第97話 後日談SS テロリストは許さにゃいな
(山口夢)
今日で岩崎さんが居なくなって、一年が経つ。
私には子供が四人も居るから毎日結構忙しい。
実子の四人の他にも、岩崎さんのお嫁さんたち、総勢十四人が、一年半の間にそれぞれ子供を産み、私が昔、幼稚園の先生をしていた事もあり、基本的には全員の世話をしている。
流石に一人では大変なので、保母さんの資格を持つ方をもう一人雇用して頂いた。
岩崎さんは、個人では世界一のお金持ちだったので、私達が生活に困ることはあり得ないけど、旦那様の居ない生活はやっぱり寂しいな。
でも岩崎さんはきっと帰ってきてくれると、嫁~sの間では信じられている。
勿論私も信じてますよ。
世間ではお盆が終わり、日常が忙しく動き始めている。
今日は久しぶりにお休みを頂いて、赤ちゃんを連れ、桃子さんと一緒に北九州のショッピング街にお買い物に来ている。
二人共実年齢は、今年で四十四歳になるが、見た目だけなら二十代前半で十分通用するわ。
赤ちゃんを抱っこしているにも関わらず、若い男の子達の視線をさっきから凄く感じるし、まだまだ私も行けてるよね。
夏も盛りなので、私も桃子さんも露出の多いカッコなのもあるけどね。
ベビー用品店で、赤ちゃんの肌着やおむつを買い揃えて、ちょっとだけ桃子さんとお茶をする事にしたの。
その間だけデパートの保育ルームに、赤ちゃんを預ける事にしたんだけど、その判断が大失敗だった。
この北九州特区には、世界中のセレブが買い物に訪れるから、セキュリティには問題がないと過信してしまっていた。
『ズギューーーン』と言う大きな銃声が聞こえた。
その音の直後に電気設備を破壊されたようで、館内が一斉に停電してしまった。
今の時代は、各国が対モンスター用の装備に切り替えてしまったせいで、裏社会では以前軍で使われていた銃火器が信じられないような、安値で取引されているそうなの。
テロに使われる危険性も考慮せずに、放出した国は馬鹿だよね。
更にポーターのJOBや収納バッグと言うアイテムを使えば、危険な武器もほぼノーチェックで、税関を通り抜けれてしまう。
【D特区】を抱える日本では、理由のいかんを問わず、犯罪者が日本国内で被害を与えた場合、その所属国からの【D特区】への、渡航を半年制限する。
と、言う厳しい処罰を設けて、犯罪者が【D特区】に訪れ無い様、自国でまず厳しいチェックをして貰う制度になっているけど、今回のようなテロを起こすような人は、そんな法律など関係ないよね。
館内放送が聞こえた。
どうやらテロリストのグループが、言わせてるみたいだわ。
今から十分以内に現在館内に居る全ての人間は、最上階のフロアに集まれと言っている。
十分を一秒でも過ぎると、最上階以外のフロアで、人間を発見次第射殺するって言ってるわ。
私と桃子さんは、まず赤ちゃんを取り戻そうと思って、保育室へ大急ぎで向かったわ。
でも既に保育室は、テロリスト達に制圧されてたの。
何人居たのかは解らないけど、赤ちゃんは既に連れ去られていた。
私は凄く焦った。
私と岩崎さんの愛の結晶を、奪う奴らは絶対に許さない。
桃子さんも当然同じ感情を持ったみたいで、二人で目を見合わせると、直ぐにどうするべきかを話し合った。
取り敢えず、スマホは使えたからまず鹿内さんに連絡を取った。
鹿内さんは、直ぐに救出に向かわせる手はずを整えるから、私達は無理をしないように、取り敢えず犯人の要求に従って、最上階で待機するように伝えてきたわ。
犯人の人数も目的もはっきりしない上、赤ちゃんを奪われている状況では、抵抗は危険を生むだけだからと、お願いされた。
仕方なく、私達は最上階に向かった。
十分が経過したわ。
指定されたフロアには二千人近くの人が居る。
私の赤ちゃんは? 探すが見当たらない。
何処か別の所に連れて行かれてるようだわ。
心臓が早鐘のように高鳴る。
許さない。
絶対に許さない。
下層階から、何発もの銃声が聞こえてきたわ。
どうやら犯人たちは、最初の宣言通り、時間を過ぎた直後から、発見した人達を問答無用で射殺している様だった。
狂ってる……
更に五分後に犯人グループの首領らしき人が現れて喋り始めた。
ネットで同時配信をしているようで、撮影している人もいる。
私と桃子さんは、魔導具の『言語翻訳機』を持たされていたので犯人の要求が解った。
ダンジョン技術の解放と現金を要求している。
きっとダンジョン技術はそれらしく聞こえるように、こじつけているだけで、単純にお金が欲しいだけだろうなって思った。
