第125話 EDC始動
俺達の会社の創立記者会見から一夜明けた当日、早朝から会社の代表電話は鳴り続けるが、とても電話で対応できるような内容でも無いために『当社に御用の方は、当社公式HPから依頼申し込みの上、こちらからの連絡をお待ち下さい』とのアナウンスを、留守番電話で流すだけのスタートである。
実質、電話番を出来るような余剰人員を置いても居ないためだが、世界の命運を預かる企業としては、塩対応過ぎるスタートであった。
各国のマスコミからの取材申し込みも殺到しているが、すべてはホームページに要件を書き込むことで、こちらからの連絡を待って貰う事になる。
その為に世界中のマスコミも好き勝手に、口だけの詐欺会社なのではないか? 先日の発表記者会見で見せた転移門なども、ただのトリックで存在などしていないのではないか? と勝手な事を言っている。
そもそも公的機関ではないのだから、こちらが動ける範囲で、受けたい仕事を受ける対応の何処に問題が在るのか不思議だが、自分の思い通りに動かない人物や団体に対して、好き勝手な意見を言う事も解らないではないから、まぁ言わしておこうという事にした。
鹿内さんと東雲さんに最初の討伐申し込み地として何処を選ぶのか決めてと丸投げしてみた。
責任の重大さに二人共、決めあぐねたので、最初に申し込みを行ってきた、ロシアのモスクワダンジョンの討伐依頼に関して、交渉を行う事になった。
もともとの俺の世界では、ロシアは【IDCO】への加盟すら行わず、すべての対応が後手に回ってしまい、国が崩壊してしまっていたが、国際的な付き合いではなく、ビジネスライクな関係であれば外部委託に関しても前向きな対応を選択できたようだ。
早速、まずは申込みフォームに在った連絡先に対して連絡を入れる。
こちらが求めることは【G.O】で移動をする為にビザ関連の問題を適用外にしてもらうこと、ロシアの部隊の育成は行わないこと。
討伐に関する依頼料に関しては、階層数✕100万米ドルとした。今回の【D43】の場合は四千三百万米ドルだ。
討伐自体は比較的安価な設定である。
その後の防衛都市の設置の方が、ビジネスとして成り立て易いために、そう言う設定を行った。
こちらの条件を、取り敢えず受け入れたために、早速全従業員が揃ってモスクワへと向かった。
今回は【EDC】としても初めての討伐になるし、今後の各国との交渉や討伐の流れを理解してもらうために、鹿内さんと東雲さんにも討伐に参加して貰うことにした。
【D43】を十七人で討伐すれば、レベル一からスタートしてもレベル百程度までは成長できるはずだから、今後の討伐に参加するしないは別として体験だけはしておいて貰う。
鹿内さんや、東雲さんはレベルは一だが雪に守らせるので問題はないだろう。
鹿内さんが、興味津々で聞いてくる。
「私も岩崎さんのように若返ることが出来るんでしょうか?」
あぁ流石鹿内さんだ……ぶれないな。
「ちゃんとなりたい自分をイメージしながらレベルアップを繰り返していけば、恐らく鹿内さんの言う事は問題なく叶うはずです。際限なく若返るとかじゃなくて、自分のイメージ通りに近づいていく感じですね」
と、伝えると「私頑張ります、世界中のモンスターは私の美貌の糧になってもらうわ」と不敵な笑みを浮かべていた。
ちょっと怖い……
東雲さんは「私にモンスター討伐なんか出来るんでしょうか? 生き物を殺す事には抵抗を感じます」と、言っていた。
「東雲さんは日本だけで八千万人世界中だと四十億人近い犠牲を出している現状を見た上で、そんな事を言えるんですか? 目の前で自分の大事な方を亡くしたりした人は絶対にそんな事は言えないですよ?」と、問いかけてみる。
「すいません。私まだ全然覚悟が足りていなかったですね。頑張ります」
と、覚悟を決めた表情になった。
ロシアの防衛省の人間と、契約の調印を行いパーティメンバーとしては加えないが、ダンジョン討伐の様子を見たいという希望を聞き入れ、撮影機材を抱えての同行を許可した。
それと別に、マイケルのチームの人間にも撮影を行わせ、ダンジョン討伐のドキュメンタリーを作成することにもした。
今回の討伐の様子の映像を提供すれば、世界のマスコミもこちらに協力的な姿勢を見せるだろうとの思惑だ。
スペツナズと呼ばれる特殊任務部隊から、イワーノフと名乗る大尉が部下を三人連れて派遣されてきたが、ロシアのスペツナズは、アメリカのグリーンベレーとは違い、特定の部隊名の呼称ではない。
