### 俺は兎 6 一、
秋も深まってきた十一月の末。
俺は床屋で、髪の毛を短く切った。
横と後ろを三ミリで刈り上げ、上を坊主に近い髪型にした。なんとなく、気分一新というか由梨と別れて、新しい自分に変わるために、ヘアースタイルを変えてみたのだ。
その足でアパートに帰ると、鴨川がいたことに驚いた。なぜなら今から千晶の所に行く用事があるからだ。なんとタイミングの悪い男だ・・・・・・。
「髪の毛、短く切ったんだな」
鴨川が、俺の顔を見るなり言った。
「何か見違えたな。そっちの方がいいかも」
「そうかな。今、さっき、床屋に行ってきたんだよ。ま、俺のことはいいが、そっちはどうしたんだ?
何の前振りもなく、俺ん家なんかに来たりして。それに、なんか暗く、沈んだ顔してるじゃないか。お前らしくもない」
「理恵と別れたんだ」
しばらくは、何も言えなかった。
「やっぱ、いつまでもブラブラしてっから、フラれちまったんだ。あいつからすれば、先のことを考えてみれば、そりゃ、不安になるだろう。この人と一緒になって、ちゃんと生活できるんだろうか、ってな」
「そんなこといったって、急じゃないか。この前だって仲良さそうにしてたし、お前・・・・・・」
「女っていうものは、現実主義者なんだよ。いいか、甘いことばっか言ってても、相手は、すぐに気持ちを切り替えてな、まあ、この様だよ」
「お前、それでいいのか」
「いいも何も、部屋から出てっちまったんだから、どうしようもないだろ」
「お、お前、こんな時に、俺、今から出掛けなきゃいけないんだ。そんな時に、大事な話しを持ってきたりして・・・・・。もう、タイミングが悪すぎだよな」
鴨川は、肩を落した。
「分かってるよ。いいよ。俺がいきなりきたんだ。悪かったよ。急いでるみたいだな。俺に構わずいってくれ。また今度でいいからさ」
鴨川の顔に、暗い影が掛かった。
「悪いな。じゃ、また今度にしてくれ」
いいわけない。きっと。あいつ、いつも理恵ちゃんとは、遊びだ、と言っていたが、それでも今まで一年間も続いてきた仲だ。
俺は、その鴨川の暗い顔つきが気にはなったが、それでも今の俺は、千晶のことしか頭になかった。
「また今度ね。そうか。でも、今度は、ないかもな・・・・・・」
「え? 何か言ったか?」
「いわねぇよ。もういい。いわねぇから、先に言ってくれ」
鴨川は、煩わしそうに、俺に行け、と言った。
「じゃ、悪いな。俺いくわ。また電話してくれ」
鴨川は、とっとといってしまった男の背中を見て、溜息をついてから、肩を竦ませた。
いつもだったら、こんな時、相談に乗ってくれてたのにな。でも、女が出来たから、しょうがないか。
女が出来たから? それだけじゃないのかもしれない。こいつは時々変わるんだ。今みたいに、冷たくなったりして・・・・・・。
いや、きっと人間は、自分が一番なんだろうな。自分のことが一番大事で、親友でも、自分に余裕がなければ、構ってられねぇ。それが、別に悪いとは、言ってない。自分の生活が一番大事で、生きていかなきゃならないことくらい、俺にもちゃんと頷ける。
でも、だよ。あいつが由梨ちゃんと別れた時、俺、あの時寝てたんだぜ。それなのに、コンビニで酒とつまみを買って、わざわざあいつの部屋に行ったんだ。
それなのに、俺が理恵に出て行かれたというのに、この扱いときたら。少し、冷たいんじゃないのか・・・・・・。
鴨川は、もう、とっくに後ろ姿が見えなくなってしまった男のことを思っていた ー。




