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リセナと愉快な仲間たち

旦那様と仲良くしたら強まるって聖女の力としてどうなんですか?

作者: 甘糖めぐる

※長編の派生作品ですが、単品でもお読みいただけます(詳細はあらすじ欄に)

【オープニング】聖女とエルフ


「うわぁああ聖女様! ありがとうございます!」

 知らない町、知らない人たちから、今日も聖女様と呼ばれて奔走する。


 魔物に襲われたあと、闇の魔力にあてられて元気がなかったという飼い犬を浄化魔法で助け、リセナはにこやかにその場を後にした。そして、路地に出て、ふらふらと座り込む。


 ――つ、疲れたあ……! 魔力使うのって、こんなに重労働だっけ……!?


 魔法陣が刻まれたペンダントを握りしめ、うなだれていると、通りすがりの知らない男性から声をかけられる。


「あの、聖女様、大丈夫ですか? 肩をお貸ししましょうか」

「あ、いえ、大丈夫です……! ありがとうございます!」

「いやいや、遠慮なさらずに」


 男性が手を伸ばそうとするから、リセナは慌てて立ち上がる。


 すると、ふらりと立ちくらみがして、よろめいたのを――後ろから、彼女の夫に支えられた。


「あっ、メィシーさん!」


 振り返ると、エルフ特有の長くとがった耳をした彼は、翡翠色の目を細めて優しく微笑んだ。


「お待たせしました。それでは、あなたのご実家へうかがいましょうか」


 続いて、彼から綺麗な作り笑いを向けられた男性がそろそろと退散する。目の前の彼があまりにも美しすぎて、夢でも見ているのかと思うほどだった。

 そのエルフは、長い金の髪をひとつにくくっていて、手足はすらりと細長い。中性的で整った顔立ちは、まるで神か美術品のようですらあった。

 聖女――なんだかよく知らないが、みんながそう呼んでいる。きっと素晴らしい聖人君子なのだろう――の、白銀の髪と紺碧の瞳を隣に並べると、宝石箱とか美の暴力とかそんな言葉が浮かんだ。


 立ち去る男性を見送って、リセナがメィシーを向き直る。

「すみません、まだ依頼が残ってて。里から戻られたばかりでお疲れでしょうけど、もうちょっとだけ待っててください……!」

「僕は大丈夫だけれど……リセナ、その状態で行くんですか?」

 見るからに心配そうな彼に対して、彼女はなるべく明るく返す。

「あはは……なんだか、最近、魔力を使う時の効率が悪いというか。やけに疲れるんですよね」

「なるほど」とつぶやいて、彼はリセナを路地裏へ連れ込んだ。


「あの、メィシーさん?」


「こんなところで恐縮ですが――」


 彼は、彼女の唇を指でなぞると、小鳥がついばむみたいな軽いキスをした。


 突然のことに、リセナが目を丸くする。


「え、あ、えっ……!? なんで――」

「いえ、僕とキスをしたら、元気になるかと思いまして」


 ――すさまじい自信……!


 一体なにがあったら、そんなことを恥ずかしげもなく言えるのか。


 彼は、少しも冗談めいていない顔で続ける。


「あなたは、精神状態が魔力の巡りに直結するタイプなので、きちんと息抜きしておかないと効率が悪くなる一方ですよ。あなたが聖女と慕われることは僕も誇らしいけれど、少しは自分をいたわってください」

「はい……。なんだか、期待されると断りづらくって。えっと、次は――もう一匹、近所のワンちゃんが困ってるんだっけ」

「では、あともう少し、続きをしましょうか?」


 再び、メィシーに至近距離でのぞき込まれる。気品と色気のある眼差しが自分に注がれているのが恥ずかしくて、リセナは両手で顔を覆ってずるずると座り込んだ。


「いや、ちょっと、もう大丈夫なので……ひぃ……許してください……」


【前編】お土産


 二件目、さっきと同じ症状の犬を助けてみると、今度は特に疲れずに済んだ。

「あれ……なんだか、楽かも……」

 メィシーにキスをされたから元気になった、という、なんのことだかよくわからない理論が頭をよぎる。


 そんなリセナの隣で、彼は楽しそうにニッコリと笑った。


「おや。おやおや。聖女様には、もっと癒しの時間を提供した方がよさそうですね」


 そして、彼女の両肩に手をぽんと置く。


「さあ、あなたのご実家へ参りましょうか」


 ◆


 メィシーは、エルフの里長。

 リセナは、シーリグ商会の一人娘であり、その一員。

 それぞれの拠点が違う夫婦は、互いの実家を訪れて共に過ごす時間を設けていた。元々、メィシーは里の試練を乗り越えるため、リセナの魔力増幅(アンプリフィエ)の力を借りようと二年前に現れたのだが――彼女の幼馴染いわく『簡単にリセナに惚れやがったチョロくて胡散臭い男』である。


