得意と好きが合わさる事などほぼあり得ない
少し遅くなりました。
明けましたね、年。
喪中の身には新年の挨拶が出来ないのは辛いものです。
それは兎も角、今年も宜しくお願い致します。
教官が目を覚ましてから大体百日程、約三ヶ月経過した。
この三ヶ月間は特に大きな出来事もなく、教官が後ろで改善点やら次善案を示し、それを素直に飲み込んだり理論武装で否定したり、ダンジョン攻略前と何ら変わりない。
ただ、一つ挙げるとすれば教官も魔法が使えなくなった事だろう。
魔法が使えないどころか魔道具ですら使えなくなったのだから、その被害は甚大なものだ……とも限らないのである。
攻略前でも教官を護衛対象と考えて行動させられていたし、魔道具が無くたってお茶を沸かすことくらい出来るし、そもそも沸かすのは給仕の仕事だ。
だからこそ『何ら変わりない』のだ。不便だが、魔法文明が現代科学文明程発達していない事も作用して、案外どうにでもなる。
「よし、それじゃあ式は明日だ。」
「教官、持ち物は証書、探索者ギルドの登録料と得物だけで良いですか?」
「うむ、それで良い。式と言ってもそんな大掛かりなものでもない、ただ探索者基準適合証明書を渡すだけだ。教室に忘れるんじゃないぞ?」
「忘れるなど有り得ません。まあ、パーシヴァルならばその辺り抜けている所があるのも確か。」
「トリスったらひっどいなぁ……まあ、私自身あり得なくは無いとは思うけど。」
「結局自分で肯定すんじゃねぇか。ま、反面教師としてなら二流だな。」
「もー、パロムまで!って、それって褒めてるの?」
「……理想の対極に居るのが反面教師。頂点には及ばないのが二流。反面教師の二流、褒めちゃいないが完璧に貶してるって訳でもない。」
「パロムったら照れちゃってぇ、素直じゃないなぁ?」
「うるっせぇ……はぁ」
パロミデスの嘆息により、いつから始まったかもわからない恒例の茶番劇が終わる。
そして、案外どうにでもなったお陰で、明日はこの学校に所属する生徒の卒業式だ。
学生時代にあった長ったらしい校長の挨拶などなく、ただ卒業証書に類するものを渡される式典があるだけ。
兎にも角にも、明日で彼らとは別れることになる。
ヴィヴィアンは夏期休暇の豚鬼討伐の事件があったため、実家周りを中心に活動するらしい。
パーシヴァルは世界中の様々な料理を食べるんだと息巻いている。それなら探索者じゃなくても良い気がする。
トリストラムは名を上げて貴族になりたいらしい。領地を持てない一代限りの貴族を積み重ねる、子孫代々で目指す長期計画らしい。
パロミデスは言わずもがなある程度の金を稼いで、孤児院で子供らの面倒を見ると言う。
「レイはどうするの?」
「傭兵になる。魔物より人間の方が対処も思考も楽で良い。」
「あ、そう……人の方が難しくない?」
「……魔物の生態はよく分かっていないのも多い。だが、人間なら頭か心臓を潰せば必ず殺せる。」
「うーん、何て言うかな?……それって楽しい?」
パーシヴァルの一言が胸を抉る。
楽しくは、ない。人を殺したい訳じゃ無いのだから、楽しい筈がない。自分が得意なことを選んだだけだ。
「……そんな事、楽しい訳ない。【レイ】も望んじゃいない。」
次回、今章最終話なり。