そっと忍び寄る不和
迷宮。危険だが攻略すれば一攫千金を狙える、ハイリスクハイリターンの命を賭けた賭場。
その場所の入り口に今、俺達は天幕や結界で陣をとっている。
「いやぁ、久し振りだなダンジョンは。何かこう、ワクワクする。」
「これから死地に行くのによくそんな嬉々としていられますね?」
「お、パロミデスはビビっているのか。フッ、所詮まだガキか?」
本当に楽しみなのか、パロミデス相手に煽っている。普段はそんなことはしないのだ、どちらにせよ昂っているのは違いない。
作戦としては今日から最低でも三日間は、浅層を一層一層地図を作成しながら攻略していく。
余裕があればスピードを早め、なければ緩める。
「攻略しないって、教官言ってたじゃないですか!」
「あれは一時的に安心させる為の嘘だ。それくらい判るようにならなければ、フェイントに対応出来ないぞ?」
「それとこれとは違います!」
「じゃあ辞めるか?探索者になるの。」
「……辞めません。」
「ならいい。お前が何をしに探索者になるのか、ちゃんと考えろ。」
最近は教官の口調が以前と変わってキツいものになっている。何か心境の変化でもあったのか、それとも糖分が足りないのか。
何でも良いが、変わってしまったという事実が大切だ。予想はあくまでも予想でしかない。
【レイ】の平穏の為にも聞いておきたいが、それが彼女のパーソナルな範囲のことならば俺が口を出すのも可笑しな話だ。
結局、俺は何も聞かず終いでダンジョン攻略を始めた。
「せいッ、パーちゃん!」
「うん、てやぁ!」
「GUGYAAA!」
「はッ、パロミデス!」
「分かってるって、せいやッ」
ダンジョンは思いの外広い。多少隊列が崩れてもまだまだ余裕がありそうな程に。
ダンジョンに入ってから数分で小鬼の群れが現れて戦っている。
基本的に俺はサポート役に徹している為、皆の戦闘中は強化魔法が切れるまで待機、動くのは偶に立体的に戦う為に【無盾】を使う位だ。
こうして皆の戦う姿を見ていると、改めて【レイ】が育った環境がイカれていたのかがよくわかる。
「後方支援はつまらないか?」
「……教官ですか。この程度なら三秒で方が着きますから、楽しい訳じゃないですよ。敢えて言うなら暇です。【小回復】。」
「ありがとうですわ!」
咄嗟の不意打ちにはまだヴィヴィアンは弱い。最低限以上に盾で前を隠してしまう癖がある為だ。だからこうして傷を受ける。
「三秒だと?」
「ええ。【レイ】は強いですから。」
「……?何でもいいが自惚れは無くせ。でないと死ぬぞ?」
「自惚れではなく事実です。」
優勢のまま一方的に終わりを迎える戦闘をじっと見守る。故に、俺の言葉に教官が目を細めた事を知る由もない。