蛍雪
こんにちは! 初投稿です、雨中葵と申します。
今回の話は、私の友達の言い間違いがもとになっています。「蛍雪の功」という故事成語を『ほたるゆきのこう』と読み違えた友達がいて、「あれ、意外とオシャレな名前じゃない?」「これをタイトルにお話作ってみてよ!」と言われて作りました!
2年間もエタっていた作品なんですが、まさかデビュー作になるとは…………。感慨深いです。
皆さんの心に響くとうれしいです。
ここ最近のミイの習慣は、夜の冷たい窓ガラスに鼻を押し当てて、星空を見ること。
十二月の寒波ともなれば、家で一番ふかふかの毛布にくるまっても寒さを感じる。
でも、冬の澄んだ空気で見える星は格別だ。きっと、宇宙で一番美しい宝石だ。もしミイがこの世で一番きれいな宝石を、どんなにすてきな人にプレゼントされても、ミイは『手の届かない宝石』を選んだに違いないだろう。雪も降って、まるでホタルのように寒空の下で光っている。たしか、昔の中国の言葉で『ほたるゆきのこう』とかいう言葉があったんだっけ? この風景とおんなじだなぁ。
けれども、冬の星空を見ながら心配することがある。
おかあさんのことだ。
ミイのおかあさんは、今『まっきがん』というやつにかかっているらしい。ミイはまだ小さいから、その『まっきがん』というやつが何かはわからないけど、とりあえず大変なことはわかっていた。だって、おかあさんが家にいないんだもの。だから、ミイのお世話をするために、お隣に住んでいるおばさんが毎日ミイの家にやってくる。おばさんはチャキチャキした元気いっぱいな人で、お家の周りのお世話が得意らしい。家に来ては、パパッとお家の中をきれいにして帰って、決まった時間に戻ってきてミイにご飯をくれる。いつもギュッと抱いてくれるし、ミイはこのおばさんが大好きだ。今日もおばさんはミイの家に来た。
「ミイちゃん、あがるで。おばちゃんやで。」
「はーい、おばさん!」
「ほっほっほ。今日もミイちゃんは元気ええな。おばちゃんも元気もらえてうれしいわあ。」
「わたしもいつもげんきもらってるよ、おばさん。」
「おーおー。その元気に乗じて、今日はいっぱい遊んだるからな。」
「ふふふ。」
「さあて、今日は水回りのお掃除と、ゴミ出し、アヤコさんへのお見舞いのご飯つくる、かな。ま、パパッと終わらせまひょか。」
「おばさん、がんばってね。」
おばさんは私へご飯を用意した。私はそのままご飯をサラサラ食べる。ああ、私の好きなフレーバーにしてくれてるんだ! 一番好きなのはおかあさんだけど、おばさんはその次に好き!
ご飯に夢中になっているうちに、おばさんはガサゴソとゴミ箱の中身をゴミ袋に入れ終わっていた。
「アヤコさんもおらへんから、なあんにもないなぁ。ミイちゃんのご飯の包装ばっかりやわ。」
と言いながら、20ℓのゴミ袋一つすら満タンにならないほどの量のゴミを出しに行った。
おばさんがいないとき、私は思い出す。3年前、おかあさんが男の人とケンカしていたことを。よく、その人はおかあさんのことをぶっていた。ぶっているときの手の形は、パーの手の形のときもあるけど、一番多いのはグーの形の手だった。怖かったから隠れていることが多かったけど、やがて見かねた私は、そのとき伸びきっていた爪を使ってその人の顔をひっかいた。ガリガリッと音がして、私の体に赤いものがついた。私はどうやら、その人の鼻から右側のほっぺにかけてひっかいたらしかった。その男の人は、「いってえぇ〜! なんなんだよ、このアマ! こんないらねえもん、家に入れやがって! もういい! リコンだ!」そう叫んで、男の人はどこかに行ってしまった。おかあさんは、悲しそうで、それであって晴々とした顔をしていた。汚れてしまった私を抱き上げると、「ミイ、ありがと。体を拭かないとね。」と言った。『リコン』という言葉の意味も、これまたわからなかったけど、おかあさんのところにもう来ないという意味らしかった。そこからミイとおかあさんの平穏な生活が始まったのだ。おかあさんはミイを養うためにいつも仕事に行っているけれど、『まっきがん』というやつにかかっているから、お金をもらえるお休みをもらっているらしい。なぜミイが家に残っているのかと言うと、ミイのおじいちゃんやおばあちゃんはもう死んでしまっていて、その上ミイは他の子と比べて家からあまり出たがらない珍しい子だからだそう。だけど、生活するためのお金は必要になってくるから、それは信用できるおばさんへ最低限送られ、ミイのご飯代などに消えていく。残ったお金はおばさんへのお礼なんだそう。
少しよくないことを思い出してしまったなと思い、ミイは頭をブンブンとふった。
