第115話 とりあえず俺をよろしくね
向井さんと佐千原さんに、俺と、この世界に元からいる俺が出会ってしまうと、タイムパラドックスが起きる危険性が在って、その場合、二人共消滅する可能性がある事を伝え、俺も出来る限り豊橋に近付く事はしないけど、出来るだけ危険を回避できるように、所在を明確にして欲しい事を伝えた。
それと、同時に俺は颯太に対して、ダンジョンマスターになったなら、ダンジョンの再設置が出来るんだから、計画的に配置して訓練やダンジョン資源の獲得に活用する事を提案した。
俺がいた世界からしてみれば、一年遅れのD特区計画だ。
向井さんに対して俺は「婆ちゃんも見た目を若返らせるのは、まずダンジョン内でレベルを上げていくことが大事なんだぞ。なりたい自分の姿をイメージしながら、ダンジョンで狩をしていると、イメージ通りの自分になれるからな」
佐千原さんに対しても「この世界の俺は、頼りないかも知れないけど、それでも気に掛けてくれたみたいで、ありがとうな。一年前まで遡れば、今の俺と同じ状況になる要素は十分にあったんだし、ちゃんと導いてやってほしいな」
すると佐千原さんが「アッ、一つ良いですか? TBちゃんこの世界にも居るんですが、あの時のカラスに襲われた時の怪我で、片目と片耳が無くなってる状態なんです。こっちの岩崎さんが助けて、病院には連れて行って来れてたみたいで、命は助かったんですけど、何とか治してあげれないですか?」
「TB。ちゃんと生き延びてくれてたんだなぁ。この世界の俺もいい所あるじゃねぇか。TBの為なら何も惜しいことなんかない、これエリクサー渡しておくから使ってやってくれ。佐千原さんなら信用できる。任せたよ」
「ハイ! 任されました。チビちゃんの事は任せて下さい、今じゃ身体も大きくて近所のボス猫になってるんですよ」
「佐千原さん、出来たらでいいけどさ、エリクサー使う前に写真撮って置いてくれたら嬉しいな。向こうの世界のTBと一緒に見たいからな」
「解りました。後ですね、岩崎さんと連絡付ける方法って無いですか? もう一つだけ! 私の事は棗って呼んで欲しいです」
「解った。棗ちゃんって呼ぶね。この世界の俺を宜しく頼むな、連絡方法はこれを渡しておく、念話機だ。指輪型だけど、深い意味はないからな」
「深い意味が在ったほうが嬉しいですけど、私はもう決めたんです。ハーレムキングの岩崎さんじゃ無くて、この世界の岩崎さんを、私だけのヒーローに育てるって」
「棗ちゃんに、そこまで言われるなんて男冥利に尽きるけど、俺には嫁さんいっぱいいるからな。この世界の俺、頼りないかも知れないけど、お願いしとくね。こっちの俺が豊橋から移動する時とかは行き先を教えておいてくれたら助かる。ニアミスだけは避けたいからな」
向井さんが付いているなら、きっと戦力になる程度には育ってくれるはずだ。
その後で、俺は颯太達と【D特区】関連の打ち合わせをする為に、【DIT】本部に戻った。
達也が「【D特区】の場所だが、現状で考えると横田基地が一番現実的だな。敷地面積で考えても、隔離の容易さもあるしな」
「俺からは別に要望は無いから、横田基地でいいなら俺が今から囲いと結界は張ってやるぞ、後は討伐済みのダンジョンを設置するだけだ」
向こうの世界では、ある程度の数の転移門が実在してるし、【D特区】内の入り口が消滅したとしても、同じ場所が南極大陸内にある。
ダンジョンの本体の入口に繋がる転移門を設置すれば問題ないし、それくらいの事は向こうの世界の颯太が気付いてくれる筈だ。
問題は【D85】以降の環境設定で、食料の生産に利用しているダンジョンだけだな。
今はまだ心配しなくてもいいか。
颯太が「この際だからこの世界の理と向井さんと佐千原さんも、横田に移住させて強化させたらどうだ?」と、聞いてきたが「向井さんは旦那さんとの思い出が詰まってる家から、きっと動かないよ。あの三人には特別に俺が転移門を一つ用意して使わせるかな。それなら横田に通えるしな、横田基地内でダンジョンの探索をさせてやる許可証だけ用意してやってもらえるか?」
「解った。それは用意しよう。後な、転移門だが少し融通して欲しいんだが大丈夫か? 【DIT】本部と、横田基地の間を繋ぎたい」
「まぁ移動の問題はでかいからな、取り敢えず颯太に五セット渡しておく有効に使ってくれ。向こうの世界では【DIT】が一セット二十億で販売してたからな。貸しといてやるよ」
それから俺は、横田基地をグルッと囲む防壁を張り巡らせ、結界発生装置も設置した。
これで現時点では世界で一番安全な場所が出来上がった。
「理はこれからの予定はどうするんだ?」と、達也に聞かれた。
「俺は日本以外のダンジョンを一通り討伐してくる。これからの日本の大事なお客さんに成ってくれる筈だが、向こうの世界だとモンスターの被害が大きすぎて、お客さんに成ってくれるだけの資本力が極めて低かったからな。ちょっとだけサービスだ」
それでも既にスタンピードで溢れ出したモンスターは、外で繁殖しており特殊進化も起こっているだろう。
その事を考えていた俺は、重要なことを気づいてしまった、これはヤバイかもしれない。
◇◆◇◆
「ナビちゃん。チョットいいかな」
「いかがなさいましたか? 理様」
「もしかしたらだけど、ダンジョンの外に溢れたモンスターってレベルの上限とか無くなるんじゃないの?」
「流石は理様。その通りでございます。ダンジョンの外ではモンスターの上限レベルは存在しません。更に人との融合を果たしたような、モンスターは知性を持ち合わせますので、ラノベでお馴染みの魔王のような存在が現れる可能性もございます」
「すげぇ理不尽な感じがするけど、防ぐ手段は無いの?」
「既に起こった問題を無かった事にするには、例えば今この世界にいる全ての人類の生命を奪う事で、新しい世界を作り上げる事と、同じような決断が必要です。理様に出来ますか?」
「いや、無理だな」
「世界を統べる者は、過去に千百九個の世界を自分の実験の為だけに作っては壊して来ました。それらの世界で得た、全てのノウハウが今残された世界には適用されています。世界を守りたければ戦い、自らの手で勝ち取っていくしか、手段はございません」
「漠然としていて、目的が見えないな」
「この世界のダンジョン発生を乗り切り、元の世界に戻られる頃には、自ずと次の進むべき道は見えてまいります。ご健闘下さいませ」
取り敢えずは【D155】の出現する迄の後二年間はこの世界で活動をするしか無いし、その間に、この世界を守っていける人間を少しでも沢山育てていくしか無いな。
この横田の施設で【PU】と【DPD】を育てて防衛都市を順次拡充させていくしか手段は無いし、それは颯太達の仕事だ。
俺は今まで通り基本は雪と二人で活動しながら、世界中を見て廻る。
「颯太。手に負えない敵が現われたりした時は、呼んでくれれば俺が何とかするから、頑張って防衛手段と魔導具の開発をやっておけよ。それじゃぁ俺は行くな」
「ああ、横田基地はありがとうな。転移門も有効活用させてもらう。たまには顔を出してくれよな」
「おう、時々旨い酒をたかりに来るぜ」
そして俺は、ロサンゼルスに向かう事にした。




