第120話 TB男前だよね!
俺は何故だかよく解らないままに、佐千原棗さんっていう女の子に突然訪問されて「貴方には世界を救うほどの可能性がある」と、言われてしまった。
ナニソレ怖いんですけど?
とは思ったが、以前野良猫が集まる公園で時々見かけてた、綺麗なお姉さんだって気づいた時に、ちょっと乗せられてみるのも悪くないかな? と、思った。
この歳になって、こんな世界の状況の中で、ただダラダラ過すだけだった俺の日常は、この日を境に激変した。
お向かいのお婆ちゃん。
向井さんも何だかノリノリで「私も協力してあげる」なんて言い出して、もう引っ込みつかないよな。
佐千原さんが言うには俺はTBをテイムして刀を持って戦い、凄い武器や魔導具を作ったり、誰にも使えないような魔法を操ったりするんだってさ。
どこの勇者様だよ。
って一年前なら普通に笑い話で終わっちゃうけど、現代社会にダンジョンと呼ばれる存在が現われ、そこから大量のモンスターが産み出され、日本の人口の七十五パーセントが失われたこの状況では、あながち冗談とは言い切れない。
実際、後で思えば、俺は最初のダンジョンと呼ばれる存在が、この世界に現われた時にその場に居た。
俺は怖くて近寄らなかったんだが、その時にもし、ダンジョンの確認をしていたりしたら、大きく違う状況になったのかもしれないとも思った。
だって俺はラノベだけは、かなりの量を読み漁ってる。
決して本屋で買う事はないが、投稿小説はサイト内でメチャクチャ読んでる。
そのパターンに当てはめて考えれば、あの時あの場所に俺が居たのは絶対、偶然じゃなかった筈なんだよな?
すっげぇチャンスが巡って来た筈なのに、俺は華麗にスルーしちまった。
だが、今日棗ちゃんが俺の家に訪ねて来た事によって、どうやら一度すり抜けていった運命が、再び俺に戻って来たようだ。
これをもう一回スルーする様な奴には、流石に俺もなりたくない。
棗ちゃんが言ってたけど、まず大事なポイントはTBをテイムする事みたいだ。
TBと初めて出会ったころは、餌は食べてくれたけど、俺には絶対触らせてくれなかったんだけど、俺と同じくらいの頻度で公園に訪れていた棗ちゃんには、よく抱っこされてたんだよな。
俺はその姿を見た時に、ラノベみたいにテイムとか出来たら良いのになぁってマジで思ってたし……
TBがカラスに襲われていた時の俺は、必死でTBを助けたいと思った。
目の前に守れるもの、手の届く所に助けられる者がいれば、守りたい、助けてあげたい、くらいの良心は俺でもあるんだ。
今じゃ見た目もいかにも野良猫のボスって感じになっちゃったけど、カラスから助けて以降は俺にも心を開いてくれてると思う。
俺が餌を用意すると、足元をシュリーンって身体を擦り付けるようにしてから、餌皿に顔を突っ込む。
中々可愛いぜ。
そして俺は今日ついにTBをテイムする事になった。
向井さんと棗ちゃんに厳しく鍛えられながら、横田基地に設置された【D2】ダンジョンの中でレベル十を迎え、JOBの薬師とビーストテイマーを取得した。
横田基地から帰ってきた俺は、何時もの様にTBの為の餌を餌皿に用意して、TBが来るのを待った。
何時もならそろそろ姿を表してもいい時間だ、なのに姿を現さない。
「さすが猫だぜ! 期待を裏切らせたら天下一品だよな」
それから一時間ほどして漸く姿を表したTBは……彼女連れだった。
とっても愛くるしい顔をしたメス猫で、真っ白な毛並みは長毛種ほどではないが短毛種との中間ほどの長さで、耳はチッチャな折れ耳で、目はブルーとルビー色のオッドアイ。
俺が雄猫でも惚れるぜ。
二匹で仲良く餌皿に顔を突っ込んでカリカリと小気味良い音を立てている。
TB良かったなぁ、彼女出来たんだ。本当におめでとう。
でも……彼女には後ろ足が一本無かった。