 今も「実は、ちょうどいいお土産があるんですよ。使ってみましょうね」と言って、ご機嫌な様子でウエストポーチをごそごそやっている。


 リセナは、自室のベッドに腰かけたまま身構えた。


 ――なにをされるんだろう……。とにかく、平常心、平常心……。さっきは、とても見せられないような顔しそうだったし……ちゃんとしなきゃ。


 彼女が努めて澄まし顔をしていると、メィシーは取り出した瓶から手のひらに薄黄色の液体を垂らす。


「メィシーさん、それは……?」

「マッサージオイルです。里で採れたハーブを使っているんですよ。――では、手を貸していただけますか?」


 言われるままに差し出すと、メィシーは彼女の手を包み込んで、ゆっくりマッサージを始めた。

 手をさすったり、揉んだりされているだけなのに、心までほぐされていく感覚がする。


 ――すごい……気持ちいい……。


 彼の眼差しも、声音も穏やかで、それすら心地よかった。


「どうですか? 心と体は密接に繋がっていますからね。こうして触ってあげると、気分が良いでしょう?」


 リセナがこくりとうなずくのを見て、彼は、きゅっと口角を上げる。ちょっと、いたずらっぽい笑みだった。


「では、次は、背中もマッサージしてみましょうか」

「えっ」


 あからさまに動揺しかけて、リセナはなんとか笑顔を取り繕う。


「そ、そうですね、お願いします」

 ――わぁ……服を脱いでってこと、だよね? ここで断ったら、意識しすぎって思われちゃう。というか、メィシーさんが全然一線を越えてこないから……いつまで経っても“このくらい”が恥ずかしい……。


 彼に背を向けて、服のボタンに手をかける。


 するりと服を下ろすと、不意に、メィシーの指がリセナの背中をなぞり上げた。


「ひゃっ……!?」

「ふふっ、ごめんなさい、つい。じゃあ、ベッドにうつぶせになってくださいね」


 メィシーは、いつもは大人の余裕がある男性だけれど――たまに、こんなふうに、子どもじみた無邪気な一面を見せる。

 いや。今は、リセナの見えていないところで、面白い玩具(おもちゃ)を見つけた、いたずらっ子の笑みを浮かべていた。


 リセナが上半身を露わにしてうつぶせになると、その背中にオイルが垂らされる。ひんやりとした感触に、彼女の肩がぴくりと跳ねた。


 ――っ、さっきは、自分の手で温めてたのに……? な、なんで……?


 もちろん、面白いからである。


 メィシーは、それから、正しい手順でリセナの背中を揉みほぐしていった。それでも、なめらかな指が肌をはう感触には得も言われぬ感覚があって、彼女はおかしな反応をしないよう、枕やシーツをつかんで必死に耐えていた。


 それなのに、ふと、彼が指先に力を入れてある一点を押し込んだ。


「っ……!?」


 ぞくりと快感に似た何かが体を駆け抜けて、リセナは思わず背中をそらす。


 ――なっ、なにこれ……!?


 頭上では、メィシーがくすくすと笑い声を漏らしていた。


「どうしたのですか? 突然、そんなに驚いて」

「え、や、あの――」

「ここが良いんですか?」

「っ、あ」


 同じ場所を、何度も刺激される。その度に体が勝手に跳ね、口元がゆるみ、声が漏れる。


「あっ、やっ――待っ、ん、んぅ……!」


 緩んだ顔を枕に押し付け、ひた隠しにしたままでは、逃げたくても逃げられない。


 結局、メィシーが手を止めた時には、彼女は肩で息をしてベッドの上でぐったりとしていた。その脱力感でさえも、心地がいい。


 リセナが息を整え見上げると、メィシーは、相変わらず機嫌が良さそうに微笑んでいた。


「どうでしたか? どれほどの効果があるのか、明日、試してみましょうね」


 人体としては、血行不良で感覚が過敏になるのは普通のことなのだけれど。リセナがなんだか恥じらっている様子だったので、彼はそのことについては黙っておくことにした。


【後編】避難


 今度は、家畜が魔物に襲われて(以下略)

