聖女は双子の妹とお仕事に向かう
光魔法の使い手は多くはないが、時々現れる。
その中でも一定の能力を持ち、神殿に所属し、その能力を認められた者にのみ聖女の称号が与えられるのだ。
ちなみに、なぜか光魔法を使えるのは女性のみなので、男性の聖女(?)は今のところ存在しない。
聖女は基本的には能力重視だが、まぁ、中には光魔法はほんの少ししか使えないが、権力や財力をフルに使って聖女の称号を手にする者もいる。
式典などはマナーや礼節も必要とされるため、貴族の子女が重宝されるという面もあるため黙認されていた。
また、土や血に汚れる現場では貴族の子女は役に立たないことも多いため、実際は表舞台に立つ聖女と実務で活躍する聖女に分かれている。
光魔法と一口に言っても怪我の治癒から豊穣の祈り、目くらましや照明として使える発光など多岐にわたり、得意分野もそれぞれだ。
その中でもサラはほぼ全ての光魔法を発動することができ、なおかつ伯爵令嬢という貴族の身分をもつため、パフォーマンスを必要とする場などには重宝される。
自然の恵み豊かな領地で幼少期を過ごしたため、泥臭い場所だってへっちゃらなため、現場でも式典でも活躍する便利な存在だ。
そのため、聖女と言えばたいていの国民はサラのことを思い浮かべるほどだ。
だからって、結婚した翌日から仕事とかハードだわぁ。
サラは神殿からの迎えの馬車に乗り込み、思わずため息をついてしまう。
体力には自信のあるサラだが、突然の結婚で慣れない環境に身を置くことになり、無意識に緊張が続いていた。
馬車にはすでにサラの双子のユラが乗っていた。
なにも言わずにサラの手を握って温かい力を流してくれる。
ふわりと体が軽くなるのを感じた。
さすが生まれた時からずっと一緒にいただけあり、言葉を交わさなくてもサラの疲れに気が付き無言で癒してくれた。
聖女といえども自分自身には光魔法を使えないからありがたい。
握られた手に力を入れてぎゅっと握り返す。
「ありがとう」
自分と同じ夕陽のような橙色の瞳と目が合う。
髪もサラのほうが少し長い程度で、色は同じ明るいブラウンだ。
見慣れないと見分けがつかないほどサラとユラはよく似ている。
本日は北側の領地に豊穣の祈りを捧げに訪問する。
例年になく害虫が大量発生したため、今年は作物の育ちが悪いとのことだ。
隣に座るユラはサラの双子の妹で、同じく聖女である。
ユラは自然関係の能力が非常に高く、今回の仕事にはうってつけだ。
「ねぇ、サ…………、あぃ……ど……た?」
耳を澄ませても良く聞こえないような小さな声で問いかけられる。
「ねぇ、サラ、お相手はどんな方だった?」と聞いているのだろう。
ユラはとんでもなくあがり症で恥ずかしがり屋なため、双子のサラとの会話ですら小さな小さな声で喋る。
そんなユラが聖女をしているのは、光魔法が使えるから、というよりは大好きな姉のサラとずっと一緒にいたいがためだった。
二人はほとんどケンカをすることもなく、昨晩サラが結婚をして神殿を出るまで、ずっと一緒に過ごしてきた。
今回サラが急に結婚する運びになったのは、ユラの恋愛事情がおおいに関連している。
世間で噂されている聖女と侯爵令息の恋は、サラの妹のユラとその幼馴染のことである。
サラとも幼馴染であるその男は、幼い頃は喋らなければ本当によく似ていた二人だったのに、初対面でユラに一目ぼれをし、小さな声しか出せない彼女と会話したいがために読唇術を身に着けた。そんな彼にユラも懐き、お互いの両親も二人を引き離そうと考えることはなく、正式な婚約は結んでいないものの、将来を見据えた付き合いをしていた。
世間で聖女として認知されているサラとそっくりな容姿のユラが街で侯爵子息と歩いている姿がたびたび見かけられ、しかも小さな声で話すユラと侯爵子息の距離は必要以上に近い。いや、声の大きさに関係なく二人の距離はいつも近い。正直、ギリギリだとユラは思っている。
そんな二人のことが聖女と幼馴染の侯爵子息との微笑ましい恋物語として世間で噂されるようになった。
その噂は王宮にも届いた。
ユラは目立つことを極端に嫌うため、その活躍を世間では知られていない。
王家ではユラの活躍の全てをサラの功績と考えているため、サラを他国と縁づく可能性の高い侯爵家に嫁入りさせないために、王家と強い縁戚関係の公爵家との結婚をすすめた。
つまり、世間ではユラをサラと勘違いしたが故の今回の結婚だった。
サラはこれを機にユラの婚約話を進めなければ、と思う。
王家が双子のユラの結婚にまで口を挟みだしたら厄介だし、自分が傍を離れた彼女を恋人である侯爵子息に支えてほしい。
「顔面が、最強だった……」
うつむいて「くっ」と拳を握る。
いや、マジで神々しいほどイケメンだった。
予想外サラの発言にユラはきょとんとしている。
「っ……の?こ……はき…………って……ど?」
(強いの?婚約破棄されたって噂だけど?)