だってダンジョン技術の内容は何も言わないしね。
しかも金額が結構凄いことを言ってる。
現金で一千億円だ。
この人たちもきっと収納バッグを持ってるんでしょうね? だって現金の一千億円って、一万円札で十トンもの重さがあるんですからね? HQのバッグで十個か、Rのバッグが必要となる。
私はRのバッグ持ってるけど、一般にはまず流通していない筈だわ。
それよりも、北九州特区内は現金取引は基本行われていないから、何処かから運んでこなければ、お金は無い筈だ。
その時私と桃子さんの隣りにいた四十代くらいの女性の方が、いきなり犯人から銃撃された。
勝手に外部に連絡を取ろうとしたら、他の方も同じ事になります。
次からはもしスマホを触っている人を見たら、その本人と両隣にいる人も射殺すると、通告してきた。ご丁寧に私に銃口を向け今の場合だと、お前とお前だと言って銃撃するポーズを見せた。
その時私に念話が入った。
『島だ、現場の状況を伝えられるか?』
私は念話で出来る限り詳しく状況を伝えた。
『犯人たちは、この監禁されているフロアには十名が居ます。他のフロアにも分散して銃撃を繰り返しているので、総数は倍以上だと思います。みんなマシンガンのような武器で武装しています。既に何名か射殺されています。私は大丈夫ですが、赤ちゃんが何処に連れて行かれたかがわからないんです』
『今は刺激しないようにして下さい。出来る限り早く解決します』
そう伝えられて念話は途切れた。
一時間近くが経過したと思う。
トイレを希望して発言した人が居たが、あっさりと射殺された。
その状況を見て泣き出した女性も射殺された。
何も出来ない。
更に一時間が経過し、トイレを我慢できずに漏らした方も何人か現れ、辺りに悪臭も漂い始めた。
途中で射殺された人の遺体もそのまま放置されており、流れ出した血液が床を赤く染めている。
絶望的な状況だわ。
せめて赤ちゃんの安全が判れば、私と桃子さんはレベルも二百を超えているから、一瞬の隙きがあれば、この犯人程度なら対処できるのに。
しかし、他の方々の安全を考慮すると、それも現実的ではない。
迷わず殺してくるから……
未だに定期的に階下から銃声が響く。
きっともう百名近く殺されているはずだわ。
再び犯人が前に立ち、要求に答えるのが遅すぎる。
これから小便を漏らした人間から順番に射殺すると宣言し、最初に漏らしてしまった人がいきなり射殺された。
その光景がネットで配信され続けている。
そして既に漏らしていた人達を、立て続けに射殺した。
更に射殺した人の横にいる人物に対して、死んだ人間の衣服を脱がせ、床の掃除をするように命令を下した。
我慢できずに嘔吐した人が出たが、射殺された。
地獄だ。
そして二時間半が立った頃に、念話が入った。
『東雲です。TBちゃんが侵入したわ。最上階で間違いないわね? 』
『はい、間違いありません』
良かった。もう解決したも同然だ。
TBちゃんは岩崎さんの従魔で見た目は普通の子猫だ。
でもそのレベルは現在最強のレベルを誇る島長官すらも上回る。能力も特殊で百メートル以上の巨大サイズから、一センチメートル以下の極小サイズまで自由に変化できる。
その全ての大きさで見た目は生後一ヶ月の子猫だというのがポイント高い。
TBちゃんが桃子さんの側に辿り着いたみたいだ。
何か話してる様だ。
TBちゃんが再び姿を消した。
私は桃子さんに念話した。
『何を話したの?』
『私達より先に、赤ちゃんを助けてってお願いしたわ』
『ありがとう』
そして、五分後くらいにTBちゃんが再び現れた。
今度は私達の側には現れず、直接犯人たちの間を子猫のサイズで走り抜けた、隠密性が高いので、全く気づかれないままこの階層を一周して来た。
その直後に犯人達が全員その場に倒れた。
何が起きたか解らず呆然と見る、人質になってた人達はまだ誰も動き出せない。
TBちゃんが私のそばに来た。
「どうやったの?」
「東雲さんが、できるだけ殺さないで捕まえてって言ったにゃ、だからみんな気絶させたにゃ、ご主人さまの赤ちゃんが、怪我してたら許さなかったにゃ」
「赤ちゃんはどこ?」
「みんなもう東雲さんの所に預けてきたにゃ」
それから三分後には【PU】が突入してきて全員を拘束して連れ出した。
死亡者が百二十名にも及ぶ国内では類を見ないテロ事件は、こうして幕を閉じた。
その後岩崎家の赤ちゃんの外出時は、TBを連れて行くことが、嫁~sの間では決まり事となった。




