第128話 パリダンジョンとレジオン
鹿内さんが颯太と話した結果、一番大切な部分である東京二十三区を囲みこむ防衛都市を作り上げたいと言う要望が出た。
東雲さんがテレビ局と交渉して、防衛都市構築のドキュメント番組を制作する事になった。
撮影班を出して貰えれば、放送は無料でして貰って構わない替わりに、防衛都市構築のプロモーションビデオを【EDC】の営業用に作成して貰うという話になった。
勿論プロモの制作料は無料だ。
ロシアからもサンクトペテルブルグの【D54】ダンジョンの討伐依頼が発注された。
こちらはまだスタンピードまで三週間を残しているので、緊急では無いが、被害の大きなモスクワよりもサンクトペテルブルグに首都機能を移転してしまう予定になった様で、ダンジョン討伐と併せてかなり広域な範囲での防衛都市計画を発注したいという事だ。
モスクワとサンクトペテルブルグを繋ぐ転移門とのセットで、総予算は一兆円にも上る高額受注と成る。基本的に持ち出し材料費が殆どない事業なので、純利益で9000億を超える事になるだろう。
まずは東京二十三区を囲い込む防壁工事から着手することに成る。
マイケル達と雪に周辺の警護を任せて、【DIT】の澤田さんが用意した都市計画図に併せて、防壁を作り上げていく。
織田さんと和也がPUの部隊に指示を出しながら、防壁内部のモンスターを殲滅していき一週間ほどで、二十三区を囲い込む防衛都市は完成を迎えた。
テレビ局の密着取材を受けながら、防衛都市を作り上げたドキュメント番組は、人々に希望の光を見せ、視聴率もドキュメント番組としてはあり得ない高視聴率を叩き出した。
防壁完成後に、【EDC】のメンバーは食事会に招かれ、その席でこの世界では初めて大泉総理と会った。
「岩崎さんありがとうございます。今の時代にこれ程、国民に希望を見せてもらえた事業は、日本の復興に置いて大変有意義な事です。これからもお互いが協力しあい日本と世界の復興に力を尽くしましょう」
と、なんとも堅苦しい挨拶を受けてしまった。
総理も相当精神的に参ってるんだろうな、向こうの世界ではもう少し余裕あったけどな。
この時のドキュメンタリー番組は、世界各国に向けて翻訳され、そのおかげで【EDC】には一気に注文が舞い込むことに成るが、とてもじゃないが全部の注文を捌き切る事は難しいので、本格的に人員の補強をしようと言う話になった。
俺はマイケルと織田さんを連れて、【G.O】でフランスを訪れた。
レジオンに渡りを付け、国際的に人員補充を行う為だ。
ヨーロッパは国境が複雑に入り組んでいるが、所詮地続きなので、一箇所でもスタンピードを起こせばすぐにヨーロッパ全域に広がってしまう。
既にパリの【D46】ダンジョンがスタンピードを起こしているのと、エルサレムやモスクワからのモンスターの流入によって状況は、最悪と言っていい物だ。
【EDC】の名前でレジオンに面会を申し入れると、非常に好意的に迎え入れられた。
対応してくれたのはレジオンの頂点である少将の階級を持つアラン・ジュネと言う人物であった。
「アンリ・ゴダールと言う大尉が在籍しているはずですが、単刀直入に彼をスカウトしに来ました」
「唐突ですな、彼はレジオンでも非常に有能な士官であり、それ相応の条件の提示がなければ、お話を伺う事は出来ませんな」
「勿論そうでしょう。現在【EDC】には世界各地からダンジョンの討伐要請、防衛都市の設営の注文が殺到しています。当然このフランス政府からも要望が出されています。彼と彼の部隊の移籍を認めて頂ければ、最優先でパリダンジョンの攻略に着手しましょう。その際に二チームほどの部隊を、育成して差し上げるサービスも付随させます。恐らくこの国の兵士の最高到達レベルで四十までは届いていないはずですが、私共にお任せ頂ければ、平均でレベル百以上の二チームを育成致します。交換条件としては破格かと思いますがいかがでしょうか?」
「確かに魅力的な提案ですね。本人達の意思の確認をさせて頂いてからと言うことで構いませんか?」
「勿論それで構いません。それでは今日の所は失礼させて頂きます」
交渉はすべて、代表取締役である織田さんに任せてある。
彼は元々が外務省のキャリア官僚で語学も堪能であり、今現在は翻訳機も装備しているので、ネイティブ以上に言葉の中に隠れているニュアンスまで読み取ることが出来る様になっている。
◇◆◇◆
翌日にフランス当局から、本人が直接面談を行いたいとの要望が入ったので、早速出向ことにした。
今回は当局ではなく本人との対話なので俺が話す。
「アンリ、この世界では、初めましてだな俺はオサムと言う。この世界ではないもう一つの世界から、この世界を救うために来た。もう一つの世界で俺の仲間だったアンリをスカウトに来たんだ」
「そう言うことですか……俄には信じ難いようなお話ですが、モスクワ、N・Y、日本のこの一月程の状況変化を客観的に分析させて貰うと、逆に今の自己紹介でないと納得できませんね」
「向こうの世界で俺の仲間だったアンリは、今ここに来ているアメリカのグリーンベレーのチームリーダーだったマイケルと同レベルの強さを誇っていた。実際に、この世界で俺と合流してからは一気に強くなってるぞ」
「俺達も強くなれるのですか? ダンジョンの攻略が行えるほどに?」
「勿論その要素の無い者を、わざわざ迎えに来たりしない。訓練は甘くないけど、俺達と行動をともにすれば、必ず成し遂げることが出来るようになる」
