第113話 向井さんの協力
私は、岩崎さんに連れられて向井さんの家の呼び鈴を押した。
「はーい」と言う声がして、直ぐに向井さんが出てきた。
岩崎さんが「婆ちゃん、俺さなんか棗ちゃんと話してたら、頑張って見る気持ちになったよ。婆ちゃんも俺の事心配してくれてたんだろう。ありがとうな」
「へぇ、そのやる気とやらが、続けばいいけどね」
「でさぁ、婆ちゃんに頼みがあるんだけど、棗ちゃんとこれから先、一緒に狩りをして強くなる、っていう話になったんだけどさぁ、俺ん家に住み込むとかいうもんだからさ、俺が自分で言うのもあれだけど、理性が保てる自信がないし、良かったら婆ちゃん家に住まわせて貰えないかな?」
「あら、棗ちゃん何でこんな男にそんな事言ったんだい? 棗ちゃんなら、そんなに綺麗なんだし、いくらでも、もっと若くてカッコイイ男の子捕まえれるでしょうに?」
「向井さん。岩崎さんは、とてつもなく大きなダイヤの原石なんです。ちゃんと導いて上げる事が出来れば、きっと今のこの世界の状況だって救ってくれる程の人なんです。向井さんも岩崎さんを信じて上げて下さい。今からは、私が付いてるからダラダラした生活なんてさせません」
「あらあら、岩崎さんの何処にそんな部分を見つけ出したのかねぇ…… でも棗ちゃん。貴女は何か確信してるわよね? 面白そうだわ、婆ちゃんも暇つぶしがてら、世界を救う岩崎さんの姿を見せて貰えるように、応援しようかねぇ」
「いいのか? 婆ちゃん」
「今更だよ。私も老い先短い人生だけどね、こんな未来のあるお嬢さんが必死で賭けている、岩崎さんの可能性って言うのを見たくなったよ」
「で、棗ちゃん? 貴女は具体的に何か手段が解っているのかい?」
そこまでの会話の中で、私は少しでも早く岩崎さんを覚醒するためには、私なんかの知識や実力じゃとても足らないし、向井さんも協力してくれるならと、思い切って真実を話すことにした。
「ちょっと話が長くなりますけど、構いませんか?」と言って向井さんのお宅に、岩崎さんと一緒にお邪魔した。
「荒唐無稽なお話をしますけど、今からお話する事は真実なんだと、ご理解下さい」と話し始めた。
自分が、もう一つの別の世界から、意識だけこの世界の棗に宿った事。
その世界では、岩崎さんが世界ランキング一位の絶対強者として、ダンジョンを全て討伐してしまった事。
あらゆる生産職を極めていて、この世界の基準だと夢のような、魔導具等も岩崎さんが作っていた事。
そして自分は、そんな岩崎さんに憧れていた事を話した。
敢えて沢山のお嫁さんがいた事と、世界一のお金持ちだった事は、言わなかったよ。
なんか言っちゃうと私の手元から逃げ出しちゃうような気がしたから。
そこまで話した時点で、向井さんが少し思い当たったのか「ねぇ棗ちゃん。さっき外のスタンピードを一人で倒した魔法使いさんは、もしかしたら?」
「その通りだと思います。私も後ろ姿しか見なかったので、絶対とは言いませんが『あ、岩崎さんだ』って思いました」
「やっぱりそうかい。私も後ろ姿だけだけど、なんかこの岩崎さんに雰囲気似てる人だなって思ったんだよねぇ」
「チョット待ってくれよ、棗ちゃん。それってもう一つの世界だと俺ってそんなに凄いの? 何でそんな事に成ったのか意味が解かんねぇよ」
「岩崎さん。もしかしたら最初のダンジョンが現われた時その側に居たりしなかったですか?」
「あ、ああ、そう言えば確かに俺の側に雷が落ちて、そこに最初のダンジョンが出来たみたいだった。俺は危ないと思って逃げ出しちゃったけど」
「恐らく、私の世界の岩崎さんは、何らかの理由でそのダンジョンを討伐してしまって、その後に繋がる重要な能力を手に入れたんだと思います」
「でも、向こうの世界の岩崎さんも、今ここに居る岩崎さんも、同じ人物なのは間違い無い筈です。やる気になれば必ず出来ます。頑張りましょう」
「ああ、そう言われると何か出来るような気もしたけど、俺が全てのダンジョン討伐したって言っただろ? 一人じゃそんなの出来ないよな? 協力者とか居たのかな?」