 現場に行ってみると、昨日助けた犬より数倍大きな乳牛が、数倍元気がなさそうに横たわっていた。


 ――昨日より大変そう……。


 遠くから依頼主の老夫婦に見守られつつ、リセナは牛のかたわらに膝をついた。付き添いに来ていたメィシーが、彼女に耳打ちする。


「五分くらいかけて、ゆっくりやった方がいいですよ。魔力増幅(アンプリフィエ)があるとはいえ、この規模を急ぐと体に負担がかかります」

「はい」

 とは言うものの

 ――早く治してあげたいし……無理のない範囲で、急ぎめに……。


 昨日と同じように浄化魔法を使う。すると、一分程度で牛は元気を取り戻し、すっくと立ち上がった。


 リセナ自身も驚く中、メィシーがわざとらしく目を丸くする。

「おや。五分というのは、前回の実績を元に出した時間だったのですが――」


 もう一度、彼は、彼女の耳元でささやいた。


「どうやら、昨日のマッサージが効いたようですね」


「っ……!」


 なんで、無駄に近くで吐息多めにささやくのか。肩を跳ねさせたリセナが抗議の目を向けようとした矢先、遠くにいた老夫婦がやってくる。


「聖女様! ありがとうございます! いやあ、他の浄化魔法使いでは治せなかったんですよ!」

「さすがねえ。聖女様の力には、なにか秘密があるの?」


 秘密。そんなことを聞かれても困ってしまう。彼女は大量の魔力で押し切っているだけだし、そのための魔力増幅(アンプリフィエ)は、世界樹から直接、ほとんど無尽蔵に魔素の供給を受けられる希少な力で――その保持者であることは隠しておくように、国から言われている。


 口ごもるリセナの代わりに、メィシーが、にこやかに答えた。


「彼女の力は、僕たち夫婦の愛が深まるほど強くなるんです」


「えっ」


 老婆は「まあ、素敵!」と言っていたが、リセナは視線だけで抗議する。


 ――なぁに言ってるんですかメィシーさん! あながち間違いでもないけど! 愛がって、昨日、私をいじって楽しんでませんでした……!?


 それから彼女は、はっと真顔になる。


 ――いや、私がただのマッサージに、変な反応してただけだ……。


 思い出すと、顔が熱くなってくる。

 そこにいる老婆は、老夫に「聖女様とエルフの旦那様ですって。とても()()()ご夫婦なのねえ」だなんて言っている。


 そんな中、メィシーが、そっと彼女の背中に手を回した。


「あなたの力をどこまで引き出せるのか、色々と試してみないといけませんね」

「……!?」


 これ以上、一体なにをされるというのか。

 夜になって実家へ戻ったリセナは「一緒にお風呂でもいかがですか?」と言うメィシーを浴室へ押し込んでから外へ飛び出した。


 ――もう無理、平静を保てない……!


 そのまま、十分くらい離れた場所にある幼馴染の屋敷に駆け込む。

「レオ、助けて……!」

 突然の訪問に目を丸くしながら、彼はリセナを自室に上げると、事情を聞いて苦笑した。


「それで、メィシーに変なところを見せられないって逃げてきたの?」

「だって……メィシーさんって何もかも綺麗で清らかな感じだし……私もちゃんとしてないと、釣り合わないというか……。単に、恥ずかしいというか、失望されたくないというか……」


