胎呪
「レイ、教官の血が!」
終着したかのように見えたが、まだ終わっていないらしい。
パーシヴァルに呼ばれて教官に駆け寄ると、確かに出血の量が酷かった。
酷かったが、特に危ないのはその傷の方だ。何かしらが腹を突き破ったようだが、奇跡的に貫通はしていない。
咄嗟に未だ余りある魔力を存分に【範囲回復】に注ぎ込む。
範囲を傷口に狭め魔力の密度を少し上げてやれば効力は【大回復】の比じゃない。
「何してんだよ、早く回復魔法掛けろよ?」
「さっきからやってる!効果の『こ』の字も無いッ!」
良くなっていくどころか寧ろ普通に悪化している。
トリストラムも【小回復】を慣れない手つきで掛けてみても、やはり手応えが無いらしい。
「いや、よく見れば一瞬だけだがごく僅かに治っている。【小回復】」
「……本当だ。効果が無いわけではない……効き目が抑えられている?否、抵抗感は感じられなかったし、発動も違和感は無かった。じゃあ原因は?」
治らない、治りづらくさせている原因を考えているとパロミデスが悪態をつく。
「何してんだよ、教官が死んじまうぞ?!……ったく、あのクソ悪魔も面倒な置き土産をしやがって。」
「……これは悪魔がやったのか?」
「はぁ?!あの状況で悪魔以外誰がやったっつーんだよ!」
確かに、そりゃそうだ。あの場で危害を加えそうなのは悪魔以外に聖職者だけだが、多分その時には既に舌を噛んでいただろう。
そういえば悪魔が気になることを言っていた。何やら特性がどうとかという話だった筈だ。
「確か、【魔力ノ霧散】だったか……ッ、そうか、『霧散』だ!」
もし、あの悪魔が付けた傷を通してその特性とやらを植え付ける事が出来たのだとしたら。
「【製錬】、【精錬】、【形成】。針はこんなものか。」
「レイ、お前マジで何してんだ?早くしねぇと教官が」
「今の教官に回復魔法は疎か攻撃魔法ですら効かない。それは恐らくお前らも同様だ。糸はこのくらいの強度か。」
前世の記憶、【医学】【医術】スキルを総動員で縫合の準備をしつつ、パロミデスに受け答える。
「おい、それってどういう意味だよ?」
「あの悪魔の言う『特性』と呼ばれるモノを植え付けたんだろう。奴は【魔力ノ霧散】が『特性』だと言っていた。【清潔】」
途中でやって来たトリストラムも、何をしようとしているのか良くわかっていないようで、疑問符を浮かべつつ報告を始めた。
「レイ、ヴィヴィアンとパーシヴァルにも【小回復】を掛けてみたが教官程ではないが効果が薄かった。」
「魔力が形を成した魔法が効かないことは分かったが、教官は助からねぇのか?」
それに一々反応するパロミデス。流石に何度も何度も唾を飛ばしていては【清潔】を掛ける意味がない。
「パロミデス、しつこい。何度も何度も話し掛けるな。【清潔】【清潔】【清掃】【清掃】」
「そんなことしてて何になるんだよ?!」
「輸血が無ぇんだ、今は各部位の縫合しか出来ねぇだろうが。これこそ見てりゃ分かんだろうが。」
【清潔】と【清掃】の違い
【清潔】……雑菌や細菌の殺菌効果がある。
【清掃】……埃や塵を吹き飛ばす効果がある。
根本的に対象範囲が異なる為に競合はしない。