狂信者
岩肌の露出した坑道のような道を抜けると、開けた場所とダンジョンの雰囲気には全く合わない巨大な扉が見えてくる。
どの階層主の部屋でもぼろっちい木の観音扉だったが、今回はちがう。
見るものを萎縮させる程に荘厳な観音式の扉。さほど大きくないにもかかわらず、成長期のこの体よりも数倍、十数倍大きく見える。
「開けるぞ。」
そこは階層主どころかこのダンジョンの主のいる部屋。
内装は特に無く、剥き出しの岩壁に鉱石が反射してキラキラと美しく輝いている。
「貴様、ここまでたどり着きおったのかッ……!」
そんな幻想的な空間に、似つかわしくない二つの影。
一人は今此方を睨み付け続けている、深く皺の刻まれた枯れ枝のような四肢の老人。
キャソックを身に纏っている事から、神父やそれに準ずる聖職者なのだと分かるが、ここまで恨みが籠った視線を向けられるような事はした覚えはない。
「その祭服……五神教の幹部のようだが、何故此処に居る?」
「帝国の狗か。儂はそこの餓鬼を天啓に従い始末しに来たのだ、邪魔立てするならば聖戦が始まる事となろう。」
「私の質問の仕方が悪かったか?……何故此処に悪魔と居る?」
そしてその聖職者の隣には悪魔のように嗤う者が居て綺麗に並ぶ乱杭歯がよく見える。
山羊のような角、蝙蝠のような翼、暗闇のような漆黒の肌に研ぎたてのナイフのような爪。正にイメージ通りの悪魔。
『ガッハッハッハ!オイ聖職者、ヨクモマアコノ状況デソンナ啖呵切レルナア?オレサマガ味方ニ着イテ気ガデカクナッタノカ?』
「お前は儂に従っておれば良いのだッ、口を慎みたまえ!」
悪魔は呆れ顔で肩を竦めて飄々とした態度で柳に風。
恐らくは協力関係にあると思われるが、聖職者はそんな悪魔を睨み付けて歯軋りしている。
「儂はその餓鬼を始末しに来たのだ。教皇様の得た天啓、神託の実行に儂が選ばれたのだ、御期待に沿えぬ訳にはいかぬのだ!さあ、白髪の餓鬼を置いて去れ、さすれば他は見逃してやろう。」
「レイを置いて行けと?」
聖職者と悪魔の目的はどうやら俺自身の身柄らしい。さらに死んでいることも条件ときた。
どうやら生きて無事に帰るには彼等をどうにかするしかないらしい。