 彼女は結構真剣に悩んでいるのだが、レオンは肩をすくめて言う。


「気にしすぎだよ。あいつなんて、顔が綺麗で料理が上手くて、ちょっと頭が良いだけのクソ野郎だからね?」

「それは言い過ぎじゃないですか……?」

「えっ、もう()()()()忘れたの? 少なくとも、オレなら、きみの反応を面白がっていじめたりしないけど」

 レオンは真面目に言うけれど、

「……いや、それが……。それ自体は、別に嫌じゃなくて……。普通にしていられないから、困ってるだけで……」

「えぇええなに、ノロケにきたの? やめてよ~。そんなに自信ないなら、今日は泊まってく?」


 そこで、部屋の扉がガチャリと開く。入ってきたメィシーが、目の笑っていない雑な作り笑いでレオンを見下ろした。


「お邪魔します。久しぶりだね、レオくん」


 そして、リセナには、胡散臭いほどのニッコリ笑顔。


「リセナ、帰りますよ」

「ひぃ……はい……」


 彼女は最後までレオンに助けを求める視線を送っていたけれど、彼にはどうすることもできなかった。


 ◆


 リセナが浴室から自室に戻ると、他の感情を裏に隠している時の微笑みでメィシーに問われる。


「リセナ。どうして、よりによって彼の所へ行くんですか?」

「それは……突然訪問していいような友達が、他にいないからです……」

「でも、彼があなたのことを、異性として愛しているのはご存知でしょう?」

「はい……軽率でした……」


 メィシーは、どこか切なそうに目を細める。


「ねえ。僕がいない間は、彼に触ってもらっているんですか?」

「……! そんな、違います! もう昔みたいに、手を繋いだり、抱きしめたりしないし……メィシーさんだけ、なんです……!」

「…………」


 彼は、ふっと息をつくと、ベッドに腰かけて、裏のない優しい声色で言った。


「それじゃあ、僕が責任を持って、あなたを癒してあげないといけませんね。――ほら、おいで」

「っ……」


 リセナは、すぐには足を進められない。


 ――昨日よりも、すごいことをされたら……。私、もう、普通にしていられない……。


 それでも、彼の誘いは、花の蜜のようだった。蝶が自然にそこへ降り立つように、彼女も、ふらりと彼へ引き寄せられる。


【エンディング】夫婦


 メィシーは、また瓶の中身を自分の手のひらに垂らす。


「それでは、今日は、全身をマッサージしましょうか」

「ぜ、ぜんしん……」


 自分から彼の隣に座ったけれど、追い詰められたな、とリセナは思った。


「リセナ。服を脱いで、仰向けになってくださいね」


 メィシーは、やましいことなど何もないかのように微笑む。

 服のボタンに手をかけながら、彼女はおずおずと尋ねた。


「は、はい……。あの、その、下着は……どうしますか……?」

「どちらでも、大丈夫ですよ」


 ――どちらでも……? これ、自分から外したら、本当に()()触ってほしい人みたいになるやつだ……。


 彼女は、上下のシルク生地だけを残して、メィシーの前に素肌をさらす。

 彼は仰向けになった彼女の腹部に触れると、繊細な手つきでマッサージしていく。しっとりと吸いつくような指先でなでられるのは、この世の何よりも気持ちの良いことのように思えた。体の中心が、少しずつ温まって多幸感に満たされる。


 脚も同様に、つま先から、付け根に向かって揉みほぐされる。彼の手が上がってくるにつれて、リセナは自分に湧き起こる心身の変化に戸惑った。

 彼の温もりを肌で感じているだけで、こんなにも、とろけるような甘美な気分になるのだ。もっと体の中心に近いところをくすぐられたら、どんな気持ちがすることだろうと胸が躍る。

 そして、このまま、本当に全て触れてもらえるのではないかという期待が勝手にふくらんで――両脚の付け根、その内側を親指の腹がすべった時、得も言われぬ快感が体を駆けて彼女は思わず「あっ」と声をあげた。


 メィシーは、一瞬、わずかに目を丸くしてから口角をきゅっと上げた。


 また、同じ場所を、両手で丁寧に揉み込まれる。


「あっ、メィシーさん、待っ――んっ、んん……!」


 彼がこちらを見るのとほぼ同時に、リセナは両手で自分の顔を覆い隠した。甘い声を漏らしている口も、余裕のない表情も、とても彼には見せられない。


「リセナ――また、隠してしまうのですね」


 メィシーに手首を優しくつかまれるけれど、それだけではびくともしないほど、彼女は腕に力を入れて抵抗する。

「や……見ないでください。違うんです、私……こんな、はしたない……」

 彼の手で触れられていない場所まで、ひとりでに熱を持つ。はじめはただ心地がよかっただけなのに、くすぐったいような、むずむずするような、もどかしい感覚が彼の手を待っている。


