元々決めていた事も命令されると素直になれない
リーラ曰く、神は存在しない。この世界に引き込んだ自称神に心当りはないらしい。
リィンの先祖の出生やどこかの聖典も、邪悪か神聖かの違いはあれどどちらも神とされているのは同じ。
リーラとリィン、『神』という超常種の存在の有無はどちらが正しいのか皆目検討もつかない。
「誰だろうが、きっとロクな奴じゃないな……落ち着いたか?」
「すぅ、はぁ。うむ、問題ない。とんだ醜態を見せてしまったな。」
恥ずかしげに頬を掻くリィンは先程までと違い年相応に見えた。
「『清潔』」
「んな、何を?!」
「鼻水、涙、唾液と進行形で醜態を晒していたものだからつい。」
すると、リィンは顔を赤らめたかと思いきや隣の部屋へ駆け込んで行ってしまった。
少しからかい過ぎたかなと頭を抱えていると、図書館側の扉がノックされた。
リィンも隠れてしまい出てくる様子もない。仕方なく代わりに返事をして扉を開ける。
「先生、お迎えにあがりましたよ……ってレイ君?!」
「なんだ、フェリスか。久し振りだな。」
そこには帝都に一緒に来た『勇者』アーサーのパーティメンバーで、人々に『聖女』と呼ばれる少女、フェリスであった。
何の迎えに来たのかと問うと、帝都から少し離れた孤児院で定期的に勉強やら魔法やらを教えることになっているらしい。
しかし、この世界での少し離れたは尋常じゃない。
馬が丸一日かけて走破する距離を平気でそう表現してしまうのだから、初めて聞いたときには驚きで頭を抱えた。
「なるほど、それが偶々明日だったと。」
「先生、言ってなかったんですか?」
「まあ、もうそろそろ帰りそうな雰囲気だったのでな、伝える必要もないかと思ったのじゃ。」
そう言いながらリィンは自然に部屋から出て、不自然に話に割り込む。
実際に聞きたいこともあるが急ぎではないので、今日のところはもう用はなくなった、と言っても過言ではないだろう。
「そうじゃ、レイも一緒に来ぬか?何を教えるとかでもなし、ここは一つ社会見学のひとつとしてどうじゃ?」
「それは良いですね!一緒に行きましょう!……いや、行きますよレイ君!」
俺に決定権はないようだ。
だが、まあ。
「話を聞いた段階で俺も考えていたことだ。連れていってくれるならば助かる。」
レイはまだ大人しいようだ。