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いきなり窮地

書き直しました。展開や設定も変わっています

 ラゴエスは窮地に陥っていた。



 数時間前。


 とある大陸の王都。その一角にある冒険者ギルドの受付で新たな冒険者カードが発行された。それを受け取ったラゴエスは晴れて冒険者の仲間入りを果たした。


 ラゴエスは手に入れたばかりの冒険者カードを握りしめて掲示板の方へと向かった。この掲示板には冒険者に依頼されているクエストが掲載されている。ラゴエスはそこから初心者向けのクエストを探した。


 ラゴエスが生まれ育った街を冒険者たちの間では『始まりの街』と呼ばれている。この大陸は低レベルのモンスターしか生息しておらず、初級冒険者はこの街を拠点に経験を積む。その状況もあってこの街の酒場で発注されるクエストの難易度は基本的に低いものばかりである。


 ラゴエスは最も難易度が低いものを受注した。この難易度は初心者でも問題なく達成できる内容の物ばかりである。この街から少し離れた場所にある山でレア度が多少高い植物の採取。俗にお手軽クエストと呼ばれている。舞台となる山も例に漏れず初級冒険者が充分対処できるランクのモンスター生息していない。


 現在はソロであるが将来的にはパーティを組みたいと考えている。パーティには仲の良い冒険者で結成される場合もあるが、一般的にはギルドの募集掲示板から探す。後者の場合だと実績が必要となる。


 よいパーティに加入するには実績が不可欠となる。とは言え無理をせず地道に成長するのがセオリーである。堅実に経験を積み重ねようとしたラゴエスであったが、初クエストで死に直面している。


 ラゴエスは体を岩陰からはみ出ないようできる限り縮めた。周囲の様子を伺いたいがそれはできない。その行為によって身を隠した岩から相手に姿を晒す危険性があるためだ。


 ラゴエスが低レベルのモンスターしかいないこの大陸でこのような事態に陥った理由。それは初心者にとって最も脅威になるものに遭遇したためだ。それは街で冒険者達が話していた。それは酒場の掲示板で勧告されていた。


「おい、いたか?」


「だめだ。駆け出しのクセに逃げ足だけは一人前のようだな」


 武装したガラの悪そうな男達の声が聞こえるという事はラゴエスが隠れ潜む場所からさほど離れていない位置にいると思われる。ラゴエスは息を殺した。呼吸の音が聞こえる危険性も気になった。だがいつまで経っても男達は立ち去らない。


 ラゴエスを狙っている男達は通称『初心者狩り』と呼ばれており、駆け出し冒険者を痛ぶることを趣味にしている者たちだ。彼らには中級以上のモンスターなら駆逐できる実力を持つ者が多い。彼らが人間を狙う理由とは、モンスターを相手に戦っている事に飽きた、人間を殺してみたいという衝動が起きた、などがある。


 ギルドは冒険者達に注意喚起をしているがその被害は絶えない。王国も警備を強化するなどの対処をしてはいるが、人員を割り当てるにも限界がある。


 なお初心者狩りの標的になった者に待ち受けているのは死である。冒険者ギルドの規定によると初心者狩りは重罪に該当する。相手を殺害しそれを告発されれば極刑となる。その厳しい規定が標的に確実な死を与える結果となった。


 別の言い方をすればその行為自体が重罪であるためギルドに通報されない為にも初心者狩りは標的を殺害せんと必死になる。


 ラゴエスもその点は承知である。それを理解しているからこそ奴らのしぶとさも分かっている。


 身を潜め続けていると辺りはうす暗くなった。現在は山間部にいるので陽が落ちるのが早い。ラゴエスは姿を眩ましやすく逃げやすいこの時を待っていた。より暗い夜だと暗すぎて方角を見失う危険性があるためこの時間を狙った。


 森を抜けた先に警備兵の詰所がある。そこに逃げ込む予定だ。周囲に初心者狩りがいないことを確認すると身をかがめて慎重に詰所の方角に歩みを進めた。



 ラゴエスは慎重に移動した。それも実を結ばず取り囲まれる結果となった。囲まれたラゴエスの背には岩壁。逃げ道を塞がられている。


 それでもラゴエスはここから生き延びる方法はないかと考えを巡らせた。一方初心者狩り達は各々が武器を手に詰め寄って来た。


「さんざん手こずらせやがって。そのせいで今日は一人しか殺れねえじゃねえか」


 ラゴエスを追うのに手間取ってしまったことに機嫌が悪くさせていた。見るからに男達にラゴエスを逃す気はないが抗った。


「今ならまだ未遂だ。通報しなければ罪に問われることもない」


 一か八かの交渉。ラゴエスは祈った。初心者狩りの一人がラゴエスに近づき正面へ立つと黙って剣を抜いた。


「お前、そう言ったら見逃してもらえると本気で思っているのか」


 ザクッ


 反射的に閉じた瞼をゆっくり開いた。まだ生きている。ラゴエスを狙ったかに見えた剣は耳元の岩壁に突き立てられていた。しばらくして耳に熱い感覚が発生した。剣を岩壁に突き立てた時に刃が耳をかすめて切れていた。


 生きてはいるが状況が好転したとは思えなかった。


「標的は確実に殺す。それが初心者狩りの鉄則だろうが」


 さも当然かのような表情で言い放ったこの言葉は死の宣告であろう。男は岩壁に刺さった剣を抜くと今度は切先をラゴエスの喉元に向けて構えた。


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