更なる喪失
お、遅くなりました?
墜落した衝撃で目が覚めたカスパールは、傷を修復しながら誰なのか、と誰何した。
『惚けんじゃねぇっすよ……加護持ちとか聞いてねぇし、わざとその事隠しやがったか……?』
「レイとして生まれ変わった時に得たのだろうが、どこぞの神かは知らん。」
生まれ変わった時、そう言った瞬間に普段細かったカスパールの目は、これまでに無いくらい見開かれた。
『転生した時だと?!……なら奴か?いや、真っ先に賛成してた。なら他の奴……駄目だ、それだと』
一度声を荒げたかと思えば、一気に自分の世界に籠って独り言を呟き始めた。
「俺はどうしたら此処から出られる?」
『はぁ?!出す訳無ぇっすよ!まだ大した無力化も出来て無ぇんすから。』
「そうか…………ッ、プフ、フフ、ハハハハ!」
『な、何が可笑しいんすか?』
カスパールの言い放った言葉の意味に気付いた俺は、思わず吹き出して笑ってしまった。
「それを聞いて安心したよ。大した無力化が出来てないんだから。」
『それが何なん、すか……ッ!』
最初、訝しげな表情をしていた。だが、無意識に与えていたヒントをわざわざ強調して自覚させたカスパールの表情は、非常に滑稽なモノだ。
我ながら性格が悪いとは思うがこいつにされたことを考えれば、大したことではない。
「俺は初め、この空間はお前の独壇場だと思っていた。……が、思考を読めるとはいえ無力化が必要だったって事は、この空間はお前を絶対的強者たらしめるモノでは無かったって事だ。そしてお前が弱ってる今、その思考さえ読めないんじゃないか?」
『……はは、まさかそんなに考え事してたんすか、悠長な事っすね。』
「馬鹿、今はこの口で話してるよ。」
そう言葉にしつつ【無槍】を心中で唱える。魔力が抜けていく感覚は無い。発動しないのでもう一度唱えてみるが何ら変わりない。
「【召喚】……魔術は大丈夫なのか……まさか、【無属性魔法】が使えない?」
『おいおい、マジっすか。存在の九割でその程度しか削れなかったんすか?!』
透梟を胸に抱えている俺を見て、今度もまた驚きを隠せないカスパールは話の整合性の取れない呟きを口にする。
カスパールの中では分かっているのだろうが、心の読めない俺にはさっぱり分からない。
「だがまあ、お前の計画が崩れたのは分かった。」
『……ッ!出ていけ、俺の世界から!』
カスパールの拒絶。それがこの空間を出るための鍵だったらしく、足元が揺らいで落ちていく感覚が全身を襲う。
自分の周囲が黒く暗い闇に包まれる。目を巡らすと全身が鎖で縛られている。
いくら力を込めてもびくともしない鎖に辟易して目を閉じる。
不思議と不安はなく、多分目が覚めれば【レイ】の体に戻っているだろう。
「大事な事だ、もう一度言う──俺はお前を絶対に殺す。」
Twitterでも呟きましたが、先日なろうラジオ大賞2に一本短編を書いて投稿しました。是非是非見て戴けるとありがてぇです。
……口調変わりすぎだろうか。