第126話 ロシアの思惑
ロシア連邦軍参謀本部情報総局 【GRU】 局長 ニコライ・アンドロポフ
モスクワダンジョンが討伐され入り口は消滅した。
既にスタンピードを起こしていたこのダンジョンは、我が国に壊滅的な被害を与えた。
一億四千万の人口はダンジョン発生から僅か一年の間に六千万人まで減少している。
ダンジョンから溢れ出したモンスター共は人間、動物を問わず、メスの個体を狙って生殖行為を行う事実が発覚し、異種交配で産み出されるモンスターは更に強力な種となり、異常な速さで成体になり更に交配、進化と繰り返していく、おぞましい事態だ。
それに対して人類はモンスターの成長に全く追いつける事無く、ただ捕食されていくだけの存在になりつつ在った。
しかし今回民間のダンジョン討伐を掲げた会社【EDC】によって依頼から僅か三日間と言う日数で、国軍が総力で当りながら、僅か三階層までしか討伐が進んでいなかったダンジョンが、最終四十三層まで討伐された。
この事態をどう捉えるべきなのか……彼らの出自にも問題が在る。
一番多かった米国人は、グリーンベレーの退役兵だと情報が上がっている。
米国はダンジョン討伐に置いて我がロシアを圧倒的に上回る戦力を抱えていたということなのか?
現在報告が上がっているダンジョン産の産出物、今までになかった金属やポーションと呼ばれる薬品類、魔核と呼ばれるエネルギー結晶の様な物も存在している。
それに加えて今回討伐を行った【EDC】が、記者会見の際に使ってみせた、転移門等の魔導具の存在も明らかになった。
世界の常識が変わる。
ダンジョンを支配する力があれば、世界のエネルギー、医療、交通、流通、生産の全てにおいて、今までの世界とは隔絶した社会が作り上げられることは確実だ。
少なくとも今回の【EDC】のメンバーは日米の混成メンバーであったと、討伐に同行させたイワーノフからの報告で明らかになっている。
ダンジョン内での討伐の様子を撮影させた映像でも確認しているが、武器がありえない攻撃力を産み出しているし、従魔と呼ばれる九尾の狐の強さが際立っている。
【EDC】と同レベルの討伐組織を早急に作り上げろと、大統領から直接命令が下ったが、我が国で一番優れた討伐者として同行させたイワーノフでさえ、不可能と言わしめさせた。
【EDC】を取り込むことは可能かの問いかけに対してもnetの返事だ。
まぁこれは当然だ。
僅か十七名のチームが、千人以上の部隊を最新兵器で完全武装して投入しても、三層までしか潜れなかったダンジョンを、簡単に討伐してしまう実力を持っているのでは、脅しも何も通用しないのは明白だ。
加えて我が国には、まだサンクトペテルブルグダンジョンも在るし、既にダンジョンの外でも恐ろしい速度で、モンスターは増殖している現状では、この【EDC】と言う組織と友好的に関係を築き上げる事が、唯一のわが祖国が生き残るための道であると言える。
駄目元で人材育成の依頼をするか? この組織はダンジョン討伐のみならず、防衛都市の開発を請け負うと公言している。
まず試しに一箇所任せてみて、有用性を見いだせれば次を考えてみればいいか?
