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時空の歪み  作者: 中野拳太郎
15/25

###  俺は兎  6 一、



 秋も深まってきた十一月の末。



 俺は床屋で、髪の毛を短く切った。

 横と後ろを三ミリで刈り上げ、上を坊主に近い髪型にした。なんとなく、気分一新というか由梨と別れて、新しい自分に変わるために、ヘアースタイルを変えてみたのだ。


 その足でアパートに帰ると、鴨川がいたことに驚いた。なぜなら今から千晶の所に行く用事があるからだ。なんとタイミングの悪い男だ・・・・・・。


「髪の毛、短く切ったんだな」


 鴨川が、俺の顔を見るなり言った。


「何か見違えたな。そっちの方がいいかも」


「そうかな。今、さっき、床屋に行ってきたんだよ。ま、俺のことはいいが、そっちはどうしたんだ?

 何の前振りもなく、俺ん家なんかに来たりして。それに、なんか暗く、沈んだ顔してるじゃないか。お前らしくもない」 




「理恵と別れたんだ」


 しばらくは、何も言えなかった。


「やっぱ、いつまでもブラブラしてっから、フラれちまったんだ。あいつからすれば、先のことを考えてみれば、そりゃ、不安になるだろう。この人と一緒になって、ちゃんと生活できるんだろうか、ってな」


「そんなこといったって、急じゃないか。この前だって仲良さそうにしてたし、お前・・・・・・」


「女っていうものは、現実主義者なんだよ。いいか、甘いことばっか言ってても、相手は、すぐに気持ちを切り替えてな、まあ、この様だよ」


「お前、それでいいのか」


「いいも何も、部屋から出てっちまったんだから、どうしようもないだろ」


「お、お前、こんな時に、俺、今から出掛けなきゃいけないんだ。そんな時に、大事な話しを持ってきたりして・・・・・。もう、タイミングが悪すぎだよな」

 

 鴨川は、肩を落した。


「分かってるよ。いいよ。俺がいきなりきたんだ。悪かったよ。急いでるみたいだな。俺に構わずいってくれ。また今度でいいからさ」


 鴨川の顔に、暗い影が掛かった。


「悪いな。じゃ、また今度にしてくれ」

 

 いいわけない。きっと。あいつ、いつも理恵ちゃんとは、遊びだ、と言っていたが、それでも今まで一年間も続いてきた仲だ。 

 俺は、その鴨川の暗い顔つきが気にはなったが、それでも今の俺は、千晶のことしか頭になかった。


「また今度ね。そうか。でも、今度は、ないかもな・・・・・・」


「え? 何か言ったか?」


「いわねぇよ。もういい。いわねぇから、先に言ってくれ」


 鴨川は、煩わしそうに、俺に行け、と言った。


「じゃ、悪いな。俺いくわ。また電話してくれ」




 鴨川は、とっとといってしまった男の背中を見て、溜息をついてから、肩を竦ませた。


 いつもだったら、こんな時、相談に乗ってくれてたのにな。でも、女が出来たから、しょうがないか。

 女が出来たから? それだけじゃないのかもしれない。こいつは時々変わるんだ。今みたいに、冷たくなったりして・・・・・・。


 いや、きっと人間は、自分が一番なんだろうな。自分のことが一番大事で、親友でも、自分に余裕がなければ、構ってられねぇ。それが、別に悪いとは、言ってない。自分の生活が一番大事で、生きていかなきゃならないことくらい、俺にもちゃんと頷ける。


 でも、だよ。あいつが由梨ちゃんと別れた時、俺、あの時寝てたんだぜ。それなのに、コンビニで酒とつまみを買って、わざわざあいつの部屋に行ったんだ。


 それなのに、俺が理恵に出て行かれたというのに、この扱いときたら。少し、冷たいんじゃないのか・・・・・・。

 鴨川は、もう、とっくに後ろ姿が見えなくなってしまった男のことを思っていた ー。





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