第130話 イワーノフとチェルネンコ
今日から俺達はサンクトペテルブルグの【D54】ダンジョンに着手した。
ロシア政府との交渉の中で、今回はダンジョン討伐後に防衛都市の構築まで行う注文を受けた。
【EDC】が請け負う、防衛都市の構築は防護壁で囲うだけでなく、結界発生装置の設置まで行い、空と地中からのモンスターの襲来まで防ぐことが出来る。
この段階の防衛都市では、防衛都市内に再びダンジョンが現れる事態にならない限り、モンスターからの被害は、無くなる。
日本国内では、既に横田の【D特区】と東京二十三区の広域防衛都市において設置済みだが、国外では初めての設置となる。
まぁ販売した後で、ロシアが結界発生装置を分解して調べ、同じ物を作ろうとする可能性は当然あるのだが、別にそれに対しての禁止は行わないが、その行為によって結界発生装置に不具合が生じた場合は、修理はしない事は通達してある。
果たしてどう言う行動に出るんだろうか?
それはさておき、先日のパリダンジョンを討伐した事と並行して、精強な討伐チームを二チーム育成した事が、世界的に大きく取り上げられた。
平均レベルで百十にも到達したそのチームは、日本の【PU】と【EDC】以外の基準では世界最強となる討伐部隊である。
僅か三日間の育成でその域に到達した事実は、ダンジョン討伐、防衛都市の構築に次ぐ、3つ目の【EDC】の事業として大きく脚光を浴びる事となる。
そして、今日のサンクトペテルブルグの討伐を開始するに当たり、当初予定は無かったのだがGRUのニコライ・アンドロポフ長官からの要請で、二チーム二十四名のレベル百五十までの育成を申し込まれた。
レベル百までで一人に付き百万米ドル。
以降十レベル毎に二十万米ドルの提示に対して、ロシア側からは背に腹は変えられないと、OKを出してきた。
四千八百万ドルの追加報酬ゲットだ。
更にいくらレベルを上げても、実際には装備の充実などが伴わなければ、そのポテンシャルを発揮する事は出来ない。
きっと更に装備品などの要請がされる未来も予想できる。
同行するのは、モスクワダンジョンでも付き添ってきたイワーノフのチームともう一人、イワーノフとはライバル関係にあると紹介されたチェルネンコと名乗る大尉のチームだ。
イワーノフは先日のモスクワダンジョンで、実際の討伐を目の当たりにした事で、銃に意味が無いことを理解しており、モンスター素材のナイフを装着した銃剣をチーム全員で装備していたのに対し、チェルネンコのチームは、ロシア軍の標準装備である自動小銃を装備し、サバイバルナイフもダンジョン素材では無かった。
まぁいいんだけど、イワーノフ達って装備のことくらいアドバイスをするとかいう気持ちは無いのかな?
実際に討伐をスタートする、今回は育成も受注したために一日伸ばしの四日間の攻略予定だ。
前回とは違い俺達のパーティメンバーとして認識した上での討伐なので、何もしなくても経験値は入るのだが、それだけでは結局、プレイヤースキル的な戦闘技術は伸びないから、積極的に戦闘には参加して欲しい所だ。
五層までは問題なく降りてきた。
この階層までは自動小銃であってもある程度の対処は出来る。
ここからは敵のレベルも、チェルネンコたちよりも高い。
レベル四十~五十の敵を相手に、チェルネンコ達のチームは、満足にダメージを稼げることもなく、後退した。
それに対して、イワーノフのチームは、サーベルタイガーやマンモスの形態をした敵に対して、魔法攻撃を織り交ぜながら、銃剣の刺突である程度は戦えている。
チェルネンコめちゃ悔しそうに見てるな。
だが、マンモスタイプの敵に対しては、倒せるまでの攻撃力は不足している。
自分たちの実力を、まず確認してもらえたので、初日はここからはアンリ班が戦闘を行う。
アンリの班は、先日レベルが百十~百二十までに達している。
一般モンスターを倒し中ボス戦を迎える。
この中ボス戦も、アンリのチームは卓越したチームワークで、遠距離からの魔法攻撃と近接武器攻撃を使い分け、レベル七十五オークソルジャーを問題なく屠った。
そこから、十層まではアンリチームが、それ以降はマイケルチームが討伐し二十五層までを初日で終了した。
二十五層の中ボスは、レベル三百七十五リビングアーマーだったので、和也と織田さんで倒してもらった。
その様子を見たロシアチームのメンバーは、何処まで感じ取れてくれたかな?
