帰宅
王都の郊外。閑散とした住宅街のある家にルッカを連れたラゴエスはその戸を叩いた。
「ジナ、いるか!?」
ラゴエスの声に導かれて勢いよく扉が開けられると同い年ぐらいの少女が現れ。ジナという名の少女はラゴエス同様この地方に多い栗色の髪と鳶色の瞳を有している。
「ラゴエス!よかった無事で…」
ジナは安堵の表情でラゴエスを見つめた。
「うん、なんとか戻れた」
「昨日帰ってこなかったじゃないの!?本当に心配したんだから!!で、何があったの??」
安堵から憂いの表情に変わったジナは両肩を掴んで詰め寄って来た。予想以上に心配されたラゴエスは対応に困った。ジナが心配するのも無理はない。当初の予定では日帰りクエストのはずだった。それにも関わらず何も連絡せずに日を跨いで帰ってきた。
安否確認に夢中だったジナであったが、ラゴエスの背後にいる見慣れない人物の存在に気がついた。
「誰、この女?」
その言葉と同時に表情が一変した。ジナの全身からは威嚇、怒り、嫉妬などの感情を混ぜ合わせたオーラが渦巻いていた。
「待ってぇ!この人はルッカと言ってクエスト中に知り合ったんだ」
ラゴエスは慌てて弁明に入った。
「へぇー、女の子がパーティメンバーなんだぁ。あなたもよく知らない男とパーティ組めるわね。警戒心ってものがないの?」
ジナは腕組みをして眉間にしわを寄せながらルッカを睨み、声は怒りで震えていた。
「パーティを組んでいるわけではないよ!助けてもらっただけだって…」
「冒険を助けてくれる人、それをパーティっていうのよぉ!!」
ルッカに対して飛躍した疑念を抱いているジナには何を言っても機嫌を悪くさせてしまうだけのようだ。
「だからぁ…、本当に助けてもらったんだよ。初心者狩りに襲われている時に…」
『初心者狩り』という単語を聞いた瞬間ジナは再び憂いの表情へと変わった。
「ええっ!!初心者狩りってあの初心者狩り!!??ケガはないの!?してるのなら傷を見せて!今すぐ傷薬持ってくるから!!」
再び詰め寄られためラゴエスは困惑した。初心者狩りとの遭遇で相当危険な目に遭ったが、ラゴエスにはそれ以降の出来事の方が濃かったのでそっちに関してはかすれていた。
一方で二人のやり取りに取り残されたルッカは唖然としていた。
「ラゴエス、この娘は誰なんだ?」
「ジナと言って俺の幼馴染だ。家が隣で物心着く前からの友達」
特に怪我をしていないことが理解できたジナはなんとか冷静になり、ようやく話を聞いてもらえる状態になった。
「なるほどね。この人は命の恩人なんだ」
「うん。それでここからが本題なんだが、彼女は泊まるところを探しているんだけど…」
「命を救ってくれてありがとうございます。だからと言って知り合って間もない男の家には泊まるなんて危険ですよねぇ!この道ずっと行けばそのうち宿屋が見つかるのでそっちに…」
ジナは話をさえ切って一方的に捲し立てた。なんとか落ち着いてもらい話を再開させるのにしばらく時間がかかった。
「ふーん、つまり命を狙われているからほとほりが冷めるまでここでやり過ごしたいのね」
「そういう訳だから離れを貸して欲しいんだ」
冒険者であったラゴエスの両親は幼少期に他界。その後祖父に育てられたがそれも他界した。喪が明け夢だった親と同じ冒険者となった。ラゴエスが家を空けている間いつでも帰ってこられるように隣人で幼馴染であるジナが掃除などの管理をしてくれている。
ちなみにジナとは子供の頃から友達というより兄妹のような関係で家族同然だった。その間柄もあって両親が他界してからは祖父が仕事で留守にしていた時にはジナが食事を用意してくれた。ジナの両親も仕事で家を空けることが多くその状況故に子供の頃から料理を自主的に覚えた。
現在ラゴエスは冒険者になりはしたが、当分の間はこの街を拠点にするため家には度々戻るつもりでいる。戻ってきた時には今まで通りジナに食事を用意してもらうことになっていた。