかなぽんが見えたのだろう。地上界のものは見えないはず。しかも、最初からちゃんとした姿ではないが見えていた。レイは何者なんだろう。自然界の人ではないだろうし。

「あら、話し声が聞こえると思ったら、目が覚めてたのね。もう、起き上がっても大丈夫?」

 ドアから顔を出してきたのはレイのお母さんらしく、レイに顔が似ていた。本当はレイが母親に似ているのだろうけど。レイよりも長く伸ばしてきらきらした金髪で、後ろで一つに結んでいた。

「はい、これ」

 と渡されたものは、コップに緑色をした飲み物だった。

「まだ、完全に治ってないから。薬草で作った薬なの。飲んでね」

「……やっぱり、苦いですよね」

「薬だからね。――レイに口移しで飲ませてもらう?」

「結構です……」

 ティナは一気に薬を飲んだ。

「やっぱり、苦い」

 レイにコップを渡すと、レイは母親に渡した。

「あのー、レイのお母さんですよね」

「そうよ。ユースコアっていうの」

「ユースコアさん?どこかで聞いたことがある名前」

「たぶん、聞いたことがあると思うわ」

 ユースコアはレイにコップを洗ってくるように言った。

「もしかして、あなた、リューイ・ノーザンって名前じゃない?」

「リューイは前の名前です。今はティナ・ローレンスです。でも、どうして私の名前を」

「やっぱり、フレッド国王に似ていると思ったわ。私は元々、あなたと同じナルティノの者だったの。そして、その時は夢見師としていたわ」

 夢見師というのは、未来のことが夢に出てくることがあり、それを仕事にしているヒトのことである。

「夢見師のユースコアっていうのはあなただったんだすね。でも、父様に追放されたと聞いたけど」

 ユースコアはその言葉を聞いて、首を横に振った。それは違うの、と言ってユースコアは言葉を続けた。

「あの頃、私は地上界に修行に来ていて、その時にレイの父親のディーンと知り合ったの。そして、レイという子供も生まれた。でも、地上界の者と自然界の者は結びついてはいけないという決まりがあってね」

「何が起こるか分からないから?」

 ティナは聞いた。

「そうなの。でも、私は何も隠さず自然界に戻って、すべて国王様に話したわ。隠したところでいつかはバレてしまうから。でも、国王様は何も言わず、黙ってしまったわ」

 ティナは聞き入っていた。

 そして、ユースコアは続けた。

「国王様は言ったわ。『ユースコア、君のディーンに対する気持ち、十分に伝わった。だが、周りの者に示しがつかない。それは分かってくれるな。そこでだ、追放という形で君を地上界に住ませてやりたい。だが、追放となれば自然界との縁を切ることとなる。それでもよいか?』と。私はすぐに応えたわ。『ありがとうございます。国王様』とね。最初はすぐにディーンと別れろとか自然界に戻って来いとか言われるかと思ったけど、その時、レイが居たからそういう形を取ったのかもしれないけど」

 ユースコアは少し涙ぐんでいた。それだけ、父様に感謝しているのだろうとティナは思った。

「じゃあ、レイに妖精が見えたのも……」

「そう、私の、自然界の者の血が入っているからだと思うわ」

「ユースコアさんってもしかして、さっきの話聞いてた?」

「どうして?」

「だって、レイに妖精が見えたって言っても驚かないから」

「バレた?途中からちょっとね」

 と楽しくティナとユースコアは話していた。そこへ、声が聞こえた。

「入ってもいいかな」

 老婦人の声だった。

「おばば様。いらっしゃい」

 ユースコアはその人を招き入れた。おばば様と呼ばれた人は年をとっているのに腰も曲がっておらず、ほんわかとした優しそうな人だった。

「自然界から来た者というのはあなたかな。わたしはこの村の村長をやっている。皆からはおばば様と呼ばれておる」

 レイが座っていた椅子におばば様は座った。

「自然界のこと知っているんですか?」

「まあのう。ユースコアにも聞いたしな。そこに額があるじゃろ。これに書いてるのはな、この村に伝わる伝説さ。作ったのはわたしだがな」

 と言って、おばば様は少し笑っていた。

 そこにはこう書かれていた。

『惑星のはるか彼方の雲の上に自然界という世界があり人間界の自然を守る。自然破壊する者に災いもたらす。雪降りし時 光満ち溢れ天使舞い降りるであろう』

「雪振りし時の所はユースコアが降りてきた時雪が降っていたから。それに自然を守りたいのはわたしも同じだからな。名はなんと言うんだい」

「ティナ・ローレンスです」

「ティナか。いい名前だ。――ひとつ聞いていいかな」

「はい」

「その傷をつけたのはセレナーデとかいう奴とその仲間ではないかい?」

「なぜ、その名前を知っているんですか?」

「やはりな。時々ここに来たことがあってな。だが、また、新しいやり方だ」

「なんか、サリーとかいう人に切られて」

「また、新しい者といるようじゃの」

 ティナはきょろきょろと辺りを見渡していた。

「どうした?」

「あの……私の剣、知りませんか?」

 腰にベルトで巻いていた剣がこの部屋には見当たらなかった。

「剣なんてなかったよ」

 台所から戻ってきたレイが言った。

「うそ、どうしよ。どっかで無くしたのかな。あれがないと……」

「ユースコア、あれを持ってきてあげたらどうかな」

「そうですね、おばば様」

 ユースコアが部屋を出て、持ってきたのは一本の剣だった。

「これは?」

「使ってください」

「え?でも」

 ティナは困った。ただ、剣を無くしたからといって、この家にあった剣を使わせてもらうわけにはいかなかったからだ。

「たぶん、あなたのために、ここにこの剣があったんだと思うの」

「私のために?」

「えぇ」

「ティナ、使ってくれぬか?」

 おばば様が後押しする言葉を言った。ティナは断れなかった。

「いいんですか?」

「ええ」

「それじゃあ、使わせていただきます」

 ティナはユースコアから剣を受け取った。なんか、すごく持ちやすかったし、ティナに合っていた。

「それじゃあ、私たち隣の部屋に居るから何か用事があったら言ってね」

「はい。ありがとうございます」

「あ、レイは買出しね」

「えっ」

「え、じゃない。行くの」

「へーい」

 レイは部屋から出て行った。そして、ユースコアとおばば様も出て行った。


 居間でユースコアとおばば様がテーブルを挟んで座っていた。手には暖かい紅茶が入ったカップが置いてあった。

「これも運命かのう」

 おばば様が言った。

「エスナさんが言っていた通りになりましたね」

「そうじゃな。エスナがここに来て、剣を置いていった。何かあるから。絶対にこの剣が必要になるから。お願いします、と言ってここを去った。それが娘に渡ろうとわな」

「そうですね」

 二人はしみじみと語った。



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