良いところを持っていくだけの奴は嫌われる
遅くなり申し訳ない。
天幕を出ると十数メートル先にソレが居た。
通常の小鬼は成人男性の腰辺りの身長で、骨に皮が張りついついているだけのような細身に体長の四分の一を占める大きな頭だ。
しかし、多くの探索者を蹴散らしているソレはその通常の小鬼とは全く異なる生き物のようだ。
戦っている彼らよりも頭二つ分抜きん出て、ラガーマンも驚く程に筋骨隆々、特筆すべきは角の大きさと量だ。
通常種は額にたんこぶのような角が二本あるが、ソレは通常種より少し大きめの角が頭全体を囲むようにして生えている。
そして額にある二本だけは、それだけで凶器になりうるほど鋭く大きい。さながら歪な王冠だ。
「GRRRUAAAAA!!!」
迫り来る探索者の剣を素手で受け止め、剣を握ったままの探索者ごと投げ飛ばす。それがこの怪物、小鬼王なのだ。
「君も戦うのか?!」
「ええ、まあ。」
「なら、君は遠距離攻撃か補助に徹しなさい、そんな貧弱な身体じゃ直ぐに逝くぞ!」
「……分かりました。」
巨体の割には尋常じゃない速さで動いている。確かにこれでは狙いも定められず急所に中る事はないだろう。
しかたなく拳銃をしまい、代わりに長杖を取り出す。今は遠距離ではなく補助にすることにした。
悪魔を殺した時のあれでは組み立て時間、この肉体への負荷の両方掛かる。死亡率も筋肉痛も減らす為には遠距離よりも補助だ。
「【形成】、【製錬】、【精錬】、【形成】、【形成】、【形成】」
【錬金術】をフル稼働させ戦闘地帯を広げ、地下資源から金属類を大量に集め、純度を適度にし強度を高め、様々な得物に変化させ地面から生やす。
それらを手に取った探索者達が薄く、小さく、しかし確実にその身を削りに行く。
文字通り死力を尽くして突き立てた剣も僅かに抉るのみで、お返しとばかりに反撃を貰っている。
「GUOAAAA!!!」
「うぉあぁぁああ!」
「【形成】、【形成】」
「あぁぁああ……って、助かった?」
飛ばされた人の落下地点付近に柔軟な金属で網を作り、捕獲しついでで武器の修繕をして送り出す。
【魔術王】スキルで魔術が殆どノータイムで行使可能とはいえ、その数は島に居た頃の数倍の規模になっている。
観察用に表に出していた透梟のクーの視界も共有して今は対応しているが、そろそろ多重行使の弊害で頭が痛くなる頃だろう。
だが、それももう終わりだ。
小鬼王の元へ大剣を持った斥候の人が疾走する。彼の戦い方らしくない、と思うと同時に彼の狙いを理解した。
探索者を薙ぎ倒し続ける小鬼王の背後へ、斥候職特有のスキルを使い回り込む彼。最後の一手の為に補助を止める。
「だァらぁアア!さっさと射殺せ弩使いィイイ!」
「GUOAAAAA?!」
次の探索者の元へ走ろうと脚に力を籠めている小鬼王の膝裏に、彼はその大剣を叩きつけた。
「弩ではないと何度言えば分かるんだ!」
突然の脚の脱力に一瞬意識の殺がれた小鬼王の眼球に銃口を合わせ、両手に持った二丁の引き金を引く。
左の弾丸が上顎骨の辺りにずれてしまったが、概ね狙った眼窩を穿つ事ができたので良しとする。
前書きでも言いましたが遅くなり申し訳ない。
唯一申し開きするとすれば、それはリアルの方で忙しくなりはじめてしまったのと、NieRの新作に没頭してしまったからです。
面白いですよね、NieRシリーズ。話せば長くなるのでまたいつか。