終着
教官に囁いたのは二つ。一つ目は時間稼ぎ。これによりこいつを組み立てる時間を得た。
二つ目は隙を作ること。舐められているとはいえ死角にまともに入れてくれるとは限らない為だ。
ここまで完璧にお膳立てして貰えたのだ、外す訳にはいかない。
背水の陣、弾丸は一発のみを装填。これは前世からの願掛けのようなものだ。
長い銃底を肩の傷口に接続させて頬に当てる。自然にこの体勢になる事には慣れたくは無い。
照準はうなじの中心、脳幹に固定。伏せてスコープを覗いていると前世を思い出す。
右手で銃把を握り左手で被筒を支える。全身ではなく骨で、と教え込まれた。
引き金に指を掛け、悪魔の全身が固まった瞬間、引き金を引いた。
ライフリングと弾丸に刻まれた魔術式により、この射撃によって発せられる熱、銃声、果てはマズルフラッシュのような全ての余分な反動の散らばりを、弾丸の推進力へ変換、集束させる。
更には時間稼ぎの僅かな時間で新しく描き足した魔法式。単純な付与の【硬化】や【鋭化】、無属性の【無爆】等を複数重ね掛けしそれら全てが魔術式の効果範囲内。
それに必要な魔力は霧散する前に肩につけた傷から直接魔力を供給して力業で解決させる。
前世のアンチマテリアルとほぼ同じものの純粋な銃弾の威力に、加算された俺の無尽蔵に近い魔力が加わり、恐らく今までの攻撃で最も凶悪なもの。
銃声も無い、放熱も無い、閃光も無い。弾丸は音速を超えたソニックプームでさえも推進力に変換して宙を走る。
そして線路が予め敷かれていたかのように、弾丸は脳幹、脳漿、頭蓋骨を破壊し貫通した。
教官は悪魔の手の内から落ちてきたところをパロミデスにキャッチされ、悪魔は全身を痙攣させながら膝から崩れ落ちた。
悪魔はそのまま全身が段々と萎んでいき、黒い灰になった。
「……ッ、聖職者は?!」
「レイ、ここだ。」
呼ばれた方へ行くと口から血を流した老人が地面に横たわっていた。
「……脈は無い。【照明】、瞳孔も開いたままだ。死んでる。」
軽く検死をして分かったのは原因は舌を噛み切り流れ出た血によるものか、衣服の一部を切り取ったものに血が染み込み、それを呑み込んだ事によるもの。
どちらにせよ窒息死だ。
俺を追ってやって来た刺客?との戦いは呆気ない終わり方になった。