一体どれだけの対価を要求してくるのかが気になるが、この会社とのパイプは深くして置かなければこの国は世界の流れに完全に取り残されるだろう。
思ったままを大統領に報告すればどうなるであろうか? このまま更迭されてしまうかもしれないが、他に解答は無いとすべての状況が告げてくる。
更迭されれば、亡命してEDCで雇ってもらうかな……
◇◆◇◆
「取り敢えずは【EDC】の初仕事も無事に終わったな。今日はみんなで打ち上げに行くか」
あんまり難しい会議をやるのは、俺的に無理なんで、飯でも食いながら、大雑把な意見を皆から上げて、それを織田さんと和也と東雲さんと鹿内さんの四人で決定して会社は動かしてくれればいいと、本当に大雑把な指示を出した。
マイケル達もそれで十分だと言ってたし問題ないだろう。
みんなで渋谷に向かい、居酒屋で打ち上げを行った。
ビールで乾杯をして、適当に料理を頼み、飲みながら明日の予定を話した。
モスクワダンジョン討伐の一部始終を撮影したデータをテレビ局へ提供し、引き換えに【EDC】が世界各国へ向けたプロモーションビデオをそのデータを使って制作して貰おうとの意見が出た。
まぁダンジョン討伐の映像とか何処の局でも喜んで飛びつく内容だろうし、其れ位はいう事聞いてくれるだろう。
ついでに颯太に頼んで一箇所、国内の防衛都市作らせて貰おうかな、その様子をテレビ局に一部始終撮影させて、ドキュメント風に仕上げて貰って、そっち方面のプロモーションに使えば元は取れるしな。
鹿内さん達もその意見には、すごい乗り気で賛成してくれた。
「早速、島長官に連絡取りますね。サービスで無料でやると言ったら直ぐにOK出ると思いますよ」
東雲さんが「私は先日の記者会見をしてくれたテレビ局の中から、一番好意的に取り上げてくれた放送局に連絡を取って、早速ドキュメンタリーとプロモーションのバーターで動いてくれるように働きかけますね」と言ってくれた。
織田さんが、討伐関連以外にも色々やりたい事が出てきますが、人員がどうしても不足してきますので、人員補充の手段も考えましょうと提案してきたので、それは明日の夜までに各自案を纏めておいて貰って、明日の夕食の時にでも話そうという事に成って解散した。
マイケル達が織田さんと和也と共に、綺麗なお姉さんが沢山いるような店に旅立っていった。
俺は一人置いていかれたメアリーとバーに行って、アメリカ国内の情勢を聞く事にした。
「メアリー。アメリカ国内ではどんな状況なんだい?」
「国内のダンジョンが二つだけでしたから、どちらも入り口が消えた事によって、国内は安心感が広がっていますね。恐らく先日の【EDC】の記者会見の時の映像から、各企業が一斉にダンジョン資源の研究と、魔導具の開発に名乗りを上げて取り組み始めたと思います」
アメリカでは最大の問題はゾンビ化だったから、カースキュアによって、初期段階であれば完治できる情報も広がったので、一気に討伐活動が活発したとのことだ。
マイケル達以外にも、軍関係者だけで元々百六十万人の軍人が居た国だ、ダンジョンのスタンピードで大幅に数を減らしたがそれでも今なお八十万人以上の兵力が在る。
それだけの人数が、ゾンビに対しての対処法を理解した上で、討伐を行っていけばセーフティエリアはどんどん拡がるだろう。
しかし現状ではまだまだ防衛都市も不足しているので、【EDC】のビジネスチャンスは大量にある筈だ。
「オサムは女性とは付き合わないの?」
唐突に聞かれると、ちょっと焦るな。
「ああ、俺は自分の世界に戻ったら嫁はちゃんといるから、この世界ではそう言う予定は無いな」
「へぇ、意外と真面目なこと言うんだね、英雄色を好むって言うから、手当たりしだいなのかと思ったわ、今回のメンバーでも、いきなり女性を二人指名してたし好みのタイプで呼んだのかと思ってたわよ」
「あの二人には内緒だけどさ、メアリーも言うなよ? 二人共向こうの世界では俺の嫁なんだよ、大体の能力とかを把握してるから、物事を任せるのに適任だと思って呼んだんだ」
「ワオ、二人共ワイフって事? やっぱり英雄色を好むは本当なんだね、ねぇ二人だけなの?」
「いや、まぁその話はいいじゃん。メアリーは彼氏はいないのか?」
「居た。が、正しいかな……モンスターにあっけなくやられちゃったよ。最後はゾンビに成って私に襲いかかってきて、私が頭を吹き飛ばして倒したわ、中々素敵な話でしょ?」
「いや……なんかゴメン」
地雷踏んじまった気分だよ……
「おかげでそれから先はモンスターを倒すと体が疼くようになっちゃって、今日は責任取ってオサムが鎮めてね、決まったパートナーが今は居ないなら構わないでしょ?」
なんでこんな展開になるんだよ……
その日は朝までメアリーに強烈に搾り取られた。