「解りました。俺達はレジオンの誇りを胸に世界を救うことが出来るのであれば異存ありません。行動を共にさせて頂きます。同行するのは俺のチーム十二名で構いませんか?」
「それで構わない。当面はグリーンベレー出身のマイケルのチームとマンツーマンで行動してもらい、ダンジョンの討伐に馴染んでもらう。民間組織だからサラリーは実績に拠って大きく変わってくるが、軍に所属する場合の倍程度は期待してくれ」
「その提案はご機嫌ですね、使う暇はあるんですか?」
「アンリ達が慣れてくれれば、マイケルのチームと交代出動が出来るようになるし、時間は取れるさ。俺も基本的には仕事をするのは嫌いだからな、忙しくなりすぎるようなら更にチームを増やすことも考える」
「俺個人としては、フランスの安全を確保して安心して旅立ちたいので、パリダンジョンに取り組みたいんですが大丈夫ですか?」
「ああ、アンリをうちに貰うために、フランス政府とのバーターで、そこから取り組むことにしてある。早速だが今日これから政府と契約書を調印して、アンリの同僚達も二チーム育てる約束をしているから、そのまま攻略に向かう。今日は二十層まで終わらせる」
「ぶっ飛んだ指示ですね、今まで三層までしか見たこと無いんですが、大丈夫なんですか?」
「おう、今日は社会見学のつもりで、自分の身を守ることだけ考えれば大丈夫だ」
フランス政府との契約は、織田さんと和也が滞り無く終わらせていたので俺達は総勢五十人程のメンバーでパリダンジョンの攻略に取り組んだ。
二十層まで進むのには、レベルが三十そこそこしか無かったフランス軍の連中にとっては、大変な危険が伴うので、マイケル達のチームには、説明と守りに専念してもらい、狩りは俺と雪と和也と織田さんの四人だけで行っていく。
ダンジョンの鑑定や中ボスの討伐の注意点を交えながら二十層までの討伐を終え、転移門でダンジョン入口まで戻る。
スタンピード済みのダンジョンの為、凱旋門の真下にあるダンジョン入り口の周辺には、モンスターの姿も散見される。
今日である程度のレベルアップを果たした、フランス軍の二つのチームと、アンリ達のチームがそれぞれ隊列を整え、辺りに散らばるモンスターを撃破した。
ダンジョン突入前と比べて格段の戦果の向上を実感していたが、俺達から見たら全然物足りない。
一度三チームを集めて、一チームずつに装備品を貸し与えて再び戦闘を行わせる。
今回は、先程以上に素早い殲滅を果たした。
装備の大切さを実感してくれたかな?
◇◆◇◆
翌日の午前八時の集合を伝え、初日の攻略を終了する。
アンリ達のチームは転移門により、そのまま一緒に関空の本社に来た。
アンリチームのそれぞれのレベル、JOBを確認して、各人に合わせた装備品を整える。
どうしても兵士出身なので基本が銃火器の取り扱いと銃剣技を得意とするために、JOBもガンナーやソルジャーと言った物が多く現れる傾向がある。
こういったJOBが弱いわけではないのだが、使い捨ての弾丸や砲弾を使用する事で攻撃力を高めるから、ランニングコストが高いんだよな。
生産職を同時に習得するか、魔法を銃火器型の媒体から打ち出すような感じにしないと実用性に欠ける。
既存の銃弾や砲弾は属性付与しない限りは、使い物にならない。
その点ラノベ文化に馴染んだ日本ではJOB取得時点で、魔法職や探索職、生産職等を効率的に取得できている人員が多かったのを改めて実感した。
各人共に対人格闘戦を叩き込まれているために、大型のナイフを基本装備として与える事にした。
防具もバトルスーツとバックラーを用意して、HQクラスの収納バッグと一揃いで各人に支給した。
これだけで、今日の時点ではフランス軍から派遣された二チームと同等の実力だったものが、隔絶した実力を示すように成るだろう。
明日の午前中は、十層程度の場所で戦闘を実際に行わせてみよう。
鹿内さんと東雲さんに生産職の人間を集めさせて、アンリチームとマイケルチームのソルジャーJOBを活かし切る装備品の開発をさせて行くのもいいかな。
◇◆◇◆
翌日は朝から予定通りに再び十層まで向かい、フランスの三チームに午前中は討伐を実践させた。
予想通りに装備を整えさせたアンリチームは、他の二チームとは隔絶した動きを見せた。
フランス軍の二チームに、有料ではあるが装備類の相談に乗ることも出来ることを伝えて、討伐を再開する。
二日目は三十五層までを終了させた。
マイケル達のチームだけで、三十五層のレベル五百二十五キングゴブリンと取り巻きのジェネラル達との戦闘をさせる。若干危ない場面は在ったが、魔法耐性の低いキングゴブリンを総攻撃でなんとか撃破した。
実際三週間前までは、今のアンリ達と大差ないレベルであった事をフランスチームのメンバーに教えると、各チームのメンバーも闘志を漲らせていた。
まぁ今日の敵であれば、俺でなくても織田さんだったら、一人でもマイケル達のチームが殲滅するよりも早く撃破できたと思うが、余り隔絶した狩を見せても逆効果にしか成らないだろうからな。
そして三日目には【D46】 パリダンジョンは討伐を終えた。
今回の結果を大々的に発表すれば、更に【EDC】への討伐依頼は殺到するだろうな。
インド政府へ働きかけてデリーダンジョンとのバーターでルドラのチームを引き抜くのもありかな?
さぁ明日は一日休んで、サンクトペテルブルグのダンジョン討伐と、防衛都市の構築を始めよう。




