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「皆さん、お世話になりました」
ティナは深々と頭を下げてお礼を言った。貸してもらっていた剣もユースコアに返した。
「気をつけて帰ってくださいね」
「はい。ユースコアさんの事を話しても大丈夫ですか?」
「えぇ、ぜひ。元気にやっていると国王にお伝えしてください」
「分かりました。おばば様もお元気で」
ティナは両手でおばば様の手を包み握手をした。
「ティナも元気でな」
「はい」
ユースコアが言った。
「この現状の事は気にしないでね。直しておくから」
「力になれなくてすみません」
ユングの攻撃で抉れた土地。まだ、ティナの力では直す事が出来なかった。
「最初の時期だもの。謝る必要はないわ」
「ありがとうございます。レイもありがとう」
「気をつけてな」
「うん」
「よかったら、これ貰ってくれないか?」
レイの手のひらには青い丸い石があった。
「これは?」
「アクアマリンっていう石なんだ。ティナにあげるよ」
「本当?ありがとう。――ん?」
「どうかした?」
「なんでもないよ。ありがとう」
「どういたしまして」
アクアマリンと聞いて、何かを思い出しかけた。しかし、それが何か思い出せなかった。これが精霊の森での記憶だったのだろうか。ティナには分からなかった。
レイやユースコアに見送られて、ティナは手を振って森へ向かった。天使族唯一の天使の翼を広げて、人間界を去った。
「あなた。そんなにうろちょろしても変わりませんよ。帰ってくるって連絡あったんだから、堂々となさった方がいいわよ」
「分かってるんだがな。居ても立っても居られなくてな」
ティナから帰ってくるという連絡があって、フレッドは部屋を飛び出した。
門で左右行き来している姿は父本来の姿をしていた。エスナに至っては、立ったまま遠くを見ている。
王家のしかも国王、王妃が門の前で待ち構える姿は異常だったが、娘の帰りを待つのに世間体など関係なかった。怪我をしたと報告があったときは、血の気が引いてすぐにでも迎えに行きたかったが、本人が自分で解決をすると言うのだ。親が出ていくわけにはいかなかった。
早く無事な姿を見たいと思っていた。
しばらくして遠方からティナの姿が見えた。
「ただいまー!!」
ティナは駆け足で距離を積め、フレッドに抱きついた。
「おかえり。元気そうでよかった」
レイからもらったアクアマリンは城に住み込みの鍛冶屋であるラードス・ネックに加工してもらうように頼んだ。
ラードスはブレッドよりも歳を重ねていて、作業服がよく似合うおじさんのような人だ。
ラードスはペンダントのいるかの首の所にもう一つのペンダントのようにアクアマリンを付けてくれた。
肌身外さずに持っているものなので、お守りのような気がした。