第112話 ノーム達の生き方
俺はエルサレムのダンジョンで出会った六人の少年少女を引き連れて、インドのムンバイを訪れていた。
この都市はインドでも二番目に大きな都市で、二千万人以上の人口を抱えていた。
しかし【D12】の出現によってスラム化している。
幸い周辺にも大都市が多く、防衛都市の構築が早かったために旧ムンバイ市街以外の場所では、まだ何とかやっていけている状況だ。
しかしムンバイの市内ではモンスターの発生はあるものの、近代的な建築物が立ち並んでいるために、所有者が居なくなった建築物に、インド国内の貧困層や周辺国の犯罪組織が流入してきており、まさに無法地帯の様相を呈している。
【G.O】でムンバイの【D12】のそばまでは移動したが、恐らく犯罪組織であろうガラの悪い連中達が、ダンジョンの入口を封鎖している。
ダンジョンから産出されるポーション類や、各種素材を売り捌くことが目的なのであろうが、とてもこいつらに下層のモンスターを倒せそうな感じはしない。
一体どうやって成り立たせているんだろうな? と、思いながらステータス鑑定をしてみた。
レベルの高い連中で三十くらいまでは上がっている。
しかし装備類などを確認しても、ダンジョン素材での装備品を持つものは殆ど居ない。
俺達は、【G.O】をアイテムボックスに収納して、付近の様子を見て廻ることにした。
シーフの特技を使い、モンスターの分布を確かめながら、街を散策する。
その時だった。
【D12】の入り口がある方角から多数の人が逃げ惑う姿が確認できた。
恐らくダンジョン内部からのスタンピードだろう。
ダンジョンが出来上がって、六週間目に最初のスタンピードを起こした後は、定期的に内部のモンスターが、許容量を超えるたびに、こうしてスタンピードが起こるのだ。
犯罪組織の連中はスラムの人間達を盾として使い、モンスターの前に突き出し、襲われている間に時間を稼いで逃げている。
しかしそんな事くらいで、どうにか出来る状態では無さそうな勢いだ。
俺達は、溢れ出たモンスターは無視して、元を断つ行動を取る事にした。
誰も居なくなった【D12】の入り口から中に入って行き、全員でモンスターを、倒していく。
雪が九尾の狐形態でアイスブレスを吐き敵を纏めて凍りつかせ、ノーム達が破壊していく。
俺は雪のアイスブレスを避けた敵を、一匹づつ確実に仕留めていく。
一層の中央部分まで来ると鑑定を掛けた。
このダンジョンの階段出現条件は、同種類の敵を連続で倒さずに三十匹の討伐だった。
纏めて凍らせちゃうと、どのタイミングで息の根を止めたのかが解らない。
ちょっと失敗したな。
全員に念話で話し掛け、階段出現条件が特殊な為にモンスターを倒すのは俺に任せろと伝えた。
取り敢えず、雪に人化して貰ってドロップの回収を頼むとノームが話し掛けてきた。
「ねぇオサム、外の人達は助けてあげないの? あの人達は俺達と同じだった。必死で生きている。悪い奴らに利用されて死んだ人も、今の少しの時間だけでも沢山いた。俺達は出来る事なら、助けれる命を助けたい」
「ノーム、お前がそうしたいと思うなら、そうするべきだ。このダンジョンは俺と雪で攻略してこれ以上の敵が出てこないようにする。ノーム達は自分の意志に従って外に溢れたモンスターを倒して、人々を救ってみせろ。俺が見た限りでは、お前達より強そうなモンスターも居なかったから、出来るだけの事をしてみろ」
「解った、頑張ってみるよ。行くぞみんな」
ノーム達六人はついこの間までの自分の姿を、モンスターに襲われ逃げ惑う人々に重ね、自分の意志で助けたいと思い行動を起こした。
きっと彼らはこれから強く生きて行くだろう。
俺は雪と二人で、ダンジョン攻略を進める事にした。