情報局のスペツナズや、陸軍のスペツナズ等、特殊任務部隊は全てその呼称で呼ばれるために、所属を詳しく聞かなければ、どの組織の人間なのかも解らない。
イワーノフはロシア連邦軍参謀本部情報総局【GRU】の所属だそうだ。
普段は自ら部隊を率いて、モンスターの襲撃に対応しているそうだが、レベルは三十二だった。
これでは、とてもスタンピードに対応出来ていたとは思えないが、生産職の大切さを理解し、モンスター素材を使用した装備を整えなければ五層以下で戦うことは出来ないので、しょうが無いとも言える。
一番大きな問題点は、コアからの情報をこの世界の人間は誰も聞けていなかったので、何をすれば良いのかが解らなかった点だ。
現在ロシアでは、モスクワとサンクトペテルブルグにダンジョンが出現しており、既にモスクワはスタンピードを迎えている。
世界最大の敷地面積を有する国家で一億四千万人を超える人口を抱えていたが、中国側からのスタンピードとモスクワスのスタンピードの影響により、またたく間に国土は侵食され、アジア方面は完全に国の管理下に無くなっている。
現状は、ヨーロッパ方面において人口六千万人を確認できるのがやっとの状況だ。
契約を終え、討伐代金の半額の二千百五十万万米ドルの振り込みを確認し、早速ダンジョンの討伐を行う事にした。
残額は成功報酬としての支払いになる。
イワーノフの一行と東雲さん鹿内さんの六人は雪に守られながらの探索となるが、雪のレベルは二千を超えているので余程の事が無い限りは問題が無い。
既にスタンピードを迎えているために、一層であっても高レベルの敵が現れる危険性が有る為、マイケルチームが広く展開し、雪達を囲むような形で進む。
殲滅自体は俺とマイケル、織田さん、和也だけでも十分なので、俺は二振りの刀「虎徹極」と「典太極」を両手に持ちどんどんと進む。
撮影班に中央部分での、ダンジョンの鑑定から階段の出現の様子を撮影させて、二層以降も同じ様に進む。
五層の神殿で中ボスとの戦闘を迎える様子も撮影させながら、初日は二十層までを攻略して転移門を設置し関空の本社へ戻った。
イワーノフ達をどうするかで少し迷ったが、討伐が終わるまでは同行させるでいいかと、関空の本社へ一緒に連れてきた。
あまりの討伐を行う実力の違いに、イワーノフ達は驚く事しか出来なかったようだ。
鹿内さんと東雲さんは今日を終わった時点でそれぞれレベルが五十まで上がっていた。
鹿内さんの強い意志が、見た目にも大きく影響し、既に三十歳前後の見た目だ。
それよりも重要なことは東雲さんと、鹿内さんのJOBだ。
東雲さんの剣神と鹿内さんの教祖のJOBはこの世界では現われなかった。
これにより、二人には主に事業の推進で活躍して貰う事に決まった。
向井さんには槍神のJOBが現れたのだが、この違いは何にあったんだろうか?
今回のモスクワダンジョンの討伐は最後まで付き合ってもらうが、その後は主に対外的な折衝に置いて頑張って貰う事になる。
翌日は二十一層からのスタートとなる。
既に敵のレベルは二百を超えているので、マイケルチームと、俺、和也、織田さん以外は、絶対に敵と接触しないように念を押し進んでいく。
織田さんの魔法もかなり強力になってきており、特に第六天魔王のJOBで覚える闇属性に関しては強力である。
モンスターを隷属化させて同士討ちをさせたり出来る能力だが、織田さんが普段の生活で女性に対して使ったりしなければいいが……きっと信長も使ってなかった筈だから、大丈夫だろう?
和也のシーカーとしての実力も中々のものだ。
ダンジョンの鑑定は勿論中ボス戦での弱点看破まで問題なくこなし、高い敏捷を生かして戦うスタイルも、俺と雪を除けば最強と言えるだろう。
この世界では、向こうの世界で颯太が使っていたアイテム複製のスキルが失われているので、ボス装備のコピーが出来ないが、翔達が発見した成長装備を持つモンスターの討伐を行って成長系の装備を作ってやろう。
スキルオーブが獲得できれば織田さんか鹿内さんにでも使わせて、マスター装備のコピーをするのも悪くないと思う。
モスクワダンジョンは、この日無事に討伐され入り口は消滅した。
イワーノフと共にロシア防衛省に赴き、討伐費用の残り半分の振り込みを確認して【EDC】としての初仕事を完了した。
ロシア政府に対して今後の防衛都市の構築などの要望があれば、ご注文をお待ちしておりますとの通達と、現在スタンピードを起こしていない、サンクトペテルブルグを出来ればスタンピード前に、討伐依頼を出すことを勧めて本社へ帰還した。