生まれ付きなのか、事故にあったのかは解らないが、びっこを引きながらヨタヨタと歩く彼女を、愛おしそうに顔を舐めてやりながら寄り添っている。
微笑ましいけど見ていて切ない。
俺はTBをテイムして良いのかどうかちょっと悩んだ。
俺がTBをテイムしてこれからダンジョンに連れ回したりすれば、彼女は一人になっちゃう。
そんなの辛いよな……
ちょっと自分のJOBを確認してみる。
『ビーストテイマー』モンスター以外の動物をテイム出来る、テイムレベルに応じて使役数が増える。
特技 テイム LV1
む、これはテイムのLVを上げてやると彼女の方もテイム出来るみたいだ。
そこに、棗ちゃんが顔を出した。
「岩崎さん、TBちゃんは無事にテイム出来ましたか?」
「いや、それがさぁこの子見てよ。今日TBが一緒に連れて来たんだけど、彼女みたいなんだよねぇ、TBだけテイムしちゃって、この足の悪い彼女を一人ぼっちにしちゃうなんて、俺には出来ないや。俺のテイムの特技を二段階まであげれば、この子も一緒にテイム出来るみたいなんだよね、俺が今持ってるポイント全部使ってテイマーのJOBレベル上げてもいいと思うかな?」
「岩崎さん……是非やるべきです。岩崎さんのやりたいようにやって、その上で強くなれるように頑張りましょう‼」
「解った。ありがとう棗ちゃん。じゃぁすぐにポイント使ってJOBをレベル五まで上げちゃうね」
俺はポイントを持っているだけ使って、テイマーのJOBレベルを上げた。
ご飯を食べ終わって二匹で寛いでいるTBと白ちゃんに向かって、俺はかがみ込んで「二人共うちの子になりなよ」と語りかけた。
特技の【テイム】を発動する。
『黒猫をテイムしました、名前を付けて下さい』
「もちろん『TB』だよろしくな!」
『白猫をテイムしました、名前を付けて下さい』
「棗ちゃん。この子の名前決めてくれないかな?」
「私が決めていいんですか? 嬉しいです。じゃぁこの子の名前は、尻尾が折れ曲がってるし、昔読んだ童話に在った『幸せのカギしっぽ』にちなんで『キー』ちゃんでどうかな?」
「君の名前は『キー』ちゃんだ。幸せになろうな!」
「あ、もう意思の疎通は出来るんですか? もう一人の岩崎さんからTBちゃんに使ってくれって、エリクサーを預かってるんです」
「ええぇ、エリクサーって世界中のお金持ちが探し求めてるってテレビで言ってたあのエリクサー? 一本50億でも買う人が居るって言ってる薬だよね?」
「その通りですね、TBちゃんに使ってくれって託されてるから、それ以外には絶対使いませんけどね!」
俺はTBに語りかけた「TBお前の目と耳治せるみたいだよ、良かったなー」
TBが何も言わずに棗ちゃんの手元の薬を見つめる。
次の瞬間大きくジャンプしたTBが、棗ちゃんの手に握られていたエリクサーを咥え取り、そのまま蓋を噛み砕いて、キーちゃんの口に流し込んだ。
まばゆい光がキーちゃんを包み、光が消えた跡には無くなっていた足もちゃんと生えて、名前の由来になった鍵しっぽまで、まっすぐ上に向かってピンと伸びた綺麗な白猫の姿があった。
「TB‼ お前行動が男前すぎるだろ。決めた。俺が絶対エリクサーもう一本手に入れてやる。必ずTBも直してやるからな」
棗ちゃんも、TBの男前さに感動してウルウルしてるぜ。
『よろしくにゃ、オサム』
「呼び捨てかよ!」
『TB、ナツメ、オサムありがとにゃ。お礼に一生懸命頑張るにゃ』
「TBちゃんの特技は体の大きさが変えれるで合ってるのかな?」
『そうニャ』
「キーちゃんの特技は?どんなのかな?」
『私の特技は目からビームが出せるにゃ。右目からはアイスビーム、左目からはファイアビームにゃ』
不思議だ。
傍目から見たらただ「にゃー」と言ってるだけなのに、ちゃんと意味を持つ言葉として聞こえてくる。
棗ちゃんにも意味が伝わってるみたいだけど、どんな原理なんだろう?




