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お飾りの奥様は、今日も可愛い

作者: 有梨束
掲載日:2026/04/05

私がお仕えするラース伯爵家の新しい奥様、お飾りの奥様にございます。


モランテ子爵家からいらしたカテリーナ様は、持参金なしの文字通り身一つでお越しになりました。


侍女もおりませんでしたので、僭越ながら私エルザが奥様付きの侍女をさせていただいております。


どうやら旦那様とは、契約結婚だったようで、ご実家の借金の代わりにラース家にいらしたようでした。


カテリーナ様は口数の少ない大人しい方ですが、物腰柔らかく、丁寧で、所作も綺麗な方です。


私は、小さな花のように笑う方だなと思っております。


使用人への態度も、旦那様と同様、人として扱ってくださるので、使用人一同はかなりの好印象を抱いております。


時々、私ら使用人に敬語を使われては、「あっ」と慌てて、口調を戻す姿は大変可愛らしいと思っております。


契約結婚とはいえ、我が旦那様である、伯爵家当主アルフレッド・ラース様は無慈悲な方ではございません。


寝室は別ですが、それ以外はいたって普通の夫婦のよう…、は言い過ぎですね。


歩み寄りを重ね、奥様を奥様として扱うために、旦那様は日々格闘中にございます。


なんでも当初の旦那様は、本当に契約結婚の温もりのない生活でもよいと思っていたようなのですが、借金のために来たカテリーナ様が、噂のような醜女でもなければ、簡単に男に体を許すような女でもなかったため、予定を変更されたようです。


奥様自身を見て、カテリーナ様が本当はどのような人なのかを見つめ、旦那様は旦那様らしく、分け隔てなく接しておいでです。


最近では、奥様の可愛らしさに気付いたようで、もっと夫婦らしくなりたいと、踠いていらっしゃいます。


最初に契約結婚だと線引きしてしまったので、奥様が全くその気がなく、むしろ「旦那様はすごいです。私のようなひどい噂しかなかった相手にもお優しいし、この家に来てから何不自由なく暮らせているのです。すべて旦那様のおかげです!」とほぼ神格化されているため、1人の男性として旦那様を見てはおられないのです。


旦那様すごい!感謝しかない!旦那様の足を引っ張らないためにも勉強しなくては!旦那様のお役に立ちたい!と、私の可愛い奥様は、毎日頑張っておいでです。


そんな健気さを邪魔するわけにもいかず、アルフレッド様は好意を全面的に出せずに、1人やきもきされているのでございます。


なんであれ、使用人からしたら、お仕えするお2人が仲睦まじいことに越したことはありません。


今でも互いを尊重し、思いやりをもった夫婦関係も素晴らしいですが、もっと仲良くなりたいのなら旦那様に頑張っていただくしかございませんね。


ファイトです、旦那様。


「奥様、そろそろ休憩にいたしませんか?机に張り付きっぱなしでは、体が固まってしまいます」

「もうそんなに時間が経ちましたか?ありがとう、エルザ。では、少し休憩にするわ」

「紅茶をお淹れいたしました。それと、料理長が張り切って作ったクッキーがございますよ」

「私が好きなクッキー…、また作ってくれたのね…!あとでお礼に行かなくちゃね」

「料理長が泣いて喜びます」

「ふふっ、エルザは面白い冗談を言いますね」

小さく笑う奥様は、やっぱり花のようです。


全然冗談などではないのですが、奥様は自分が好かれているとは思っておりませんし、人の好意にはかなり気づきません。


おそらく、そのように期待せずこれまでもお過ごしだったのではないかと思います。


だからこそ、我々使用人は奥様を甘やかしてあげたくて仕方ないのでございます。


そして、旦那様はその心を溶かしたくて必死なのです。


──コンコン。


「出て参ります」

奥様に一礼して、部屋のドアを開けると旦那様が立っておられました。


「奥様、旦那様にございます。お通ししても?」

「ええ」

奥様の許可をいただいて、私は旦那様を部屋に通します。


「カテリーナ、そろそろ休憩かと思ったのだが、よければ僕と一緒に休憩してもいいかな?」

「もちろんにございます。こちらの部屋でよろしかったのですか?」

「いいんだ、僕がカテリーナの顔を見たかっただけだから」

「旦那様のおかげで恙無く過ごさせていただいているため、ほらっ、この通り元気にございますよ」

そう言って、奥様は両の手でギュッと拳を作られました。

大変チャーミングでいらっしゃいます。


ラース家に嫁いできて、『健康的になれました、それは旦那様のおかげです』と、奥様は示したいのでございます。


旦那様が健康を気遣ってくださったから、お見せしなければと思ったのでしょう。


口説かれているとは微塵も思っていらっしゃらないところが、私の奥様の可愛いところなのでございます。


「…うっ、これも通じない…!」

旦那様、心の声が漏れておいでですよ。


「旦那様、料理長がクッキーを焼いてくださったみたいなのです。よければ一緒に召し上がりませんか?」

「ああ、いただくよ。ありがとう、カテリーナ」

「私こそ、いつもありがとうございます旦那様」

安心したように笑う奥様を見て、私はほっこりしますし、旦那様もなんだかんだホッとしているようにございます。


奥様が笑ってくだされば、ラース家は今日も平和というわけでございます。


頑張ってくださいませ、旦那様。



「エルザ、今日も一日ありがとう」

おやすみの際は、奥様は毎日そう言ってくださいます。


「よい夢を、奥様」

奥様への夜の挨拶を最後にするのが私ではなく、旦那様になる日を夢見つつ、今のこの嬉しい役割を今日も噛み締めるのでした。


カテリーナ様が今日も可愛くて、エルザは満足です。






お読みくださりありがとうございます!  毎日投稿95日目。

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