夢が実現すると思わぬところに罠がある
生後二カ月目。天才と馬鹿は紙一重だと俺は耳にした事がある。
一週間前の事。少女は俺の世話以外では別の部屋でずっと何か研究をしていた。
視界がようやっと明瞭になった今、やれる事は発声練習くらいだ。
「うひゃぁーーーー!!」
いつものように発声練習をしていると、少女の叫び声が聞こえた。
今彼女に何かあれば俺は生きていく事ができない。
何があったのかと肝が冷えたが、どうやらその叫び声は嬉しい悲鳴のようだ。
「アーッハッハッハ!この大精霊様に出来ぬ事など無いのかもしれないな!」
そう言って扉を大きな音を立てて開く。それと共にプルンと揺れ動くモノ。
そこで俺は目を見開いた。やましい思いがあった訳ではない、シンプルに驚いたのだ。
昨日までの東ヨーロッパ平原が、突如としてヒマラヤ山脈へと変化したのだ。驚くべき快挙である。
「どうだ?これなら母乳も出るだろう?出なくても吸うだろう?」
そう言って強調するように腕で寄せたり、持ち上げては手を離したり、自分でも吸えるか試したり。
ひとしお楽しみ終えると正気に戻った。
そりゃそうだ、幾ら赤子の俺しか居ないからといって、はだけさせた服から零してずっとバインバインしてたのだ。
クリスマスやバースデープレゼントを開封した子供も大概だが、これで錯乱してないのならばついていけない。
「……?何故入らないんだ?……はっ、大きくなりすぎて服のサイズに合わぬのか!妾としたことがッ!」
一々リアクションの大きい少女だ。そんなんだから天を仰ぐのに釣られた乳に殴られるのだ。
「うぅ……新しい服を何着か作らなくては。」
そして時は現在に戻る。
「最近は肩凝りが酷いな……いや、まさかそんなわけ無いだろう。」
いやいや、恐らくあなたの予想は合っている。それはもう、1+1=2であるのが当たり前のように。
「だって母上もあんなに大きかったじゃないか。肩凝りとは無縁だったじゃないか。」
それはきっと大人の身体に大人の胸だったからだ。
それ以前に精霊の親は精霊だろう?なら肩凝りなんて有り得ない。凝る筋肉が無いのだから。
「……心なしかあの子に馬鹿にされているような気がする。」
変なところで勘が鋭い。
結局母乳が出ないままで悪影響が起きているのだ、馬鹿にしない方がおかしい。
黙って差し出された哺乳瓶から、山羊ミルクを熱処理加工されたものを呑む。
最近は合図を出さなくても、頼む時間が定まってきた為に何となく察している。
「吸ってくれぬのか……?」
「ん。」
「そ、そうか……あれ、肯定した?」