「ミイちゃん、帰ってきたでー。ついでに買い出し行ってきたから、遅なってしもたわ。今からアヤコさんへのご飯つくるわ。イタズラしたら許さへんでー。」
「はーい。おばさん。」
「おーおー、ちゃんと人の言葉が理解できとる。あんたはやっぱりええ子や。あとでご飯やから待っててーな。」
「はーい!」
そうしてミイはもうご飯。時間が経っちゃうのは速いなあ。今日は遅くに起きたからだろうか。まあ、あとは歯磨きをしてもらって寝るだけというのなら、楽だしいっか。
そうして二日後。今日もおばさんが来たけど、いつもの笑顔は無く、真っ青な顔をしていた。オリーブ色のバッグには大きなノートが差しこまれていた。読めないけれど、『遺言書』と書いてある。なんだか嫌な予感がして、ミイはおばさんに近づけないでいた。
おばさんは目から水を流していた。これが『なみだ』ってやつなんだろうか。
「ミイちゃん、アヤコさん、今日がトウゲらしいわ。もう、『がん』がリンパセツにテンイして、手術するにもどうしようもあらへんって……。今日はあんまりなごここにいられへんから、ささっと済まして病院行ってくるわ。本当はミイちゃんも連れて行きたいけど…………、怒られてまうからなぁ。………ほんまに、ごめ、ん、なっ………!」
トウゲ? リンパセツ? テンイ? なんのことだかさっぱりわからない。おばさんはなみだを流しながら家に上がった。
今日は作業をするときにもずっとなみだを流したままだった。ミイが話しかけても、そのままで反応してくれない。
「おばさん、ねーえ! おばさん!」
「ミイちゃん、悲しいよな。おばちゃんも悲しいねん。アヤコさんが、もうしんじゃうなんてな……。」
「だから、おばさん! 『しんじゃう』ってなんなの? おかあさんはだいじょうぶなんでしょう?」
「そんなになくことはないんやえ。なんかあったらおばちゃんがなんとかしてあげるから。安心しいや。」
『しんじゃう』ってどういうことなんだろう。ミイにはわからない。
「おばさん! わたしのおかあさんは、ずっとわたしといっしょだよ!」
おばさんは私の言葉を無視して家事を終わらせると、鍵を閉めるのもいい加減に帰っていってしまった。
「おかあさん、なにがあったんだろう。………だいじょうぶ、わたしとおかあさんは、ずっといっしょなんだもん。」
そうして、夜。いつもどおり窓ガラスに鼻を押し当てると、その冷たさに飛び上がってしまった。
ガラスの向こうには、指輪につけたいと願うぐらいの星がまたたいている。雪も降っていた。雪はホタルみたいに光って、星と一緒にキラキラしている。その光景に思わず見とれていると、ドアがガチャリと開けられる音がした。
「この音……、玄関のドア! おかあさんが帰ってきたんだ! 『まっきがん』がなおったんだ!」
うれしくて、ミイは玄関のドアまで走ってしまった。
でも、鍵を開けた主は『おかあさん』ではなかった。
「あれ……? おばさん? どうしたの?」
思わず聞いてしまうぐらいに、おばさんの顔は涙と鼻水でぐちゃぐちゃになっていた。
「ミイちゃん……、アヤコさん………、あああああああ!」
そうして、おばさんは床につっぷして目から大量の水を流した。
ミイはその水をペロッと舐めてみた。
「しょっぱい!」
しょっぱい水? おばさんのおめめは海とつながっているの?
おばさんはずっと泣いている。床がびちゃびちゃになったけれど、ミイはおばさんのなみだを一生懸命なめとった。そうじゃないとかわいそうだったから。
30分ほど経つと、ようやくおばさんは落ち着いたようで、ぽつりぽつりと話し始めた。
「ミイちゃん、アヤコさん、今日に亡くなられはってん。ちょうど今日の夕方ごろやったわ。最期に『マキエさん、ミイを頼みます。私のとても可愛い子なんです。———ああ、ミイ………、会いたいよ。』って言わはってな。ミイちゃん、愛されてたんやな……。今度は私の番や。次は悲しい思いはさせへんからな。」
ねえ、『しんじゃう』って、どういうことなの? わたしはかなしくなんかないよ。それより、おかあさんはどこにいったの?
そう聞いたつもりなのに、ミイはその思いが言葉になっていると感じられなかった。おばさんはミイの白い身体を抱き上げると、ぎゅっと抱きしめた。そして、ミイの三角の耳と、長いしっぽをなでた。
お母さんがどうなったのか、『死ぬ』ということがなんなのかもわからず、ミイはただ「にゃあ」とないた。
どうでしたでしょうか? 実は、ミイはネコという設定でした!
文章の中から、ネコであることをほのめかす表現がありましたが、みなさんわかったでしょうか?
短いですが、ここでお別れにしたいと思います。お元気で!




