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喪失の神医  作者: Crowley
第十章 新人の動向
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閑話:たとえ幻想だとしても

エイプリルフールですね。記念すべき第100話はなんと!閑話です。

「だーれだ?」

「みっちゃん。」


目を手で覆われて視界が暗転する。よく耳にする、聞いていて安心感を与える優しい声色の彼女のものだ。


「え、誰その子?私その子知らない……」

「嘘。ユイだろ?因みに、みっちゃんは斜向かいの幼稚園児だ。」


少しからかってやると、頬を膨らませてそっぽを向かれてしまった。


彼女を宥めつつ、彼女の持ってきた缶ビールを受け取る。


隣に座った彼女は肩に凭れ掛かり、俺は彼女を抱き寄せた。


「ユイ、映画何見る?」

「……ごめんね。」

「どうしたんだ、ユイ?」

「本当に、ごめんなさい……」


俯いた彼女の顔を覗くと涙で顔がぐしゃぐしゃになっている。


いつの間にか背景は家のリビングから、あの日に見た夜の公園へと変わっていた。


強い既視感が脳を揺さぶる。この先は見てはいけない、見たくないのだと。


ボサボサの髪に破れたワンピース、痣だらけ肌の痛々しい姿の彼女。


古傷に塩を塗りたくったように精神を痛め付ける。


すっかり冷たくなった彼女を抱き留めて、降り頻る雨の中で流れ出る血潮だけが暖かい。


木漏れ日のような優しい笑顔の彼女はもう居ない。泡沫の幻想であれどそれでも彼女は愛おしい。


俺はただ静かに彼女を強く抱き締めた。




「どうじゃ、【幻惑術】の効力は?」

「……クソ、弱いのでこれか。」


目を開けるとリーラは自慢気な笑みで、幻から覚めた俺を出迎えた。


「何を見たか知らぬが、恐らくレイは効きやすい体質なのかもしれぬな。」

「効きやすい体質?魔術にそんなものがあったのか。」

「いや、【幻惑術】が特殊なだけじゃ。」


リーラはベッドに横たわる俺に白湯を渡すと説明を続けた。


「大きな後悔や過去の栄光を心に残っている者、未来が見えたり強い想像力を持つ者は、【幻惑術】が効きやすいのじゃ。」


大きな後悔か。なるほどどうして効きやすい訳である。


先程まで見ていた幻も幸福な過去だ。後悔が自分を襲う前の甘美な過去である。


無知蒙昧で幸せを噛み締める事だけに身を委ねた幸福な前世。


「その代償は命を以て償われる、か。」

「ん、どうしたのだ殉教者のような顔をして。」

「いや、過去に浸っていただけだ。もう少し【幻惑術】について教えてくれ。」

今回は主人公の過去に少し触れました。今後恐らく一切出てこないであろう、みっちゃん。可哀想ですね。

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