聖女が助けた夫
サラから発されていた強い光が徐々に弱まり、ジュリスは閉じていた目をそっと開けた。
自分を拘束していた男、外交官に、その側に仕えていた男、出入り口を塞ぐように立っていたはずの護衛も、皆床に倒れている。
サラだけが、茫然と立ちつくしていた。
「大丈夫か?ケガはないか?」
ジュリスがサラに駆け寄ると、ハッと意識を取り戻したようにサラの目に力が戻る。
「わたしは何ともありませんわ。ちょっと怒って光魔法を暴走させてしまいましたわ」
てへっとばかりに小首を傾げて笑う姿にジュリスはほっとした。
実際、倒れている男たちに意識はないようだが無傷のようだ。
「ジュリス様こそ、お身体は大丈夫ですか?なにか薬をもられたのではなくて?」
心配そうに尋ねながら、サラはジュリスの手首を拘束している縄をほどいてくれようとするが、固く結ばれたそれはなかなかほどけず、くすぐったい。
「そういえば、身体が熱くてほてったような感じだったんだが、今はなんともない」
問われて気づいた自分の体調の変化に、ジュリスは不思議な気持ちで自身の体を見回す。
手も足も正常。むしろちょっと元気な気がする。
「もしかして、これもきみの光魔法?」
「無意識ですが、解毒の魔法をかけたのだと思います。んっほどけませんわね」
サラは強固に結ばれた縄にイライラし出した。
「滅っ!!」
片手を縄の前に広げ、気合の入った掛け声とともに小さな光と焼け付くような一瞬の熱さを感じた。
その光が消えるとともにジュリスの腕を縛っていた縄は消え去っていた。
「お邪魔な縄は消してしまいましたわ」
得意げに笑っている顔は非常に可愛らしいが、邪魔なものは簡単に消せちゃうんだ、とちょっと怖さも感じる。
光魔法、なんでもありすぎる。
それから、王城の一部が急に光った!と城の中は大騒ぎで、部屋の中には外交官含む他国の人間が倒れていてさらに大騒ぎで、もう夜も遅い時間であったため細かな聞き込みは明日以降、となったにも関わらず、サラとジュリスはまだ帰れずにいた。
昼間お茶会に招待された王妃のサロンとは別の、けれど王族専用の応接間に二人は通された。
並んで腰かける二人の前には、王と王妃がこれまた仲良くくっついて座っている。
「お前が言ってよ」「なに言ってるの、あなたのせいでしょ」
コソコソと小声で話し合う王と王妃。
昼間も同じような光景見たなぁ。今度はなにかなぁ。
と、サラはちょっと遠い目になってしまう。
今回も王が押し負けたようで、コホンコホンとわざとらしい咳をして話し出した。
「実はなぁ、ジュリスに帰り際に渡した、あれ、飲んだ?」
祝典閉会後にジュリスが控室に戻る途中、わざわざ追いかけて来た王が「これめっちゃ元気になるやつだから、今夜絶対飲んで!」と小さな瓶に入った液体をくれたのだった。
「部屋に戻ってからすぐに飲みましたけど?」
目を最大に広げて、瞬時に王の顔は青ざめた。
隣の王妃がスコーンとばかりに扇で王の頭を打つ。
「だから、そういう物理的なことじゃないって言ったでしょう!!」
「だって、あれ飲むと元気になるじゃん!!」
「二人が自然に仲良くなれるように、観劇のチケット贈るとか、小規模なパーティーに夫婦そろってきてねって招待状送るとか、そういうことでしょう!?」
「自然にっていったらスキンシップが一番早いと思って」
「もう、バカ!!」
このやりとりでサラとジュリスは気が付いた。
ジュリスを拘束した男たちがなにか薬を盛ったかと思っていたが。
「陛下、あの瓶の中身って……」
「『これであなたも盛りのついた狼に!!今夜はあの娘を寝かせない!!』という商品名で売り切れ続出、やっと手に入れた儂の秘蔵の1本だ」
うん、男性用の滋養強壮剤だ。
しかもあの効き方は、媚薬効果の成分も入っているだろう。違法の薬剤の可能性まで疑われる。
サラとジュリスはちょっと遠くを見て気持ちを落ち着けた。
王命を出してまで結婚させた二人のことが気掛かりで、それぞれに聞き込みをした結果、これは二人の仲が深まるように協力しなくては!と思ったのであろう。
その気持ちはありがたい。ありがたいが、うん。
ジュリスは隣に座るサラの手にそっと自分の手を重ねて優しく力をこめる。
「お二人が、俺たちの仲を心配してくださったのは嬉しいです。けれど、これは夫婦の問題です。お二人の力を借りなくても、俺が自分で彼女と向き合います」
初夜で逃げ出した男とは思えない。
ついでに、陛下に渡された滋養強壮剤が効きすぎてふらついたところをあっさり捕獲された男とも思えない。
顔面は史上最強に美しいが、内面はわりと情けないこの男を、サラは愛おしく見つめる。
「今夜はもう帰りましょう」
帰って二人でお話しましょう、旦那さま。
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