「向こうの世界の岩崎さんは、【DIT】の島長官と、ギルドマスターの斎藤さんと凄く仲が良かったと思います。一度訪ねてみたら、何かのヒントが貰えるかも知れませんよ?」
その話を聞いていた向井さんが、身を乗り出して話に食いついてきた。
「何だかワクワクする様な話だねぇ。私もトコトン付き合うことに決めたよ、棗ちゃんと岩崎さんを二人きりにすると危険だしね。取り敢えずは島長官に連絡を付ければ良いんだね? 防衛隊の清水隊長にちょっと聞いてみようかね」と、近い内に聞いてくれる事になった。
取り敢えずは防衛都市の外に出て、モンスターを狩って見ることになり、向井さんが予備の武器と防具を岩崎さんに貸してくれる事になったた。
「棗ちゃん。岩崎さんは向こうの世界では、どんな武器を使ってたの?」
「私は直接見たことがないんだけですけど、刀を使われていた筈です。私の友達の岩崎さんのファンの子が言ってました」
「刀かい、あまり良い物は無いけど、取り敢えず使える物ならあるから、それを使うと良いよ。それと魔物素材で作った盾を使えば取り敢えずは大丈夫だろう」
「婆ちゃん。なんか有り難うな。刀なら俺、昔剣道やってたし、なんとなくくらいなら使い方も解るよ」
向井さんは、槍系のJOBが中心で、教育者のJOBも持っているそうだ。
向井さんと一緒のパーティで狩りをすると、向井さんより下の実力の人間に関しては、成長速度が上がるらしい。
今回の様にレベル一の岩崎さんを育てたりする時には、持ってこいのJOBだ。
岩崎さんは向井さんの家の庭で「ちょっと素振りしてくるな」って言って出ていった。
だけど、三分もしないで……
「うわぁ、いてえぇ」って声が聞こえてきた。
刀で怪我でもしたのかと思って、慌てて見に行くと、岩崎さんが肩を抑えてうずくまっていた。
「どうしたんですか?」と聞くと「四十肩で、刀を振りかぶったら、激痛が走った」と言った。
あぁこの世界の岩崎さんは、ちょっと手が掛かりそうだなぁ、とため息が出ちゃった。
私は、白魔術師の特技でヒールを唱えて上げた。
すると、「今のって魔法なのかい? 凄いなぁ棗ちゃん。俺感動したよー」って喜んでた。
「俺さ、異世界物の小説とか深夜アニメとか結構見てるんだよな。その中で活躍する勇者とか、魔法少女にちょっと憧れが在ったんだけど、今のは現実の話なんだよな」って少しテンションが上ってる。
「岩崎さんが本気を出せば、もっとすごい魔法も使えちゃったりするようになりますから、頑張って下さいね。人から聞いた話の受け売りですけど、最初にJOBを取得するまでの間に、どれだけ自分がイメージを広げることが出来るのかで、就けるJOBも変わってくるみたいですから、しっかりと最強の自分。何でも作れる自分をイメージして下さいね」
「最強かぁ…… ドラゴンとかのイメージなのかな? 何でも作れるっていうの、錬金術とか魔導具師みたいなの? あ、棗ちゃんさっきTBの事言ってなかった?」
「言いましたよ。TBちゃんを岩崎さんがテイムしていてですね、凄い強いらしいですよ」
「TBは今は近所の野良猫の中でも、ボスになってるからなぁ。確かに強いかもな」
「私が知ってるTBちゃんは、岩崎さんがカラスから助けてあげた時に、魔法で欠損も全て治してあげて、生後一ヶ月の姿のまま変化しなくなったから、超可愛かったですけどね」
「今のTBは見たくれは、ちょっと怖いもんなぁ。でもこっちのTBも結構可愛い所あるんだぞ。家の玄関の前にさ、日頃のお礼のつもりなんだろうけど、ネズミとかカエルの死体を並べて置いといてくれたりするしさ」
「それは、逆に嫌です。玄関にネズミの死体とか並んでたら、私叫んじゃうと思いますよ」
「棗ちゃんが叫ぶと、きっと向井さんが薙刀持って駆けつけてくるから、できるだけ我慢してね」
「テイマーのJOBとかがあるって事なんだろうな? モンスターもテイムしたり出来るの?」
「出来るはずですよ、岩崎さんがいつも連れてた女の子が居たんですけど、その娘はモンスターが变化した姿らしかったですし」
「良し、肩の痛みも無くなってきたから、今度こそ素振りしてくるね」
私の目の前で刀を振る岩崎さんは、叔父さんの見た目の割に、結構様に成っていた。
これなら大丈夫かな?




