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聖女と夫の結末

帰宅した二人は夫婦の寝室で向かいあっていた。


この部屋に二人で一緒にいるのは初夜以来だ。

気まずそうなジュリスに、サラは明るく話しかける。


「愛せないっておっしゃいましたけど」


「違う!愛することはできない、だよ」


えー細かーい。

意味一緒じゃない?

おおらかなサラは気にせず流すことにした。


「ジュリス様がそう思っていらっしゃっても、わたしはあなたに愛情を感じ初めておりますよ?」


ジュリスは美しく整った均衡のとれた両目を見開いて驚いた。


「わたしのお部屋に花を届けてくださっているでしょう?花が萎れてしまう前に、庭から選んで。疲れて帰宅して、お花が部屋にあるの、嬉しいです。癒やされます」


初夜の翌日以降、サラの部屋には花が絶えなかった。

その花はジュリスが朝の鍛錬をしている中庭に生えている盛りの花であることを、サラは気がついていた。


「わたしが普段は侍女に頼らないことも、貴族としては褒められないでしょうけれど、ジュリス様は許してくださっています。わたしの好きにさせるように、家の者に言ってくださってますでしょう?」


王城での祝典への参加を公爵家の誰にも伝えていないにも関わらず、完璧に準備をされた。普段からサラのスケジュールは把握されているが、あえて自由にさせてくれているのだろう。


「ジュリス様はお優しいです。愛してしまいます。だから、わたしの隣にいてくださると嬉しいです」


ジュリスは顔を真っ赤にしてうつむいていたが、意を決してサラを見つめ返す。


「でも、俺はキレイ過ぎるって!」


「へ?」


イケメンがとんでもないこと言い出した。


「前の婚約者に言われたんだ。俺はキレイ過ぎて隣にいられない。女として自信を無くすって」


確かに、悩ましげに目線を下げるとまつ毛はバッサバサだし髪は艶々だし唇はトゥルントゥルンだし、何より顔面の配置が完璧だ。

普通の女性では隣に立つのは御免被りたいだろう。


ぽかんとしながらも、王城に着いたとたんジュリスが傍を離れたことを思い出す。

よっぽどトラウマになっているのだろう。


「俺だって女っぽいのはコンプレックスで、筋トレとかしても筋肉つきづらいみたいでマッチョにはなれないし、でも、ほら見て!」


シャツのボタンを外しだし、バッと広げたそこにはキレイなシックスパックが現れた。


華奢なイケメンのお腹が割れてるとか、最高なんですけどっ!


サラはグッと拳を握る。

数回深呼吸をして、自分を落ち着かせて、ジュリスの目を見る。


「確かにジュリス様の美しさは圧倒的です」


やっぱり、という悲しみの表情をジュリスは浮かべた。

うるうるした目が可愛い。庇護欲をそそられる。抱きしめたい。


「けれど、ご覧になって?」


サラは自身の腰まで伸びた長い髪をサラサラと持ち上げて見せる。


「こんなに長い髪、いかにも女性っぽいでしょ?まつ毛だって、つけまつ毛してるからジュリス様より長いですし、ほら、爪だって今は整えて淡い色をつけているだけですけど、公爵家に嫁いだからには社交も必要だってことで、キラキラのストーンつけたりしちゃいたいと思ってますのよ?」


サラは聖女なので清楚な格好を心がけているが、実はメイクもオシャレも大好きなのだ。


「ジュリス様よりわたしのほうが絶対女子力は高いですわ!」


ですから大丈夫!とサラはにっこり微笑む。

伊達に聖女はやってない。

サラは心臓がもの凄く強い。

そしてとってもポジティブなのだ。


「じゃあ、俺がキミを愛してもいい?俺のとなりイヤじゃない?」


サラはにっこり笑った。


「わたしは自分で勝手にジュリス様を愛します。ですから、ジュリス様もご自由にわたしを愛してください」


どうぞ!とばかりにサラは両手を広げて差し出した。

その腕の中にジュリスは飛び込み、きつく彼女を抱き締める。




それから二人はたくさん話をした。

お互いのこれまでのこと、家族のこと。

ジュリスは公爵家子息という身分、サラは聖女という肩書から、これまで何度も誘拐された経験があること。

ジュリスは今回の誘拐も自分が原因だと思っていたため、聖女サラ目当ての誘拐だったと知り、かなり恥ずかしかった(しかもあっさり捕まって、助けてもらった)。

ちなみに、今回の聖女の夫誘拐事件の後始末は国王に丸投げすることにした。

サラは自然豊かな領地で育ったため、温室で育てられた繊細な花よりも、太陽の光のもと雨風にさらされても元気に咲く花のほうが好きであること。

ジュリスが元婚約者と婚約した成り行きから破棄されるまでも、本人の口から聞けた。

顔の良さだけを求められての婚約だったようで、サラはさすがに同情した。

見目ももちろん好ましいが、優しくてちょっと落ち込みやすい彼を心ごと大事にしよう、と誓う。

サラも今回の結婚の引き金となった聖女と幼馴染の恋の噂について、真相を話した。

お互いの家族とは、まだ結婚式でしか会っていないが、彼女の言葉の端々から双子のユラを大事にしているのが伝わってくる。

ユラの結婚が円滑に進むように、自分の政略結婚には異議を唱えず従ったのだろうことは聞かなくてもわかった。

けれど、自己犠牲に陶酔するような性格ではなく、素直に新しい環境を受け入れてくれている妻は毎日楽しそうである。

始まりが王命からの政略結婚でも、二人はお互いに結婚式の日に一目ぼれしていたし、おおらかな聖女と優しい公爵子息は実に似合いの二人であった。


夫の顔面の美しさに時々倒れそうになる妻と、それを心配する趣味が筋トレの優しい夫の二人は数年もたてば政略結婚とは名ばかりの社交界でも評判の理想の夫婦となっていた。




余談:怒らせると「滅っ!!」されて消されてしまうかも、とジュリスはちょっと尻に敷かれている


余談:筋肉だけが男らしさの象徴ではない、とジュリスに言いたいサラだが、単純な夫も可愛いので黙っている。

最後まで読んでくださり、ありがとうございます。

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