△△△ ぼくは亀 2
一時間待っては見たが、地下鉄が動かないのを確認すると、ホームから出て、外に行き、そして、タクシーに乗るために、タクシー乗り場に向かった。
そこは、タクシーを待つ人々で、うんざりするほどにごったがえしていた。
何処となく周りが殺気立っていた。タクシーの苛立ったクラクションも鳴り響く。
親に抱かれた子供が泣き叫び。耳を覆いたくなるような騒音が、そこだけではなく、何処かしこで児玉していた。ここでもかなり待たされた。もう、勘弁して。
ようやくタクシーに乗車することができ、落ち着き、少し目を閉じる。
痛い出費だ。今日のこのタクシー代なんか、会社が出してくれるわけがない。
なぜ会社に行くのに、自腹でタクシーを使わなくてはならないんだ、そうは思ったが、口にはしない。するだけ虚しくなる。
栄錦の太田ビルの前でタクシーを止め、急いでエレベーターに乗り、五階まで登っていく。
「何してんだ?」
いきなりの罵声で、尻込みをした。
「さっき電話したじゃないですか。伝馬町で、人身事故があり、地下鉄が停まったと」
「お前、それだけしか言わないから。こちとら、昨日のお前の報告書が必用で、待てど、暮らせども、ちっとも出社してこんから、今まで俺の仕事が止まってんだぞ。どうしてくれるんだ。本当に。まさか、こんなにも遅れるとは・・・・・・」
腹の突き出た四十代半ばの上司だ。
「ま、いい。早く仕事にかかれ」
十時に着いたのだから、仕事も遅れに遅れ、それを取り返すのに、随分と苦労をした。
昼のランチ時間もパソコンに向かい、サンドイッチを一つ齧っただけだった。残業は言わずもがな。
この分だと、帰りが何時になるか分からない。由梨に電話をかけるのもおっくになってきた。このまま仕事を続けよう。
その日は、運が悪いのか、何をやっても上手くいかなかった。電話をとろうと、慌てて席に戻ると、飲みかけのコーヒーをぶちまけ、大事な書類を台無しにし、一から書き直し。
資料がないため、改めて調べ直さなくてはならず、時間がかかってしまった。
ただでさえ遅刻をしてきたんだ、帰りの時間がどんどん遅くなり、焦り、更にミスを連発してしまった。
最悪だった。こういう日は、何をやっても駄目なんだ。そう思い、途中からは風に身を任せ、といった具合に惰性で仕事をこなしていった。
夕方になると、疲労が蓄積されたのか、さらに仕事の能力が劣ってきた。腹も空き、どうにも辛かった。一旦席を立ち、オフィイス内を散歩しようかと思ったが、朝の腹の突き出た上司に捕まり、また眠い目を擦り、デスクワークに戻る羽目に。
小さく溜息をつく。この閉鎖された空間に嫌気が差したが、どうしようもなかった。早く帰りたい、そればかりを思い、仕事を続けるこの辛さは、半端なかった。
お腹がグルグルと鳴り、隣の女子社員に変な顔をされ、恥ずかしかった。用もなく、トイレにいくと、何だか変な誤解を与えそうで、途中から我慢した。とにかく最悪な日だったー。