順調に攻略を進め、無事に討伐を終えた。
ダンジョンの外に出て当たりを見回すとノーム達が居た。
「オサム、ダンジョンは討伐できたの?」
「おう、入り口はもう無くなった。これからはこの周りのモンスターを討伐しながら、生活できる範囲を広げて行く事も出来る」
「俺達も頑張ったんだよ。沢山のモンスターを倒して、沢山の人を救えたと思う。でもね、悪い人達はどうしたらいいんだろ? 弱い人達を盾にして、逃げ回ってた癖にさ、俺達が倒したモンスターのドロップを横取りしようとしたり、俺達を攻撃してきてアイテムや武器を盗もうとする奴らが沢山いたんだよ」
「ノーム達はどうしたいと思ったんだ?」
「悪い人達は、助けたくないと思った。あいつらを助けると、絶対また他の人達を利用して、悲しい思いをさせるだけの存在だと思う」
「そうだな、俺も同じ様に思うぞ。だがな、その悪い奴らを殺すことは出来るか?」
「人は殺したくない、人を殺すくらいなら自分が違う場所に行けばいいと思う」
「でもそれだったら、悪くない人達はどうするんだ? そのままここに置いて行ったら。結局悪い奴らに又利用されるだけの生活に戻るぞ?」
「どうすればいいの? 俺達じゃ解らない」
「そうだな、ノーム達はすでに自分達だけなら、生きていけるだけの力を身に付けた。
その力を正しく使ってさっきみたいに人を救いたいと考えるなら、それも良い。
でもな、人を救う為には力だけじゃなくて、お金や権力と言う物も必要になるんだ。
それが用意できずに理想だけを口にしても駄目だ。
人を救いたいなら、あらゆる力をつけろ。
お金を稼ぎ、権力を味方につけろ。
それが出来れば、自分の理想を叶える事も出来る様になる」
「どうしたら良いかは解らないけど、言われてる事は何となく解る。俺達に出来るのかな?」
「きっと出来るさ。折角だからこの町で試してみるか?」
「うん、やってみたい。でもどうしたらいいの?」
「オリビアとデイビットが建築士のJOBを持ってたな、ヨセフは錬金術師を取っているな。ノアは黒魔導士を持っているし、シーラは白魔導士のJOBを持っている。それだけのメンバーが揃っていたら、町くらいなら簡単に作れるさ。まぁノーム達はまだ子供だから、一回見本を見せてやる。次からは自分で考えて自分で作れよ」
そう言って、俺は取り敢えずURの収納バッグで周辺一キロメートル四方の建物を全て収納して空き地を作った。
結構隠れてるモンスターも居たが、雪に頼んで殲滅した。
出来上がった空き地の周辺に防壁を張り巡らせて、門を一箇所だけ作った。
それから回収した瓦礫を素材として使って、1LDKの部屋が百二十室あるマンションを1棟建てた。
下水道を整備し、道路も整えておいた。
以前北九州の防衛都市を造った時に経験済みなので、図面無しでも大丈夫だった。
魔導発電機と魔導ウォータータンクもマンションの屋上に設置した。
これで取り敢えずの生活は困らないはずだ。
その後で、恐らくノーム達が沢山の生活弱者を救出して来るであろうから、大きな体育館のような雑魚寝が出来る施設を作った。
ムンバイのダンジョン跡に即席の防衛都市が出来上がった。
「ここで、思うように生活してみろ。食料なんかはモンスターを倒して素材を集めれば売れるから、それで買ってきたら良い。俺も時々様子は見に来るから相談したいことがあればその時にでも聞け。みんなで力を合わせれば、今俺がやったのと似たような事は出来る様になる筈だ」
「凄すぎて、真似できるとはとても思えないけど、取り敢えず出来る事から少しずつやってみるよ。オサムありがとう」
そうして俺は、ノーム達と別れ雪と二人で次の土地へと向かった。
「次は上海に行ってみるか」




