3
リューイは、池の端の方に立って、空気を大きく吸って止め、勢いよく飛び込んだ。
―――バッシャーン―――
大きな水しぶきを上げた。
リューイは、池に入った後、目を開けて、中の様子を垣間見た。水は透き通り薄水色で、池ではなく、本当の海のようで、広く見えた。
ティスノに真下に沈んでと言われていたので、頭を下にして、足をバタつかせ、ゆっくり下に降りていった。普通は底に行くほど水の抵抗や圧力がかかるのだが、なぜか気にはならなかった。そういう風になっているのかもしれない。
五分ぐらい経つと、底らしきところが見えて、リューイは足を下に向け、足をつけた。
リューイの目の前には、台に剣が刺さっているのが見えた。東方にある国にある刀に似ていた。刀はケインに一度見せてもらった事がある。ケインは、いろんな国の珍しい物を集めるのが趣味で、刀もその中の一つだった。
(これを抜きなさいってことかな)
リューイが、刀の柄を掴もうとした時、刀に結界が張られた。
「……っっ!」
リューイの手にビリッと電気のような物が流れて、手が痺れた。
すると、足の下から、ゴボゴボと水の泡がリューイを包んでいった。目も開けられず息もできずに、水の泡が止まるまで、リューイは手で目を覆っていた。
気が付くと何故か空気があって、息も出来たし、服も乾いていた。周りを見わたすと、まだあの池の中のようだ。
でも、何か大きな透明なボールの中にいて、そのボールは水の中で浮いていた。
そして、リューイの前には、アクアマリンの子ども版のような女の子がいた。女の子は、リューイを見て、ほほ笑んでいた。
「ここは、私が作った泡の中です。私は、母アクアマリンから生まれました。母は門番であり、守護者です。母はいつも力を溜めています。そこに、あなたが来て、私は生まれました。守護者から生まれた者を守護精と呼んでいます。母は水の属性で、地上界の水に関するモノすべての守護者です。人間たちはよく自然を壊しています。だから、母はその者たちに災いを与えることもあるそうです。母は、私に、こう言いました。守護精は、あなた(リューイ)に従い、尽くすものだと」
「……」
リューイは少し考えていた。
「どうしました?」
「私ね、自分の事は自分でしなさいって言われてて、だから、従いなさいとか、尽くしなさいとかっていうのは……どう言ったらいいのかな?」
「それは、……キライだということですか?」
「うん、何と言うか、私……あなたが私の側にいてくれるだけでいいの。一緒に助け合っていきたいというか……」
リューイはナルティノの姫である。父は国王で、母は王妃。周りはリューイと近い年齢の者はほとんどいない。寂しくはなかった。いろんな人がいたから。だが、やはり、年齢が近いほうがしゃべりやすいというのもあるし、みんながみんなではないがリューイには必ず敬語を使っている。だから、リューイはうれしかった。
女の子は少し悩んでいるようだった。
「分かりました。私はありがとうというべきでしょうか」
そう言うと、彼女はリューイに抱きついた。離れてから、彼女はこう続けた。
「リューイ、私はあなたに名前を差し上げます。そこで、私にも名前を付けていただきたいのです」
「じゃあ、十二歳で名前が変わるって聞いてたけど、守護精に付けてもらうからなんだ」
「そうみたいです。……そうです!! いい名前が浮かびました。ティナ・ローレンスです」
女の子は手をたたいて言った。
「……」
「気に入りませんでしたか?」
「いいえ、ありがとう、ウォートレス」
「ウォートレスですか、私の名前。ありがとう、ティナ」
ウォートレスはうれしそうだった。
「ねぇ、ウォートレス、その敬語やめない? なんか変な感じだし」
「分かりました」
「分かったわ、でしょ」
「そうね」
なにか思い出したように、ウォートレスはまた手を叩いた。
「ティナ、もう一つやって欲しいことがあるの」
「やって欲しいこと?」
「そう、願って欲しいの。そして、天使の翼を出して欲しいの。その力に導かれて生まれる守護精がいるの。水の属性以外のね。ティナ、心を落ち着かせて、やって欲しいの」
「水の属性以外って、それって危ないんじゃ……」
「それはね、主の属性に関係あってね。私を第一段階としたら、今言ったことが
第二段階かな。その場合、ティナの力が関係あるから大丈夫なの」
「なるほど。それじゃあ、がんばらなきゃね」
ティナは目をつぶると、少しずつ羽が現われて、それは翼となった。キラキラと白く光っていた。
そして、心の中で、私と一緒にいて欲しいのと呼びかけてみた。
すると、目をつぶっていても眩しいくらいに光が溢れて、ティナっと呼びかけられて、目を開けて見ると、ウォートレスの隣に二人の守護精がいた。
一人は、木の守護精で、緑を基調とした服を着ていて、おっとりとした感じで、緑色の髪も長かった。
そして、もう一人は、雷の守護精で、黄色を基調とした服を着ていて、黄色の髪がふんわりとしていて、元気で活発な感じだった。
「私たちにも名前を付けて」
二人が言った。
「じゃあ、ウディネスとサンデリーっていうのはどう?」
「いい感じね!!」
「いい感じですね」
二人は声をそろえて言った。
「ティナ、そろそろ上に戻りましょ。ティスノが待ってるわ。……目をつぶって」
ティナは、ウォートレスに言われて、目を閉じた。