この日で全員レベルは六十付近まで上げる事が出来たので、翌日は新しいJOBなどを修得して貰った上で、二チームで五層の中ボス戦までを、クリアして貰う事にする。
その日は全員で【EDC】の本社に戻り、今日の討伐で気付いた点を、ロシアチームのメンバーにも意見を出して貰った。
イワーノフもチェルネンコも、国内ではトップの実力を誇るチームだったのだが、実際はアンリチームと比べても、素人同然と言う事実を突きつけられて、口数も少なかった。
だが、お互いのライバル意識だけは異常と言えるほどに高く、明日の討伐の方針に関してはチーム毎でミーティングを行ってもらった。
そこで俺は、明日の二チームの討伐はお互い競い合ってもらうことを提案した。
五層までの討伐時間を競い合って貰う。
作戦や必要な装備などは、各チームに任せ、求める物をRクラスまでの範囲で貸し与える条件だ。
そして翌日、レベル的にも今日は五層の敵は格下になっているので、順調に進んでいる。
問題は中ボス戦だ。
やはり昨日一度経験した事が大きい。
アンリ達の動きを真似する事でイワーノフ達は五層の中ボス戦までを三時間程でクリアした。
続いてチェルネンコのチームだ。四層クリアまでは、大差は無いがイワーノフのチームより少し時間がかかっている。
だがチェルネンコが俺に言ってきた作戦がハマれば、五層の中ボス戦では逆転が可能だがどうかな?
チェルネンコのチームのシーカーJOBを持つ隊員が、オークソルジャーの鑑定を行い、弱点の氷属性を集中させる指示を出した。
更に前衛職のメンバーが属性付与のしてある武器を使い、一気にHPを削りきった。
チェルネンコが頼んできたのは、属性の付与がしてある武器は存在するのか? と言うことであった。
魔法に属性が存在するんだから、武器にも存在するのではないかとの予想のもとで、基本四属性の火、氷、土、風の各属性を付与した武器を三本ずつ用意していた。
イワーノフに貸与したものは、属性は付与してない。
トータルタイムでは、イワーノフ達を十五分以上、上回った。
実際昨日はアンリ達のチームは、レベル差がある敵だったので、力押しで倒したが、弱点属性の存在に気づき、それを巧みにつくことで討伐の効率は大きく変わる。
自力で気付いた彼らは戦闘センスが優れているのだろう。
勝利したチェルネンコのチームには、今日貸与したR品質の装備をプレゼントした。
イワーノフのチームに対しては、欲しければ販売をすると伝えた。
ここで装備で差がついてしまうと再度の逆転がほぼ不可能になる。
イワーノフの班の連中は装備一式を自腹で買い揃えた。
一人分で二万五千米ドルになる。
メチャクチャ悔しそうだ。
最終日にもう一度、今度はSRの武器を一振りだけだが、プレゼントする勝負を行うことを伝えると、両チームが再度闘志の炎を燃やしていた。
因みにこのSR品質の武器は、この世界基準の販売価格では五十万米ドルを超える価値がある。
予定より時間が掛かり過ぎたので、二十六層に転移して俺と雪で四十層までの討伐を行い二日目を終える。
俺と雪の戦いを見た、ロシアの連中は口をあんぐりと開けていた。
まぁ雪がブレスを吐いて腕を振り下ろすだけで、今日の階層くらいの敵だとみんなバラバラになるもんな。
◇◆◇◆
そして、最終日を迎えこの二つのチームは、双方ともレベルも百三十まで上昇していた。
このレベル帯だと装備と特技を駆使すれば、十五層までなら危なげなく戦える筈だ。
今日は十五層の中ボスを攻略してもらう事にしたが、十四層の階段を降りる所からスタートしてもらい十六層に降り立つまでの時間を竸ってもらう。
中ボスのリポップ時間は二時間だ。
レベル二百二十五のゴブリンリーダーがレベル百五十から二百までのゴブリン軍団を八匹従えている。
ソルジャー、アーチャー、メイジ、ヒーラーが各二匹ずつおり、チームバランスがいいし、気を抜けばスグ崩壊させられる相手だ。
果たして討伐できるのかな?
