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 ティナはずっと逃げていた。逃げにくい足場なのにも関わらず。逃げ足は速かった。周りの木々で攻撃は当たらなかったが、衝撃等でダメージはくらっていた。

『ティナ、大丈夫?』

「なんとかね。ちょっと、疲れてきた。修行が足りないのかな?」

『修行って、ティナっていつも何してるの?』

「帰ったら分かるよ、その前に帰れるか分からないけどね」

『それって……』

「逃げ場所がもう無いってこと」

 ティナは精霊の森を抜け出していた。もうそこは自然界の一番端で、そこは空が広がり雲も見えた。

 下に落ちれば――。

 四人はすぐティナに追いついた。

「ティナちゃん、もう逃げ場がないわよ」

「そろそろ観念するんだな」

「セレナーデ様、我が奴を」

「だめよ、ユング」

 ティナは気づいてしまった。セレナーデ、ユング、レイユ。今この場にいるのは三人。

 ティナは危機を感じた。サリーという女の人がいない。どこにいるのかと探そうとしたが、何もできなかった。

「え?」

 刹那、左横腹の一点の中心に、全身を侵す強い衝撃があった。肉と金属が擦れるのがはっきりと分かった。

 ティナは膝を曲げた。そうするしか出来なかった。うずくまろうにも無理があった。自分の体に刺さっている剣が見える。そして、自分の血も。

「守護精たちのガードも私の剣には通用しないの。……痛いでしょ?痛いよね。今……抜いてあげるから」

 ティナは声も出せなかった。今は痛みに耐えるしかなかった。

 サリーは剣で左横へと切った。抜いたのではない。切ったのだ。横腹の肉が二つに分かれるような感触。鋭い痛みがティナを襲った。剣が無くなった為、ティナは無意識に体を地に預けることになった。サリーは剣に付いた血を振って鞘に収めた。

 意識が消えそう。

「では、セレナーデ様。私、先に帰りますね」

 そう言うと、サリーはすぐにいなくなった。

 それを見送ったあと、セレナーデはため息をついて、ティナを見下して言った。

「ティナちゃん、可哀想にね。この下に落ちたら死んじゃうわね。――そのまま、死体になってることを願うわ」

 その言葉が合図のように、レイユは何食わぬ顔で剣を抜き、自然界の外の空間を切った。今では、サリーとレイユにしか出来ない技があった。結界を操る剣を持つ者。結界を作り出すことは出来ないが、切ることも元に戻すとも可能な剣である。

 セレナーデは無抵抗のティナを足で蹴り、開いた結界の所から落とした。いや、捨てたのかもしれない。

 そして、レイユは結界を閉じた。


 私、このままだと死ぬんだろうな。よく言うよね。死ぬ前って走馬燈のように記憶が巡るって。でも、私ってまだ、十二年しか生きてないんだよね。それに小さいころの記憶も曖昧だし。でも、愛されてるってのは実感できた。父様や母様やケイン。他の人だって私を迎えてくれた。でも、同い年の子があまりいなかったから、それは寂しかったかなって。別にさ、年が離れてたって一緒なんだけど、やっぱり近い方がさ、いろいろと話ができていいかなって。でも、もうそんなことも思うことはないんだよね。あ、父様とか母様とか悲しむだろうな。もう何も交わすことができない。これって、悲しい?ううん、辛いんだよね、こういうのって。


 ボフッ


 ボフッってなんだろう?なんだ、雲の上だからかって冷静でいられるのが自分で不思議だった。

 もう死んだのかなって思った。死ぬのって恐くないのかなって。いままでの気持ちがどっかに消えていった。でも、変だった。だって、まだ、痛い。かなり、横腹が痛い。だったら、まだ、生きてるのかな?

 遠くで、きゃっという声が聞こえた。

「あのー、上から落ちてきたってことは自然界の人ですよね?」

 ティナは硬く閉じていた目を少し開けて、声の主を見て、頷いた。

「どうしたのって聞いても、しゃべれませんよね、こんな状態じゃ」

 横腹から流れ出る血を見て、心配そうに聞いてくれる女の子を見て、なぜか安心した。

 ティナの口が動いた。

「しゃべれないこともないけど……ちょっと……つらい……かな」

「あ、無理にしゃべらなくていいですよ。傷、酷いですね」

「ちょっと、いろいろとね。……あなた、名前は?」

「雲の妖精のかなぽんっていいます」

「私……ティナ」

「ティナさんって、もしかして、ナルティノのお姫様?」

「まあね」

 どうして名前が変わってるのに知ってるの?って聞きたかったけど、さすがにこの状況で長話は無理だった。

 かなぽんの背中に半透明の羽があった。まだ、背丈も小さくて可愛かった。

「よかったら、自然界までと言いたいんですが、地上界なら降ろせるんですが。

それでも……」

「お願いするわ。……戻っても、何も出来ないだろうし……」

「おまかせあれ」

 かなぽんはそう言うと、近くにいた妖精たちも呼んで、雲で翼を作ってくれた。

「ティナ、傷口の血、私たちのエネルギーで、一時止めておけるけど、地上界に着いたら消えちゃうけど……」

「ありがとう……かなぽん」

「元気になったら、会いに行っていい?」

「うん、歓迎するよ。……なんか……眠い……」

「寝てていいよ。気づいたころには元気になってるよ」

「そう……だね。じゃあ、お言葉に甘えて」

 ティナは意識を切り離した。

 かなぽんたちが作った翼で地上界に降りたティナ。この時、地上界で見た者は、まさに天使が舞い降りたように見えただろう。



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