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王位継承物語

デアトリーデ王女の完成 〜王位継承権の放棄〜

掲載日:2025/09/20

なんとなくシリーズものにしてみました。サクッと読めると思います。

『ハイリッヒ王子の繁殖』も読んでもらえると楽しめるかな、と

読まなくても楽しんでもらえるとは思います。



「ここ、ここも、ここもダメ。ミスが多すぎます。一体いつになったらまともな仕事ができるのですか?」

「で、ですが……いくらなんでも期間が短すぎます。せめて、もう少し猶予を……」

「……わかりました。貴方達はもう良いですよ。私が全て1人で執り行います」


『もう来なくてよろしい』そう言い彼女は彼らを追い出し扉を閉めた。

わずか15歳の少女が、何年も王宮で務めた官僚達に叱咤し、挙げ句の果てに追い出す。

異様な光景だった。




彼女は傲慢だった。

その傲慢さは常軌を逸していた。


人に対する要望があまりにも高すぎるのだ。


そんな彼女の口癖は

『何故できないのですか?』

『何故やらないのですか?』

『出来るまでやれば出来るのですから、それはただの怠慢なのではないのですか?』



この言葉は彼女の飛び抜けた才能を裏付けていた。あらゆる方面において抜群の結果をいつも叩き出していた。


剣技でさえ王都指折りの実力を有しており、一位に君臨するのも時間の問題とまで言われていた。


故に誰も文句が言えない。言い返せない。

せいぜい陰で情けなく負け犬の遠吠えをすることしか出来ないのだ。



『デアトリーデ・ブリッダ』

この王国での第一王女。

そして数多くの兄弟、姉妹達を差し押さえての王位継承権第一位を保持する稀代の傑物である。


この世に生を受けると同時に、母は死んだ。

父は生まれる前に死んだと伝えられている。

ただ1人、ただ1人のみでここまで昇ってきた。


そんな彼女は周りからこう呼ばれていた……『完成体ハイエンド』と。



だがそんな彼女にも転機の日が訪れる。





**





彼女は王宮の庭で1人で茶を嗜んでいた。毎日を忙しなく彩る彼女の数少ない優雅なひと時。


だがその平穏はすぐに崩された。



「いやぁ久しぶりだなぁ……ここもそう変わらんなぁ」

「ちょ、ちょちょちょ…!大丈夫なんすか?人に見られでもしたら……」

「なぁに!すぐにお暇するさ!」



知らない男達の声が聞こえてくる。

ボロボロの薄汚いローブを深く被り、顔を隠している。


旦那…そこに人がいるんすけど」


「賊ですか?わざわざここへ侵入するなんて……」


その男達を確認するや否や、ディアトリーデは帯刀している剣へ手を伸ばす。

普通、女性は剣など持ちあるかない。剣術すら納めている彼女だからこそ持ち歩いているのだ。



チャキ。


そう金属音を鳴らしながら抜刀––––


「……は?」

「ふむ、良い剣だ」



なにも見えなかった。目を離すわけもない。賊を前に無防備に瞬きすら彼女はしない。

なのに、動きが見えなかった。



姿を消したと認識した瞬間には、その男は自分のすぐ隣に来ており、その握ったはずの剣すら取り上げられていた。

『これは……ウォーム爺さんのところだな。相変わらず良い仕事っぷりだ』彼女の驚きなど意に返さず、その奪い取った剣をまじまじと見つめながら、1人でぶつぶつと彼は呟く。