「全世界を滅ぼす、いや?救う?級に顔面が強かった。たぶん一生見てられる。見ていたい」
出かけに見たジュリスは痛みをこらえた涙目でかわいかった。
しゃがみこんで剣があたった後頭部を抑えていて、声をかけると上目遣いで見上げてきた。
上目遣いって、最強過ぎる。
夫となったジュリスの顔面の美しさを熱く語っているうちに、今日の現場へと到着した。
領主とその地の神官、土地の有力者たちが集まってサラ達一行を出迎えてくれる。
神殿からはサラとお付きの聖女(に見えるユラ)とお付きの神官一名だ。
馬車から降りたサラは領主から挨拶を受けながらも目の前に広がる麦畑の状態を観察する。
葉も穂も虫に荒らされてしまっているため、今から害虫を駆除したり、栄養を与えてもたいした効果は望めそうもない。
聖女がなんとかしてくれるだろう、と現状をきちんと伝えもせずに呼ばれたようだ。
付き人のように一歩下がって着いてきていたユラに小さな声で耳打ちをし、サラは地面に膝をつき、大地に手をかざす。
ふわり、サラの髪が柔らかな風に浮かされる。
優しく温かな光が彼女から放たれ、やがて辺り一面に広がっていった。
まばゆい光が収まると、先程まで痩せ細っていた麦畑が、この時期の盛りとばかりに重い穂先に頭を垂れている。
その場にいた領主や地元の名士たちはわぁと歓声を上げてサラに感謝の意を伝えてもてはやす。
現状ではどうにもならなさそうだったので、領地中の麦の成長を促進させ、枯れさせ、種を落とし、再び芽吹かせ、この季節に適した大きさまで成長させたのだ。
考えたのはサラだが、実際の魔法はユラだ。
彼女は誰にも気付かれずに広大な領地の麦畑のみにその魔法を行使したのだ。
生育の異なる他の植物には影響させないように施された細やかな魔法。
サラは自身と周囲を光らせることで、それを自分が行ったかのように見せた。
目立ちたくないユラと、聖女を神格化させたい神殿の思惑だ。
サラはこの一連を役割分担をした共同作業として捉えているため、自分は光を放っただけ、なんて卑下はしない。
むしろ枯れるというマイナス面を見せないために、なにも見えないほど広範囲に強い光を放ったため、めっちゃ疲れて、わたし今日も頑張ったわ!といい汗かいた〜状態である。
疲れ切って屋敷に帰宅できたのは真夜中。
屋敷の者が簡単につまめる物を用意してくれていたことに感謝しつつ、さっと湯浴みを済ませ、自室に戻る。
ふわり、と花の香がした。
文机の上に今朝は無かった花瓶が置いてあり、公爵邸の庭で見かけた花が生けられていた。
サラはその花の可愛らしいさに笑みが溢れた。
明日も早くから出勤せねばならない。
気が急いていたが、心がほっこりと優しい気持ちで眠ることができた。
もちろん、公爵家のふかふかのベッドなので超安眠で朝まですやすやだ。
数ある作品の中から見つけてくださり、読んでくださり、ありがとうございます。
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