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【惑星のはるか彼方の雲の上に自然界という世界があり人間界の自然を守る。自然破壊する者に災いもたらす】
【雪降りし時 光満ち溢れ天使舞い降りるであろう】
彼女は、ドアをノックした。だが、返事はなかった。しかし、それで諦めて帰るわけにはいかなかった。ここは、父の部屋で、いつも忙しい人だから、聞こえなかったのかなと思ったが、自分はここに来いと言われたから来たのだ。それに重要な話があるとまで言われているから尚更である。
彼女は部屋に入ろうとドアノブをつかんだ。しかし、彼女は行動に移せなかった。後方に一つの気配があるのを感じたからだ。殺気ではないが自分に視線が向けられていることだけは分かった。
彼女の腰に巻かれているベルトには剣が付いていて、それの鞘を左手で持って固定し、右足はそのままで、左足を少し後ろに下げて、体を少し屈ませ、右手で剣の柄を持ち、気配目掛けて横に空を切った。
切った感触はあったが人とは違う感じだった。後ろを見ると、ロープに繋がれた人形があった。
彼女は試されたのだ。気配の者に。
それから、彼女はずっと、その気配に集中していたから、どこに入って行ったかは分かった。
どうやら彼女がノックした部屋に入ったようだ。だが、彼女は分かっていた。この気配が誰であるかを。
(私もまだまだね)
そう思った彼女はまだ十二歳の女の子である。
彼女が、部屋に入ると、男の人が二人、彼女を迎えていた。
一人は彼女の父で、フレッド・ウィリアム。年齢は、三十五歳で、それでいて、黒々とした髪の毛で、気品に溢れていた。紫色のピアスを付けていた。ナルティノの国王であるフレッドは、体ががっしりとしていて、服の上からでも分かるほどだ。
そして、もう一人が、気配の元であった人。名前は、ケイン・ナーベラー。年齢は、十九歳で、髪の色は薄緑色のロングで、後ろで一つに結んでいる。髪と同じ色のピアスを付けている。右目に眼鏡をかけているが、伊達である。リューイの世話係兼教育係で、剣術や銃術なども教えている。さっきの剣の構え方などもケインに教えてもらったものだった。
そして、彼女の名前は、リュ-イ・ノーザン。年齢は、十二歳で、セミロングの金髪。ジーパン生地の上下と中にTシャツを着込んだ服を着ていた。
彼女曰くケインは、顔がいい上に、笑顔の絶えない人だが、変わった人だという。認めてほしければ私を倒すことですね、と言うのが彼の口癖で、この言葉が、彼の口を動かした。
「まだまだですね」
ケインは、リュ-イに少しづつ近づいて言った。
「承知の上です」
リュ-イは、言い返した。
すると、フレッドが会話の中に入ってきた。
「話をしたいんだが、座ってもらえるか?」
リューイは、ソファーに座った。そのあと、ケインとフレッドもリューイが前に見える様に座った。
フレッドがまず口を開いた。
「リューイ、おまえも十二歳になった。精霊の森に行く年齢だ。いつ出発するか、決めたか?」
「うん。明日の昼からにでも出発しようかなって思ってるけど、それが?」
「明日か。それはいいが昼よりも朝のほうがいい」
リューイが、なんで?と聞く前に、聞いてくることが分かっていたようにフレッドは続けた。
精霊の森はな、と言ったところで、ケインがその話は私が、と言って語り始めた。
「精霊の森は、別名五つの門と言われている。五つの門とは、木、火、土、金、水の門。そして、一つずつの門には、門番と判定する精霊がいて、このニ名に認めてもらい、属性と魔法使いか、剣使いか、銃使いかに選出されるんだ。でも、これしかみんな知らないんだ。精霊の森は、この自然界の周りを囲んでいるのは知られているけど、門がある場所、そこで何があるのか、すべては知られていないんだ。知られていないというよりも、覚えていないというのが正確な言い方なんだけどね。この自然界の二つの国、僕たちが住んでいる国ナルティノ、そして、隣国ヨキスナでは、皆十二歳になると精霊の森に行くのは知っているし、今、聞いたよね。リューイ」
「うん」
リュ-イは、ケインの話を真剣に聞いていた。自分にとってこの話は、大事なことだと自分なりに自覚していたからだ。
ケインは、話を続けた。
「精霊の森から出るそれと同時に、門が在った場所、その中で何があったのかなどの門の中のことが記憶の中からすべて消えるんだ。でも、自分の属性とどの使いなのかという、ニ種類だけは残されるんだ。それはね、例えば、門の場所を知っている者がいて、火の属性だとする。その子どもの属性が木だったらどうなると思う?たとえ、門番に認められたとしても、火の守護精に会えたとしても、その子は拒否反応を起こし、魔法が一生使えなくなるか、力を吸収されて死んでしまうことだってある。だから、記憶が消えることになってるみたいなんだ」
リューイは、頭の中がぐちゃぐちゃになりそうだったが、二つ気になる事があって、ケインに聞いてみた。
「あのー、聞きたいんだけど、守護精って何なの?」
「守護精は……、自分に力を貸してくれる存在だと僕は思ってるけど。剣使い、銃使いは、一人しかいないんだけど、魔法使いは、何人かいるみたいだよ」
「そうなんだ」
リューイがフレッドを見ると、その通りだというように、リューイを見て頷きながら、腕を組んだ。すべてケインが話してくれるだろうと言うように。
「じゃあ、あと一つ。もし、二人の属性が一緒で、二人とも違う場所から入ったとしても、二人ともその属性の門に辿り着けるの?」
「もちろん。なんて言うのかな、導かれるって感じなんだろうね。覚えてないけど。すべては、森まかせってことかな」
急にフレッドが、会話に入ってきた。
「結論を言うとだな、精霊の森で何があるか分からないし、夜になると霧も出てくるらしいからな。だから、朝に出かけた方がいいというわけだ」
「なるほどね。で、なんで、夜に霧が出ること知ってるの?」
「誰かが話してるのを聞いてな。まっ、噂だけどな」
フレッドは、軽く笑い飛ばしていたが、リューイは、少し飽きれていた。ケインは、笑いを噛み殺していた。
フレッドは、三十五歳でありながらも子どもっぽさが抜けてなくて、人には優しく、なつかれやすいタイプだったので、信頼もされていて、国王となった。
話が終わって、立ち上がろうとしたが、話に夢中で気づかなかった。そう、王妃である母がいないのに、リューイは気がついた。
だから、リュ-イは国王に聞いてみた。
「父様。母様は今、何処に?」
いつもいるわけではないが、居場所が気になった。
「それは……」
「それはね、リューイ」
女の人の声が聞こえた。王妃であるエスナ・ウォーリーが、ドアを開けてそこに立っていた。リューイと同じ金髪で、ポニーテールにすると、肩ぐらいの長さになる。いつも、天使が、赤いルビーを持っているペンダントをしている。
王妃は、ドアを閉めてから、リューイの隣に座ると、リューイに、強く聞かせるように言った。
「この人ったら、ヨキスナとの会議があったにもかかわらず、私に行かせたのよ。そりゃあ、リュ-イと話がしたいというのも分かるけど。これが、最初で最後よ。これでは、戦争になったとしても文句は言えないわね」
こんな話が十分ほど続いて、リューイもケインも聞き疲れて、ケインは、さっさと国王の部屋から出ていってしまった。
そして、リューイも、自分の部屋に戻って、明日の用意をしようとしたが、どうにかなるだろうと、剣以外何も持っていかないことにした。
そこに、エスナが入ってきたので、リュ―イはエスナに明日の朝、精霊の森に行くことを告げた。