初日にマイケル達が倒した時には、レベル差もあったのでゴリ押しで通り抜けたために、余り今日の参考には成らなかったと思うが、どう対処するのかが楽しみだ。
そしてまずチェルネンコの班がスタートした。
十五層のステージは、森林ステージで見通しは良くないために気を抜けない。
巨大な蛇型のモンスターが樹上から襲ってきたり、蜘蛛型のモンスターが網を張っていたりする。
斥候職の人間が感知を発動させながら進み、中央部分を目指す。
オブザーバーとして、俺と和也が見守ってはいるが、ヘルプを求められない限りは手は出さない。
やっと中央部分にある神殿に、到着した時には半数のメンバーが何らかの負傷を負っている状態だった。
神殿突入前に、ハイポーションを使用して回復させ、作戦を確認しあって突入していった。
結果は、最初は良い勝負を繰り広げていたが、メイジの魔法攻撃で、隊を分断させられ、そこにアーチャーの矢の援護を受けながら、リーダーに突入され、チェルネンコ班は崩壊した。
その時点で和也が飛び込み、俺はチェルネンコ班の負傷者を治療して結界を張って隔離した。
またたく間に和也がゴブリンの部隊の首を刈り取って行き、終了した。
チャレンジは失敗だ。
隊員の中で三名は理が居なければ、死亡していたレベルの怪我を負い、チェルネンコ自身も足を骨折する事態に陥っていた。
敗因は、経験不足かな?
次いでイワーノフのチームがチャレンジする。
前回チェルネンコ班に負けた事により今回は気合十分で作戦を練っていた。
チェルネンコのチームの失敗は伝えていない。
森林ステージは、四人ずつ三チームに分かれて効率よく対処して神殿に到着する。
ここでも四人ずつのチーム構成で、一つのチームがリーダーを牽制する事に専念して、残りの二つのチームで、まずヒーラーを撃破し、メイジ、アーチャーと順番に対象を絞って倒した。
リーダーに付き従っているヒーラーにも回復を行わせないように、プレッシャーを与え続けている。
取り巻きを倒しきり、自分達の怪我に対してもすぐにポーションを使い対処している。
そして全員揃った状態でリーダーを囲み、遠距離攻撃のいっせい攻撃でヒーラーを倒し、リーダーも全員攻撃に拠って撃破した。
勝負はイワーノフチームの勝利だった。
今回の結果は作戦勝ちだな。
実際実力的には大差がなかったが、対処方法次第でここまで結果は変わってしまう。
そして全員が集合して、最終層までの討伐を終了させ、【D54】サンクトペテルブルグダンジョンの入り口は消失した。
イワーノフにはSRの大剣を与えた。
攻撃力に大幅補正の着く逸品だ。
今回参加したロシアチームのメンバーの平均レベルは百六十に達していた。
アンリチームは平均二百を超えた。
【GRU】のアンドロポフ長官に討伐の終了報告をして、一日休んで防衛都市の構築に取り掛かる事を伝えた。
ロシアのお国柄、【EDC】だけで自由に国内を動くことを良しとしないので、防衛都市の構築が終了するまでの期間は、イワーノフ、チェルネンコの二チームが監視を兼ねて、防衛都市の構築の勉強という名目で帯同することになった。