 それは、こんなにも綺麗で清らかな存在を前にして催すには、やはり後ろめたい感覚だった。


 メィシーは、そんな彼女の体を抱え起こすと、そっと抱きしめる。


「大丈夫ですよ。僕たちは夫婦なんですから、そんなに取り繕わなくても。――まさか、僕がわざとこうしているのを知らないわけじゃないでしょう?」


 彼の声は、穏やかで、慈愛に満ちていた。


 それでもまだ、リセナはうなずけない。

「でも……やっぱり、変な顔、しちゃうから」

「おかしなことなんて、なにもありませんよ」

 メィシーは体を離して、彼女の顔を隠していた手をゆっくり下ろさせる。

「ほら、頬を染めた愛らしい人がいるだけだ。――あのね、リセナ。町の人はあなたを聖女だと神聖視するかもしれないけれど、僕は幻想を抱いているつもりはありませんよ。あなたの全てを、そのまま見せてほしい」


 腕の力を抜いて、視線だけそらすリセナ。その頬に、彼は手を添える。


「それにね、僕だって、そんなに綺麗なものでもありませんよ」

「……?」

「今でこそあなたを愛しているけれど、はじめは、あなたの力を利用するためだけに甘い言葉をささやいていた男ですからね」


 彼は、自分の後ろ暗いところを自覚している。

 それでも――


「それを知っていながら、あなたは、こんな僕の求愛を受け入れてくれた」


 ありのままでも愛されていると、心の底から信じている。


 メィシーが、彼女の唇に、小鳥みたいなキスをした。


 リセナはすぐにまた顔を隠しそうになったけれど、なんとかこらえる。


 ――私のために、ここまで言ってくれてるんだから。まだ、やっぱり、怖いけど……私も、どんな自分でも、受け入れてほしい。


 思い切って、勇気を出したくて――じっと、彼を見つめ返した。


 金のまつげで飾られた、翡翠色の瞳が細められる。


「さあ、どこか触れてほしいところはありますか? 僕に教えてください」


 とても言葉にはできなくて、彼女は自身の高鳴る胸に視線を落とす。

 それで伝わったようで、メィシーは左手でリセナの背を支えると、自分の膝の上に抱えあげた。そして、右手で、彼女の体に優しく触れる。


 彼の細長い指が、丁寧に、丁寧に、細やかな手つきで彼女の反応を探った。


「ん……メィシー、さん……」


 甘やかな声と、とろけた表情のリセナを見つめて、メィシーは悦に入ったように微笑む。


「うん、気持ちがいいですね。その愛らしい表情(かお)を、もっと見せてください」


 そうして、彼女の額に軽く口づけてから、また指先を動かした。


 ◆

 

 翌日。今度は、牧場で、羊の群れがまるまる魔物の被害にあったそうだ。

 元気をなくし、草原で絨毯みたいになっているモコモコをざっと数えて、メィシーが見当をつける。

「全て浄化するのに、十分くらいでしょうかね」

「そう、ですね」

 と、相づちを打ったものの。それを、リセナは、また一分でやり遂げてしまった。これはまた、大変なことをされるなと思いながら。


 メィシーのくすくす笑いを背に受けていると、牧場主の幼い息子が大はしゃぎで駆け寄ってくる。

「すげー! 聖女様すげーっ!!! ねえ、なんで聖女様はそんなに強いの!!?」


 口を開いたのはメィシーだった。


「それはね、昨日――」

「あーっ、メィシーさん!!? あーっ!?」

「彼女は、好き嫌いせずに、たくさんご飯を食べたんですよ」


 にこりと笑ってから、彼はリセナに耳打ちする。


「やだなあ、僕だって子どもに合わせた回答くらいしますよ」

「いやっ、大人相手でも――」

「わかっていますとも。一応、外では聖女様のイメージを保っておきましょうね」


 メィシーは適当なことを言って男の子を納得させたけれど。昨晩の結果、浄化魔法の効率が跳ね上がったというのは紛れもない事実で――それが、リセナの頭を悩ませた。


 ――いや、そもそも! 旦那様と()()()したら強まるって、聖女の力としてどうなんですか……!?


 隣では、メィシーが、自分しか知らない彼女の秘密にご満悦の様子だった。

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