だが、その声は急に彼女へ向けられる


「貴様、この世がつまらないと思っているだろう」

「……ッ?!な、なにを……わけのわからない……ことを…」


図星だった。それ故に動揺していた。


普段なら身元もわからないような不審な男の言葉など切捨て、即座に抵抗していた。

だが…その言葉を聞いてから彼女の体は動かなくなってしまった。


何かを努力すればすぐに大人すら簡単に追い越してしまう。

あらゆる部門で何をしても彼女は欲しいものを手に入れ、やりたいことをできるようになっていた。

なんでもやれば手に入れられる世界など面白味のかけらもない。


そんな考えを今さっき出会ったばかりの不審な男に言い当てられた。




「おい!いたぞ!あそこだ!」

「デアトリーデ王女を人質にしているぞ!」

「囲え囲え!」

「逃すな!」

複数人の衛兵達が駆けつけてくる。

どうやらここにくる前、他の誰かに目撃されていたらしく不審者の2人はデアトリーデごと囲まれる。


「殿下!どうかお下がりください!」

「賊!その方はこの国の王女であらせられるぞ!貴様のような下賤な賊如きが近寄って良いお方ではない!」


デアトリーデが近くにいるのか、彼らもなかなか手が出せず牽制しながらでしか近付いてこれない。



「ど、どうすんすかこれ…」

彼の従者らしき男が問いかける。

「ふむ…その鞘を貸せ」


『貸せ』と言いながら強引に紐を引きちぎり奪い取り、手に持った剣を鞘へ納め、抜けない様に紐でくくりつける。


「あちらへ行ってろ」

「…あっ、」


そう強く押され、弾き飛ばされる。

衛兵達は彼女をすぐに保護し、その不審な男を取り囲む。


体に力が入らないまま彼女はその場にへたり込む。怯んでいるからなどではない。あの言葉が未だに彼女の中を渦巻いているからだ。



「そこの淑女よ。見せてやろう、極みへと到達する為のその一歩目というものを…!」


「何を訳の分からんことを!ひっ捕えてやる!かかれぇえええ!」


衛兵の男が叫び、衛兵達が飛びかかる。

その男は呟く。



「秘剣––––


呟くと同時に彼の姿がブレ、また消えた。

いつの間にか衛兵達は足を天へ向け回転しながら宙を舞っていた。


––––燕返し」



彼が唱え終えると、衛兵達は重力を思い出したかの様に次々と地面へ落ちてゆく。



デアトリーデの頭の中は、未だ情報が完結していない。

先ほどの光景が……彼の、あの洗礼された動きがずっと頭の中で再生され続けている。



彼女は理解した。

あれが、あの動きが、自分の行き着く先であり目指すべき到達点。



あれこそが自分の完成系なのだと。



「ふむ、7年ぶりにしては上々。思いつきの剣技にしてはそこそこ、と言ったところだな」

「……は?今の奥義とかじゃないんすか?」

あまりにも突飛な言葉に従者の男ががたまらずツッコミを入れてしまう。


「ははは。当たり前だ。あんな雑なもの、奥義であってたまるか」

『名前も今適当につけた』そんなことを言いながら豪快に笑い続ける。



『7年ぶり』『思いつき』『雑』その信じられない言葉に彼女を彼女たらしめていた誇り(プライド)に亀裂が走る。


「淑女よ、この天才たる私が全盛期の頃に全力を出してもなお、勝てなかった相手はごまんといるのだ。その程度の実力で、何を終わらせた気になっている」


「………」


「貴様はまだまだ中途半端。まだ何も成し得ていない分際で達観した気になるな。あまり世の中を舐めないことだ。飼い猫のお嬢さん(キトゥンレディ)


そう言い捨て、彼らは何やら少し揉めらような会話をしながら、来た道を戻り姿を消した。



その日が彼女の大きな機転となった。





**





あれから彼女はその万能とも言える才を全て剣の道へと集約させた。

選定し削り、尖らせてゆく。


王位継承権などもうどうでも良かった。

あの動きが、あの光景が、あの男の姿が脳にこべりついて離れない。



何度やっても再現できない。

初めて彼女が味わう挫折。あの男にとっては造作もないあの剣技が自分には『出来ない』という状態。

それが、彼女にとってはたまらなく––––



「あははは」



––––楽しかった。


没頭した。夢中になった。他の何を投げ出してでも達成したくなった。

身体中を伝う汗が心地よい。泥を拭う間すら煩わしい。

追いつかないその遠い先の果て、その長い長い道のりに恋しさすら芽生える。


初めて先の見えない道。困難な道のり。足掻いてもがいて、泥に塗れても届くかわからないその頂。



そして数年後、今度は彼女がその男の前に姿を現す。





**





「見つけましたよ。おじ様」

「おじ様、か……私ももうそんな歳か!」

『がっはっはっ』と豪快に笑う。その笑顔はあの頃と何も変わらない。


「まさか、王位継承戦をほっぽり出してひたすら私を追いかけるとは……だが、したいことを止める権利は私にはないな!血は争えんというやつか!」

「だからあの時、介入して良いんですか?って聞いたんじゃないすか……」

「仕方なかろう!発端人であるこの私が!彼女にあんな顔をさせたまま放置などできるか!せめて楽しんでもらわんとな!」


そんな2人の会話が心地よく思える。

やっと出会えた。やっと追いついた。

やっとその頂へと続く道の入り口まで来れた。



彼女は剣を抜き、構える。

今度は奪われなどしない。これは牙だ。これは爪だ。この剣で彼の喉元へ喰らいつくのだ。


「……ふむ、良い。良いぞ。実に素晴らしい出来栄えだ。あれから私も久方ぶりに剣の楽しさを思い出してな……私の腕があの頃のままだと思うなよ」


彼は構える。見たこともない構え。だがなんとなく見覚えを感じてしまう。

なぜならそれは、彼の芯に染み込んだ王宮剣術が滲み出ているからだ。




「剣を交える前に一つ……お伺いしてもいいですか?」

「ふむ、なんだ?言ってみるが良い」



「私の母は強かったですか?」



その言葉に少し驚き、その男は微笑みを混じらせながら答える。

「……ふっ。言ったであろう。『勝てなかった者はごまんといる』と」



『貴様の母もそのうちの1人だ』



その言葉に、彼女は心の底から打ち震える。

自分を産み、亡くなってしまった、見ることもできなかった母の存在を、今この男を介して強く感じる。



「なら、貴方とそんな母の血を受け継いだ私が……貴方を超えるのは道理というもの!それは、出来なくてはならないことッッ!」



彼女は初めて、自分の家族と交わし合う。

その血も通わない鉄を通じて、父と交わし合う。





これから先、彼女が完成することはないだろう。

まだ見もせぬ頂を求め続け、

歩を止めることも

満足するとこも

『これで終わり』とやめることも


ありはしないだろう。



デアトリーデはまだ完成していない。


拝読ありがとうございます。


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