期待と重圧は紙一重
新章開幕。物語の彼らにとっては重めの話になるかも。
夏の長期休暇も終わり、俺達はまた探索者としての技術を磨く日々に戻った。
パロミデスとの一件以降、彼の視線からは少し猜疑心を感じるようになり、実害は無いものの以前のように打ち解けてはいない。
彼も俺の言っていることが間違いではないことはよく理解しているが、人間は理性だけで生きている訳じゃない。理解と納得は程遠い。
そして夏の暑さも消え去って食欲が高まる秋の今日、ボア教官が重大発表をすると昨日の夜に言っていた。
「よし、全員席に着いたようだな。」
「教官!重大な発表とは一体なんですか?」
「静まりたまえ、ヴィヴィ。決して騒ぐなよ?実はな……帝都の近くに迷宮が発生した。」
一拍間を置いた教官の発表を受け各々の反応は異なるが、総じて俺以外の全員が戦慄している。
「皆も知っていると思うが、ダンジョンとは魔力が溜まると自然が造り出す魔物魔獣の巣窟だ。我々は暫くそこを中心に活動する。」
「そんなの無茶です!万が一があったらどうするんですか?!第一、その情報の確度は信用出来るんですか?!」
「帝国軍と言っても信用できないか?それに私は攻略せよ、と言ってる訳じゃない。あくまでも調査、探索だ。冒険じぁない。」
そう説明してもパーシヴァルの父親がダンジョン内部で亡くなったからか、不安を拭う根拠にはなり得ず表情に影を落としていた。
そんな暗い雰囲気を払拭しようと教官は声のトーンを上げて更に話を続ける。
「なに、ダンジョンは悪い事だらけじゃないぞ?魔物魔獣を狩った時の解体がなくなって、まともに使える素材だけが落ちてくる。」
「随分と都合が良いですね。」
「まだダンジョンについては解明されていないことも多いが、一説によるとダンジョン自体が魔物で、内部の魔物を餌にし」
「ダンジョンの謎もそうですが、それだけではなく教官の得た情報についてですよ。」
「あー、それは……まあ……あはは。」
俺は少し教官を問い詰める。休みが明けた数日後にダンジョンが新規発生して、しかも拠点としている帝都の付近にある。出来すぎだ。
「……出来たのは本当に、最近だ。偶々依頼遂行中に探索者達が発見した。本来ならこの発表は帝国軍の攻略後に行われるはずだった。」
「なら尚更だな。何故未知の巣窟に俺等雑魚を放り込む?」
「雑魚か……分かっているなら良かったが、例年と比べて君らは練度が高過ぎる。まともな苦難にはそうそう出会えなくなるだろう。」
「成長だなんだという話に落ち着くのか?」
「そうだ。増長したままではその時の苦難には到底立ち向かえなくなってしまう。そしてそれが死に直結することがあってはならない。」
四人は自分達の想像を越えた話に着いていけず、只、呆然と双肩にのし掛かる期待の重みを感じ取っていた。。