瓶詰め
損傷した部位は位置的に見て主に直腸、小腸、そして子宮の三つ。
【清潔】を傷口と腕に掛け続け、視覚と触覚を頼りに直接縫合していく。
そこらで嗚咽して吐きそうな人間もちらほら見受けられるが気にしたら敗けだ。
本来この縫合針もピンセットだとかを使うべきだが、教官の容態から芳しくないと分かり生成していない。
そうこうしている間にも直腸、そして小腸も完全にクリア。
ただ、問題は子宮だ。前世でも子宮に関する病の治療にあたった事はなく、その機会すら無かった。
全て頭の中にあるだけ。
百聞は一見に如かず、という言葉が示す通り、何度オペの過程を記した資料を見返しても、一度の経験には優らない。
「があああぁ、ぅッああああ!」
麻酔の投与などしている暇もない。
爪の先で針を摘まみ、子宮の切り裂かれた部分の縫合を始める。
果たして俺の選択は正しいのだろうか。
間違ってはいないと思う。
魔法も使えないから頼りには出来ない。移植をするにしてもドナーが居ない。麻酔はおろか、輸血も有りはしない。
ただ、最善の行動か、と問われれば判らないと言わざるをえない。
今の今まで最前線から離れていたのだ、勘が鈍っていて然るべきだ。
だから今俺が出来るのは、教官の患部を素早く縫い上げて地上でまともな治療を受けさせること、ただそれだけだ。
そうして改めて方針と決心が固まった頃に閉腹が終わった。
開いた腹をまさぐられた激痛に耐えきれなかった教官を【無盾】で包み立ち上がる。
俺を見るパロミデスの目は異端者を見る眼差しだった。
部屋の奥の扉を開くと複雑な魔術式が床一面に書かれており、全員が円の中に入ると式が白く発光し、瞬く間にダンジョンの入り口へ到着した。
俺達は急いで帝都に戻るやいなや門番に発見され、あれよあれよと事件は終息へ向かった。
昏睡状態の教官に代わり俺達は個々に事情聴取され、五神教なる宗教の信者が聖戦と称して悪魔を嗾けたこと、その悪魔によって教官が床に臥せたことなど、全ての出来事を説明した。
俺達がまともに解放されたのは数日してからだった。
教官は昏睡状態、他に空いた教官も居ないという事もあり、暫くの間は自主鍛練を命じられた。
「戦利品……か。」
パーティでの連携の訓練ができない今、俺には出来ることは無い。
一体どうしたものか、と手に持った瓶詰めの悪魔の灰を眺めながら考えていた。
これでこの章は終わりです。
色々な部分を改稿しました。因みに『パーティー』→『パーティ』に変えただけです。