勘違いされる系ではなく言いがかりをつけられる系
【レイ】はフェリスにとって何なのか。
それが聞きたいだけだと言われても、俺はフェリスではないから分かろう筈もない。
だが、彼が聞きたい事はそんな言葉遊びのような答えではないだろう。
「……ただの友人だ。それ以上でもそれ以下でもない。」
「ハッ、んな訳あるかよ。そんな風に言う奴に限って何かあるもんだからな!」
「……まあ、(同じ馬車に同乗したとかで)何も無いわけではないがな。」
「ほら見たことか!(男女関係で)何かあったんじゃねぇか!」
おかしい、どこか話が噛み合っていない気がする。
いや、もしかしたらこの子の言うように、あの出来事は何も無かった部類に属してしまうのではなかろうか。
……現実逃避だ。これは明らかにこの少年が勘違いをしている。
「俺は護衛のようなものとしてついてきただけだ。パロミデスでは実力が心許ないし、フェリス自身ではまともに戦えない。リィンに至っては司書だ、いくら魔法の知識があっても実際には強くない。」
「フッ、そんな弱そうな体つきで何が出来るんだ?」
「そうだな──」
子供の挑発にあえて乗っかってみせるように、俺は後ろに回って少年の足を払うと、一応の護身用に持っていた短剣を彼の喉元に宛がう。
【魔力操作】で全身を操った一瞬の出来事に、少年は何が起きたのか理解が追い付いていない様子で呆けている。
「──近接戦闘は苦手だが、最低でもこれぐらいは出来る。それに関してはパロミデスの方が優れているがな。」
そう言って刃が喉の表皮が少しだけ切れた頃、少年は漸く理解に到達した。
絶対的な敗北というのは、この感受性の豊かな時期において大きな意味を持つ。
己を卑下し過小評価するようになり、自分に絶望してまた卑下する負のループに陥るか、反抗心を持って立ち向かい、倒せるまで玉砕する無限ループになるか。
「……もう、充分か?」
「チッ、覚えてろよ、絶対にお前からフェリスを守ってやる!」
起き上がってそう言い放つと、取り巻きと共に走り去っていった。
彼は後者のタイプのようだが、些か捨て台詞が気になってしょうがない。
俺からフェリスを守るとは。俺はそんな悪漢に見えただろうか。
「……寧ろ、俺は護衛なんだが。」
呟いた訂正は誰かに聞かれることなく消えていった。
レイは少年を一捻りしたようだ。